ザザー・・・ザブーン・・・という激しい波音がまだ脳裏に響いている。
約2年ぶりの、義君主演のTSミュージカル『ちぬの誓い』。
私は、前回の『眠れぬ雪獅子』を観て転げ落ちるように義君ファンになったので、TSミュージカルは思い出深い。
TSはDVDを販売しない。
だから、大好きな雪獅子も、記憶の中で反芻するしかない。
この、『ちぬの誓い』もまた然り。
いつか方針をかえてDVDを販売してほしいものだ。
今回の物語は、大輪田泊(おおわだのとまり。現在の神戸港)を完成させよという清盛の命に命をかけた男たちの物語。
武士の世を夢見た清盛にとって、福原に都を築き、宋国との貿易を行うためには大輪田泊の完成は欠かせない。
清盛の壮大な夢に賛同した、見習い武士や水軍衆たち若者は、来る日も来る日も岩で海を埋め立て続ける。
ところが『ちぬの海』(現在の大阪湾)の波は荒く、沈めた先から岩を流してしまう。
それでも男たちは、決して夢をあきらめず挑み続ける。
と、あらすじを書くと長く恰好よくなるが、結局は見習い武士が岩で海を埋め立てたというそれだけの話だ(出演者の誰かも言っていた)。
だが、そこは我らがTS。
この簡単なモチーフに、主人公不動丸の苦悩、陰陽師の思惑、渡来人の密かな援助、仲間の死等々、様々な人物のエピソードを絡め、感動的な物語に仕上げてしまうのだ。
さすがだなと思う。
思いつつ、実は8回観劇して2回も1幕途中で寝てしまった。
年度末の果てしなく続く残業疲れは、容赦なくやや冗長な1幕で眠気を誘い、はっと気がつくと休憩時間だった。
悔やんでも悔やみきれない。
その分2幕の進行はテンポよく、細部はわからなくても、ラストはなぜか感動の涙が流れるというエネルギーがある。
さて、おふざけ版感想を書いておこう。
①『ババの誓い』―酒飲みは事前にひっかけておくべし―
2回目に寝てしまった時、心底へこみながら、はっと気づいた。
今まで、開幕前にコーヒーを飲んでいたが、私にとってコーヒーとは気分転換のために飲むもので、まったりしてしまって何の眠気覚ましにもならない。
私の五感を研ぎ澄ませるもの・・・・・・酒だ!
私は無類の酒好きである。
飲むといつもヨロヨロの体がシャキーンとし、神経が研ぎ澄まされる。
疲れた体にコーヒーを入れたら、よけい疲れが出て寝てしまうのも無理はないではないか。
早速実行に移したところ、1幕から絶好調で起きていたことは言うまでもない。
②おっさんの存在感
この作品には2名のおっさんが出演している。
この場合のおっさんというのは、人生の酸いも甘いもかみつくしたダンディなナイス・ミドルのことであり、新橋あたりで頭にねじりはちまきをしてよろついているおっさんのことではない。
あれは単なる『オヤジ』である。
今拓哉さんと戸井勝海さん。
お二方とも個性的かつ大人の魅力で、若者たちばかりの舞台のいいアクセントになっていた。
今さんの冷酷な陰陽師は、奇天烈なメイクも衣装もすべて似合っていたし、歌唱力もさすが。
一歩間違うとユーモラスになってしまうギリギリのところで演じているのに感心した。
陰陽師という役柄上「星よ」という言葉が多く出てくるのだが、どうしてもレミゼのジャベールを思い出してしまって、「もう一度きーよ(今井清隆氏)バルジャンとの対決が観たい!」と何度思ったことか。
あの2人の組み合わせが一番好きだった。
戸井さんは初見だったが、渡来人の誇り、我が子たちを見守る温かさが感動的だっただけでなく、大輪田泊完成のキーパーソンとしての冷静さも含めてとても存在感があった。
これだから、おっさん好きはやめられない。
③藤岡くんのいいとこどり
『ちぬの誓い』の宣伝で義君と出演したラジオ番組で「ミュージカルは隙間産業」なんて言って、自分の位置を自虐的に笑っていた藤岡くん。
パンフレットをめくったら4番目に紹介されていて、まあそれなりにいい役なんだろうなとは思っていたが、実際にはセリフは多いわ、歌は多いわ、最後は涙を誘うたいへんおいしい役で、ちょっとオタク、スキマから入って主役級取ってくわけ?と問いたくなった。
