世界の人権・紛争・平和

NoFirstUse Global 「核兵器の先制不使用 : 一国・二国間・多国間のNFUに向けたアプローチ及びNFU政策を採用した国の安全保障、リスク削減と軍縮の意義」に関する調査報告書

第10回核兵器不拡散条約批准国運用検討会議に向けた

核兵器の先制不使用 : 一国・二国間・多国間のNFUに向けたアプローチ

NFU政策を採用した国の安全保障、リスク削減と軍縮の意義の吟味

に関するワーキングペイパー

提出団体  ノーファーストユース・グローバル(NFUG)

「核兵器の先制不使用 : 一国・二国間・多国間のNFUに向けたアプローチ及びNFU政策を採用した国の安全保障、リスク削減と軍縮の意義」に関する調査報告書を、2022年核兵器不拡散条約(以下NPT)批准国運用検討会議に提出する栄誉を、市民社会団体としてノーファーストユース・グローバルは得た。

核兵器のない世界の達成という共通の目的を追求する一方で、核戦争が起きないことが絶対必要だ。この調査報告書は、先制不使用政策がその危険を大きく削減する一方で、同時に核兵器のない世界の達成を促進する、可能性を精査している。

NPT運用検討プロセスにおいてリスク削減は新たな話題ではない。2010年NPT運用検討会議の行動計画5(d)は、NPT批准核兵器国に、「核兵器の使用を防ぎ、最終的にその廃絶をもたらし、核戦争の危険を軽減し、核兵器の不拡散と軍縮に貢献する、政策を議論する」、よう求めた。

2022年NPT運用検討会議に提出された以下の表のようなワーキングペーパーで議論された、リスク削減と軍縮措置を、私たちのワーキングペイパーは踏まえ補完している。

提出国或いはグループ

ワーキングペイパーNO

表題

新アジェンダ連合代表のブラジル

5

核軍縮の前進

ストックホルム・イニシアティブのメンバー

9

核戦争の危険削減パッケージ

核不拡散・軍縮イニシアティブのメンバー

10

核兵器不拡散に関する条約批准国第10回運用検討会議による考察に向けた勧告

非同盟NPT批准国グループ

20

核軍縮

中国・フランス・ロシア連邦・英国・米国

33

戦略的リスク削減

私たちのワーキングペイパーは更に、中国・フランス・ロシア連邦・英国・米国が2022年1月3日に作成し、「核戦争に勝者はなく、決して核戦争を行ってはならない」ことを、5核兵器国が確認した共同声明に注目、その目標の実現に役立つ第一歩として、先制不使用政策を採用することの実現可能性と重要性を詳しく検討している。

 

1. 先制不使用とは何か?

先制不使用とはどのような状況であろうとも、核兵器を最初に使わないという決意を意味する。それは、敵の攻撃を制する形の攻撃つまり先制攻撃としても、どんな形であれ核兵器を使わない攻撃への反撃としてであっても使わないということだ。それは、(バイデン大統領の提案する、従来と違った米国核兵器に関する基本指針)「唯一の目的」とは二つの意味で違っている。a)一つは、先制不使用とは、敵の核攻撃が予測されたとしても、それに先立って核兵器を使う、つまり敵の核攻撃に対する先制攻撃としても核兵器は使わない。b) もう一つは、先制不使用とは核攻撃に対する具体的な対応を定めていない、ということだ。「唯一の目的」への一般的に受け入れられている解釈は、核兵器の存在を許す「唯一の目的」は敵の核使用を抑止することで、それが上手く行かない場合には、核兵器で報復するというものだ。それに対して、先制不使用は、敵の核兵器使用があったとしても、それに対する核兵器による報復を必然的なものとして認めておらず、他のオプションも考えるということだ。

*バイデンは副大統領としても大統領候補としても、米国の核兵器の唯一の目的は、米国或いは同盟国に対して核兵器を使うことを抑止することであるという、従来と違った核兵器に関する宣言的語句「唯一の目的」を提案した

核武装国とその同盟国の現行政策とは?

