墨のことを、もう少しお話します。
墨には松の枝などを燃やして取る煤(すす)を原料にした『松煙墨(しょうえんぼく)』と
菜種油など油を燃やして取った煤(すす)を原料にした『油煙墨(ゆえんぼく)』があります。
『松煙墨』は少し青みがかった色をしているため『青墨』とも呼ばれています。
水墨画で使うのは、この『松煙墨』、つまり『青墨』です。
お友だちの皆さんがお習字で使っているのは『油煙墨』です。
煤は炭素の微粒子ですが、この2種類の墨の原料となる煤の粒子には違いがあります。
油煙で取れる煤の粒子は細かく、均一な大きさをしています。
松煙で取れる煤の粒子は油煙より大きめで、その大きさも均一でなく大小のムラがあります。
そのため、濃墨で書くお習字の文字は『油煙墨』の方が滑りが良く、艶のある文字を書くことができます。
水墨画はその名の通り、水をたっぷり使って、墨の濃淡の美しさを表現します。
水墨画で用いる『松煙墨』=『青墨』は、粒子に大きさのムラがあるため、
作品が仕上がった時、墨の濃淡の表現だけでなく、光の当たり方によって、見る角度によって、
墨の粒子が導く立体感と、深みを感じることができるのです。
水墨画は墨一色で表現されるのに、いろんな色を感じることができる。
「墨に五彩あり」などと言われますが
実は化学的にも裏付けされた部分もあるのです。
しかしやはり「墨に五彩あり」の本当の意味は、
鑑賞者の心のひだで感じる色のことだと思います。
それはモノクロ写真に感じるものに近いのではないでしょうか。
カラー写真よりも、モノクロ写真に
より多くのドラマを感じることはないですか?
情報が少なければ、人の心は欠けた部分を補おうとします。
その心の動きが加わることで、作品をより印象深く感じるのかもしれません。
さて、次回は紙(和紙)についてお話します。
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