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☆ 世界を凌駕して宇宙まで響け !!




  

小説 (5) 『永遠の人』 著者 高 一

2008-03-31 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
島根に向う車中で、俊輔はこれからの仕事の段取りを立てていた。
いずれにしても、取材活動は明日。
島根、四国、九州が今回、回る先だった。

(少し、ハードになるなぁ)そう、思っていた。

車窓からは木々が、新しい緑になり、これからの活発な様相を呈し始めている。
会社を出る時に、出張費を貰いに行った経理部の2人の女性の顔が、車窓の窓ガラスに、浮かんでは消えて、列車のスピートで、かき消されていく・・・・

(2人ともきれいだ・・・甲乙付け難い・・ユリやバラが、どう甲乙つけていいのか、分からないのと同じか?・・・・)そんな事をぼんやりと、思い出しながら、席に・・・

「おつまみ!!・・ビールはいかがですかぁ?」車内販売
「すいません!・・・ビールとピーナツを下さい」ビール2本とビーナツを買う

のんびりビールを飲んで、ゆっくりする俊輔だった。
俊輔自身も気が付いていなかったが、何かを求めていた。

19才・・・
初めての社会人。
新しい仕事の興味もそうだったが、仕事以外にも、何かを欲していた。
それは潜在的な、というより無意識と、言った方がいいかも知れない。

若いエネルギーに満ちて、なんでもやってやろう、という進取の気性に加えて、その何かが、まだ、自身すら分からなかった。
全てを投げ打って、没頭できるものだった。
何かは分からない。
丁度、海底の底の底に、その何かが、じっと静かに、沈んでいるようだった。
その底には、太陽の光は当っていない。
俊輔が気が付いた時、初めて、光の存在に目覚めるだったが、今は、本人も知らない。

ビール2本ではすぐ、飲み終わってしまうので、日本酒を再度、2本買い、一気に飲み干す。そんな風にして、やっと目的地に列車は、滑りこんでいった。

島根は勿論、初めて。
着いた時間も夕方のせいか、島根の印象は、旅館を前にして、なんとなく暗い心象を受けていた。その場所、地域に独特な、匂いというものがあった。
それが、どこから来るものなのか、分からない。

「いらっしゃいませ!・・」旅館の女将
「・・・・・」
「お風呂は下でございます・・どうぞ、ごゆっくりと」そう言って、お茶とお菓子を置く

俊輔は背広を着替えて、ゆかたになり、下の風呂へと、階段を降りていく・・
旅館らしく風呂もそう大きくない。
着替えをするところには、籠にゆかたがあり、すでに先客が入っていた。
俊輔も、躊躇する事なく、列車の疲れを取るために、ドアーを開ける

ガラガラ・・旅館らしい音

風呂場は湯気が立ち込めている・・・・
先客の人が、立ってシャワーを浴びているのが、湯煙の中から、裸身が見える。
俊輔も、中に足を入れた瞬間、ハッとした

先客も、同じように、ビックリして、立ち尽くす・・・・。
女性だったのだ。

(おかしい?・・混浴なんて聞いていない)俊輔も驚いた

2人が裸のまま、同じ気持ちで、立ち尽くした。
時間にして、おそらく数秒か、数分か、分からない。
お互い、無言。
しかし、やはり女性の方が、強い。

「出ていって下さい!!」ピシャリと、言う
「はい・・・・」そう言うのが精一杯。あわてて、風呂場を後にする

部屋に戻り、俊輔は・・・・

(まいったなぁ!!)。。。。

ビールを冷蔵庫から抜き出し、て、ハプニングを振り返る
でも、何か、下が、スウスウしている。
あっ・・・ゆかたの下のものがない。
パンツをあわてて、履いて戻るのを忘れたのだった。

(あぁぁぁ???)

外は暗くなり、パンツを買うのも億劫。
その晩は、ノーパンツ、ゆかたで、冷んやりする、一夜を明かした。

寝言で(パンツ、パンツ)と言ったか、どうか????

小説 (4) 『永遠の人』 著者 高 一

2008-03-29 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
研修期間がそろそろ一ヶ月を経とうとした時、上司の青柳部長に呼ばれて、川田は応接室に入っていった。なんだろう?という思いを抱きながら・・・・

「失礼します・・・」
「おう!・・まぁ・・こっちへ・・・」タバコを吸いながら、ソファーへ誘う
「・・・・・」
「どう?・・」
「えぇ・・・大分、慣れました」
「そう・・・良かった・・ところで、今、大阪が忙しくてね・・・」
「はぁ!・・・・」
「出張に行ってくれないかなぁ?」
「・・・・・」
「大体、一週間位なんだ・・・」
「・・・・」
「出来るかなぁ?」

川田は出張は初めてだったけれど、なんでもやりたかったので、別に抵抗はなかった。
取材も慣れて来た頃だし、かえって春で気候もいいし、出張もいい、と、とっさに思った。

「えぇ・・・構いません」
「ほう!・・・良かった・・いやぁ・・大阪がてんてこまいでね・・助かるわ」
「私も、いろいろ経験したくて、喜んで行かせてもらいます」

その一言で、青柳はニコっとして、言う

「じゃ、すぐ行って欲しい」
「はぁ?・・・」
「今日、これから・・・」

川田は何も用意していない。
バックもないし、出張の準備もしていない。
あるのはハンカチ一枚。

「10万円をとりあえず、出張費として、経理から貰っていってくれ・・・それと、これ」

渡された資料。川田は急ぎの仕事らしいことは、分かったけれど、ずい分急だなぁ、と思いつつ、経理部に金をもらう為、足を向けた。
経理には、2人の女性がいた。

1人は、海老沢恵子と砂山直美。
どちらも個性的な美人だった。
恵子は川田と同じ19才で、直美は18才。
でっぷり太った経理部長の山際の手伝い、補助業務をしている。

「すいません・・・」川田はそう言いながら、経理部の部屋に入る
「・・・・・」女性らは、興味ぶかそうにチラリと見る
「おぉぉ・・青柳君から聞いているよ・・・初めてだって?」10万円を渡しながら聞く

2人のやり取りを恵子と直美は黙って、聞き耳を立てながら、事務処理をしている素振りで、聞いている。興味深々としたように・・・・

「出張の準備はできているの?」
「いえ・・急でしたので・・何も」
「え?・・・・そのままで行くつもり?」何も持っていない、格好を見て
「えぇ・・・ハンカチだけです」そのハンカチだけ、という事を聞いた二人の女性は笑う
「いくらなんでも・・・・着替えは?」
「大丈夫です・・パンツはむこうで買いますから」

このバンツと言った事で、恵子と直美は、プッと可笑しくなり・・・・

「あははははは・・・」
「ははは・・はははは」と声を挙げて笑い出した。何かを想像したのかも、知れない。

「汚いなぁ・・・あはははは」部長もつられて笑う
「はい・・・一週間は持つと思います」しらっとして答える川田

この一週間と答えたことで・・・

「うぁぁ・・・・汚い!!」部長
「はい、慣れていますから・・・」

これで、事務所内は大爆笑になっていった。

春、爛漫のような笑い声が、響き渡って行った。
外は、本当に、春・・・・

新緑が芽生え、すがすがしい季節となっていた。
川田は、10万円をポケットにねじこみ、資料を入れる会社の封筒だけを持って、島根に向った。


小説 (3) 『永遠の人』 著者 高 一

2008-03-27 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
季節が知らず知らず、移り変るように、時代も刻々と移っていく・・・

