ちょいダウンしてしまい予定より更に遅くなりました・・・の追加クエストもどき。ぜえはあ。9の旅芸人ってダンスにお笑いにジャグリングまでしなきゃいけなくてたいへんだなあと思ったところからできたネタ。守備範囲広いですよね〜。ツッコミ論は適当ですあしからず〜。
旅芸人と言ってもいろいろなタイプがある。ミミは踊ることは好きで、曲芸もこなせたが、お笑い技術や話術が得意とは言い難いので、「ボケ」のレパートリーをどう増やすか悩んでいた。先日も彼女は、戦闘中に魔物たちの注意を引くべく、曲芸スキルのボケをしてみたが、笑いを取れたという感じではなかったのである。
キラージャグリングをすると見せかけて、実は玉をフルーツに変えていて、『あ・・・間違えちゃった』と恥ずかしそうに呟いたところ、魔物たちから取れたリアクションは、笑いではなく、目をハートマークにした『か・・・可愛い〜!』というものだった。それで敵は皆うっとりみとれてターン休みになったので、一応目的は果たせたのだが、結果オーライと能天気にしていていいのか疑問に思ったのだ。
ボケって難しいなあ・・・ツッコミもだけれど・・・。そんなことを考えながらセントシュタイン城下町を歩いていたら、通行人に危うくぶつかりそうになった。しかし、そこは戦闘経験の豊富さである。体が無意識にひらりと動き、優雅に避けた。おどりこのドレスの裾がふんわりと広がる様は、まさにワルツでも踊っているかのようだった。だが、相手にとっては避けられる方が想定外だったのか、コケこそしなかったもののつんのめった。
「だ、大丈夫ですか?!」
ミミが慌てて声をかけると、相手の若い男は、よろけながら叫んだ。
「避けるんかいっ!」
「え・・・?」
言われた言葉が思いがけなかったので、ミミが長い睫毛をぱちくりと瞬かせると、男はずり落ちたまん丸い眼鏡を押し上げながら、溜息をついて言った。
「ツッコミですよ。そのドレスから察するに、あなたも旅芸人ですよね?わからないとは嘆かわしい〜、ヤカンは湯沸かしぃ〜」
「え?」
またミミがきょとんとすると、男はぷうとふくれて言った。
「ボケです!気付いてくださいよ!」
「え・・・あ、ごめんなさい・・・」
ミミは素直に謝ったが、もしサンディかイザヤールが一緒に居たら、こんな寒いボケにツッコミをしないのは当然で謝る必要は全く無いと冷然と言い切ったところだろう。ミミが謝ると、男は眼鏡を押し上げてミミをしげしげと眺めながら、調子付いて言った。
「あなたはどうやら、旅芸人なのにツッコミスキルに欠けているようですね?おっとり天然ちゃんの気配がしますよ。それでは旅芸人として困るでしょう。どうです、ツッコミの特訓をしてみませんか?」
「ツッコミの特訓?」
ひたすら「んなワケないデショ!」とか言いながら手の甲をピシッと動かし続けるとかかな?とミミが思っていると、男はミミのその想像が浮かんでそうな辺りにピシッとツッコミを入れた。
「どうせ動作訓練みたいのを想像しましたよね?んなワケないでしょ!もっと本質的なことです!
