世の中にはわからないことが多いが、今年4月から実施される電力小売りの自由化ほどわからないものはない。既存の電力会社の財産である送電線、配電線、電力量計を使用して、誰でも電気の小売りをできるというのが、そもそも理解できない。電力会社を立ち上げ、発電所を建設し、送配電線の使用料を払って、自前の電気を安く供給するというなら、立派な商行為であるが、発電はしない、電力会社から電気を買って、小売するだけなら、既存の電力会社より安く電気を供給できるはずがない、これで企業として成り立つなら、こんな楽な話はない。これで需要家と契約するとは詐欺まがいのはなしである。万一、新規契約した企業が倒産してもその尻拭いは既存の電力会社が即時に電気を供給するので需要家には迷惑がかからないそうだが、これで自由競争というのは言葉遊びに過ぎない。既存の電力会社から電気を仕入れて、電力会社より安く供給できるというのはおとぎ話の世界である。
電力自由化で電気料金が安くなった国はゼロであり、イギリス、フランス、ドイツでも独占状態が続いており、新規参入企業はほとんどが倒産したそうだ。アメリカでは電力会社を新たに設立して発電所も建設し、安売り競争に勝った企業が、その後地域独占し一挙に料金値上げした例があるそうだが、どの国も自由化して電気料金が安くなった、需要家が得をしたという例はほとんどない。むしろ保守点検を手抜きしたり、需要増を見越して新規に発電所を建設したりしないから、供給信頼性が低くなり需要家は迷惑を被っている例が多い。
確かに日本の9電力独占体制はいろいろな歪も生んでいるが、戦後の経済復興に信頼性の高い電力供給が大きく寄与したことは事実である。しかし、原発事故以来、電力会社を悪の権化のようにして、電力会社の活動を制限し、自然エネルギーのコストを国民に押し付けたのは、電力独占よりはるかに悪質である。太陽光発電などという日本の気象に合わないものを42円/kWhという信じられない高額で買い取るなど狂気の沙汰である。当時の民主党菅首相がソフトバンクの孫社長と結託して国民に付けを押し付けたのである。現在は24円/kWhまで買い取り価格を下げたが、当時の料金は14年間続くので、国民への付けは大きい。台風で太陽光パネルが吹き飛び民家の屋根を突き破ったとか、傾斜地に太陽光パネルを敷き詰めたため、土砂崩れが起きてかなりの被害が出たという事件も起きている。
原発に反対するのは個人の自由であるが、コスト高の自然エネルギー、環境に悪い石炭火力に賛成する人たちは、その分のコストも引き受けてもらわないと不公平である。そして原発に賛成の人には電気料金を値引きするということにすれば公平というものである。それともう一つ、太陽光パネルに寿命がきたらどうやって廃棄するというのか、産業廃棄物としてもあまりに量が多く、途中で設置企業が倒産したらその処理はだれが責任を持つのであろうか。核廃棄物の処理で大騒ぎしているが、太陽光パネルの処理は比較にならないほどの量であることを忘れてはならない。太陽光を推進した人たちに責任をとってもらわなければ、その処理まで国民に負担を押し付けられたらたまらない。
家人は4月から電気の契約をどうするかとない知恵を絞っているようだが、いままでどおり電力会社との契約は変更しない、そういいつけてある。こんな筋の悪いはなしに乗るのは常識人のすることではない。