社会は、政治分野も、ロクでもない政治屋どもに、国民は振り回されていた。
経済も、昨年の夏ごろから顕在化し始めた、アメリカのサブプライムに端を発した、金融機関の不良債権化の問題が、世界へ飛び火して、大混乱の様相を呈しし始めていた。
FRBは必死に、あの手、この手を使い経済再生への有効打を打ち、恐慌の恐れになるのを食い止めている。

国内でも、異常事件が毎日々、これでもか、これでもか、と言うほど、入れ替わり立ち代り起きて、人々を驚かせていた。

人々の心も、一瞬一瞬、止まることもなく、移り動いていた。

「川ちゃん!!・・・」川田を呼んで、タバコを吸う仕草で、誘う大林
「・・・・」川田も外に出て、タバコを吸いに行く

外は春の香に、満ち溢れている。通り過ぎるOLらも白を基調にした服装に変っている。

「昨日はお疲れ・・・」
「みんな結構、飲んでいましたね」
「そうなんだ・・部長なんか、今朝、休みだよ・・酒、弱いのに、付き合うから、あははは・・・・」

「えぇ・・・・」
「川ちゃんは?」酒を飲んだ翌日のせいか、ぐっと相互の距離感覚が近ずいている
「私?・・・・全然」
「まだ、19才だろう!・・見ていたけれど、強そうだね」

「えぇ・・・序の口です」
「そう、凄いね、今度、ゆっくり、又、飲みに行こうよ」
「宜しく、お願いします」

「ところでさぁ・・・新聞読んでいる?」
「え?・・新聞というと?」
「日経・・・」
「日経というと、日本経済新聞のことですか?」

「そう・・・うちも一応、新聞社だからさぁ・・日経を読まないと、相手からバカにされるよ・・・・」
「そうですか・・・」川田は業界紙なので、そんな必要はないと漠然と考えていた
「ほら・・これ」そう言って、今日の日経を川田に渡した

大林がタバコを吸い終わり、事務所に戻ったのを、見ながら、川田は日経を読み始めていた。新東京銀行の件や、いろいろ、さすが経済専門紙らしく内容も多彩で、川田は、興味を持ち、明日から、読むようにした。

川田にとって、経済のことは、余り、分からない分野なので、いいきっかけになった。
会社は、『ザ・ゼネコン』という業界新聞を発行している。
川田は、その記者見習いとして、採用されたのだった。

本社は大阪で、全部で48名の従業員、東京は支社で18名。
会社はマイクロ建設社と言って、中堅の業界紙であった。

川田自身、記事を書いた経験はなかったけれど、書くことには余り、抵抗がなく、内勤より外に出回っている仕事の方が、性に合っているので、この会社に決めたのであった。

高卒の記者は川田だけで、周りの先輩らはみんな大学卒で、それも経済を専攻していた。
川田は、新進気鋭の精神の持ち主で、新しい事には、人一倍、興味も持ち、取り組んでいく。
不器用であり、人の3倍、10倍の労力をかけて、学んでいく。
しかし、一旦、コツを掴み、理解をすると、その後は、人の10倍の力を発揮する。

それもそうだ。
不器用だから、失敗も多く、試行錯誤も人の10倍、100倍を経験する。
だからこそ、試行錯誤で経験が豊富になり、かえってよかったのだ。
不器用なんかを悲観する必要は、毛頭なかった。
むしろ、不器用イコール武器になった。
物は考え用だった。

タバコを3本吸い終わり、川田も、事務所に戻っていった。
手には、日経新聞を握って・・・・。

小説(2) 『永遠の人』 著者 高 一

2008-03-26 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
18人分のブルーシートに独り、ポツネンと座り続けている。シート一枚だと、長時間、座っていると、腰が冷えてくる。
川田は、なんとかしなくては、と、思いキョロキョロ見渡して、下に敷く物を探す。

あった!・・ダンボール

少し汚かったけれど、ないよりはまし。それを下に敷き少しは、冷えを予防できた。
でも、みんなはまだ、来ない。
シートで腕組みをしながら、思っていた。

(社会人になって、最初の仕事が、花見の場所どりか?!)と独り、苦笑していた。

川田は19才。高校を卒業して大学入学の予備校に通っていたけれど、母親が脳溢血で急死した為、進学を仕方なく諦めた。母子2人だけだったから、どうしょうもなかった。
それで、就職したのだった。

もう冷えが堪える夕暮れになっていた。
ホームレスらは、辛抱強いなぁ、とつくづく感心していた。
そろそろ周りの場所には仲間達が集まり始めて、花見の酒盛りが始まりはじめた。
川田の会社の者は、もう6時近くなるのに、誰も来ない。
何か、買い物にいくにも、トイレに行くにも、場所を離れる訳がいかない為、ただただ、じっとしているしか方法がなかった。

日が暮れて、提灯の灯りも灯され、満開の桜とマッチして、幻想的な光景を生み出す。
夜桜も綺麗だ・・・・。

(まだかなぁ?・・もう6時半近くなった時?)会社の面々が、一緒になってゾロゾロ
集まって来た。

「おぉ・・・・ご苦労さん!!」
「お疲れさん・・・・」
「なかなか良い場所じやないか!」

川田は冷えと疲れで、返す言葉もなかった。
朝から食べたのは昼の弁当一個と冷えた酒一本。

用意されたビールと酒と焼き鳥や、つまみを急いでみんなは、分けて、乾杯の準備に入った。川田にも、酒が配られたが、コップに酒を注いでくれたコップを持ったが、そのコップをポロリと落としてしまう。
手がカチカチに冷えていたからだ。
そのコップを落して酒がこぼれるのを見て、みんなはどっと笑う!!

「あははははは・・・」
「ははははは・・・」
「おい・・あわてるなよ!!」
「しっかりしろよ!・・・」

ここに居るメンバー誰一人として、川田の朝からの、場所取りの為の苦労なんかは、知らない。寒くて、手がかじかむほど、冷えていたという事すら、分かろうとしなかった。
みんなが笑うのに任せていた川田だった。

「では・・・こんなに綺麗に咲いた桜を、みながら、乾杯しましょう!!」大林が音頭

「乾杯!!」

一斉に、乾杯となった。

川田は乾杯をしながら、心に決めていた。
来年入ってくる新人に対しては、俺がした思いを絶対、させない。
必ず、気配りをして交代をし、寒い思いなんかはさせない。

冷えた身体に冷酒はもう、少しも旨くもなかった。
酒が進まないのを見て、みんなは、川田は余り、酒は飲めない男と、どうも、錯覚している。ところがどっこい。
ここに居る面々なんか、川田の酒豪に敵う者は1人もいない、ことが後々、知るようになっていく。
19才だけれど、酒歴は長い。
12才から飲み始めていた。
一升を飲んで、やっと少し、酔ったかなぁ?・・・という位だ。
それでも、酒が好きでもない。
ただ、飲めるというだけなのだ。