レミゼのマリウスなんて王子様的役もやっていたし、あの頃に比べると太ってしまって、ユーモラス路線に走ろうとしているのかなと、少し前に見た『ビューティフル・ゲーム』を観て思っていたが、何といっても歌唱力が群を抜いているし、容姿だってもう少しやせればまだまだ王子様をやれる。
何しろあの歌唱力はミュージカル界が放ってはおかないだろう。
と、長々とおふざけ感想を書いてきたが、ここで我らが義君に触れずにはいられない。
もうすっかりミュージカルに溶け込んで、安心して観ていられるようになったと感慨深い。
お腹から声を響かせているし、昔は微妙に揺れていた音程もしっかりとれるようになった。
ビブラートはつけられないけれど、良知くんや藤岡くんのようなしっかりはっきりビブラート組に混じっても見劣りがしない声の良さと伸びやかさがあった。
演技も、心配だったセリフが走ってしまう(つまりだんだん早口になる)癖もぬけて、20年後と20年前の演じ分けが上手かった。
初登場シーンで、絵島の岩の頂で琵琶をつまびきながら「さーせー・・・」と始まる声が、地声より低く渋く、ちゃんと年代の演じ分けをしているんだと感心した。
月の光を浴びて琵琶を一心不乱に弾く姿が壮絶に美しかった。
若々しく普請に精を出す姿、陰陽師と仲間たちの間に立って苦悩する姿もまた然り。
やはりこの人はどこからどう見ても美しいのだ。
疲れた体を引きずって東京遠征2回、兵庫日帰り1回、8回観て一番印象に残ったことは、登場人物たちの生きざまもさることながら、人知を超えた自然の営みの冷酷なまでの大きさである。
この物語では、どんなに人間が岩を沈めても、海はそれらを簡単に流してしまい、何事もなかったように荒れ狂う。
昔、沖縄に行ったとき、エメラルド色に輝く穏やかな海を眺めながら、本当にここで50年前戦闘があって、この海が戦闘機や戦艦の残骸、人々の死体で埋め尽くされて濁ったんだろうかと不思議で仕方がなかった。
つい数年前、海は突然津波となり、東北地方の多くを流し去った。
自然は突然荒れ狂い、我々人間の命を奪うかと思えば、何事もなかったかのように穏やかに我々に恵みを与えてくれもする。
それを思うたび、今でもあの『ちぬの誓い』のザザー・・・という波音が脳裏によみがえるのである
約2年ぶりの、義君主演のTSミュージカル『ちぬの誓い』。
私は、前回の『眠れぬ雪獅子』を観て転げ落ちるように義君ファンになったので、TSミュージカルは思い出深い。
TSはDVDを販売しない。
だから、大好きな雪獅子も、記憶の中で反芻するしかない。
この、『ちぬの誓い』もまた然り。
いつか方針をかえてDVDを販売してほしいものだ。
今回の物語は、大輪田泊(おおわだのとまり。現在の神戸港)を完成させよという清盛の命に命をかけた男たちの物語。
武士の世を夢見た清盛にとって、福原に都を築き、宋国との貿易を行うためには大輪田泊の完成は欠かせない。
清盛の壮大な夢に賛同した、見習い武士や水軍衆たち若者は、来る日も来る日も岩で海を埋め立て続ける。
ところが『ちぬの海』(現在の大阪湾)の波は荒く、沈めた先から岩を流してしまう。
それでも男たちは、決して夢をあきらめず挑み続ける。
と、あらすじを書くと長く恰好よくなるが、結局は見習い武士が岩で海を埋め立てたというそれだけの話だ(出演者の誰かも言っていた)。
だが、そこは我らがTS。
この簡単なモチーフに、主人公不動丸の苦悩、陰陽師の思惑、渡来人の密かな援助、仲間の死等々、様々な人物のエピソードを絡め、感動的な物語に仕上げてしまうのだ。
さすがだなと思う。
思いつつ、実は8回観劇して2回も1幕途中で寝てしまった。
年度末の果てしなく続く残業疲れは、容赦なくやや冗長な1幕で眠気を誘い、はっと気がつくと休憩時間だった。
悔やんでも悔やみきれない。
その分2幕の進行はテンポよく、細部はわからなくても、ラストはなぜか感動の涙が流れるというエネルギーがある。
さて、おふざけ版感想を書いておこう。
①『ババの誓い』―酒飲みは事前にひっかけておくべし―
2回目に寝てしまった時、心底へこみながら、はっと気づいた。
今まで、開幕前にコーヒーを飲んでいたが、私にとってコーヒーとは気分転換のために飲むもので、まったりしてしまって何の眠気覚ましにもならない。
私の五感を研ぎ澄ませるもの・・・・・・酒だ!