:NPTを批准している核兵器国に関していえば、中国は全面的な先制不使用政策を維持しており、フランス、ロシア、英国、米国は曖昧に定義された状況下において核兵器を先制使用するオプションを維持している。加えてロシアと中国は2国間で先制不使用政策を採り、それらが以下に掲げる様々な政策声明において散見できる。

  • 中国は1964年10月16日に核兵器国になった際、「如何なる時、如何なる状況下においても、最初に核兵器を使用することはない」、と宣言、以降その政策を維持してきている。
  • ロシア連邦は2014年の軍事ドクトリンにおいて、「ロシア連邦とその同盟国の両方或いは一方に核兵器他の大量破壊兵器が使用された場合、ロシア連邦に通常兵器を使用して侵略が行われ国家の存亡が危うくなる場合、への対応として核兵器を使用する権利を保留する」、と宣言している。

2001年7月16日にロシア連邦と中国は中露善隣友好協力条約に署名、そこで両国は、「互いに核兵器を先制使用しない、並びに互いに戦略核ミサイルを標的にしない」、旨誓約した。

米国は2018年「核態勢の見直し」で、「米国の核政策および戦略の最優先課題は、潜在的な敵対国によるあらゆる規模の核攻撃を抑止することである。しかし、核攻撃抑止が核兵器の唯一の目的ではない。現在と将来の脅威環境の多様な脅威と深刻な不確定性を考えると、米国の核戦力は米国家安全保障戦略において次のような重要な役割を果たす。米核戦力は、核・非核攻撃の抑止、同盟国およびパートナー国への安心提供、抑止が失敗した場合の米国の目標達成、不確定な将来に対して防衛手段を講じる能力、に貢献している。」、と宣言した。

フランス大統領は2020 年2月宣言で、「我々の核抑止力は、我々の安全保障の鍵、我々の死活的な利益の保護者、最後の手段として存在し続けている。[…]フランスの死活的な利益を守ろうとする決意について誤解があった場合、侵略国に対して、当該武装紛争の本質が変化したことを明確にし、抑止力を再構築するために、唯一無二で一度だけの核攻撃を加えるという警告が発せられることになる」、と述べた。

2021年3月の安全保障、防衛、技術開発及び外交政策の統合レビューにおいて明確にされた英国ドクトリンは、「必要な場合にそうする我々の決意と能力は疑う余地もないが、我々が核兵器の使用を何時・どの様に・どんな規模で検討するのか、正確には意図的に不明確にし続けている。」、と述べている。

NATO加盟国、オーストラリア、日本、韓国など、米国による拡大抑止関係の下にある国々は、自国の防衛可能性のために、防衛のための核兵器の先制使用というオプションを排除しない米国の核兵器政策を受け入れている。例えば2010年NATO戦略概念は以下のように述べている。

「核兵器の何らかの使用が検討されるべき可能性がある状況は極めて稀である。しかし核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続ける・・・。同盟国の安全保障に対する究極の保証は、とりわけ米国の戦略的核戦力によって提供されている、英国とフランスの独立した戦略的核戦力は、独自の抑止役割を有し、同盟国の総合的な抑止と安全保障に貢献している。」

NPTを批准していない核武装国に関しては、インドが先制不使用政策を宣言しているが、パキスタンは核兵器の先制使用の可能性を排除しておらず、イスラエルと北朝鮮の政策については不明確である。

  • インドの政策は、「核による第一撃を始める一番目になることはないが、抑止が失敗した場合には、懲罰的報復で対応することになる」、と述べている
  • パキスタンには核兵器の使用に関する正式なドクトリンを公式には宣言していない。しかしパキスタンの国連大使は2002年に、「パキスタンはインドが最初に攻撃しない限りインドを攻撃しないが、核武装の“先制不使用”ドクトリンを承認したことはない」、と述べている。
  • イスラエルは意図的に不明確にする政策を採っていて、定期的に「中東に核兵器を導入する最初の国になることはない」、と定期的に述べているだけだ。
  • 朝鮮人民共和国(以下DPRK)の「自衛的核保有国の地位の一層の強化に関する法律」は、「同国の核兵器は、世界が非核化されるまでDPRKへの侵略と攻撃を抑止及び撃退する、侵略の本拠地への激しい報復の一撃を加える目的にかなう。・・・DPRKの核兵器は、侵略若しくは敵対する核兵器国からの攻撃を撃退するために、そして報復攻撃を行うために、朝鮮人民の最高司令官の最終命令によってのみ使用される。」、と規定し先制不使用政策をほのめかしている。しかし実際問題としては、攻撃が核兵器或は通常兵器他の手段で行われるかに関わりなく、同国或いは指導者への攻撃を“抑止する”として、核での脅迫を行ってきている。

3 先制使用オプションをとる場合の安全保障上の理由とは何か?

