好きなものが好き

多忙により、当ブログにて縮小活動中。

2024年11月01日 10時06分05秒 | 小説
 
「ただいま」
 
「おかえりなさい。はい、これ。とうさん宛だって」
 
珍しく早めの帰宅をしたタリウスを自室でシェールが出迎えた。
 
「ああ」
 
息子の差し出した封書を見るなり、タリウスは眉を寄せた。ほとんど条件反射のようなものだ。
 
「昼間、おばちゃんから預かった」
 
「そうか」
 
差出人は想像とは異なった。タリウスはその場で手紙の封を切り、ざっと目を通した。
 
「何だった?」
 
「お前の親の残したものがあっただろう。その知らせだ」
 
「何にも残ってないと思うけど」
 
「そうではない。財産、お金のことだ」
 
「財産?あんなつぶれそうな、おんぼろ宿屋にそんなものあったの?!」
 
「シェール、口が過ぎる!」
 
「な、なんでとうさんが怒るのさ」
 
息子の軽口を叱りつけると、納得いかないのかシェールはこちらに対して非難の目を送ってきた
 
「自分の育った家だろう。何故貶めるようなことを言うんだ」
 
「自分の育った家だからだよ」
 
「は?」
 
「そりゃとうさんにぼろ屋とか言われたら頭に来るけど。僕のうちだから、僕が言う分には問題ないと思う」
 
「面倒な奴だな」
 
タリウスは息子を一瞥すると、手紙を封筒にしまった。
 
「ひっどい。言っとくけど、とうさんだって相当めんどくさいからね!」
 
「わかっている」
 
なかなかの言われようだが、如何せん自分でも自覚しているだけに否定できない。
 
「だからこそ、お前の親なんぞつとまっているんだろう?」
 
「えーと」
 
流石に返す言葉かないと見え、シェールは頭を抱えた。
 
「さしあたり、似た者同士ということで良いか」
 
「良いよ。何かちょっとモヤモヤするけど」
 
息子は不満そうにしていたが、その瞳を見る限り満更でもないようだった。
コメント (1)
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近況

2024年08月28日 15時38分33秒 | そらごと

連日連夜お暑いせいか、毎夜悪夢オンパレードのそらでございます。こんにちは。言わずもがな、だいぶ追い詰まっている模様です。

まあ、誰に強いられたわけでもなく、自分たちで決めたことなのでね、泣き言が言えた義理ではないのです。が、すべて済んだあかつきには、ぜひとも暇潰しに事の次第を聞いてやってください。

で、こんなときに限って、仕事のほうでも滅多に当たらない面倒な業務を引き当ててしまい、日々削られております。一時期に比べ、だいぶ回復したとはいえ、体力的にはまだまだきついなか、勘弁してくれと思う反面、仕事自体は楽しくて。勢いに任せて辞めなくて良かったかも?と感じております。

それでも心労がたたると、やっぱりもう家から出たくない!二足のわらじなんて無理だ!と思う日もあり。日々、ジェットコースターみたいな心情です。

まわりのみなさまに支えられてどうにかなってる感じですよ。

 

これから年末くらいまで、留守がちになると思います。今年こそクリスマスネタをやれたら!って、もう何年言ってるんだかね。ともあれ、しばしお別れです。どなたさまもご自愛ください。

コメント (2)
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メール(開通しました)

2024年08月15日 21時33分22秒 | おしらせ!

いつからかわからないのですが、サイトに置いてあるwebメールが機能していません。私にメールを送ろうとしていただいた方、本当にごめんなさい。そして、原因がすぐにはわからず。

解明、修正しました。大変申し訳ございませんでした。

どういうわけか、Gmailに転送されず。

 

ちなみに、web拍手のコメント欄は生きていますので、あわせてご利用ください。テキストボックスにご用件を記入後、「もっと読む」を押してください。正常に送られていれば、次ページ下部に内容が表示されます。

 

ここから追記。

たぶんですが、Gmailはフォームメール等の転送メールをなりすましと見なすみたいで、それでうまくいかないようです。転送先をプロバイダのメールに変えてみたらいけました。普段、この手の通知メールを読まないので、敗因はそれですね…

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続鬼の神髄23

2024年08月11日 20時06分44秒 | 小説(パラレル)
四校会議がつつがなく執り行われ、一行はそのまま隣室に用意された宴席へと雪崩れ込んだ。例年であれば城下の店屋を貸し切って盛大に行うところだが、今年は戦時下であるご時世を鑑み、あくまで会議の延長として簡素に行うことにした。
 
