大阪都構想の住民投票は66.8%という稀に見る高投票率であった。結果はわずか0.8%の差で反対派が勝利したわけだが、出口調査の内訳を見て驚いた。50歳代の女性と70歳代の男女の反対で雌雄が決したことである。反対は70歳代の男性が61.3%、女性が60.5%であり、50代の女性は50.4%であった。ということは他の年代は賛成が反対を上回っており、男性では20歳代は67.1%、30歳代は71.6%、40歳代は66.2%が賛成票を投じたことになっている。これからを担う世代の人びとの意に反して、お年寄りの投票が未来を決めてよいのか、ここに住民投票の落とし穴があるように思えてならない。選挙中に反対派が敬老パスを廃止していいのか、地下鉄無料化が廃止されると訴えていたが、その脅しが功を奏したわけである。
スコットランドがイギリスから独立するかどうか住民投票が行われ、事前調査では賛成派がかなり有利だと報じられていたが、蓋を開けたら反対派の勝利に終わり独立は回避された。ウクライナのクリミア自治共和国は住民投票の結果9割以上の得票率でロシア編入が認められた。これらはいずれも国家のありようを決めるいわば国民投票であり、老若男女を問わず国家の運命を決める権利があり年齢性差などとは無関係であろうが、今回の特定の年代の人たちに利害があるばあいは住民投票は馴染まないのでないかと思う。
それと、根本的なことになるが、民主主義という多数決にすべてを委ねていいのか、国民大衆はそれほど清廉潔白でつねに正しい判断を下せるのか、はなはだ疑問だからである。大東亜戦争にしても当時は新聞などが煽り、国民も戦争を支持した、いわば多数の民意で戦争へと突き進んだわけである。それが敗けた途端に戦争責任を軍部、政治家に押し付け、国民は被害者であるという虚構で取り繕うとした。ドイツも悪いのはナチス・ヒトラーであり国民は被害者だと世界に公言した。だから、われわれが悪かったという謝罪は一切せず、つねにナチス・ヒトラーが悪いことをして済みませんでした、そういいつづけているのである。ナチス党は選挙で勢力を伸ばし、ドイツ国民が選んだ政党なのである。日本に置き換えれば、自民党が戦争したのであり、悪いのは自民党で、われわれ国民は被害者だということと同じである。
アメリカというか西欧諸国は世界を民主主義に統一しようとしているが、中東諸国を見ればわかるように、民主化した国々は内乱状態が続き、成功した国は一つもない。ということは民主主義は普遍的な真理ではなく、仮想された国家統一理念でしかないということである。アメリカの銃規制はいまだに放置されたままなのは、国民の多数が銃社会を容認しているからである。民主主義では多数を否定できないのである、それが悪いことであってもである。
いずれ日本でも憲法改正で国民投票が行われることになるが、わが子を戦場に送るな、のスローガンを掲げれば9条改正など吹っ飛ぶことは誰の目にも明らかである。高齢の女性は孫を戦争に巻き込ませるなといえば結果は目に見えている。女性の平均寿命は男性より6歳くらい上だから、女性票には勝てないのである。ハイテク兵器の時代に徴兵制を敷いてもものの役に立たないことは自衛隊幹部が一番よく知っていることである。いま世界で徴兵制のある国は韓国、北朝鮮、タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、フィンランドなどで、先進国は皆無である。そして、これらの国々が戦争をしたがっているとは到底思えないが、日本を弱体化させておきたい勢力は世界中に、また国内に潜んでいるから夢々油断してはならない。