先制使用の選択肢を維持する核武装国は、その政策と実践をとる理由として、主に2つの安全保障における役割と利益を挙げる。1番目の役割は、例えば通常兵器による攻撃あるいは他の大量破壊兵器を使用する攻撃、つまり非核攻撃を抑止することだ。核武装国の一部にとって2番目の役割は、機先を制する能力を維持することによって、敵からの先制攻撃の可能性をよりよく抑止するということだ。

4. 先制使用政策の危険とは何?

最初に、先制使用政策が期待した目標を実際に実現するかは明らかでない。敵がエスカレートする脅迫を真摯に受け取らない、例えばブラフと考える危険がある。結局のところ、先制使用の目的が、通常兵器による戦闘の勝敗の行方を逆転させることであれば、2次使用は同じく再逆転になりうる。実際には、核抑止政策の最も基礎的な根拠は、如何なる核攻撃も同じ方法或いは更に悪い方法で対応される。先制使用という脅迫が実際にブラフであったとしても、ブラフが求められる特定の状況下では、それを撤回するのは、政治的に代償が大きすぎることを証明する可能性がある。曖昧なレッドラインを超えるのは、いとも簡単なことだ。「不明確」にしておく考え方はこの問題を悪化させるだけだ。先制使用の脅迫は同じ認識他の問題に悩まされる。

この問題はよく知られているが、その解決法と言われた、エスカレーション・ドミナンス(紛争拡大過程における逐次優位性)、についてはあまり知られていない。この考え方は、「如何なる段階の代償においても、常により悪い結果になる」、ということを敵に理解させるということだ。20段以上あると指摘する者もいる『エスカレーション梯子のステップ』ごとに、それを保持しなければならない。戦略兵器と同様に、優位性の及ぶ範囲はそれに抵抗する範囲を導き出し、結果として軍拡競争になる。NPTの施行期間が1995年に無期限延長された時、核兵器競争は過去のものだという認識であり、それは戦略的優位性の概ね真の目標だったが、エスカレーション・ドミナンスに関しては当てはまらなかった。このようにしてNPTの最も根本的な代償である、「近い将来での核武装競争の停止」は、悲惨なほどに延び延びになっている。

エスカレーション・ドミナンスを行使していると考える核武装国は、通常兵器での攻撃をうまく抑止できる、或は先導での優位性を保つことができると考えるかもしれない。その考えが十分な根拠に基づいているならば、それは上手くいくはずだが、敵がその考えを共有していない場合、上述した危険が再度浮かびあがる。今日において、核兵器を保有する大きな敵が、意味のある優位性を保った地位にあるというのは疑わしい。更なる危険は、敵がそれを受け入れず、(世界中の無垢な第三者は言うまでもなく)恐ろしい代償を払うためだけに、罰せられることなく核戦争にエスカレートする自由を行使する可能性がある、ということだ。

1985年に出された「核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならない」というレーガン・ゴルバチョフフ宣言の直後に、米ソは「軍事力の優位性を追い求めない」と続けた。それは相互抑止に対する全面的な承認だったが、2021年6月の首脳会談後におけるバイデンとプーチン両大統領による再確認と、2022年1月3日の5核兵器国による共同声明では、そのような追加する言葉がなく、従前に比して弱くなっている。

第2に核兵器の先制使用に向けた政策オプションは、核武装国家とその同盟国の中で脅威感と緊張を増大し、抱くはずのどんな抑止価値をも損なう。ある国もしくはその同盟国の先制使用の政策オプションと先制使用オプションを可能にする作戦運用上の手段は、敵によって威嚇と認識される可能性がある。加えて、敵の先制使用政策は、自らの核戦力を含め自らが弱いという感覚を増大させる可能性があり、ローンチ・オン・ワーニングのような追加的な作戦運用上の手段あるいは政策手段の検討を促進し、核兵器が使われる危険を更に増大する。