酒も、楽しい酒だった。
会社のグチや喧嘩なんかは、一切しない。
でも、今晩は、余りにも寒すぎた。
ブルーシートの端で、新人らしく静かに飲んでいた。

その姿を女性社員の2人が、それぞれ離れた場所でじっと、見つめている。
勿論、川田はそんなことは、全然、気が付かず、醒めた焼き鳥を、つまみに、ぐいぐい
酒を腹に流し込んでいっていた。
全く、酔わない。

周りの連中らは、もう大分、酔いがまわってきたのか、ベロベロ・・・

桜は見ていた・・・
そして思っていた・・・・

(あららら・・・ずい分、弱いのねぇ!!!・・・アハハハ)と・・・・・。

風に吹かれて、時々、花びらが、春の雪のように舞い散っていった。

小説(1) 『永遠の人』 著者 高 一

2008-03-24 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
4月だというのに、今日は、朝から曇り空で、時々、小雨が降り、肌寒い。
せっかく咲いた満開の桜はそれでも、散らない。
1年をかけて、地中深く養分を摂り、この日の為に、じっと待ちに待っていたからだ。
みんなに喜んでもらう為、少し位の雨に負けていられない。

「川田君!・・・」上司の青柳が呼ぶ
「はい!・・・」
「君は、今日の仕事はしないで、すぐ、上野に行ってくれ」
「はぁ??」新入社員の川田は意味が分からな無かった
「言わなかったっけ?・・・今晩は、花見なんだよ・・それで場所取りに・・上野へ」
「はぁ・・・」
「すぐに・・・それから、ブルーシートは後から、届けさせるから」

川田は言われるまま、その足で、朝、9時過ぎには、銀座の会社を後にした。
外に出てみると、寒い。コートは着ていない。

上野公園に着くと、もう花見の人々が、終末ということもあって、ぞくぞく見に来ていた。公園には提灯が桜の木々を縫うようにして、垂れ下がって、夜の本番を待っていた。
さすがに、桜の多さでは、定評があるだけあって、見事に満開の花びらを見せびらかせている。
川田は、その桜を見ながら、場所とりで、ウロウロ歩いている。
用意のいい先客らが良い場所は、がっちりと押さえていた。
ブルーシートで覆い、ある場所では、ダンボールをたくさん並べて、場所を確保。
大体、2人か3人一組で、交代で、確保した場所を後から来た連中らに横取りされないように、ガッチリガードしている。

川田は少し焦っている。

(もうこんなに来ていたのか?)と、良い場所がなく、物色。

やっと見つけた道路の交差する角に、場所がなんとか、見つかった。

(遅いなぁ?)独りポツンとつ立って、ブルーシートが来るのを待っている。

その間に、やはり場所とりの連中が、何人も、川田の居る場所でブルーシートを広げようとする。

「すいません!・・・そこはもう・・・」何度もそう言って、ここは確保済みを言わなくてはならなかった。

そんな事をして、必死の思いで場所を確保していても、誰も来ない。
誰が、来るのだろうか?・・・連絡も携帯にはない。

もう昼近かった。トイレにも行きたい。
冷えてきたので、尚更、トイレが近い。でも、場所を移動し、あるいは居なくなると、どんな連中が来て、この位置に、シートを敷かれるか、分からない。
もうトイレも限界になりそうな時に、顔なじみの先輩が、ブルーシートを重そうにして持ってきた。

「悪い悪い・・・」
「いえ・・・」トイレを我慢して返事もおろそかになって、すぐ、トイレへ駆け込んだ

すっきりしても戻って、先輩と一緒になって確保した場所にブルーシートを敷く

「大変だったねぇ・・・・昼は?」大林先輩が聞く
「いえ・・・」
「そう・・・俺、昼飯を買ってくるから」そう言いながら、公園の屋台へ向って行った

トイレに行ったせいと、寒さで、急に、腹が空いてきた。
しばらく敷き詰めた、シートでポツネンとしていると、大林が両手に弁当と日本酒を抱えて戻ってくる。

「ゴメン・・・結構、混んでいて」気配りの大林が、弁当と酒を渡す
「すいません!・・・・」
「いいよ・・・川田君、悪いけれど、俺、どうしても行かなくてはならないので・・・」
「そうですか・・・」

大林は、太った体をゆすりながら、川田にそう言いい、何処かへ帰っていた。

残されて独りシートの真ん中に座り、さっきの弁当を開き、酒をぐい、と、一気に飲み干す川田。
一息ついて、辺りを見渡す・・・

遠くではカラオケで歌っている声が聞こえてくる・・・
余り、上手くない。
歌うより、がなりたてている、といった方が正解。

そんな変なダミ声の歌でも、今日の桜は楽しそうに咲いていた。
迷惑でなく、そんな歌も全部、了解済み、といった桜たちの饗宴でもあった。



SF小説(59) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-23 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
約束を果たそうとして、山川はフライに飛び乗り、ある場所へ飛行してる。
自動操縦にセットして、思い出していた。

(この子の名前は、『夢美』というですけれど、夢を見続ける美しい女の子という意味で
愛称で『ムーミィ』と、言うんですよ)施設の女性管理の言葉を・・・

山川はそのムーミィに逢いに行く途中であった。

多摩湖近くに達すると、眼下にはピンク色に染まった、桜で一杯の大きな庭が見えてきた。もう、我が世の春のように咲き誇ってる。

山川は多摩湖の横の草むらに、フライを着陸させる。
施設へ歩いていく・・・・

(居るかなぁ?)突然の訪問で少し、不安そうな思いを抱きながら歩みを進める。

施設の広場ではたくさんの子供達が大きな声で、遊んでいる。
その声がどんどん大きくなってくる・・・・

ムーミィも友達たちと遊んでいた。
しかし、山川の姿をすぐ見つけた。

「おじさ~ん!!」飛びつく
「おぉぉ!!・・ははははは、元気だなぁ」
「やくそく、まもってくれたのね!!」
「そう・・ムーミィの為だから・・・」山川はそう言って、ムーミィの顔を見る

「あっれえ?・・・そのアザどうしたの?」目の下に薄いアザが・・・
「うん・・すべったの!」
「ははははは・・・元気だなぁ!!!」

そこへ施設の先生が来る。

「お久し振りです・・・」
「いつもすいません!」
「いいえ・・・ここに来るのが、一番楽しいんです」
「そうですか?」
「先生、ちよっとムーミィと散歩してきていいですか?」
「えぇ・・どうぞ・・どう?」ムーミィに聞く
「うん・・・・」

2人は、多摩湖の下の、たくさん咲いている桜を見に行く・・・
休みのせいか、もう、桜の木の下には、大勢の人たちが、花見にきている。

下から見上げる桜は、空一面にピンクの花びらを、広げて咲いている。
山川とムーミィの2人は、ただ、黙って、その桜を見上げたり、遠くに見ていた。
ムーミィの小さな手は、山川の大きい手を、しっかりと、握っている。