いいですか、ツッコミをするには、『常識人の感覚』、すなわち『普通』であることが不可欠です!笑いとは、常識からずれた違和感をとらえてそれを奇妙だと思うところから始まるのですからね!」
なるほどなあ、でもそんなふうに分析したらそれこそ笑えないんじゃないかなあとミミが思っていると、男は更に続けて言った。
「つまり、最強のツッコミになるには、常識人の感覚を徹底的に身に付け、何もかも平凡になること!凡庸こそ最強、世界のルールなのです!」
「そうですか?凡庸な人なんてほんとは居なくて、みんな一人ひとり違うから世界は楽しいんじゃ・・・」
「ほらその優等生的な回答、つまらないですよ!やはり特訓が必要ですね!いいですか、いわゆるツッコミポジションの人は、フツー中のフツーの人であることが不可欠です」
そうかなあ・・・とミミは、自分の天然ボケによくツッコミを入れるサンディを思い浮かべながら思った。確かにサンディはああ見えて常識家的なところもあるが、フツー中のフツーと言うにはあまりにも非凡かつ複雑な個性の気もする。
「地味、普通、しかしそんな自分を決して卑下せず個性的な面々と堂々と渡り合う、ツッコミポジションたるもの、そのような強いメンタルが不可欠です!そんなメンタルを身に付けるには、魔物の巣にさりげなく侵入して、魔物たちとお茶を飲んで帰ってくる特訓が一番!」男は、話しながら宝の地図を取り出した。「この地図のあるフロアには、魔物がうじゃうじゃ暮らしているモンスターハウスと呼ばれる巣があります。そこへ行って魔物たちとお茶を飲んで楽しく歓談してきてください。それができたときあなたは、素晴らしいツッコミスキルが自然と身に付いていることでしょう。果たせたらまた僕に会いに来てください。ツッコミするのにふさわしいアイテムを差し上げます」
それで本当にツッコミ技術が上がるのか甚だ疑問ではあったが、魔物の巣には興味があったのでミミは挑戦してみることにした。ミミはクエスト「ツッコミ大特訓」を引き受けた!
それからミミは市場で買い物を済ませ、リッカの宿屋に戻った。イザヤールはカマエルと未知なる錬金について話し合っていたところだったが、ミミが帰ってきたのを見て嬉しそうに微笑んで出迎えた。
「おかえり、ミミ。・・・おや?その地図は?」
そこでミミは、引き受けたクエストのことを話し、ツッコミスキルを上げる特訓に使う魔物の巣がある洞窟の地図であることを説明した。
「ツッコミのスキルの向上なあ・・・」イザヤールは眉を寄せた。「おまえの『ツッコミ』は目覚ましや混乱解除にちゃんと機能しているのだから、特に必要ないのでは?」
「実は私もそう思ったけれど、魔物の巣が気になって」
「魔物の巣か、確かに興味深いが、そんな危険な場所にまさか一人で行く気ではないだろうな?」
「・・・さりげなく魔物たちの中に溶け込んでお茶を飲んでくるようにっていう指示だから、一人で行く方がまだ目立たないんじゃないかな・・・なんて思ったのだけれど・・・」
「行く気だったのか!・・・まあ確かに私が魔物の巣に侵入すれば目立ってしまうだろうが、それはおまえだって同じだろう。危険すぎる」
「大丈夫よ、怒らせちゃったら、可哀想だけれどバックダンサーよびで撃退するから」
イザヤールはミミを案じて渋り、結局、ステルスを使って魔物の巣の中まで一緒に来てくれることになった。そして、本当に危険になるギリギリまで魔物に攻撃せず我慢すると約束した。
二人は準備を整えてさっそく出かけた。地図の洞窟はベクセリアの東方にあるようだ。天の箱舟で行くと何故かピンポイントに着地できず回り込まなくてはならないめんどくさいあの場所である。しかし、お互い一緒に居られるだけで幸せいっぱいなバカップル冒険者には、その遠回りさえ嬉しいので何ら問題は無かった。
「ほらミミ、ススキがちょうど盛りの時期で綺麗だぞ」
「ほんと綺麗・・・。風が吹くと、銀色の海みたい・・・」
「銀色の海、か。確かに波のようだな」