宴も終盤に差し掛かり、ぼちぼちお開きかという頃合いである。タリウスはひとりバルコニーに出て夜の風に当たっていた。本来ならば、ホストがこんなところにいて良いはずはない。だが、人付き合いが一際不得手な彼にとって、たとえ束の間でもこうして自分を労ってやらねば身がもたなかった
 
「ジョージア先生」
 
ふいに背後から呼ばれ、もう見付かったかとタリウスは吐息した。
 
「こんなところにいらっしゃったんですね。捜しました」
 
「自分の部屋にいただけだ」
 
「それはそうなんでしょうけど」
 
イサベルである。バルコニーは宴席の会場から教官室を挟んで主任教官の執務室まで一続きになっている。当然のように足が向いた先は自室の前のため、宴席会場の窓から見た限りでは、発見出来なかったのだろう。
 
「リッデル先生から伺いました。その、私の今後について…」
 
イサベルは探るような目を向けた。
 
「お前はどうしたい」
 
「私は………」
 
イサベルは一瞬こちらを盗み見ると、すぐさま視線を逸らした。
 
「私は、北に帰りたいです。怪我の功名なのか、手も動くようなりましたし、まだ私に出来ることがあるとしたら、故郷の役に立ちたいです」
 
「そうか」
 
元はと言えば、四校会議への出席と病の治癒がイサベルの目的である。それらが果たされた以上、彼女は郷里に帰るのが順当である。
 
「でも、こちらにもやり残したことが」
 
イサベルの顔が曇る。タリウスはそんな教え子の姿を見て、チクリと胸が痛むのを感じた。
 
「予科生の育成に中途半端に手を出してしまい、その上、私が不甲斐ないばかりにディラン教官が大怪我を負う事態に」
 
「ディランの件はお前のせいではない」
 
「ですが、ダルトン殿が来るまで、あの場で動けたのは私ひとりです」
 
「そうだとしても、部下の不始末は俺の責任だ。それに、お前とディランは、予科生を全員無事に帰校させたんだ。何も気に病むことはない」
 
「無理です。気に病みます」
 
そこで、これまで気丈に振る舞っていたイサベルの瞳からぽろりと涙の粒が落ちた。
 
「オーデン!?」
 
「すみませ…」
 
一度緩んだ涙腺は如何ともしがたいようで、彼女は後から後から流れてくる涙を止めようと必死だ。
 
「こんなところで泣くな、頼むから。こら、オーデン。泣き止め」
 
タリウスは困り果て、躊躇いながらも教え子の髪をそっと撫でた。もちろん瞬時に周囲を窺うことも忘れてはいない。
 
「せんせーい」
 
だが、むしろ逆効果だったようで、彼女は声を上げて一層激しく泣いた。更に、こともあろうか、タリウスの胸に額を擦りつけた。
 
「こ、こら!」
 
こんなところを誰かに見られようものなら、どう申し開きをしようとも確実に終わる。それもよりにもよってこんな日にである。
 
「この際だから言っておくが、俺も男だ。イサベル=オーデン」
 
「はぃ?」
 
予想外の台詞に、イサベルはきょとんとして教官から離れた。
 
「無防備過ぎると言っているんだ。子供じゃないんだ。自衛しろ」
 
「あ、あ、あ、あ、あー!!そ、そうですよね。そうでした。そうでした。失礼しました」
 
彼女は慌てて距離を取ると、何とも情けない顔を見せた。こうしていると、まるで子供だ。
 
「で、どうすれば気が済むんだ」
 
「えーと、私をここに置いてください。今の予科生が卒校するまで」
 
「長過ぎるだろう。ディランの怪我のことを考えても、どう長く見積もってもそこまでかからない」
 
「ですから、中途半端なのが嫌なんです」
 
「何?」
 
「昔、訓練生だったときにも思ったことですが、一ヶ月やそこいらで出来ることなんて高が知れています。今度こそ腰を据えて取り組みたいんです」
 
「そうは言っても…」
 
「何をぴーぴー騒いでいるんだ」
 
そのとき、彼らの間に良く通る声が割って入った。バルコニーが騒がしいの聞きつけ、何者かがやってきたのだろう。
 
「リッデル先生!」
 
イサベルは、自分を挟んで向き合う二人の教官を交互に見やった。
 
「申し訳ない。こいつは泣き上戸なんだが、ひょっとして貴殿にご迷惑を?」
 
「酔っぱらっていたのか」
 
タリウスは反射的にこめかみを押さえた。最近ご無沙汰だった頭痛が俄に振り返してきた。
 