まるで恋人みたい。
その内、多摩湖の見渡せる、場所へ、桜を見ながら、移動して行った。

今日は風もそよいで、湖面はキラキラ輝いて、眩しい。
2人は、その輝く湖面を、いつまでも、じっと眺めていた。
そして、どちらともなく、瞳を見合せて、ニッコリと微笑んでいた。

穏やかな春の一日が、ここにはあった・・・・・・・・・。

・・・・『END』。

『番外編』

長らく、ご愛読、誠にありがとうございました。
これで「人間の惑星」の終わりです。

源流から始まって、小さな支流でしたが、小川になりつつあります。
この小川は、季節の変化を楽しみつつ、大河に向って、ある時は、怒涛の勢いで、ある時は、春の小川のように牧歌的に、ゆっくりと、着実に、流れています。

小さな小川が、人間という大河に向って、その水かさを増しつつ、注いでいっています。

今度の小説は、がらりと変ったものになります。
お楽しみに・・・・。

最後に、

ありがとうございました。


SF小説(58) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-23 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
最後に議長が、司令官のボブに発言を促した。
場内の人々は、ゆっくり立ち上がって、話す、長身のボブを黙って見ている。

「ここにおられる方々、並びに世界の人々に、厚く感謝申しあげます・・・
 戦争が回避されて、みんなが喜びを感じいます・・
 戦争で幸福になる人は1人もおりません・・
 どんな民族もいません・・
 どんな国家もおりません・・・
 戦争ほど不幸で残虐なものはありません・・
 我々は、このことを数万年の歴史を経て、やっと平和を掴んできました・・
 それは、1人1人の心の中で、平和を希求してきたからであります・・・
 獣の心と人間の心との戦いに、勝ったのであります・・
 我々は、人間であって、獣や動物ではありません・・・
 この星に住む人間であります」

ボブが挨拶を終えると、万雷の拍手が鳴り響き、いつまでもそれは続いていった。
立体テレビでは、ボブの話も全部、世界へ中継されていた。
テレビを見ていた多くの人々は、改めて、平和な世界の大切さを実感し、陰謀や権力や悪口、中傷にも負けなかった月の開発部隊に、心から拍手を送っていた。

テレビには公聴会の中継が終了すると同時に、臨時ニュースが流されている。

「今、入りましたニュースをお伝えします・・
奇跡が起きました・・
テロの被害に遭い
一命をとりとめましたが、意識不明で昏睡状態が続いていた、日本の男性が、覚醒しました」傷心したまりとサリは、何気無く中継を見ていたが、この後に呼ばれる名前に釘付けとなった。

画面には、賢治と流されていた。
ただ、性は分からない。
まりとサリは、このニュースを見て、

「賢治に間違いない・・・ねぇ・・サリ」
「そうね・・絶対、賢治だわ」信じられない想いで二人は、すぐ、ニューヨークの病院へと飛び立っていく・・・・・。

フライは高速飛行艇。国境もなく重力の圧力の問題も解決されて、一気に、アメリカへと飛来していった。

ニューヨー市立病院に到着し二人の姉妹は、すぐに病室を確かめて、おそるおそるドアーを開ける・・・・

「????・・・・」

窓際の暖かい光が当るところにベットがあり、そこに横たわっている1人の男性。
顔は窓の外を見ているので、分からない。
病室に人が入る気配を感じて、ぐるりと頭を回して、二人を見る・・・

「あっ!!・・・」賢治
「・・・・賢!!」
「賢治!!・・・」

まさしく賢治その人だった。
3人は、ベットの中で、ただ、ただ、言葉もなく抱き合い、泣くだけだった。

無事の再会の涙・・・・
とめどもなく流れる涙には喜びがたくさん詰まっていた。

外の明るい陽射しは、ますます、陽射しを強めて、3人の身体全体に、暖かさを覆っている。まるで奇跡の再会を喜んでいるようだった。
病室の城い壁には、ゆらりゆらりと、3人の織りなす影が、投影されて、影も祝福していた。

(よかったね!!・・・)と・・・・・・。

病院の庭には、日本からプレゼントされた友好の桜が、満開に咲き誇り、人生の幸福を祝っているようだった。
 

SF小説(57) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-22 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
公聴会の出席の為、ボブとエドは朝、途中の畦道を歩いていた。
横には小さな小川が流れ、川の中ほどにある浅瀬に、野生のカモや白サギがが、のんびりと思い思いでたたずんでいる。

2人が歩いていくと、驚いてカモは、バタバタと音を立てて、飛び去る。
その羽音に仲間のカモも急いで、飛び立つ・・・・・
飛び立ったカモの脇の畦道に、まだ咲いていない桜の木の下には、もう咲いているタンポポが黄色い可愛い花を咲かしている。

(見て!・・・もう咲いているのよ)そんな風に、タンポポは誇っている

木々には春を喜んでいる小鳥達の笑い声が聞こえる・・・。

「あぁ・・春だなぁ」ボブは独り事のようにつぶやく
「えぇ・・そうですね」エド

散歩道になっているのか、時折、行き交う人たちが、挨拶をしていく・・

「お早う・・・」
「おはようございます」

ボブは深い物思いにかられて、黙々として歩いていた。
そして、誰に語るともなく・・・

「エド・・もう、春だね・・こうして厳しい冬を乗り越えて、冬は必ず春になるんだね」

ボブは今までの厳しい戦いを振り返るようにしみじみと言う。

「えぇ・・・」

「自然の理(ことわり)はどんな時代になっても、どのような状況になっても、変らない
 んだね・・・・」

「えぇ・・・・」
「さぁ・・少し急ごうか・・」
「えぇ・・」エドは促されて、ボブの歩調に合わせて行く

そして、ボブの言葉を胸中に繰り返していく・・・・

(冬は必ず春となる)と・・・

この言葉を何度も復唱している内に、エドは不思議と、胸中から、ふつふつと希望の力が湧いてくるのを覚えていた。

魔法の言葉・・・。

(冬は必ず春となる)・・・・。

公聴会場はすでに世界各国からの代表が、ボブたちを待っていた。
ボブ達の着席を確認すると
議長が言う

「グッドモーニング!!」
「おはようございます!!」
「グッドモーニング!!」

朝の爽やかな挨拶が交わされる・・・・・。

続けて、議長は・・

「月の開発部隊が揃いましたので、改めて、みなさんにご報告いたします」

場内はどんな話か、聞き耳を立てる。
立体テレビ中継も一斉に、スタンバイ・・・・

「テロ実行犯らの告白により、全てが判明致しました・・実に奇怪であり陰険な陰謀の全貌が明らかになりました・・・・」

しーんとする場内・・・・
一呼吸を待って、議長は続ける・・・

「ジョーンズ一派、5人組の内、2人はすでに特殊部隊の手によって、身柄を確保しております・・・・」場内は、ほっとしたような溜息が洩れる

「しかし、首謀者のジョーンズ、サムソン、トロイの3人は、今だ、逃亡中であります・・だが、特殊部隊は、隠れ家と思われる別荘を突き止め、今、そこへ向っています」

そこまで言い議長は、間を置いて・・・・

「・・必ず・・逮捕いたします!・・・今までの経過と証拠から見て、彼らの犯罪は間違いありません!!・・・・」拍手

「我々は大変な間違いを犯そうとしました・・・ここで、改めて、月の開発部隊の方々にお詫びいたします・・・・真実の証明を持って、お詫びをしたい」場内は拍手

「ここで、今、居られる月の開発部隊、並びに世界に居る月の開発部隊の方々に、深く深く、改めて、おわびを申し上げます・・」場内からはわれんばかりの大拍手が鳴り響く

真実は必ず明らかになり、勝つものだ。

今、まさに月の開発部隊全員に、本当の春が訪れていた。

SF小説(56) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-21 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
外は寒々した波のしぶきで荒れていた。
空も今にも大雨が降りそうな様子で、暗い。
孤島にフライを止めて、二人の男は、額に眉をよせて、何やら、密談していた。
その表情は外の天気と同じように暗い。

