Toshiが行く

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一万回のありがとう

2024-05-14 10:00:08 | エッセイ

 

 

布施明が自ら作詞・作曲した『一万回のありがとう』という歌がある。

定年退職した友人が、家で終日過ごす身になり、

「妻というのは、実に大変なんだね。

僕が仕事一筋でこれたのもそんな妻のお陰なんだというのをつくづく思ったよ」

と語ったことが、この歌になったという。

歌詞の一部には『一万回 ありがとうと 今 君に言っても 足りないほどの 

君の愛に 支えられて きたんだね 終のすみか 安らぎ 涙もろさ 

許してくれたら 僕は君を守り続ける』とあり、

つまり、さんざん苦労をかけた妻への感謝の歌なのである。

 

           

 

だが、不器用な大方の男性はどう感謝したらよいのか分からずまごつく。

地場大手企業の役員など長年経済界の第一線で活躍されたAさんが、

80歳を迎え後進に道を譲るべく退かれた。

その後もお付き合いは続けていただいており、たまにランチをご一緒したりしている。

そんな昼時の話である。

「ご無沙汰しています。お変わりありませんか」

型通りに始まった会話は、その後ほろ苦い笑いの連続となった。

まず、Aさんの返事である。

「ええ、ええ、〝妻の部下〟となって元気でやっておりますよ」

「何なのです。その〝妻の部下〟というのは?」と笑いながらも、

我が身を省みればおおよそ見当がつく何とも切ない話なのである。

「僕にはこれといった趣味もないし、ゴルフも腰を悪くしてドクターストップ中です。

たまに昔の仲間と食事する程度で、どうしても家に居る時間が長くなる。

すると妻が『掃除機をかけろ』『家の外回りを掃除しろ』などと、

あれこれ命令するわけです。まさに妻の部下ですよ。

しかも、なぜか日が経つにつれ妻の機嫌が悪くなりましてね…」

 

     

 

実を言えば僕も似たようなもので、退職した後はゴミ出し、風呂掃除は言うに及ばず、

掃除機をかけたり、食器を洗ったり、洗濯物を畳んだりとやるようになった。

ただ、料理だけは依然手つかずのまま、三食とも妻のお世話になりっ放し。

この程度の感謝の表し方だ。

これでもまだしもであろうか。中にはどうしてよいのかさっぱり分からず、

三食昼寝付きでゴロゴロしている人も多いという。

たまりかねて奥さんが一言言おうものなら、

「誰のおかげで、こんな生活が出来ているんだ。俺が懸命に働いてきたからだろう」

と開き直ってしまう。すると

「あなたが何の心配もなく仕事に打ち込めたのは、

子育てはもちろん何から何まで私がこうして家庭を守ってきたからでしょう」

と切り返されるに違いない。

 

そんなことが繰り返されると要注意信号が点く。『主人在宅ストレス症候群』だ。

「普段家にいない夫が一日中在宅するようになると、

妻は大きなストレスを抱えるようになり、

それが原因で胃潰瘍や高血圧をはじめとする身体的症状、

それにうつ・パニック障害など心理的症状を引き起こす」というのである。

 

布施明よ 俺に代わって妻にありがとうと一万回言ってくれないか──

不器用な男たちの切なる願いである。

 

 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (放浪の人生日記)
2024-05-14 10:21:02
こんにちは。
亭主元気で留守がいい。たまには夫婦で温泉に行けば良さそうですね。
Unknown (Toshiが行く)
2024-05-14 13:57:17
放浪の人生日記さん こんにちは。
2人で温泉などに出かけるのもいいですね。
以前から言われるように「亭主元気で留守がいい」のに違いないのですが、家でゴロゴロしている亭主が多いのも確かなんですね。さて、どうしたものやら。

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