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ファミリーストーリー

平凡な一庶民のファミリーヒストリーを架空の私小説として紹介し、昭和を生きた青春の回想です。

新・ファミリーストーリー(9)

2025-09-02 09:44:10 | 小説

私小説 新・ファミリーストーリー(9)
(病気をつきとめよ!)

(登場人物・場所などはすべて架空です)


(Web page より引用)

 

病気をつきとめよ(第8話:ガス中毒)

 1995年(平成7年)の地下鉄サリン事件から間もないころに、工事作業中の作業員6人が意識不明との救急電話が入った。サリン事件からまもないことから“すわ”事件かと色めき立った。当院には3名の意識不明者が搬送されて来た。救急医から脳波測定の指示があった。

検査スタッフ:
 脳波が出ません・・・?
三名(僕):
 脳波計のゲイン(増幅)を最高にして・・。

検査スタッフ: 
 はい・・、わずかに脳波が見られます・・。
三名(僕):
 そのまま、脳波を録り続けて下さい・・。

 作業現場の様子から、“ガス中毒“と思われたが、何のガスかは分からない・・、一酸化CO、硫化水素、青酸性(シアン)物質など、いろいろ考えられが、特定する分析機器が地元の大学病院にもないと言う。

救急医:
 三名技師長は自衛隊の衛生学校出ですね・・、ガス中毒の経験はありませんか・・?

三名(僕):
 確か・・、東京に“ガス中毒センター” があったと思いますが・・?

 救急医は早速、“ガス中毒センター”に電話したが、一向に繋がらない・・、後で分かったことだが、担当者は居らず電話だけが置いてあったらしい?

 そこで僕(三名金作)は、自衛隊衛生学校時代にお世話になった“生物化学防護隊”に電話してみた。すると運よく隊長が在籍しているとのこと・・、

三名(僕):
 先生・・ご無沙汰しております。
隊長:
 おおー、金作か・・、どうしておる?

三名(僕):
 先生、実は“かくかくしかじか”でと、挨拶もそこそこに手短に今の状況を伝え、対処方法などを尋ねた。
隊長:
 分かった・・担当の医者と代わってくれ・・、金作は用手法(手仕事)でガスの特定を急ぎなさい、
 簡易方法を衛生学校で教えた筈だぞ・・!
三名(僕):
 はい分かりました・・、担当医と代わります。

担当の救急医との電話の後で、

救急医:

 解毒作用は確認されていないそうだが、”〇〇マグネシウム” の静脈注射を試す価値がありそうですので、
 すぐにやってみましょう。

そして、意識不明の3名に静脈注射を行ったところ、脳波がハッキリと見られるようになり意識が戻った。治療に当たっていた医師・看護婦(師)・検査技師など医療スタッフから歓声があがった。

 その頃、TVニュースで別の病院に搬送された患者の現況について記者会見する様子が放映され重篤な”肺水腫” だと言っていた。たった1本の静脈注射で生死を分けたのだ・・、この事は県議会で与党の議員から衛生局長に、ガス検査装置の不備が質された。この議員は、県議会での質問にあたり、僕(三名金作)に当時の実情を聞きに来ており、その事実をもとに議会で質疑に立ったのだ。
 この議員による質疑は地方紙(新聞)に取り上げられたが、議員の質問のあった翌日、僕に県庁の衛生局から電話があり、「民間(私立)病院の一介(取るに足らない)の検査技師がどうして与党の有力議員に今回の事故のことを話したのか・・?、 議員とはどういう関係か・・」と詰問された。さすがに、この詰問に僕は腹がたったので、議員会館に赴き質問者の議員に、この様な電話があったことを話した。議員も怒った様子で卓上の電話をとり語気も強くどこかに電話すると、すぐに衛生局長と部長が飛んできて、部下の担当者の勝手な振る舞いだと議員に謝ったが、立ち去る際に僕に一瞥(相手を軽蔑する)を投げて部屋を出た。 
 議員は僕に「誠にすみません・・、これが役人の実態ですよ」と言った。しかし、僕はこの県庁の役人が“官尊民卑”(官史を尊び民間人を軽視する)であることは、すでに経験していた。それは、何年か前にタンカーによる重油流失事故があり、港湾内が重油で汚染されたときの事で、人工衛星の画像解析で港湾内を調査するために、大学の准教授と一緒に県庁の港湾局に許諾を取りに行った時のことである。名刺を差し出すと、担当者は「民間の方」(僕のこと)は廊下で待っている様に言われ、「先生はどうぞ部屋の中にお入り下さい」と丁寧な態度であった。