「ここに呼ぶんだ・・・」ジョーンズの部下のサムソン
「必ず、最終的には、俺達の事がバレるし、売る気だ」トロイが断定して言う
「だから、こっちが先に殺るんだ!!・・」
「よし、分かった!」

2人の男は決断した。
ジョーンズの別荘のこの孤島なら、目撃されることはまず、心配ない。
以前も何回か、密談の場所で利用したのだった。

「司令官・・・・」トロイが呼ぶ
「なんだ!!・・・」一時はガタガタ震えた男だが、虚勢だけは何時もと同じ
「相談があります・・・例の件で」
「・・・・・」
「私達は、今、2人で、孤島で待っています」
「2人?・・・誰だ?」
「サムソンです・・・むやみに話すことでないので・・すぐ、来て下さい」
「・・・・・」用心深いジョーンズはしばらく考えている
「時間がないのです・・・いいアイデアがあります」
「・・・そうか!!・・・名案だな・・」
「そうです・・・・待っているヒマはありません!!」
「分かった・・・・」
「1人で来て下さい・・機密事項ですから」
「分かっている・・・」

ネットテレホンを切ったトロイ・・・・。

「どうだった?」サムソン
「こっちに来るそうだ」そう言ってニヤッと不敵に笑う

2人はフライの外に出て、これからやる事の緊張をほぐすように、思い切り深呼吸をした。それを嘲る様に、荒れている波が、孤島を震わす・・・・。
どの位待っただろうか、ジョーンズの乗るフライが、別荘に到着した。
不安げなトロイとサムソンが、近ずく・・・・

(1人かなぁ?)と・・・・

出てきたのはジョーンズ1人。
それを見て、2人は目で合図。

「大分、急いでいるようだな!」
「当然です・・・バレるのは時間の問題ですから」
「よし・・・詳しくは中でだ!」

3人は別荘の中に入っていった。
そして、サムソンがソファーに座るや、話始めると・・

「ちっと、待て!・・・」
「はっ?」
「トイレに行かせてくれ・・・」感ずづかれた、と思ったトロイは胸を撫で下ろした
「どうぞ・・・」

ジョーンズはかって知った別荘のトイレへ行く・・・
その後姿を2人は、見て、今がチャンスと、すぐ後を追う。
今にもトイレで用を足そうとしていたジョーンズの後ろから、サムソンが首を力づくで締め上げる・・・・

「ううううう・・・・」苦しそうな呻きと突然のことで、ジョーンズ

「おさらばだな!・・・・」そう言うなり、今度は、トロイが背後から、ナイフで一突き

「ギャャャャ!!!」声にならない苦痛の叫び

まだ生きている。
サムソンが更に、締め上げて、便器に引っ張っていく・・・・・
ドクドク血が吹き出流れる。

血まみれのジョーンズを更に、引っ張り、便器の中に、頭から突っ込んでいく。
顔は、糞の便器の水たまりの中へ・・・
身体は余りの苦しさに、必死にもがき、暴れる・・・・・
おぃ!という風に合図をトロイにして、促すサムソン

「永遠にこれで・・おさらば!!・・・」強烈な一撃で、止めを刺した

頭から便器の水につかって、もう声すら聞こえない。
苦しくもがいた身体は、最後の瞬間、ブルっと痙攣して、絶命・・・・。
あっけない、最後。
しかし、糞まみれと同じような、地獄の死に方だった。
絶命する数分は、それこそ何千年の時を一瞬に、味わう苦痛の地獄だった。

世界を支配しようと目論んだ、この独裁者の哀れな生涯だった。
この男によって10万人以上の人たちが死んでいったのだ。

「こいつはどうする?」
「糞と同じにしておけよ・・」

2人は、何事もなかったように、フライに飛び乗り、どこかへと飛んで行った。



SF小説(55) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-20 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
サリはシトシト小雨が降る外を、今か今かと窓越しに見ていた。

「遅いわ。。。」つぶやく・・・待っている時は、時間が遅く感じられる

どんよりした雲。
その雲の合間から、すっとフライの銀色の姿が見え始め、ふわりとサリの目の前の芝生に降り立つ。
それを見たサリは、パっと明るい顔になり急いで、窓辺を離れ、小走りでフライの前に。

ハッチが開く・・・・
中から・・

「サリ!!・・・」
「まり!!・・・・」

双子の姉妹はお互いの無事を確認し合い喜び抱き合う。
自然と頬に涙が伝わり流れる。
だが、まりは賢治の死をまだ、知らない。

流す涙は再会の感動の涙・・・・・

姉妹は肩をよせて、家の中へ入っていく。

両親は仕事中で今日は留守。
サリは姉のまりを誘って、窓辺のテーブルで話し合う。
明るく笑うまりの顔を見て、サリは何時、言いだそうか迷っていた。
でも、意を決したように、真顔で切り出した・・・・

「ねぇ・・まり」
「うん・・何?」
「賢治さんの事?」
「元気でやっている?・・連絡が取れなくて・・心配しているの?」明るく聞き返す
「まり・・しっかりして・・聞いてね」
「・・・・・」何の事かしら?・・不安そうなまり

沈黙の時が流れる・・・・

「賢治さん・・・・死んだの!」サリはポツリと、そう言うのが精一杯で、あとは、テーブルに泣き崩れる

「えっ??・・・そんな・・ウソでしょう?」そう聞き返すが、むせび泣くサリを見て、それが本当だと、とっさに悟る

「・・・・・」
「テロで亡くなったの・・・知らないと思って」
「・・・・・」
「・・・・・」

溢れる想いのまりの大きな瞳からは、堪えていた涙が、ぼたぼた頬を伝って、流れ落ちる。
サリも子供のように、か細い肩を震わせて、泣きじゃくる・・・。
まるでこの世の悲しみを2人は、全部、背負っているようだった。

涙は嬉しい時にも流れ、悲しい時にも流れる・・・・。
泣く事ができるのは人間だけ・・・
人間の持つ特性。

部屋は姉妹の悲しみに呼応するように、充満し、時折吹き付ける雨の音が、淋しく窓をコトコト揺らす・・・・。

2人が愛する人はもういない。
どんなに泣き崩れても、もう二度と、現れない。
あの底抜けの明るい笑顔も見られない。
どんな時にも、冗談を言って、笑わせ励ましてくれた彼は、そこにはいない。

誰が、生きる希望を与えてくれるの?
どうやって、これから生きていけばいいの?
何を杖にして、生きていけばいいの?
誰も答えてくれない。

返って来るのは冬に戻ったような冷たい風の音だけだった。

テロが憎い。

無差別に人を殺す権利が、一体、どこにあるのか?
民族が優先なのか?
宗派が優先なのか?
主義主張が優先なのか?
国家が優先なのか?

