山本寛斎という人がいた。
2020年に去った偉大なファッションデザイナーだ。
その全てを知るわけではないが、
ファッションで表現するだけにおさまらず、多くのプロジェクトを立ち上げて、
奇抜なステージ演出など、圧倒的な熱量を持って時代にうねりを作り続けてきた人だ。
私が彼の存在を知ったのは『流行通信』という雑誌を見た時だったと思う。
流行通信は、第一線で活躍していたデザイナーやクリエイターたちが
雑誌という枠組みを越えた表現に挑戦していたアートカルチャー誌だ。
見たことのないファッション。大胆な写真表現。意味不明なスクリプト。無駄とも思える紙面構成。
その中に日本の伝統文化を花火にして打ち上げた山本寛斎も登場した。
その雑誌はなんじゃこりゃ尽くしだったけど、何度も何度も眺めているうちに
眠っていたものが揺さぶり起こされる感じがした。
自分の中にあるものを表現したい。
なにかを作り出す人になりたいと望むようになった。
アートとは自分の内なるものを表現することなのだと目覚めた瞬間かもしれない。
そして、それを創生するアーティストとは、命の限りをかけて己を表現し続ける
アスリートのように過酷な生き様であることは後になって気づくのだが。
先日、ふとつけたテレビに山本寛斎、その人が映っていた。
闘病中の体力の落ちた姿だったが、彼はこう言った。
「どんな苦しい時でも道は拓ける。夢は心の中にある」
と。
小学生たちにアートを教える場面では、
「面白いね!どんどん行け!どんどんやれ!」
と遠慮なく叫んでいた。
背中を押された子どもたちは、おおらかに伸び伸びとした作品を描いていた。
さらに子どもたちに向けて、こんな印象的な言葉も語っていた。
「世界の至るところで人と人が争う戦争がある。
君たちはどうぞ美しいものを作り出してください。
そうすれば世界はもっと平和で豊かなものに変わるはず」
SNSが表舞台に立った今の時代、他人の行動にとやかく口出しする人を多く見かけるようになった。
それを苦にして人生の幕を閉じる人の話も後を絶たない。
人の生き方に介入する『お節介』とは恥ずべきことだ。
しかしそれを臆面もなくする人が増えてきたように感じる。
世の中には、どうしてこうも人をジャッジしたがる人がいるのだろう、と考えるに
人の行動を見張って、とやかく文句を紡ぐ人は、
相対的な中にしか自分の価値を見出せない人なのだろう、と思う。
自分の中に自分を評価する物差しを持たない人。
常に自分と比較する他者や物事を探して、
自分の位置を確認するしか術を持たないのだろう。
山本寛斎が
「夢は心の中にある」
というように最高の夢、最高の人生は、自分の中にしかないのだ。
人生をかけて成すべき夢は、万人の心に宿っているはずなのに、それに生涯気づけない人もいるのだ。
彼はこうも言っていた。
「人がどう言おうが自分の信じた道を進め。
誰もやったことがないことは、とても緊張するけど、すごくワクワクすることなんだ!」
「個性を出せ、自分にしか作れないものを作れ、めいっぱいやれ!」
「行け、行け、もっと行け!」
2020年歳晩。
来年に向けて、大きな勇気をもらった50分間だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます