◆ベルばらSS短編《ソルト》〜アンドレお誕生日によせて〜
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◆ソルト◆ 〜アンドレお誕生日SS〜
「アンドレ、もうすぐ誕生日だな。何か欲しい物はあるか?」
…わたしからお前に贈れる範囲のものだが、とオスカルは付け加えて笑う。
長椅子に並んで座り、頭を預けてくるオスカルの肩をアンドレはそっと抱きせよせた。
「もうプレゼントは頂いてる」
「ん?何をだ?」
「…オスカルと想いが通じたから」
「それは誕生日の贈り物ではないっ」
オスカルはアンドレを見上げて睨みつける。こんなオスカルの顔も可愛い。
…本人に言うとまた怒りそうだから黙っているけれど。
オスカルの髪を指で梳きながらアンドレは言う。
「オスカルからのプレゼントなら何でも嬉しいよ」
「何でも良いが一番大変なんだぞ」
オスカルは唇を尖らせて笑った。
子どもの頃からオスカルとは誕生日プレゼントを贈り合ってきた。
両親が相次いで他界し、祖母が働くジャルジェ家にオスカルの遊び相手として引き取られたのは八歳の時。
旦那様には勉強や剣も学ばせていただきながら成長した。恵まれた環境だと思う。
オスカルが光ならば自分は影。
それを一生貫く覚悟だった。
いつの頃からか彼女を愛していた。
秘めた片想いが通じ、オスカルと愛し合える日がこようとは思ってもいなかった。
満たされた毎日。
それでも。
自分はオスカルの影となり彼女を支え続ける気持ちは変わらない。
「…では、お嬢様。ひとつまみの塩をいただけますでしょうか?」
オスカルはアンドレの肩に頭を擦り寄せてクスリと笑う。
「ふふ。懐かしいな」
「…うん。オスカルが大切だから」
「そっくりそのまま同じ言葉を返すぞ」
またオスカルは笑った。
「愛しているよ」
「わたしも愛している」
引き寄せられるように二人は唇を合わせた。
座り慣れた長椅子でオスカルはアンドレに身体を預け、リラックスしている。
アンドレの温もりが心身共に安心できた。
アンドレはオスカルの髪を優しく梳きながら、ふと十代の頃を思い出していた。
オスカルがアントワネット様付きで宮廷にあがることとなり、アンドレも第三身分ながらオスカルの従者として宮廷への出入りを許された。
稀有で特殊なオスカル同様、アンドレも特殊で破格の待遇だった。
王太子であった現ルイ十六世、王太子妃であったアントワネット様にも宮廷では良くお声を掛けていただいた。
当時は王太子であった陛下も同じ歳で同月生まれのアンドレに良く声を掛けていた。
アントワネット様とオスカルが午後のお茶の時間を楽しんでいる間、王太子殿下に庭園の散歩に誘われ同行したこともあった。
「王太子妃とオスカルはお茶の時間も長くなりそうだからね。部屋で待機しているアンドレならば時間もあるだろう。彼に一緒にいてもらうから護衛は大丈夫だよ」
皆も寛いでいて、と気さくに周囲に声をかけ、アンドレを連れ出して散歩に出た。
「アンドレ…良い天候だから散歩に誘ってしまったけれど、もし仕事があったなら申し訳なかったね」
「いえ。大丈夫でございます」
後ろを歩くアンドレの返事に王太子も微笑んだ。
「君とわたしは同い年で同月生まれだからね。なんとなく親近感もあるのだよ」
王太子は8月23日でアンドレは26日生まれ、数日しか違わなかった。
「恐れ多いです」
王太子は立ち止まり、アンドレをみて少し困ったような表情をして笑った。
「アンドレ、二人だけの時は寛いで会話してくれると嬉しいな。わたしも君といると気持ちが安まるんだ。歳も近くて素に話せる者も宮廷では少ないから…君とオスカルは幼馴染みなのだったね。素敵な関係だと思う。
〜ジャルジェ家も代々王家に仕えてくれている。アンドレとわたし、オスカルも王太子妃も同い年…君たちがいてくれれば安心だ。
末長くフランス国民が平和であればと願うよ」
「お優しい貴方様がフランスを治める時代…国民も幸せになることでしょう」
趣味は鍛治場の錠前作り。
贅沢を好むこともなく国民に心をよせる次期国王。
この方が治める国でオスカルと共にお仕えできれば良いとアンドレも思う。