テロとは一体、なんなのか?
至上の命を奪う程の価値があるのだろうか?
命を超える価値が、この世、この世界、この宇宙にあるのだろうか?

姉妹を慰める言葉もない。
時が安らぎを与えてくれるのだろうか?
あぁぁぁ・・・・。


SF小説(54) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-18 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
公聴会の模様は立体映像で、全世界へ同時中継されていた。
議会で話される言語は、見る側が言語選択ボタンを押せば、すべて自国語に瞬時に翻訳されて聞こえてくる。

画像も立体なので、目の前にそのままの臨場感を見ている側に与えて、迫ってくる。
まるでその場に居るような錯覚さえも覚える。
議場の周りの通路の上には、「サンレザーヘリコプター」が腹部に監視カメラを搭載して、警戒している。
このヘリコプターは大きさが、小型パソコン位で、昼だけでなく太陽の日の光がない夜間でも、レザーを照射されて太陽光電池を活性化し、飛びまわれる。
監視にはうってつけの小型ヘリだった。
公聴会の議場に出入りする人間は、チェツクされる。

長時間の公聴会がまだ、えんえんと続いている。
世界各国からの代表らは、今までの経緯から、ほぼ300人が、『悪の軍団』に対して、否定的な見方に傾きつつあった。

「議長!!・・・」ジョーンズの部下のサムソンが、手を挙げて意見を言う

「ここでは、意見は自由です・・公聴会であって、裁判所ではありませんから、どうぞ」
「先般、テロで犠牲になった青年のことで、ご報告があります・・」

「どうぞ・・続けて下さい」
「みなさんも立体ニュースでご覧になって、知っていると思いますが、あの青年が、たった今、亡くなったとの連絡が入りました」

「あの青年と言いますと?」
「テロの爆発によって、両手、両足を失いひん死状態の青年のことです」

場内に居た人たちも、同時中継で見ている世界中の人たちも、みんなその青年のことは知っていた。

「そうです・・彼は死にました!」

サムソンは胸を詰まらせて、そう報告をした。

20代の若さで、未来へ羽ばたく前に、羽さえ広げられずに、息を引き取った。
悲しい知らせで、多くの人達は涙をぬぐっていった。

その悲しい雰囲気を打ち破るように・・・・・

「議長!!・・・」ジョーンズの部下のトロイが今度は挙手をする
「・・・どうぞ」

「あの青年の悲惨な事例を見るまでもなく、卑劣なテロの責任は重大であります・・
私の個人的な見解を言わせていただければ、彼らの否定には根拠がありません!!」

そうだ!!
その通りだ!!

場内から凄まじいヤジが飛ぶ・・・・。
議長はそれを制止して・・・
続けて意見を言うので、促す

「・・何か?」
「この公聴会では真実が分かりません!・・よって、人類国際裁判を開くことを提案致します・・・」拍手が鳴り響く

参加各国の代表等も、それは仕方がないし、当然、という雰囲気にすでになっていた。
ボブと部下ら3人は、口惜しく、口を真一文字に結び、議場の天井を一心に凝視していた。

議長と公聴会の面々は、額を寄せて、何事かを協議している。
そして、ひとしきり協議が終わり、議長が、口を開く・・・

「みなさんの票決をこれからとります」

その議長の話と同時に、入り口付近が、あわただしくなっていく・・・・
監視ヘリコプターのカメラに男らの姿が写し出され、彼らが、議場になだれ込んできたからだ。総勢10人。
殺気だっていた。
場内も、ピリっとした緊張感に包まれていく・・・
テロではないか!!

警備員の取り押えを振り切り、なだれ込んできたのは、エドらだった。
エドが叫びながら言う・・

「議長!!・・・重大な事実を申し上げます」必死の叫び
「???・・君は誰だ!!・・ここに入る資格はない!!・・誰か?」警備員に取り押さえろと
「充分、承知しております・・・我々は、月の開発部隊の者です」

何?!・・・場内はそれを聞いて、蜂の巣を叩くような騒ぎになっていった。
議長はただならぬエドの剣幕に押され、場内を静止させた。

「重大な事とは何かね?・・」意見を言わせた
「ありがとうございます・・テロの実行犯を連れて参りました!!」

この一言で、場内は水を打ったように静まりかえっていく・・・

エドら7人は、目の鋭い男3人を背中から、前に押し出した。
手には手錠がかけられいる。
3人は大分、殴られたのか、顔は、腫れ上がっていた。

エドに押されるまま、前に立つ・・・
場内はこの突発事態にクギづけ・・・
世界中もこの実況中継から目が話せない。

エドらが捕まえてきた実行犯3人の男を見た瞬間、ジョーンズの顔からは一瞬にして、血の気が、スッッと引いていく。
顔面、真っ青。
自分でも分からないほど、身体が震えてくる。
ガタガタまるで音を立てているようだった。
座っているイスの下は、外からは見えない。

しかし、音が聞こえた。

ポタリ、ポタリ、ポタリ・・・
床には小便の臭い匂いが・・・。



SF小説(53) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-15 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
次第次第に事情が分かり始めてきた。
月の軍団らは、地球防衛軍が宇宙船内を点検しても、一切の武器は機内にはなかった。
さらに、月のメンバーらは誰一人として、同様に、携帯する武器も持ち合わせていない。
全くの無防備で地球へ帰還したのだった。
それをどうして間違った情報が流されたのか、月の軍団が地球に攻め込んでくる、という。最初から、月の軍団が地球を攻める意志が無い事がハッキリした。
地球の兵士等は点検を進める内に、疑問を持ち始めていった。

「おかしい??・・」と・・・

ジョーンズは連絡を受けたとき「何??・・・・」一瞬、戸惑いを感じて、その後、すぐ
満面の笑みを浮かべて、手を打ち始めていった。

「助かった」と・・・・。

それからしばらくして、世界政府による公聴会が至急、開かれることになる。
ボブと腹心の部下、計3名が、公聴会に呼ばれ、尋問が開始される。
世界政府のメンバーは全部で300名。
当然、ジョーンズらの一派6名も入っている。

ボブらは何がなんだか、本当のところ、良く分からない。
ただ、月で掴んだ情報では、誤解が誤解を生み、月の開発部隊が反逆を企て地球に攻め込んでくる、という噂が地球内部に広がり、もう一触即発という状態にまで、事態が進んでいる、ということだった。
誤解である。
どのような陰謀があろうが、この誤解を解き、説明をしなくては、大変なことになる。
ボブは考えに考え抜き完全非武装で、地球への帰還を決めたのであった。