*ローンチ・オン・ワーニング : 「人工衛星他のセンサーが敵ミサイルの侵入を感知した場合、直ちに敵に対して核攻撃を開始することを、指揮命令系統上部が命令できるようにしておく、軍事戦略」

先制使用オプションはまた、武力紛争がひとたび勃発すると、核兵器が悪意(意図的エスカレーション)、計算違い、誤情報、不正行為(未承認使用)、或いは機能不全(事故的使用)によって、使用される危険を増大する。そのようなオプションは、通常兵器による攻撃や、他の大量破壊兵器からの脅威への対応として、あるいは先制攻撃において核脅威になる可能性を無化するためでさえ、核武装国が核攻撃を始める可能性を含む。

先制使用オプションは、様々な状況で核兵器を使用する迅速な決定を可能にする、作戦運用上の手段を含む。そのような作戦運用上の手段は、核兵器使用に関する唯一の権限を行使する、国家元首あるいは政府の権限を強化することと、一部の兵器システムを厳戒態勢(使用までの迅速な作戦準備完了状態)に維持することを含む。そのような兵器システムは、敵の行動への“対応”に核兵器を先制使用する決定を行う前に、敵の見かけの行動に関する情報を分析する時間を減らす。兵器システムの欠陥や敵からの攻撃を装った不正行為のいずれかを通じて、そのような情報は不正確である可能性がある。「核のビスケット」によって行われた核紛争の模擬実験の結果は、敵の先制使用政策を知っているという前提での、強烈なストレス下における意思決定者、短期間における意思決定、紛争シナリオは、破滅的な結果をもたらす核使用の使用オプションに訴える傾向があることを明らかにしている。チャタムハウス(王立国際関係研究所)レポート「近すぎて怖い:核使用間際だったケースと政策のための選択肢」は、現状の先制使用政策とローンチ・オン・ワーニングが、実際の核使用間際まで行き、その核使用を防いだのは、十中八九の幸運と手続き及び政治的指導への個人的不服従の両方またはいずれか一方だった、多くの事件があったことを強調している。

*ビスケット : 核攻撃の開始に必要な暗号コードを記入したカードの通称

*核のビスケット:バーチャル・リアリティ(VR)体験を使用して、核危機時の意思決定をよりよく理解しようとする、プリンストン大学、アメリカ大学、ハンブルク大学の共同開発による「米国が核攻撃を受けた場合に何が起こるのか」というバーチャル・リアリティ模擬実験プロジェクト。

5.核兵器を先制使用した場合に何が起こるのか?

今日の核兵器は1945年に広島と長崎で使われたものの数倍の破壊力を持っている。一発の核兵器が、大きな都市を破壊し、その住民の殆どを殺害できる。人命と財産の損失に加えて、核爆発の結果は深刻な社会的・経済的・政治的な混乱をもたらすだろう。上述したように、核兵器を使えば核による報復を招く可能性が極めて高い。核紛争は急激にエスカレートする傾向が特に強いと思われる。核爆発によって受ける恐ろしい損害は、遠くの敵に与えられた損害よりももっと恐ろしく感じ、迫って来て、それがある傾向をもたらす。両陣営による過度な報復が、片方もしくは双方がエスカレートする更なる手段を使いつくすまで続きやすいということだ。実際、核武装国が先制攻撃を行う場合、軍事目標と経済目標を破壊し、(失敗に終わる可能性が極めて高いが)自らへの報復攻撃を防ごうとして、1発ではなく、多数の核兵器を発射する可能性が高い。近代都市の中や近くでの標的に対する複数の核爆発は、数千万人を殺害するであろうし、その後数年数十年にわたり、現在我々が炭素の排出で経験している気候変動を小さく見せる、気候への影響を引き起こす可能性がある。

米国大統領レーガンとソビエト大統領ゴルバチョフが、1985年に共同声明を出すことに駆り立てられたのは、核兵器が使用された場合の危険と破滅的な結果に気付いた時のことだ。その認識は2010年NPT運用検討会議の最終文書に反映され、「会議は、これら兵器が使用される可能性と、使用がもたらすだろう壊滅的な人道的結果に対して深刻な懸念を表明する(第Ⅵ条80)」、と述べている。次のステップは、世界的な先制不使用の決意を持って、核戦争が決して起こらないことを保証することだ。

6. 先制不使用は如何にして核兵器が使用される危険を減少させるのか?