二人はしばらくベクセリアの壮観なススキの平原を眺め楽しんでから、地図を頼りに洞窟を探し、中に入った。中は遺跡タイプの普通の宝の地図と同じような構造だった。出てくる敵も中レベル程度の遺跡タイプによく出てくるものたちだ。いつ魔物の巣に当たるかわからないので、イザヤールはしぶしぶミミから少し距離を置いてステルスをかけ、ミミはやや緊張しながら歩いた。リラックスしなければと躍起になるほどますます固くなってしまう。立ち止まって深呼吸し、そうだ、ウォルロの高台のスライムたちの住処に遊びに行くつもりで行けばいいんだと考えて、彼女のぎこちなさはかなり落ち着いた。見守っているイザヤールもその気配を感じ取り、よし、いいぞと心の中で声援を送る。
七フロアほど降りて歩いていたところ、通常の宝の地図の洞窟には無い扉があるのを見つけた。ご丁寧に表札まであり、そこには「魔物の巣」と書いてある。
「・・・」
これこそツッコミどころなのだろうかとミミは少々悩んだが、それはともかく中にどう入ろうかでも悩んだ。いきなり入るべきか、ノックして「ごめんくださ〜い」と声かけして入るべきか、こっそり潜り込むべきか、どれが一番さりげなく魔物たちにとけ込める入り方なのか。扉の前で迷っていると、ミミは後ろから突然声をかけられた。
「あれ〜?お嬢さん、何かご用?」
振り返ると、スライムマデュラが居た!ミミは焦ったが、スライムマデュラに敵意は無いらしく、濃い紫の瞳を見開き動揺で頬を少し上気させているミミを見て、みるみる笑顔になって(スライム属は皆元々笑顔だが)言った。
「うわぁ、キミ、可愛いね〜♪よかったらお茶でも飲んでいきなよ♪」
まるでナンパのような展開だが、なんといきなり目的が果たせそうである。スライムマデュラは「ただいま〜」と言って扉を開け、ミミを中に案内した。イザヤールもステルスで気配を消したまま、扉が閉まる前に中に滑り込む。
中に入ると、広い空間になっていて、スライムマデュラやゴールデントーテムなどのスライム属の他にもラストテンツクやサタンメイルアイアンブルドーなど、たくさんの魔物たちが思い思いのことをして寛いでいた。おやつを食べている者、新聞を読む者、昼寝をしている者、お喋りをしている者、謎の遊びをしている者などそれぞれ好き勝手している。ミミを連れてきたスライムマデュラは、彼女をススキの穂を積んで作ったクッションに座らせ、お茶とお菓子を出してくれた。
「誰〜?お客さん〜?」
寝ころんだままラストテンツクが尋ねたが、ミミを見ると、急に目をキラキラさせて跳ね起きて、駆け寄ってきた。ぎくりとして構えようとしたミミだったが、ラストテンツクは攻撃ではなくミミに色紙を差し出し、言った。
「あなたは超有名踊り子冒険者のミミさん!敵ながらあっぱれと我々の間でも評判だよ!サインして〜」
「あ・・・あの・・・。どうして敵ってわかっているのに攻撃してこないの・・・?」
「だって、巣に居るときは、僕たちオフタイムだもん。ミミさんだって別に、攻撃しないでしょ?」
「え、ええ、まあ、あなたたちが攻撃してこないなら・・・」
ミミは答えてサインをし、お茶とお菓子をご馳走になり、集まってきた他のミミのダンスファンの魔物たちにもサインをし、夕飯のカレーを作るのまで手伝って(ステルス中のイザヤールも手を貸したので更においしく仕上がった)、お土産のスライムクッキーまでもらって帰ったのだった。
帰り道、ミミはイザヤールに尋ねた。
「ねえイザヤール様、これって、『さりげなくとけ込んだ』っていうのかなあ・・・」
「う〜ん・・・。どちらかと言えば、『可愛さと人気で招かれた』のような気がするが・・・」
「スライムマデュラ君が可愛いって思ったってことは・・・私、もしかしてスライム顔・・・?」
「いや、それは絶対に無いぞっ!」
セントシュタインに戻ると、依頼人の男が笑顔で出迎えた。
「いや〜素晴らしい、見事に魔物の中にさりげなくとけ込んで・・・って違うでしょ!なんですか、あの大人気っぷり!あれじゃさりげないどころかスターが村にやってきた状態じゃないですか!・・・まあ条件は一応満たしてますから、お約束の品は差し上げます」
ミミは「たまはがねのこて」をもらった!