「いや、快気祝いにと思って、少々飲ませ過ぎた。悪いな」
 
月明かりしかないバルコニーにいるせいか、一見するとイサベルは酔っているようには見えない。が、彼女のこれまでの行動を考えるとことごとく怪しい。
 
「それで、先程の続きなんですけど、二年間、こちらでお世話になるということでよろしいでしょうか」
 
「酔っ払いと話はしない」
 
「ああ、案ずる必要はない。こいつはどれ程酒が入っても、記憶はしっかりある。悲しいくらいにだ」
 
タリウスが切って捨てるも、リッデルがすぐさま話を続行させる。
 
「はあ、そうですか。では、期限その他については、先程お話したとおりお願いいたします」
 
タリウスは、何だか馬鹿馬鹿しくなって、極めて投げやりに言葉を返した。
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続鬼の神髄22

2024年07月15日 03時35分24秒 | 小説(パラレル)
 
悪夢のような一日が過ぎ去り、更に一夜が明けた。随分とごたついたが、結果としてどうにか予定どおり四校会議の開催に漕ぎ着けた。
 
「オーデン、お前はこんなところにいる必要はない。下がれ」
 
来賓を迎えるため、タリウスが玄関ホールに降りていくと、そこには先客がいた。
 
「そうおっしゃいますけど、ガイルズ教官はお出掛け、ディラン教官が寝たきりとなれば、私くらいしか来客をお出迎え出来ません」
 
「お前も来客だ。いいか、オーデン、俺にも立場が…」
 
「リッデル先生のことでしたら、大丈夫だと思いますよ?たぶん」
 
言っている側から、話題の人物が片手をあげてやってくるのが見えた。イサベルは一目散に恩師の元へ向かった。
 
「思いの外元気そうだな、イサベル=オーデン。問題は解決したのか」
 
「はい、つい昨日克服しました」
 
「それはまたえらく最近だな。昨日一体何があった」
 
「それがですね、話せば長いのですが、昨日演習の最中に狼が………うぅぐっ!」
 
人の口に戸は立てられぬと言うが、タリウスは教え子の口を無理やりふさいだ。たった今、こちらの立場を言及したところだと言うのに、簡単に裏切るとはどういう了見だ。
 
「このまま息の根を止めてやろうか」
 
イサベルは教官の手を振りほどこうと全力で爪を立ててくる。
 
「そいつは困るな。折角面倒な病(やまい)が治ったというのに」
 
「病?」
 
リッデルの言葉に、タリウスはあっさりと手を離した。イサベルが苦しそうに咳き込む傍ら、こちらも手の甲に裂傷を作った。
 
「こいつは戦場で仲間を誤射して以来、まともに射てなくなった。聞いてないのか」
 
負傷したとは聞いていたが、誤射の件は全くの初耳である。当のイサベルを見ると、あからさまに目をそらされた。
 
「不躾なお願いで恐縮ですが、今しばらくお借りしても?」
 
「それは構わないが、こいつには教官らしいことなんぞ何一つ出来ないぞ」
 
「ならば、北では何を?」
 
「何って、今の北部士官は野戦病院みたいなものだからな。精々が看護婦の真似事だ」
 
タリウスは閉口した。
 
「あの、私アドリー教官のお手伝いをしてきます」
 
身の置き場に困ったイサベルが、自らそう切り出すまで、さほど長くは掛からなかった。
 
 
「で、期間だが、今年一杯で良いか」
 
「は?」
 
リッデルの話が読めずに、タリウスは思い切り呆(ほう)けた。
 
「何だ、それ以上か。どんなに長くても二年が限界だ。あれには私も将来を嘱望している」
 
「あ、いや」
 
話がイサベル=オーデンの処遇だと知って、タリウスは益々困惑した。もうしばらくとは、精々が会議が終わるまでを指していたからである。
 
「もちろん、ただでとはいわない」
 
「と言うと」
 
「そうだな、最低限あいつの育てた訓練生を何人かこちらに寄越して欲しい」
 
「そのようなことは、私の一存でどうにかなることではない」
 
「それはそうだろう。どうせ大した議題はないんだ。じっくり話し合おうじゃないか」
 
「あ、いや…」
 
もはやすっかり相手のペースである。リッデルは困惑するタリウスを従え、嬉々として会議室へ向かった。
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