先制不使用の直接利益は、核兵器競争国間の対立が上述した不安定性に悩まされないということだ。最大の利益は、先制不使用政策をとっている国の敵が、核兵器による先制攻撃を恐れる必要がなくなること。先制攻撃の行う際の検討には急がないことが必要だ。この利益は、中国とインドのように敵対する両国が、先制不使用を採用している場合には倍加する。

先制不使用には、間違いなく核攻撃が行われたことを立証する責任を伴う。したがってローンチ・オン・ワーニングは先制不使用と両立しない。核爆発は事故だった、あるいは、承認を受けないまま勝手に行われた攻撃だ、あるいは、重大な誤解が原因で行われた、ということを無視しようとする者もいるだろうが、そういう場合、相手がやるなら自分もやるという報復は、道理にかなったものではないだろう。

ある国が実際に核兵器で攻撃された場合、その国の政治と軍の指導者は、状況をさらに悪化させる可能性のある、核による対応によって達成される目標を検討しなければならない。例えば当初の核攻撃は、世界的な飢饉の引き金になる程には大規模でなかったかもしれないが、核兵器による報復なら世界は閾値を超えてしまう。

何よりも望ましいことだが、全ての核武装国が先制不使用を採用したなら、彼らによる核兵器の意図的な使用はなくなる。誰もが最初に発射しないならば、(事故的な発射の場合でない限り)次に発射する者はいなくなる。それはまた、核兵器の使用を不可とする規範を強化する重要な手法であると共に、核兵器の使用、核兵器を使うという脅迫、核兵器の保有に対するより包括的な禁止に向けて大きく前進することである。

意図しない核兵器の使用を防止する手法に関していえば、先制使用政策は核兵器国がそれに同意することとその実行を難しくしている。先制不使用政策は、危険削減措置が徐々に採用され効果的に実行される、環境を提供する可能性がある。

7. 先制不使用政策は核軍縮の達成にどの様に貢献できるのか?

先制使用政策の維持は、核武装国が核廃絶に向けた誠実なプロセスに参加する障壁を作ってしまう。先制使用の選択は、単に核攻撃を抑止するだけでなく、「広範囲な安全保障上のシナリオに備えて核兵器を保持する必要がある」、と信じていることを意味する。先制不使用政策あるいは「唯一の目的」政策を採用した場合、保有する核兵器は、他の核兵器に対抗するだけにのみ適切と見なされることを意味する。それゆえに全面的な核軍縮に向けた交渉、全ての核武装国が、核兵器のない世界に向けて合意されたタイムフレームに従い、保有する核兵器を削減・使用不可能・破棄するのを保証する、強力で実効ある検証と執行の手法を確立することを内容とする交渉に入れるのである。先制不使用が直ちに核兵器の完全廃棄に向けた交渉をもたらさなくても、核武装国間のより強い信頼関係を構築し、核戦争のリスクを削減し、究極的には全ての核兵器を廃絶するために協力することを容易にする、「信頼醸成手段」としては機能する。

8.先制不使用を機能化するオプションは?

  • 一方的な先制不使用政策は、核軍備がもたらす脅威レベルを低下させると共に、抑止目的だけで核攻撃用ではない軍備である旨明らかにすることで、安全保障を強化できる。
  • 先制不使用の二国間協定や相互宣言は、協定対象国によって核兵器が自らに先制使用されないという安全保障を強化するので、宣言した国の安全保障を更に強化する。
  • NPTを批准している5核兵器国のような多国間による先制不使用協定は、国・周辺国・世界における核兵器の先制使用に対する安全保障を一層強化すると共に、より包括的な核兵器の使用禁止と、国際的な検証と監視のもとにおける核兵器の段階的根絶に繋がる、多国間交渉に道を開くであろう。