「これでたくさんツッコミの練習をすれば手首も鍛えられます!一石二鳥!」
「手首痛めるような気もしますけれど・・・」
結局「普通」になれずツッコミスキルは向上しなかったなあと思ったミミだが、旅行から帰ってきたサンディの言葉で気持ちが少し軽くなった。
「旅先で見かけた変わってるケド超スッゴい旅芸人が言ってたワヨ、旅芸人は自らがまず輝かなければ、みんなの笑顔を輝かせることなんてできない、そしてその輝きは、各々違うから素晴らしいって!」
『フツー』じゃなくてもいい、自分のできることから努力していこうと改めて思ったミミだった。〈了〉
旅芸人と言ってもいろいろなタイプがある。ミミは踊ることは好きで、曲芸もこなせたが、お笑い技術や話術が得意とは言い難いので、「ボケ」のレパートリーをどう増やすか悩んでいた。先日も彼女は、戦闘中に魔物たちの注意を引くべく、曲芸スキルのボケをしてみたが、笑いを取れたという感じではなかったのである。
キラージャグリングをすると見せかけて、実は玉をフルーツに変えていて、『あ・・・間違えちゃった』と恥ずかしそうに呟いたところ、魔物たちから取れたリアクションは、笑いではなく、目をハートマークにした『か・・・可愛い〜!』というものだった。それで敵は皆うっとりみとれてターン休みになったので、一応目的は果たせたのだが、結果オーライと能天気にしていていいのか疑問に思ったのだ。
ボケって難しいなあ・・・ツッコミもだけれど・・・。そんなことを考えながらセントシュタイン城下町を歩いていたら、通行人に危うくぶつかりそうになった。しかし、そこは戦闘経験の豊富さである。体が無意識にひらりと動き、優雅に避けた。おどりこのドレスの裾がふんわりと広がる様は、まさにワルツでも踊っているかのようだった。だが、相手にとっては避けられる方が想定外だったのか、コケこそしなかったもののつんのめった。
「だ、大丈夫ですか?!」
ミミが慌てて声をかけると、相手の若い男は、よろけながら叫んだ。
「避けるんかいっ!」
「え・・・?」
言われた言葉が思いがけなかったので、ミミが長い睫毛をぱちくりと瞬かせると、男はずり落ちたまん丸い眼鏡を押し上げながら、溜息をついて言った。
「ツッコミですよ。そのドレスから察するに、あなたも旅芸人ですよね?わからないとは嘆かわしい〜、ヤカンは湯沸かしぃ〜」
「え?」
またミミがきょとんとすると、男はぷうとふくれて言った。
「ボケです!気付いてくださいよ!」
「え・・・あ、ごめんなさい・・・」
ミミは素直に謝ったが、もしサンディかイザヤールが一緒に居たら、こんな寒いボケにツッコミをしないのは当然で謝る必要は全く無いと冷然と言い切ったところだろう。ミミが謝ると、男は眼鏡を押し上げてミミをしげしげと眺めながら、調子付いて言った。
「あなたはどうやら、旅芸人なのにツッコミスキルに欠けているようですね?おっとり天然ちゃんの気配がしますよ。それでは旅芸人として困るでしょう。どうです、ツッコミの特訓をしてみませんか?」
「ツッコミの特訓?」
ひたすら「んなワケないデショ!」とか言いながら手の甲をピシッと動かし続けるとかかな?とミミが思っていると、男はミミのその想像が浮かんでそうな辺りにピシッとツッコミを入れた。
「どうせ動作訓練みたいのを想像しましたよね?んなワケないでしょ!もっと本質的なことです!