王太子は庭園の花々から空を見上げた。
「わたしが幼いころから好きな童話があってね。《藺草ずきん》という物語で…シェイクスピアの『リア王』のモデルとのいわれもあって、各国で執筆されて発行されているようだよ」
「…存じております。塩の大切さを学ぶ物語でございますね」
アンドレも幼い頃に母から聞いていた昔話。
ジャルジェ家に引き取られてから、読み書きを学ばせてもらい、この本もお屋敷の図書室で何度も読んだ記憶がある。
ジャルジェ家に引き取られて初めて迎えた9歳の誕生日…オスカルから貰ったプレゼントもこの本だった。
今でも机の引き出しに大切に仕舞ってある。
各国で発行されており、物語に多少の違いはあれど話の内容は同じ意味合いを持つ。
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ある国のお城で王と三人の姫が暮らしていた。
王は愛する娘達に聞いた。
「どれくらいわたしを愛しているか?」
一の姫は言った。
「この広いお城くらい愛しています」
王は喜んだ。
続いて二の姫は言った。
「お父様が治めているこの国の大きさくらい愛しています」
また王は喜んだ。
最後に三の姫は言った。
「料理に使う塩くらい愛しています」
王の価値がひとつまみの塩。
怒った王は三の姫を城から追い出してしまった。
しばらくして。
王は治めている国の様子をみるため、街や村、地方を回っていた。
ある国境の地で、その村の領主の屋敷に一泊することになった。
領主をはじめ村人は王を歓迎した。
しかし、その晩餐の席で。
王に用意された晩餐の料理には味が付いていなかった。
どういう事かと王は問う。
「王様。申し訳ございません。
王様が治めているこの国は平和です。しかし、山に囲まれた国で海がありません。
海沿いの村や町から塩を買い付け、この国に運ぶまでには峠を越えるため日数も掛かります。盗賊に襲われる危険もあります。
それでも大切な塩の為、王様が治める国の為に塩を運んでいるのです」
三の姫は幼い頃からお城で働く者達の所に良く顔を出して話をしていた。
庭園を管理している庭師達であったり、厨房の料理人達であったり、清掃や身の回りの世話をしてくれる女中達であったり。
人を見下すような事をしない優しい三の姫はお城の中でも慕われて、色々な話を聞かせてもらっていた為、山に囲まれたこの国の塩の貴重さを知っていた。
塩の話を聞いた王は、三の姫の言葉を思い出した。
ひとつまみの塩の大切さ。
貴重な塩を王に例えて伝えた三の姫を城から追い出してしまった。
落ち込む王の前に現れたのは三の姫。
姫は衣服の上から藺草のずきんをかぶり、この屋敷で働いていた。
料理人に塩を使わないでほしいと伝えたのも三の姫。
塩の大切さも学んだ王は三の姫と城に戻り、国を幸せに治めたーーー。
〜他国の王子と三の姫が婚姻し、その後の物語まで描かれているものもあるが、国によって物語の内容は多少違うものの、大筋の軸は塩の貴重さを学ぶ話で統一されている。
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王太子は遠い空を見上げて言った。
「大切なものを見逃さず、フランス国民と共にルイ王朝も繁栄することを願うよ」
「はい。王太子様がフランスを治める時代…国民も幸せであると思います」
アンドレも澄んだ青空を見上げて答えた。
未来のフランス、オスカルのことを思う。
この方もオスカルのような聡明な人柄だ。
遠くない未来、この方が国王となりフランスを治めれば良い国になるだろうとアンドレは思ったのだった。
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「懐かしいことを思い出したよ」
アンドレが遠い目をして微笑んだ。
「いつのことだ?」
オスカルはアンドレの髪を指でクルクル遊びながら顔を見上げた。
「うん。十代の頃…宮廷でアントワネット様とオスカルがお茶の時間を楽しんでいる時、おれは陛下…王太子様に庭園の散歩に連れ出されたことがあるんだ」
「…そうだったのか?」