中国/ロシアによる先制不使用協定は、2国間条約がそれぞれの核兵器国同士の間で個別に(同盟国間でのそのような条約は道理の通った話ではないが)交渉・締結できる良い例になっている。そのアプローチは、殆どの核武装国家の間で締結されている、専用通信回線(“ホットライン”)の確立に関する2国間協定と同様だろう。世界の安全保障強化のために、そのような2国間協定が、NPT非批准核武装国家にも拡大されるべきだ。2国間協定の有利性は、具体的な必要性と当時国の脅威認識に合わせて調整可能であるということだ。

多数の核兵器国間で結ばれる先制不使用協定は、(同盟国があろうとなかろうと)包括的になる利点を提供すると共に、相互間の信頼を醸成する。それは、核戦争リスクを削減する間接的手法のための特別な、検証の定義と様式に関して詳細な規定を含む可能性があるが、核軍縮に向けたより意欲的な手法に道を開くであろうし、同時に、法的拘束力を持つ調和のとれた“消極的安全保障”を受けるという、長年にわたる非核兵器国の要求に応えることになる。核兵器国が核兵器の先制使用を禁止される以上、もっと強い理由からそれは非核兵器国にも適用される。

*消極的安全保証”:一般的に、「核兵器国が非核兵器国に対し核兵器を使用しない旨約束すること」を言う

全てのアプローチが有効であり、一部における進展不足を他の進展なしの言い訳にしてはならない。反対に、一部の進歩を、他の進歩に繋げなければならない。

9. 先制不使用はどの様に安全保障のための非核オプションを強化できるのか?

先制不使用政策は敵国間の緊張を削減するが、それ自体が侵略防止や、戦争に繋がる紛争解決を出来るわけではない。2020年9月21日の国連75周年記念宣言で全国連加盟国は、「継続中の武装紛争と国際的な平和と安全保障に対する脅威は、平和的な手段によって緊急に解決されなければならない。」、ことを再確認した。それは、国連加盟国に国際的紛争を平和的手段で解決するよう義務付ける国連憲章第2条及びに、そうするための様々な手続きと方法を定めた第6章第33条から第38条に沿ったものである。2020年宣言は、「国連憲章の外交的道具箱は、その全潜在能力まで使われる必要がある」、と確認している。

国際司法裁判所は1996年勧告的意見で国連憲章第2条を、核兵器の脅迫と使用を一般的に違法とし、核兵器の廃絶を誠実に交渉し達成する慣習的な法的義務に貢献する、国際法に必要なものとして取り上げた。核兵器の脅迫と使用、特に核兵器の先制使用に頼ることは、したがって段階的に止めなければならない。そのプロセスにおいては、外交を推し進め、侵略を防ぎ、国際紛争を解決するために国連他の非核メカニズムを利用することが有用である。国連憲章の第33条は、「交渉・審査・仲介・調停・仲裁裁判・司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他の当事者が選ぶ平和的手段」を含む国連の「外交道具箱」の中にある利用可能な幾つかを例示している。

 

*国連憲章第2条の抜粋

2.すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。

3.すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。

4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

核兵器に頼らない安全保障は、それらのプロセスと、その利用のために設立された国際司法裁判所、国連事務総長室、常設仲裁裁判所、国際刑事裁判所、欧州安全保障協力機構(OSCE)などのメカニズムを、よりよく利用することで、達成される可能性がある。それらのプロセスのより良い利用を保証する、一つの具体化された手法は、国連加盟国にとって国際司法裁判所の強制司法権を受け入れることだろう。安全保障に向けた非核オプションのより良い利用と強化があって初めて、先制不使用政策の採用や、核軍縮に向けた誠意ある交渉の開始が可能になるのではない、ことに留意すべきだ。それどころか非核オプションの有用性は、核軍縮するにはより良い環境を待つ必要があるという、進展の遅れに核武装国が持ち出す言い訳を許さない。非核オプションの有用性は、環境は既に整えられていて、全面的に活用されていないだけだ、ということを指し示している。

10. 先制不使用は宣言的手法でしかないのか?