いいですか、ツッコミをするには、『常識人の感覚』、すなわち『普通』であることが不可欠です!笑いとは、常識からずれた違和感をとらえてそれを奇妙だと思うところから始まるのですからね!」
なるほどなあ、でもそんなふうに分析したらそれこそ笑えないんじゃないかなあとミミが思っていると、男は更に続けて言った。
「つまり、最強のツッコミになるには、常識人の感覚を徹底的に身に付け、何もかも平凡になること!凡庸こそ最強、世界のルールなのです!」
「そうですか?凡庸な人なんてほんとは居なくて、みんな一人ひとり違うから世界は楽しいんじゃ・・・」
「ほらその優等生的な回答、つまらないですよ!やはり特訓が必要ですね!いいですか、いわゆるツッコミポジションの人は、フツー中のフツーの人であることが不可欠です」
そうかなあ・・・とミミは、自分の天然ボケによくツッコミを入れるサンディを思い浮かべながら思った。確かにサンディはああ見えて常識家的なところもあるが、フツー中のフツーと言うにはあまりにも非凡かつ複雑な個性の気もする。
「地味、普通、しかしそんな自分を決して卑下せず個性的な面々と堂々と渡り合う、ツッコミポジションたるもの、そのような強いメンタルが不可欠です!そんなメンタルを身に付けるには、魔物の巣にさりげなく侵入して、魔物たちとお茶を飲んで帰ってくる特訓が一番!」男は、話しながら宝の地図を取り出した。「この地図のあるフロアには、魔物がうじゃうじゃ暮らしているモンスターハウスと呼ばれる巣があります。そこへ行って魔物たちとお茶を飲んで楽しく歓談してきてください。それができたときあなたは、素晴らしいツッコミスキルが自然と身に付いていることでしょう。果たせたらまた僕に会いに来てください。ツッコミするのにふさわしいアイテムを差し上げます」
それで本当にツッコミ技術が上がるのか甚だ疑問ではあったが、魔物の巣には興味があったのでミミは挑戦してみることにした。ミミはクエスト「ツッコミ大特訓」を引き受けた!
それからミミは市場で買い物を済ませ、リッカの宿屋に戻った。イザヤールはカマエルと未知なる錬金について話し合っていたところだったが、ミミが帰ってきたのを見て嬉しそうに微笑んで出迎えた。
「おかえり、ミミ。・・・おや?その地図は?」
そこでミミは、引き受けたクエストのことを話し、ツッコミスキルを上げる特訓に使う魔物の巣がある洞窟の地図であることを説明した。
「ツッコミのスキルの向上なあ・・・」イザヤールは眉を寄せた。「おまえの『ツッコミ』は目覚ましや混乱解除にちゃんと機能しているのだから、特に必要ないのでは?」
「実は私もそう思ったけれど、魔物の巣が気になって」
「魔物の巣か、確かに興味深いが、そんな危険な場所にまさか一人で行く気ではないだろうな?」
「・・・さりげなく魔物たちの中に溶け込んでお茶を飲んでくるようにっていう指示だから、一人で行く方がまだ目立たないんじゃないかな・・・なんて思ったのだけれど・・・」
「行く気だったのか!・・・まあ確かに私が魔物の巣に侵入すれば目立ってしまうだろうが、それはおまえだって同じだろう。危険すぎる」
「大丈夫よ、怒らせちゃったら、可哀想だけれどバックダンサーよびで撃退するから」
イザヤールはミミを案じて渋り、結局、ステルスを使って魔物の巣の中まで一緒に来てくれることになった。そして、本当に危険になるギリギリまで魔物に攻撃せず我慢すると約束した。
二人は準備を整えてさっそく出かけた。地図の洞窟はベクセリアの東方にあるようだ。天の箱舟で行くと何故かピンポイントに着地できず回り込まなくてはならないめんどくさいあの場所である。しかし、お互い一緒に居られるだけで幸せいっぱいなバカップル冒険者には、その遠回りさえ嬉しいので何ら問題は無かった。
「ほらミミ、ススキがちょうど盛りの時期で綺麗だぞ」
「ほんと綺麗・・・。風が吹くと、銀色の海みたい・・・」
「銀色の海、か。確かに波のようだな」