 数か月後、病院正面の車寄せ(駐車場)に数台の自衛隊のジープが止まった。そして、出迎える病院長・医長・総看護婦(師)長・事務長の前にジープから降り立ったのは、“生物化学防護隊”の隊長(医官)だった。僕にとっては恩師であり、隊長の肩章が眩しかった。


(イメージ画像)

 


新・ファミリーストーリー(8)

2025-08-13 10:00:54 | 小説

私小説 新・ファミリーストーリー(8)
(病気をつきとめよ!)

(登場人物・場所などはすべて架空です)

病気をつきとめよ(第7話:喘息 その2)
 アレルギー型の気管支喘息患者の多くは血中のIgEが高いことが知られているが、このIgEに先行して血中の白血球である好酸球と好塩基球が増えることが分かった。好酸球と好塩基球の数はスライドガラスに少量の血液を薄く塗り染色して顕微鏡下で数えるので時間がかかる。そこで僕(三名金作)は患者の耳朶血(耳たぶから少量の血液を採取)から、メランジュール(白血球数や赤血球数を調べる器具:下図)を使い、好酸球と好塩基球を染色することを思いついた。


(血球計測器:メランジュール)

 そして、喘息患者の”好酸球と好塩基球” の数を数えていると、喘息発作の前にこの白血球数が増加し、数日後にIgE も上昇することが分かった。そのメカリズムは諸説あるが、発作の予兆を捉えることに役立つなら、発作の前に気管支拡張剤などの投与など予防的な処置が可能とならないか・・・、僕は毎日入院中の喘息患者の了解を得て微量の耳朶血を採って ”好酸球数と好塩基球数”を計測することにした。そして、増加の見られた患者に気管支拡張剤の吸引や薬剤の投与によって、多くの患者の発作を抑制・軽減することができ、統計学的な検定でも有効であることが証明された。その後の研究で、今では専門医の指導による予防的な薬剤投与の有効性が認められている。 
 また、液体クロマトグラフィーを導入し、患者一人一人の気管支拡張剤などの血中濃度から投薬の適正量を把握し治療のための情報を提供した。
 一方、夏休みには、喘息患児のためのサマーキャップを開き、森林浴などでリラックスさせ自律神経を整える生活を体験させたり、また、成人には音楽療法も採用して呼吸筋の強化などセルフメディケーションに取り組んだ。
 気管支喘息はアレルギー型・感染型・混合型に大きく分けられるが、その昔、”春かぜ”と呼ばれていた”スギ花粉症” の色々な症状も IgE によるアレルギー反応である。そこで、僕(三名金作) は空中に飛散するスギ花粉を採取し、顕微鏡下で花粉の量を観測することを、毎年の春先に始めた。
 

 空中浮遊飛散スギ花粉の観測は、検査科のスタッフから大不評をかったし、医師からもスギ花粉を観測して治療の役に立つのかとか・・色々と言われたが、地元の国立大学医学部の耳鼻科の准教授から、全県で観測する組織を作ってはどうかとの相談が寄せられた。准教授などの尽力もあって有志によるスギ花粉の観測が始まり、県下のスギ花粉飛散数と翌日の飛散を予測出来るようになり、地元のTV局の取材を受けて、天気予報の時間帯に “明日のスギ花粉は多くなるでしょう” などとスギ花粉注意報が出されるようになった。

次回に続く(第8話:事件か?)