先制不使用に対する異論の一つに、それは宣言に過ぎず、たやすく取り下げられ、検証できず、従って信頼できないというものがある。事実、核武装国や非核兵器国(条件付き“消極的安全保障)に対する、核兵器を先制使用する可能性に関する条件について、核兵器国に現存するドクトリンにも、宣言的側面がある。核兵器の使用についての宣言が、不使用についての宣言よりも信頼されるのは何故か?

実際、宣言的側面を超えた先制不使用政策の採用は、核兵器国が廃絶を保留して配備している核兵器のタイプとカテゴリーへの大きな変化を必要とする。先制不使用政策への信頼性を強める具体的方策の一つに、全ての核兵器を厳戒態勢から解くこと、指示の瞬間に発射可能という状態でなくすことがある。もう一つは、先制使用のための典型的な核兵器である、地上発射の大陸間弾道ミサイルを全て廃絶し、一方で核攻撃に対応してのみ使用される種類のシステムを優先化することだ。そうすれば、先制不使用は核戦争の危機削減と核軍縮の両方に貢献することになる。以前の計画は全てゴミ箱行で、先制使用を含む全ての演習は、永久に行われなくなる。

11. 先制不使用は核兵器国及びその同盟国と、如何にして両立できるのか?

通常兵器・化学兵器・生物兵器による攻撃あるいはサイバー攻撃があった場合における、核兵器使用の仮説に関して、注目すべき点は、2017年にジョー・バイデン副大統領が述べた、「米国の非核能力と今日の脅威の質を考えるに、米国による核兵器の先制使用が必要もしくは当然であるという、説得力のあるシナリオは想像しがたい」、という発言である。核抑止力は死活的な利益の保護を意図していると他の核兵器国が考えている以上、通常兵器による軍事力のレベルで、核兵器を使用せずに他の脅威への抑止あるいは対応に可能な間は、核兵器の使用は自国の死活的な利益を危険にさらすだけなのは明確だ。5核兵器国はまた、最大の軍事費を支出している国、更に通常兵器の最大の生産国兼輸出国になってしまっていることを思い出そうではないか。

米国ドクトリンで特に思い起こされるように、通常兵器による攻撃があった場合に備えて核兵器の先制使用オプションを保持するとして言及される理由の一つは、拡大抑止コンセプトにおける同盟国の保護だ。先制不使用は抑止力で保護される地政学的範囲の境界を意味するのではなく、提供される保護のタイプを制限である旨、明確にすることは重要だ。米国の同盟国は、通常兵器による攻撃の犠牲になるのを恐れ、先制不使用政策に反対だと言われている。市民社会団体による最近のイニシアティブは、米国と同盟関係を結ぶ国々の中に、米国が先制不使用政策を採用することを支持すると共に、現在の先制使用オプションは自国とその同盟国の安全を損なっていると断じる、国会議員・元軍指導者・元政治指導者を含む、相当な数と範囲の著名人が存在することを明らかにしてきている。実際に彼らは、守るために核兵器の先制使用オプションを保持するのは、緊張と危険をエスカレートさせ、対抗手段を促進し、自国を核兵器による報復攻撃の標的にする危険がある、という意見を支持している。それらのことを強調する共同声明には以下の書簡が含まれている。

*【拡大抑止Extended deterrence】

自国だけでなく、同盟国が攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国への攻撃を他国に思いとどまらせること。米国は同盟国である日本や韓国に対し、核を含む「拡大抑止」の提供を約束している。

- 1200人以上の政治と宗教の指導者・国会議員・研究者・科学者他の市民社会代表に承認され、2021年6月16日首脳会談の前にバイデン大統領とプーチン大統領宛てで送付された公開書簡

- NATO加盟国の国会議員35人によってバイデン大統領と米国連邦議会に送付された公開書簡

- ノーベル賞受賞者21人を含む科学者700人によってバイデン大統領に送付された公開書簡

- 先制不使用を支持する日本の22団体と専門家47人による共同書簡

- 600人超の承認者を得たNPT批准国宛ての公開書簡

実際に通常兵器による攻撃や他の大量破壊兵器による攻撃からの保護は、核兵器による交戦の大きなリスクに起因する増大した危険な状態と、先制使用のための政策と準備による核戦争の脅威に起因する緊張と紛争の増大によって、大きく相殺される。加えて、国際司法裁判所の1996年勧告的意見で確認された核軍縮義務は、核兵器による脅迫と使用に依存する非核兵器国を含む国々に、その防衛政策を他形式の安全保障に換えて核軍縮を促進するよう求めている。先制不使用政策の採用は、それが核兵器国とその同盟国の安全保障を弱めないことを保証する、他の信頼醸成と共通手法と連動して行われる可能性がある。