二人はしばらくベクセリアの壮観なススキの平原を眺め楽しんでから、地図を頼りに洞窟を探し、中に入った。中は遺跡タイプの普通の宝の地図と同じような構造だった。出てくる敵も中レベル程度の遺跡タイプによく出てくるものたちだ。いつ魔物の巣に当たるかわからないので、イザヤールはしぶしぶミミから少し距離を置いてステルスをかけ、ミミはやや緊張しながら歩いた。リラックスしなければと躍起になるほどますます固くなってしまう。立ち止まって深呼吸し、そうだ、ウォルロの高台のスライムたちの住処に遊びに行くつもりで行けばいいんだと考えて、彼女のぎこちなさはかなり落ち着いた。見守っているイザヤールもその気配を感じ取り、よし、いいぞと心の中で声援を送る。
七フロアほど降りて歩いていたところ、通常の宝の地図の洞窟には無い扉があるのを見つけた。ご丁寧に表札まであり、そこには「魔物の巣」と書いてある。
「・・・」
これこそツッコミどころなのだろうかとミミは少々悩んだが、それはともかく中にどう入ろうかでも悩んだ。いきなり入るべきか、ノックして「ごめんくださ〜い」と声かけして入るべきか、こっそり潜り込むべきか、どれが一番さりげなく魔物たちにとけ込める入り方なのか。扉の前で迷っていると、ミミは後ろから突然声をかけられた。
「あれ〜?お嬢さん、何かご用?」
振り返ると、スライムマデュラが居た!ミミは焦ったが、スライムマデュラに敵意は無いらしく、濃い紫の瞳を見開き動揺で頬を少し上気させているミミを見て、みるみる笑顔になって(スライム属は皆元々笑顔だが)言った。
「うわぁ、キミ、可愛いね〜♪よかったらお茶でも飲んでいきなよ♪」
まるでナンパのような展開だが、なんといきなり目的が果たせそうである。スライムマデュラは「ただいま〜」と言って扉を開け、ミミを中に案内した。イザヤールもステルスで気配を消したまま、扉が閉まる前に中に滑り込む。
中に入ると、広い空間になっていて、スライムマデュラやゴールデントーテムなどのスライム属の他にもラストテンツクやサタンメイルアイアンブルドーなど、たくさんの魔物たちが思い思いのことをして寛いでいた。おやつを食べている者、新聞を読む者、昼寝をしている者、お喋りをしている者、謎の遊びをしている者などそれぞれ好き勝手している。ミミを連れてきたスライムマデュラは、彼女をススキの穂を積んで作ったクッションに座らせ、お茶とお菓子を出してくれた。
「誰〜?お客さん〜?」
寝ころんだままラストテンツクが尋ねたが、ミミを見ると、急に目をキラキラさせて跳ね起きて、駆け寄ってきた。ぎくりとして構えようとしたミミだったが、ラストテンツクは攻撃ではなくミミに色紙を差し出し、言った。
「あなたは超有名踊り子冒険者のミミさん!敵ながらあっぱれと我々の間でも評判だよ!サインして〜」
「あ・・・あの・・・。どうして敵ってわかっているのに攻撃してこないの・・・?」
「だって、巣に居るときは、僕たちオフタイムだもん。ミミさんだって別に、攻撃しないでしょ?」
「え、ええ、まあ、あなたたちが攻撃してこないなら・・・」
ミミは答えてサインをし、お茶とお菓子をご馳走になり、集まってきた他のミミのダンスファンの魔物たちにもサインをし、夕飯のカレーを作るのまで手伝って(ステルス中のイザヤールも手を貸したので更においしく仕上がった)、お土産のスライムクッキーまでもらって帰ったのだった。
帰り道、ミミはイザヤールに尋ねた。
「ねえイザヤール様、これって、『さりげなくとけ込んだ』っていうのかなあ・・・」
「う〜ん・・・。どちらかと言えば、『可愛さと人気で招かれた』のような気がするが・・・」
「スライムマデュラ君が可愛いって思ったってことは・・・私、もしかしてスライム顔・・・?」
「いや、それは絶対に無いぞっ!」
セントシュタインに戻ると、依頼人の男が笑顔で出迎えた。
「いや〜素晴らしい、見事に魔物の中にさりげなくとけ込んで・・・って違うでしょ!なんですか、あの大人気っぷり!あれじゃさりげないどころかスターが村にやってきた状態じゃないですか!・・・まあ条件は一応満たしてますから、お約束の品は差し上げます」
ミミは「たまはがねのこて」をもらった!