「うん。アントワネット様がオスカルをお茶に誘うと時間も長引くことが多かったから。陛下も人払いをしておれだけを連れて庭に出たり、鍛治場に誘われたりしていたんだよ」
「ほぅ…初耳だ」
王太子様に声をかけられたり鍛冶場に誘われたというのは聞いた記憶があるが、庭園の散歩にもご一緒していたのか。
興味を持ったらしいオスカルの目が輝く。
「いつだったか…二人で庭園の散歩をしている時、陛下が《藺草ずきん》の話をされたんだ。おれも子どもの頃から好きな話だったから陛下との会話も良く覚えてる。
〜大切なものを見逃さず、国民と共に、ご自分が治めるフランスが繁栄することを願っておられた。
王妃様とオスカルは同い年。
陛下とおれは同い年。
歳が近い側近がいることも喜んでおられた」
「あぁ…陛下のお優しいお人柄は国民にも慕われている。一部の貴族は陛下は気弱だというが…決してそんなことは無い。
国民と貴族と国王夫妻…小さな亀裂の溝が深くなるのは身に感じて辛い…な」
フランスの不穏な空気。
天候不良による小麦や野菜の不作。
アントワネット様がお輿入れした頃、未来のフランスはより一層繁栄すると思っていた。
お優しい王太子と愛らしい王太子妃。
塩の貴重さを理解するお方がフランスを治めれば国民も幸せになるだろうと思う。
「藺草ずきんの話がお好きだとは…陛下らしい。あの頃は皆そう願っていた。陛下は今でも変わらぬのにな」
「うん。そうだね」
「アンドレもこの物語が好きだったな」
「そう。子どもの頃、母さんがよく話してくれててね。ジャルジェ家に引き取られて、オスカルから貰ったプレゼントもこの本だった」
「…そういえば、そうだな」
微笑むアンドレを見上げて、オスカルも笑った。
「自分の部屋に本があれば毎日読めるから…ってね。物語の内容は暗記していても、とても嬉しかったんだ」
「ふふ…それは良かった」
アンドレはオスカルの額に優しくキスを落とした。
8月25日夜。
今宵もオスカルの部屋で二人で寛いでいた。
もう少しで26日を迎える。
日付けが変わればアンドレの誕生日だ。
柱に掛けられた時計を見ながら二人でワインを楽しんだ。
時計の針が日付けが変わったことを告げると。
「アンドレ、誕生日おめでとう」
「有難う」
グラスを合わせ、乾杯。
アンドレの誕生日にオスカルが用意したのは懐中時計。
長年愛用していたものが最近修理に出すことが多いと言っていたからだ。
箱の中身を見たアンドレの顔が綻ぶ。
「懐中時計…有難う」
おばあちゃんから貰ったものを愛用していたけど最近調子が悪かったんだ…とアンドレは肩をすくめてみせる。
アンドレは軽く鼻をすすった。
「なんだ?泣いてるのか?」
「違うよ。ちょっと鼻がムズムズするんだ」
「衛兵隊で夏風邪でもうつったか?」
ここ数日、兵士数人が夏風邪をひいていた。
「寒気がするわけでも無いから大丈夫だと思うんだけど…もし風邪ならオスカルに感染してしまったら大変だ」
そう言ってオスカルを寝室に誘い、部屋を後にしたアンドレだったが、翌朝の体調は風邪の症状だった。
玄関ホールでオスカルは問う。
「大丈夫なのか?」
「うん。今のところ熱は無いし…おばあちゃんから薬ももらって飲んでるから仕事に差し支えないよ。オスカルと一緒に舐めろって飴も渡されたんだ」
少し喉が痛むと言ったら祖母にミントや蜂蜜の飴をたくさん手渡された。
心配するオスカルの前で、アンドレは腰に手を当てて笑った。
夕刻。
書類整理をしながらオスカルはアンドレの様子を伺う。
朝より体調も悪そうだ。
「アンドレ、風邪が悪化しているのではないか?」
「うん?大丈夫だよ」
「大丈夫では無いだろう」
オスカルは腰を上げて、アンドレの額に手を添えた。
熱っぽいではないか!と睨みつけられ、一日踏ん張っていたアンドレも白状する。
朝から何度もオスカルに「大丈夫か?」と上目遣いに声をかけられ、自分がオスカルの従者をしたいがために昨夜から薬も服用していたのに…今年の夏風邪は手強いようだ。
ここで空元気の返答をすれば、オスカルは怒るであろうし後々悲しむ顔も見たくない。
アンドレは素直に答える。
「…ごめん。ちょっと、寒気がする…かな」