私は無類の酒好きである。
飲むといつもヨロヨロの体がシャキーンとし、神経が研ぎ澄まされる。
疲れた体にコーヒーを入れたら、よけい疲れが出て寝てしまうのも無理はないではないか。
早速実行に移したところ、1幕から絶好調で起きていたことは言うまでもない。
②おっさんの存在感
この作品には2名のおっさんが出演している。
この場合のおっさんというのは、人生の酸いも甘いもかみつくしたダンディなナイス・ミドルのことであり、新橋あたりで頭にねじりはちまきをしてよろついているおっさんのことではない。
あれは単なる『オヤジ』である。
今拓哉さんと戸井勝海さん。
お二方とも個性的かつ大人の魅力で、若者たちばかりの舞台のいいアクセントになっていた。
今さんの冷酷な陰陽師は、奇天烈なメイクも衣装もすべて似合っていたし、歌唱力もさすが。
一歩間違うとユーモラスになってしまうギリギリのところで演じているのに感心した。
陰陽師という役柄上「星よ」という言葉が多く出てくるのだが、どうしてもレミゼのジャベールを思い出してしまって、「もう一度きーよ(今井清隆氏)バルジャンとの対決が観たい!」と何度思ったことか。
あの2人の組み合わせが一番好きだった。
戸井さんは初見だったが、渡来人の誇り、我が子たちを見守る温かさが感動的だっただけでなく、大輪田泊完成のキーパーソンとしての冷静さも含めてとても存在感があった。
これだから、おっさん好きはやめられない。
③藤岡くんのいいとこどり
『ちぬの誓い』の宣伝で義君と出演したラジオ番組で「ミュージカルは隙間産業」なんて言って、自分の位置を自虐的に笑っていた藤岡くん。
パンフレットをめくったら4番目に紹介されていて、まあそれなりにいい役なんだろうなとは思っていたが、実際にはセリフは多いわ、歌は多いわ、最後は涙を誘うたいへんおいしい役で、ちょっとオタク、スキマから入って主役級取ってくわけ?と問いたくなった。
レミゼのマリウスなんて王子様的役もやっていたし、あの頃に比べると太ってしまって、ユーモラス路線に走ろうとしているのかなと、少し前に見た『ビューティフル・ゲーム』を観て思っていたが、何といっても歌唱力が群を抜いているし、容姿だってもう少しやせればまだまだ王子様をやれる。
何しろあの歌唱力はミュージカル界が放ってはおかないだろう。
と、長々とおふざけ感想を書いてきたが、ここで我らが義君に触れずにはいられない。
もうすっかりミュージカルに溶け込んで、安心して観ていられるようになったと感慨深い。
お腹から声を響かせているし、昔は微妙に揺れていた音程もしっかりとれるようになった。
ビブラートはつけられないけれど、良知くんや藤岡くんのようなしっかりはっきりビブラート組に混じっても見劣りがしない声の良さと伸びやかさがあった。
演技も、心配だったセリフが走ってしまう(つまりだんだん早口になる)癖もぬけて、20年後と20年前の演じ分けが上手かった。
初登場シーンで、絵島の岩の頂で琵琶をつまびきながら「さーせー・・・」と始まる声が、地声より低く渋く、ちゃんと年代の演じ分けをしているんだと感心した。
月の光を浴びて琵琶を一心不乱に弾く姿が壮絶に美しかった。
若々しく普請に精を出す姿、陰陽師と仲間たちの間に立って苦悩する姿もまた然り。
やはりこの人はどこからどう見ても美しいのだ。
疲れた体を引きずって東京遠征2回、兵庫日帰り1回、8回観て一番印象に残ったことは、登場人物たちの生きざまもさることながら、人知を超えた自然の営みの冷酷なまでの大きさである。
この物語では、どんなに人間が岩を沈めても、海はそれらを簡単に流してしまい、何事もなかったように荒れ狂う。
昔、沖縄に行ったとき、エメラルド色に輝く穏やかな海を眺めながら、本当にここで50年前戦闘があって、この海が戦闘機や戦艦の残骸、人々の死体で埋め尽くされて濁ったんだろうかと不思議で仕方がなかった。
つい数年前、海は突然津波となり、東北地方の多くを流し去った。
自然は突然荒れ狂い、我々人間の命を奪うかと思えば、何事もなかったかのように穏やかに我々に恵みを与えてくれもする。
それを思うたび、今でもあの『ちぬの誓い』のザザー・・・という波音が脳裏によみがえるのである