「これでたくさんツッコミの練習をすれば手首も鍛えられます!一石二鳥!」
「手首痛めるような気もしますけれど・・・」
結局「普通」になれずツッコミスキルは向上しなかったなあと思ったミミだが、旅行から帰ってきたサンディの言葉で気持ちが少し軽くなった。
「旅先で見かけた変わってるケド超スッゴい旅芸人が言ってたワヨ、旅芸人は自らがまず輝かなければ、みんなの笑顔を輝かせることなんてできない、そしてその輝きは、各々違うから素晴らしいって!」
『フツー』じゃなくてもいい、自分のできることから努力していこうと改めて思ったミミだった。〈了〉
『旅芸人』とひとまとめに言っても、ミミちゃんの様に踊りで人を楽しませる踊り子タイプと
ギャグ等のお笑いで人を楽しませる笑わせ師タイプに別れるんでしょうね。
盗賊時でもスパスタ経験者だと見抜かれた
(クエスト『スターの悩み』参照)ミミちゃんがさり気なくお茶会に紛れ込むってのは難しいですよね〜。そしてツッコミスキル強化の筈が『スライム顔…?』でボケスキルが強化されたなぁと思ったりw
イザヤール様にツッコミされてるしw
ちなみに10でもツッコミが特技として登場しますが、普通の時は裏手でペシッ!と9と同じ動作ですが会心時はハリセンでベシン‼︎(会心の一撃音付き)
ミミ©︎「リリン、ククールさんこんにちは。
何してるの?」
ククール「ご覧の通りデート。」
リリン「シェルル寝てて退屈だったし」
ミミ©︎「そ…そう(シェルル君って…汗
クク「ミミちゃん、また変な奴に絡まれたな」
リリ「私、ああいう、つまらない男って嫌い」
クク「ミミちゃんは良い意味でボケだよな」
ミミ©︎「サンディにもよく言われるの
もっとしっかりしなきゃ」
リリ「ねぇ?ミミのイザヤールさんとうちのおっさん師匠、交換しない?」
ミミ©︎「えっ!?(゚o゚;;」
リリ「冗談よ、ウフフ。やっぱり面白いわ」
クク「ったく…ごめんな、ミミちゃん
その頃…
シェルル「良く寝た。リッカちゃん、リリンは?
リッカ「ククールさんと遊びに行ったわよ。
シェ「∑(゚Д゚)
いらっしゃいませこんにちは☆クエストってけっこうめんどくさいものが多いと思うので、依頼人も自然とけっこうめんどくさい人が多くなるかな〜・・・と思っているんですが、それを抜きにしても今回の依頼人めんどくさかったですね、すみません(笑)
旅芸人もいろいろなタイプがあるでしょうに、ボケもツッコミもダンスもジャグリングもしなきゃいけない9旅芸人は本当に大変だと思います。
10のツッコミの会心はハリセンなんですか?!どんな熟睡や混乱も一掃できそうだなあ・・・。
ミミ「またからかわれちゃった///危うくイザヤール様と離れたくないって叫んじゃうとこだったの・・・あれ?交換相手もイザヤール様だから、その返事じゃダメだった・・・?」
サンディ「ホントアンタってからかい応えあるわ〜(呆)」
彼氏さん、今度は昼寝で(泣)可愛い彼女はちやほやしなきゃダメ、絶対。と思います。