夏に寒気なんて、見事に衛兵隊で流行っている夏風邪が感染っているではないか!とオスカルはご立腹だ。
「アンドレ!もうすぐ定時だ。帰り支度を始めるぞ」
「え?あと何枚か目を通してサインする書類が…」
「明日する。いつも急ぎの書類はお前が振り分けてくれているだろう。残りの書類は明日でも問題無いはずだ」
有無を言わせないオスカルの言葉にアンドレも観念して頷いた。
その時、ドアがノックされ、アランが日報を届けに来た。
「あれ。お帰りっすか?」
「アンドレの夏風邪が悪化しそうなので帰る」
書類の束を箱に入れながら答えるオスカルの隣でアンドレは帰り支度をしていた。
アランがアンドレを見ると少々赤い顔色のまま「ごめん」とばかりに手で合図をされた。
「やっぱり熱上がっちまったか?」
「ちょっとだけ」
衛兵隊でも数人が夏風邪をひいている。
ふとした拍子に日中も怠そうにしていたアンドレを気にかけていたアランも「あ〜あ」とばかりに呆れ声だ。
片割れの体調悪くても二人ベッタリで一緒に行動している仲良しコンビ…否、恋人同士か。
普通は主人に従者が合わせるが、この二人は逆パターンも少なくない。
主人が従者に合わせて動くのだから。
隊長の帰宅発言にアンドレも素直に従ったのだろう。
アランに見送られて、二人は衛兵隊を後にしたのだった。
ジャルジェ家。
体調不良を理由にアンドレは屋敷の仕事も免除され、部屋に追いやられていた。
寒気は相変わらずだ。
オスカルから貰った懐中時計で時間を確認し、毛布に包まって時間をもて遊んでいると、使用人仲間が夕食を部屋まで運んでくれた。
「悪いね。厨房なら行けるんだけど…」
「アンドレは時間があると動いちゃうから部屋で休ませろってオスカル様の指示よ。でも誕生日の翌日で良かったかもしれないわね。昨夜アンドレが夏風邪ダウンしてたら、それこそオスカル様が大騒ぎだわ。まだ寒気がするの?」
夏なのに毛布に包まる同僚をみてマリーが聞くとアンドレは小さく頷いた。
古参の使用人や侍女達の中にはオスカルとアンドレの関係に気付いている者もいる。
自分より五つ年上のマリーもその一人だ。
「マリー、オスカルはちゃんと夕食摂った?」
自分のことより主人を心配する相変わらずのアンドレにマリーも彼が聞きたいであろう事項を伝える。
「ええ。奥様とご一緒にね。ショコラはばあやさんがいれてお部屋に届けている頃よ。アンドレも今夜は早く休みなさいな。また明日からオスカル様のお供をしたいのでしょう?」
「…うん。ありがとう」
部屋のベッドで毛布に包まりウトウトしていると、遠慮がちにドアがノックされた。
こんな時間に誰だろうかと思いながらアンドレが返事をすると。
「はい?」
「アンドレ、わたしだ」
「オスカル!?」
飛び起きたアンドレはドアに走ると、自分でドアを開けたオスカルがひょっこり入って来た。
「アンドレ、具合はどうだ?」
「オスカル、こんな時間に使用人棟に来ちゃ駄目だよ。どうした?何かあったのか?」
何事かと心配するアンドレにオスカルもクスリと笑う。相変わらず過保護扱いだ。
「わたしは変わりないぞ。マリーに聞いた。まだ寒気が残るのだろう?だから差し入れを持ってきた」
オスカルが指さす先はトレイに乗せられたカップ。
カップからは湯気が立っている。
「ホットミルク?」
「うん。ローズに温めてもらうのを厨房で待ってた」
「厨房にも行ったの!?」
声をあげるアンドレを見て悪気もなくオスカルは頷く。
次期当主のこのお嬢様、監視役がいないと自由奔放に歯止めが効かない。
「ほら、冷めないうちに飲め。寒いのだろう?」
ツカツカと部屋に入ったオスカルはベッド脇のテーブルにトレイを置く。
そして後に続いたアンドレはベッドに押し込まれた。
「オスカルの不意打ち行動に寒気も吹っ飛んだ」
「何だそれは」
オスカルはベッド脇に座って足を組み、上半身をアンドレに向けて言った。
「火を使うのは危ないと言ってローズがミルクを温めてくれたからな、味付けはわたしだ」
差し出されたカップを受け取ったアンドレは「オスカルの力作、いただきます」と笑みを浮かべ、一口飲んだ。
温められた甘いミルクの匂い。
砂糖か蜂蜜が入っているのかと思いきや…オスカルは何を入れたんだ?