新型コロナウィルス・パンデミックへの準備不足から苦い経験をしたように、可能性は低いが重大な結果となる脅威に対して、多くの警告があるにも関わらず対応しない我々の傾向は、大惨事に繋がる可能性がある。我々は、手遅れになる前に、核カタストロフィーの警告を、よく考えなければならない。先制使用オプションを捨てた上で予想される安全保障の低下は、核戦争のリスクを削減し、核武装国家間の緊張を緩和し、核兵器のない世界確立への期待を改善する中での先制不使用政策によって得られる、安全保障の強化によって相殺されるだろうし、それはまたとてつもなく大きなプラスと見なされるに違いない。

12. NPT運用検討会議はどんな決定を下せるのか?

前例、特に2000年と2010年のNPT運用検討会議における最終文書に基づけば、2022年運用検討会議の最終文書に次のことが含まれている可能性がある。

  • 5核兵器国(NWS)が2021年12月3日に出した、「5核兵器国は、核紛争のリスクを低減するために協力する責任があることを認識した。核兵器使用の可能性を減少させるために、次のNPT 運用検討サイクルにおいて、P5 プロセスにおける戦略的リスク低減に関する実りある作業を構築することを意図している。これは、NPTの包括的な目標の補足であり、5核兵器国の長年にわたる軍縮に向けた努力と一致すると共に、すべての国の安全保障が損なわれることのない、核兵器のない世界という究極の目標を支持する。」、という共同声明を評価する。
  • 核兵器国に議論の過程と到達した結論に関して、今後のNPT運用検討会議の準備委員会に報告するよう求める
  • 「核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならない」という1985年のレーガン・ゴルバチョフ宣言が、2022年1月3日の5核兵器国の首脳や政府によって再確認されたことを評価すると共に、その後に続いた、「軍事力の優位性を追い求めない」という言葉を5核兵器国に求める
  • 核兵器国と核兵器を保有する国に、彼らの核に対する姿勢と政策を、戦略的安定性の強化と、違法行為・計算違い・機能不全・悪意のあるソフトウェアなどによる核戦争のリスク削減の目的で、再検討すると共に、彼らの核に対する姿勢と政策に、核兵器の先制不使用政策の採用、核兵器の取得と配備に関係した間接的手法、他のリスク削減手法の実施を盛り込むよう、強く求める
  • 核兵器国に、一方的先制不使用政策を採用する、2国間の先制不使用の手配を公表することと多国間の先制不使用協定をお互いの間で締結することの両方またはいずれか一方を行う、よう求める
  • 軍縮会議に、核軍縮に関する審議の枠組にこの問題に関する非公式な議論を入れるよう求める

 

https://nofirstuse.global.

ノーファーストユース・グローバルは、以下の団体で共同設立され、他74団体が参加する

プラットフォームでありネットワークである。

  • 核リスク削減に関して活動するグループ・廃止2000(英国/インターナショナル)
  • バセル・平和事務所(スイス/インターナショナル)
  • 爆弾を超えて(米)
  • 核軍縮のための取組(仏)
  • ピース・デポ(日)
  • 核軍縮のための人々(豪)
  • プラハビジョン持続可能な安全保障のための制度(チェコ)
  • 世界未来会議(独/インターナショナル)
  • 自由地域(メキシコ)

*74団体中日本の団体は以下の通り

  • 原水禁
  • 原子力資料情報室
  • 日本パグウォッシュ会議
  • 明治学院大学国際平和研究所(PRIME)
  • 世界宗教者平和会議

    No-First Use of Nuclear Weapons :

    An Exploration of Unilateral, Bilateral and Plurilateral Approaches and their

    Security, Risk-reduction and Disarmament Implications

    Working paper submitted by NoFirstUse Global

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