諏訪山岳会公式ブログ

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穂高 屏風岩 雲稜ルート

2022年11月04日 | バリエーション・登攀

ルート :穂高 屏風岩 雲稜ルート
日時  :10月11~14日
メンバー:まっきー、U山

10年ぶりに穂高屏風岩雲稜ルートに行ってきました。
この10年の間のルートの変化を感じました。

今回は10/11~14の日程で、涸沢に定着して屏風岩、前穂北尾根を登る計画で入山しました。

11日 上高地から入山。涸沢に向かう途中、屏風岩へのアプローチを偵察。岩小屋跡から東壁を見上げてまず気になったのは以前に比べてブッシュが目立つこと。特に東壁ルンゼ落ち口あたり、雲稜ルート4P目あたりのブッシュ帯が大きくなっているような・・・。
この直感は当たっていて、東壁ルンゼを登るルート後半はブッシュの成長でルートの様子が変わっていました。

 <屏風岩 東壁>

横尾谷は膝上渡渉で、過去に渡った中で一番深かったです。おまけに水は冷たく川底の石はコケで滑りここが第一の核心部でした。今回は私のミスでここを5回(2往復半)渡るハメに陥りましたが、私はそのうち4回失敗していずれも腰まで水没。過去にこの渡渉で苦労したことはなかったのですが、こういう事態も想定して何らかの足回りを準備しておいた方が無難ですね。   

  <横尾谷の渡渉>

 

12日  4時半に涸沢を出発し、T4尾根基部に7時着。

  <1ルンゼ アプローチ>

が、私の勘違い(というか思い込み)で取りつき場所を間違えてしまい時間を大幅にロス。再スタートを切って行けるところまで という選択肢もあったのですが何か中途半端なクライミングで終わってしまいそうな気がしたので思い切って明日出直すことに。
登山道に戻り、まっきーは奥穂のピストンへ、私はのんびり涸沢に戻って北尾根のアプローチを確認しました。


13日 この日は前日より30分早く涸沢を出て、渡渉地点に5時半着。薄暗い中、5回目にしてようやく水没せずに渡渉に成功。取り付きに着いてデポしておいた登攀用具を身に着け、今度は迷うことなくT4尾根の登攀を開始。
T4尾根の1P目は少しいやらしかった記憶がありましたが、そんなこともなく、逆に簡単な記憶しかなかった2P目が濡れていてこちらの方がいやらしかったです。

  
<取り付き/ T4尾根 1P目/ T4尾根上部から東壁を仰ぐ>

T4に着いたところでジャンケンでオーダーを決め、奇数ピッチをU山が、偶数ピッチをまっきーが担当することに。               
雲稜ルートについては、日本の岩場(改訂版)では、最後のガリーが脆く落石の危険が大きいので極力その手前から懸垂で下ることが推奨されています。私も過去の経験からこの推奨に対する異論はないので後続パーティがいる場合は上に抜けずに懸垂で下る予定でいましたが、この日は後続パーティーがいなかったので上まで抜けました。

1・2P目: 長いコーナーから露出感の高いフェース。少々ブッシュは気になるものの概ね快適クライミング。

  <1P目/ 2P目>

3P目: 10年前は欠損したリング代わりの細引き登りが連続する老朽化ボルトラダーだったが、今回は細引きの多くがシャックルに付け替えられていて精神的には楽に登れました。(老朽化に変わりはありませんが)。
一か所、ハンガーの無いアンカーとリング欠損ボルトが連続する区間があって、リング欠損ボルトにΦ5mmのシャックル(耐荷重 90kg)をセットして登り、残置しましたが、今思えばチョンボ棒使えばシャックルは必要なかったので残置すべきではありませんでした。スミマセン。(不要と思われる方はお手数ですが撤去してください。シャックルのネジは指で軽く締めただけなので簡単に外せると思います)。

  <3P目>

4P目: ビレイ点から一段上がりバンドをトラバースして東壁ルンゼに入るとブッシュが繁る見覚えのない風景が出現。そこはちょうど下から見上げてブッシュが目立って見えた周辺なので、この10年でブッシュが成長しルートの見た目が一変したと考えるのが妥当だろう。途中のコーナーに長い草が垂れ下がりスタンスが隠れて見えないのには閉口した。

 <4P目 出だし>

5P目: 過去のトレース時は磨かれたスラブにフリクションを効かせて登った快適ピッチだったが、前半はしみ出しで雨上がり状態、中間のハングを回り込むと、かつてホールド、スタンスを求めた長いコーナーには土が詰まってすっかり草付化しているという変わり果てた姿を目にすることに・・・。ピッチを切った懸垂支点の残置スリングは上からの土砂で黒色化していて最近使われた形跡は無し。ルート上の残置スリングの状態からみて、最近はこのピッチ中間のハング手前から下降することが多いのではないかと推測されるがどうなんだろう?