地球防衛軍が点検したのは、ボブらの最初に主張することが、事実かどうかの確認だったのだ。

公聴会が開始。

「あなたは、以前、この公聴会の時、戦う意志や反逆の野望はない、と答弁しました」

議長のスタンレーが重々しく刺のある口調で聞く・・・

「はい・・・その通りです」ボブは断固とした口調で言う

「だが・・・あなたの言う事と、やる事とは違う!!」

「はっ?・・・・何のことを言っているのでしょうか?」ボブは困惑して言う

「あなた方が地球から月に帰還して、すぐ、テロが起きた事です」

会場では、それまで静まりかえって、尋問を聞いていたが、テロの下りにくると、ザワザワと騒ぎ、ボブらを憎々しげに睨む。
当然であろう。
あのテロによって10万人近い人々が、死んだのだ。
その張本人が、白々しく目の前で、知らぬ存ぜずとして、否定する。

「そのテロについては概略、月に戻って聞きました・・・・そして、それが我々月の開発部隊の仕業である、という噂も耳にしました」

「噂??・・噂でなくあなた方の仕業ではないのですか?」スタンレーは怒りに満ち、聞き返す

「誰がそのようなことを?・・・証拠でもあるのですか?」ボブも怒る

「現時点では明白な事実は出てきていません・・・だが、状況証拠から、そのように言います・・・加えて、地球を攻める、という反逆行為の噂も出ています」

「はははははは・・・・たわけた事を・・・」

「笑い事ではない・・・多くの尊い命が奪われたのです」

「私が笑ったのは、ありえない作り話にみなさんが、ひっかけ回されている、ということに対してです」

「では、聞きます・・・そうでない、という証拠でもありますか?」

議論が堂々めぐりになりつつあった。
会議場では、くどくどしないで、早く、彼らを牢獄に入れてしまえ、といった雰囲気になりつつあった。真理、真実を追究しようなんて、感覚で無くなっていた。
ひとえに感情に支配されていた。



SF小説(52) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-14 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
動物は自分より弱い相手と見ると、見下す。
人間もそうした輩がいる。
姿、形は人間であるけれど、そうした輩は生命そのものが、動物と変らない。
かといって、自分より強い相手には、今度は見苦しいほど、尻尾を振る。
浅ましいというか、レベルが低いというか、形振りは構わない。

ただ、ひたすらへいこらするのだ。
自尊心も当然ない。
自分さえ良ければ、それでいいのだ。
およそ人間らしい生き方はせず、動物とさして変らない生き方をしている。
ジョーンズもそうだった。

「総司令官・・・・」
「なんだ!!・・・・」部下が状況報告に来たが、とりつく暇もない位荒れていた
「あのの・・・・」余りの荒れようで、おどおど話そうとしたが、口をつぐむ
「どいつもこいつも・・能無しらが・・・」勝手に部下みんなをコケにして言う

「はぁ・・・・・・」口をはさむ余地はない
「包囲したのか!!・・・・」
「いえ・・・・」
「何!!・・・」そう言ってから、イライラしてた足でソファーを蹴り上げる
「あの・・・・・」
「うるさい!!・・・バカな連中らめ・・・・」

この男は、部下を決して誉めない。
誉めないどころか、部下がいない時には、その部下の事をボロ糞に言う。
部下が気を許して、雑談なんかにポロリと話したことを、覚えていて、その揚げ足をとり、あることないこと、中傷していた。

部下を自分以上の人材に育て、立派にするなんてことは、一切ない。
力ある部下の挙げた成果だけは、しっかりとその手柄を自分のものとする。
権力を嵩に来て、やりたい放題、傍若無人の振る舞いをしていた。

手柄、成果は俺のもの、働くのは、苦労するのは部下ということだ。
こうした男の下で働く部下は不幸だった。
しかし、賢くなった。
また、部下はよく上の者を見る目が養われていった。

人間的に成長しないのは誰か、一目で、第三者の目から分かるのに、当の本人は分からない。腐りきった命だから、まともな人間や、努力し、陰で一生懸命に働いている人の気持ちなんかも分からない。
もっとひどいのは、手なづけた部下を使って、有能な部下の揚げ足をとり、攻撃し、悪口、こけおどしをさせていた。
ずるく肝っ玉の小さい男のやることだった。

「全く、どいつもこいつも、何をしている!!」それはそうだ。自分が今後、どうなるのか分からない恐れが出てきたからだ。不安で不安で堪らない。

どんなに時代が進もうと、人間の性は永遠に変らない。
いつの時代にもこうした人間は必ず、存在する。
だからこそ、戦いは、永遠に続く・・・・。
人間の尊厳を打ち砕く相手との戦いが・・・・・。

ジヨーンズは何もせず、陰で要領よく立ち回り、競争相手に対しては、嘘、中傷、悪口、
批判、罠、蹴落としに終始し、権力を掴んだのだった。
長年そうやって、掴んだ権力をそう簡単に手放すことは出来ない。
この男が考えることは権力の維持のみだけだった。
人々を幸福しようなんて事は、これっぽっちも考えていない。

不安な気持ちを抑えきれず、荒れて荒れて荒れまくっていた。
だが、多くの人がいる中では、決して、そのような振る舞いを見せない。
部下や少数の内輪の人間らが居る時だけに、わがまま勝手な振る舞いをしていた。
この世は俺のものだ、という威張り腐った高慢な態度で、振舞っていた。

結局、バカなのかも知れない。
人間の真実も知らず、知ろうともせず、歴史の教訓からも学ぼうとはしなかった。
そうした人間らは、最終的には、苦悩の人生を歩み、人の幸せを喜ぶ、人生の醍醐味も知らずにあの世に行く、ことを・・・・。

人を苦しめた分だけ、その何十倍の、何百倍の苦しみが自分に返り、反対に、苦悩する人を幸せにした分だけ、我が充実の人生であることの、人生の真実も分からず、手前だけの権力に溺れた、悲哀の人生を歩む。
可哀相な人間だった。

「うるさい!!・・・・」何が、うるさいのか、怒り心頭で喚き散らす

まともな精神状態ではなかった。それだけ追い詰められていたのだった。

「あの・・・・・」
「まだ!!・・・・居たのか!!」

この一言で部下等は一斉に、部屋から逃げるように出ていった。バカは死んでも直らないという。部下は、ジョーンズにとっては、朗報を伝えかったのに、その報告さえも聞く耳や隙も与えずに、追い返してしまったのだ。

SF小説(51) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-13 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
地球防衛軍の宇宙船が3万人の兵士を乗せて、あわただしく任務の宇宙から戻ってきた。
最初は、事情が分からない多くの人々等は、もう早とちりして凱旋帰還と思っていた。
しかし、次第に真相が伝わるや、今度は、一瞬にして、恐怖へと変わっていった。
何が、あったのだろうか?
よく分からない。

理解に乏しいことが、更なる、恐怖へと膨らんでいった。
あの地球防衛軍がそう易々と、退散するはずがない。
だが、現実には、3万人を乗せた宇宙船は戻ってきている。
世界の人々の驚き以上に、最も、驚いたのは、ジョーンズらの一派。
帰還といえば体裁がいいけれど、実際は、月の軍団に恐れをなして、一目散で退散したのだ。