…塩?
これ塩じゃないか?
ローズ!彼女が間違えたのかオスカルの勘違いか…いや、先日の「ひとつまみの塩」をオスカルが実行しただけなのだろうか?
「温まるか?」
「うん。有難うオスカル。明日には仕事復帰できるよ」
「お前がいないと行動しづらいのが本音だが…無理するなよ」
「大丈夫。熱冷ましの薬も飲んでるし、少し寒気が残ってたけど、オスカルが来てくれてお手製ホットミルクも飲んでるからね」
コクコクとミルクを飲むアンドレをオスカルは満足そうに見つめて微笑んでいる。
「オスカル、このホットミルク。味付けは砂糖を入れてくれた?」
「うん。ローズがミルクを温めてくれている間、藺草ずきんの話になってね。ちょうど料理長が厨房の火を落としに来て料理に使う塩の話をしてくれた。食材に少しの塩を加えると甘味が増すことがあるそうだな」
「あぁ、食材によっては使用したりするね」
ホットミルクには砂糖だけで充分だけどね、という言葉は飲み込んだ。
「だから、ほんの少しの塩を指でつまんでいれて、砂糖をスプーン一杯いれてみた」
いやコレ、塩と砂糖の割合が逆でしょうお嬢様。
ローズと料理長が似ているとはいえ塩と砂糖の容器を間違える筈が無い。
おそらくオスカルの勘違いだ。
二人とも次期当主の勘違いに気付いても指摘しなかったのだろう。
『まぁミルク飲むのはオレだしね』
今ごろ厨房で二人が笑っているかもしれないが、こんなことでもおれは幸せなのだから。
「ごちそうさま。いつぞやの希望通り、オスカルは《ひとつまみの塩》を用意してくれたんだね。有難う」
アンドレの言葉にオスカルも満足そうに笑った。
愛の力の成せる技か、翌日のアンドレは熱も寒気も治まり仕事復帰したのだった。
◆終わり◆
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◇あとがき◇
〜塩の話〜
子どもの頃に図書館で読んだ本なのですが、内容は覚えているもののタイトルが判らなくて。
昔、他のジャンルでもこのネタで書いたのですが、当時は周囲の友人達もこの童話(昔話)の内容知らなくてですね。
最近ネットで調べたら、スラスラ出てきてビックリ。
ある意味ベンリな世の中です(^◇^;)
イギリスやアイルランド他の昔話。
塩の大切さを教えるお話なのですが、いぐさのかさ、藺草ずきん、塩は黄金よりも尊し、等々…いろいろなタイトルがあるらしい。
元々はシェイクスピア《リア王》の物語がモデルらしいですが、各国で子供向けにアレンジ?して書かれているようですね。
子どもの頃に白鳥が読んだタイトルは何だったんだろう…微妙ですが幼い頃に読んだ記憶通りに今回のSSを書いてみた次第です。
日本で塩の話といえば。
「敵に塩をおくる」
上杉謙信と武田信玄の話が有名ですよね。
新潟は海があるから塩は不足しないけど、山梨は内陸だから塩が取れない。
上杉軍と武田軍が合戦してたのは中間の長野ですが、ここも内陸だから戦が長引けば武田側の塩が底をつく。
これで戦に勝ってもフェアでは無いと武田軍に塩をおくった謙信。アッパレです。
このお二方同士も腐れ縁のような戦国武将。
…って、白鳥が一番好きな武将は伊達政宗サマですけれど、上杉さんも嫌いではナイです。
僻地ブログの拙いSSですが、お越しくださった皆様、有難うございます。
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