6P目~終了点: 5P目のルート状況が以前とは一変していたので、大事をとって本来の6P目を2Pに分けて登る。
よく見ると、たまに草付きの中にボルト、ピトンが隠れているのでそれらも発掘しながらランニングをとる。
7P目(本来の6P目後半)は従来からのランナウトに草付き登りが加わって悪さ3割増し。

 <6P目 ルートに茂るブッシュ/ 7P目終了点から東壁ルンゼ上部を見る>

最後のガリー(8P目) はホールドスタンスを厳選して登り、信頼感バツグンの太い木で終了。ここの残置スリングは苔コーティングで抹茶色。

 <終了点>

終了点着 16:00過ぎ。そこから歩き+ロープ確保で尾根筋の安全地帯に飛び出したのが17:00。ルート後半の状態が悪くてペースが落ち予定時刻を大幅にオーバーしてしまったが、なんとか明るいうちに安全地帯に抜けることができてヤレヤレである。それにしてもルート後半の変貌ぶりには驚くばかり。この10年でブッシュが急に成長してしまったようだ。これも地球温暖化の影響なのだろうか?

さてここからのヤブ漕ぎが最後の核心。私の記憶では, 30年前はヤブ漕ぎは全く(ほとんど)無かったが、10年前には 尾根筋中間部から頭の手前5分ぐらいまでの区間 踏み跡に覆いかぶさる枝をかき分ける程度のヤブ漕ぎがだった。今回は、ほぼ全区間に渡ってヤブ漕ぎが続き、枝のかき分けにプラスして随所で幹の乗り超え/くぐり が加わりヤブ漕ぎレベルは数段階のレベルアップ。さらに今回はヘッデンを点けてのヤブ漕ぎだったので視界を枝・葉・幹で覆われ、精神的にも少しきつかった。これらトータルで見て、ヤブ漕ぎ労力は10年前の3倍以上といったところか。次に行くとしたら鉈・ノコ持参をを考えた方が良いと思うようなレベルでした。

そんなヤブ漕ぎを続けるうちに突然目の前のヤブが無くなったと思ったらそこが登山道。そこからわずかで屏風の頭に19:00 着。ヘッデンの明かりにケルンが浮かび上がるだけの真っ暗闇のピークだったが、眼下には涸沢の灯りが浮かび、主稜線には北穂小屋の灯りがきらめいていました。
まあ、労力3倍といっても時間にしてみれば1時間半ほどのもので沢登りだったらごく普通のヤブ漕ぎなのかもしれないが、岩を登っててっぺんに立つという登り方からしてみると少し重いヤブ漕ぎでした。

 <屏風の頭>

その後、パノラマコースに合流して涸沢ヒュッテに21時着。着いたら小屋番さんが出てきて ”何時に上高地出てきたんだ”と詰問されかかったが、屏風を登ってきたことを伝えると ”今夜はゆっくり休んでください” と労いの言葉をかけられ、気分良くテントに戻りました。

14日 この日は北尾根経由下山の計画だったが、そのためにはそこそこ早出が必要で前日ヘッデン行動になった時点でこの計画は自然消滅。
入山以来の最高の天気の中、涸沢のモルゲンロートを写真に収めたまっきーは上高地に下山、私は北穂から穂高岳山荘まで主稜線を歩き涸沢にもう一泊してゆっくりしました。

 <14日 モルゲンロート>

翌15日も天気は良かったが、日の出の時間帯に雲が悪い場所に陣取ったようでモルゲンロートは拝めず、ごくありふれた現象も微妙なバランスの上に成立していることをあらためて認識しました。 

 <最終日の涸沢>

 

今回の山行で、現在の屏風岩雲稜ルートは ”壁を抜けて頂上に立つ” という登り方が向かなくなりつつあることを感じました。そして、その原因に地球温暖化が関係しているかもしれないという不安も抱きました。
そんなわけで今回屏風の頭まで抜けることができたのは自分にとって最後のチャンスだったと思われ、そのような機会を提供してくれたまっきーに感謝します。    

 話は変わり、先日ジムで行き会った方から聞いた話ですが、その方が、この夏、滝谷を出会いから稜線までトレースした際、下部から中間部にかけて岩の状態が極めて不安定で、浮石を抱いたまま落ちて死ぬかもしれないと思いながら登ったそうです。どうやら2年前の新穂高周辺を震源とする群発地震で滝谷に地質上の大きなダメージがあったようで、その辺りの事情を知る方の間では、無雪期に滝谷を下から登るのは危険行為と見なされているようです。

 よく、山は逃げないといいますが、それは一面では正しいものの今回の屏風やジムで聞いた滝谷のようにそれがあてはまらないルートも少なからずあります。地球温暖化で気候が著しく変化している現在、こんな例も増加傾向にあると思われるので、もし心に温めている山やルートをお持ちなら早めに取りつくことをお勧めします。                      



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