一方その事を聞くや、ジョーンズは腰を抜かす程、慌てていた。
度胸もなく信念もなく、あるのは驕慢な権力志向のみのこの男は、足がガタガタ震え、自室の豪勢な部屋に引っ込み、顔は蒼白になっていた。
もしかしたら、もう、すぐにでも、ここに来るかも知れない。
そうしたら、自分等が企てた、全てが明るみになってしまう。
なんとかしなければ・・・・・・

ジョーンズは必死に、この窮地から脱しようと悪知恵を廻らす。
悪は悪なりに悪知恵というものが発達しているものだ。

その頃、宇宙から巨大な宇宙船が静かに、地球に着陸していた。
月の部隊で3000万人がいる。
陸上では陸軍が発砲、応戦体制で、レーザー銃や様々な武器、戦車を配置して待ち構えて
いた。
緊迫した対峙が続く・・・・・。

その時間はどの位だろうか・・・・
宇宙船から核爆弾を上空に飛び、発射してしまえば、陸軍の意味がなさない。
地上部隊はそれを知っているから、やはり恐ろしい。
また、巷間いわれていることは、月の連中らは非道で残虐である、ということが、みんなの心の中に染み渡っていた。
何をするか分からない連中なのだ。
地上部隊は動きに動けない。

月の最高司令官ボブは冷静に情勢を見抜いていた。

そして、電子音に近い拡声器で膠着状態を破っていく・・・・。

「我々は、こちらからは攻撃をしない・・・・」それを聞いた地球防衛軍は疑心暗鬼
「・・・・」
「返事がないなら、こちらからこの宇宙船を出て、そちらに向う」断固として言う
「・・・・・」あたふたしている姿が見える。実力者がいないのだ。

時はしばらく過ぎていく・・・・・
ボブはその様子が手に取るように分かり、じっと待っていた。
しかし、決断力のない連中らは、いくら数が多くても烏合の衆。

「・・・・・」
「・・・・・」

ボブは合図する。

その合図をキッカケにして、巨大な宇宙船のハッチが開く・・・・
同時に、ボブの声が響き渡る・・・・・

「心配しなくてもいい・・・危害は加えない」

なんか昔々の宇宙人飛来の映画の中のワンシーンのような光景だった。
ボブは腹の中で、今にも笑いだしそうになるのを必死で堪えていた。
その耐えている表情は、何かに怒っているようにも見えた。
実際は笑いを耐えていたのだ。

(まったく・・・子供みたいだ)内心

そうして月のメンバーらは出て行く・・・・
3000万人。

でも、軍隊だけでなく月に居る全ての人々が、飛来してきたのだ。
タラップを降りてくる月の面々らを地球に居る人々は、不安げに見詰めていた。
それも遠巻きにして・・・・・。
だが、その内に何か、おかしいことが次第に分かり初めてきた。
みんな月のメンバーは一人として、武器らしい武器は所持していない。
武器もそうだが、みんな非常に明るく、笑い声が見守る地球の人たちにも聞こえる。

「何か?・・変だぞ・・聞かされている月の悪の軍団とは違う」そう思い始めてきていた。

赤ん坊を抱いた若いママやはしゃぐ子供らもいる。
戦争、攻め込む、なんて雰囲気は一切、感じられないし見受けられない。

(今まで、さんざん言われ聞かされ続けて来た事は、一体、なんなのだろうか?)

疑惑が人々の心の中から、ふつふつと湧き出してきた。

(もしかしたら・・・今まで言われて来た事は嘘ではないか?)と・・・・。

SF小説(50) 『人間の惑星』 著者 高 一

2008-03-12 | 投資、スポーツ、未知の世界、就職
宇宙空間には地球防衛軍の宇宙船が10船団、それぞれ一万人の兵士を乗せて、待機していた。100万の軍隊の内、90万人は地上で配置されていた。

まだ、敵は攻めてこない。
敵といっても同じ地球人。
地球内では盛んに、「悪の軍団」として、騒ぎ、卑劣な行為をして月に逃げ帰った月の開発部隊という風に知れ渡っていた。

だが、誰一人として、何が真実なのかは、掴んでいない。
噂が1人歩きしていた。
その噂が曲者だった。
憎い非道の輩という認識しか、なかった。

兵士である以上、深い追求はしないし、する必要も手立てもなかった。
でも、まだ、敵が至急に襲いかかってくる段階ではない。
そのようにみんなは聞いていた。
宇宙船内では、気楽でたいした危機感も抱いていない。

「酒、誰か?・・・ある?」
「おう!・・・ここにあるぞ!!」
「こっちにもってこいよ・・・・勿体ぶっていないで・・ははははは」
「あははは・・・結構、いける酒があるぞ」

もう、居酒屋で飲む雰囲気・・・・・。
宇宙船の中から見える外の景色は、ブルーで透明感のある地球の姿。
何事もないように、ひっそりと虚空に美しく浮かんでいる。
一方、船内ではガヤガヤ、酒盛りが始まっている。
とてもこれから、戦争の準備をしている軍隊とは思えない。

切実さもない。

全部、他人事のような感じでいた。
地球からも何も、指示がこない。
指示といえば、そこで待て、というものだった。
一つの宇宙船内に一万人が居て、それが10隻。
大人数のせいか、尚更、お互いに安心感がそうさせていた。

しかし、B船団のある1人が、酔い冷ましに宇宙船の窓を見居て、発見した。
それは地球宇宙船より超かに大きい、宇宙船。
約10万人が乗れそうな宇宙船だ。
その巨大な宇宙船団が10いや100いやもっと多い。

月の部隊だ。

その軍団が、整然と固まり、計10万人が乗っているこちら地球の部隊へ向ってくる。
地球の部隊は計10万だが、月の部隊は計3000万人。
すぐ分かった。
とても立ち向かって、勝てる相手ではない、ということを、地球軍は悟った。

幸い敵の月の部隊はまだ、こちらには迫っていない。
そう、地球部隊の10部隊の船団長らは、見極めて、それからというものは、一斉に、地球へ引き返すことにばかり、頭がいっていた。
戦う意欲なんて、ほとんどなかった。
宇宙空間で防御するという任務なんか、すっかり頭の外にいっている。

弱い人間らほど、いざという時に、その真の姿を曝け出す。
なんでもない時には、威張り散らし、さも、俺が一番という面で、ふんぞり返っていた。
だが、事ある時に、腰砕けになってしまう。
気の小さい連中だった。

長がそのような連中ばかりだったから、尚更、下も同じであった。
長が弱虫ならば下はそれに倣う。
戦いどころではなかった。
一戦も交わず、全船団が引き返す・・・・。
恐怖にふるえながら・・・・。

10万と3000万。
戦いにならない。
しかし、月の船団は武器は所持していなかった。
地球の船団は、その多さに肝を冷やし、勝手に錯覚して逃げてしまったのだ。
錯覚が恐怖を生み、さらにその恐怖が輪をかけていた。

勿論、酔いなんてもうとっくに、恐怖と共に醒めていった。
今は、いかにして地球へ逃げ帰るか、にしか頭の中にはなかった。
全員、蒼白。
それは地球の青さに反映して映ったものでなく、縮みあがった根性の反映だった。

生きるかどうか、という日々の戦いで訓練している月の開発部隊とは違って、のんべりだらんとした遊びと怠惰の中で生きている者と、ハッキリその相違が出たのであった。