 


新・ファミリーストーリー(7)

2025-07-25 10:04:55 | 小説

私小説 新・ファミリーストーリー(7)
(病気をつきとめよ!)

(登場人物・場所などはすべて架空です)

 

病気をつきとめよ(第6話:喘息 その1)
 気管支喘息患者の多くは血中IgE が高い・・が、慢性化すると難治性になって呼吸困難な状態が続き、日常生活に支障きたすようになる。高齢者では感染型気管支喘息や咳喘息が悪化して“慢性気管支喘息”になることもある。

 ここでは、IgE型(アレルギー型)の気管支喘息について、僕(三名金作)の知見を紹介する。
気管支喘息は、肺機能的には“閉塞性疾患”であり、X線像だけでなく肺機能検査のフローボリューム検査を行えば、そのパターンから判断できる。喘息など閉塞性疾患の典型的なパターンは下図のように、点線より下に凹の下降曲線を描く。


(フローボリューム曲線の模式図)

この検査は患者にとってシンドイ・・、と言うのは、ただでさえ呼吸が困難な患者に検査スタッフが・・・
 「吸って・・吐いて・・、もっと吐いて・・」

と、患者に努力させるからで、努力性肺活量とも言う。どうしても、上手に出来ない患者は仕方ないが、肺活量の正確な情報を把握するためには、患者に呼吸の方法を教え、何回か練習してから実施することになる。

(We site より引用)

 当初、男性のスタッフが肺機能検査をおこなっていたが、どうも男性の「もっと吐いて・・もっと・・」と患者への努力を強いる声が患者をイジメているように聞こえる。そこで、女性のスタッフに変えてみたら優しく聞こえ患者の評判も良かった。女性のスタッフはフローボリューム検査の前に、おもちゃの風船を膨らませる練習をして、患者を和ませるなどの工夫をしていた。
 気管支喘息は気管支が閉塞して呼吸困難になる。慢性化して呼吸の困難さに慣れると、喘息発作の兆候が鈍感となり、気管切開に至る場合もある。喘息患者の多くは血中の好酸球や好塩基球の数が増ていることに僕は(三名金作)は気づいた。

次回に続く(第7話:喘息 その2)

 


新・ファミリーストーリー(6)

2025-07-20 09:52:00 | 小説

私小説 新・ファミリーストーリー(6)
(病気をつきとめよ!)

(登場人物・場所などはすべて架空です)

 

病気をつきとめよ(第5話:心電図)

  昔の心電計は真空管式だったので、よく故障もあったが、僕は電気・電子に通じており、心電計はアンプ回路と同じであるので自分で修理することも出来たし、何よりも人体の体表面上からの心臓の電位を計測する仕組みも、よく理解することが出来た。
 当時の臨床検査は生化学的な検査が主流で、人体の電気現象(心電図、脳波、筋電図など) は工学的な専門分野とみなされていた。したがって、当時の衛生検査技師の試験には心電図などの試験が出題されることはなかった。しかし、衛生検査技師が臨床検査技師に統一されようになって、電気・電子工学の講習の受講を受けることが臨床検査技師の受験の条件となった。
 各県の衛生検査技師会において、電気・電子工学の講習が実施されることになって、僕に講習実施をどの様にすべきか・・、また、講師はどうすれば良いのか・・などの相談があった。幸い、僕には大学の電気科で先生をしている同級生がおり、その紹介で、その大学の教授と相談して、国家試験のために必要な講義を依頼することが出来た。そして、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第39号)」が公布され臨床検査技師が国家資格となり、心電図、脳波、筋電図などの検査が出来るようになった。
 今でも、心電図検査は四肢と胸部に電極をつけた12誘導心電図で、12の心電図、すなわち、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、aVR・aVL・aVF、V1・V2・V3・V4・V5・V6 の心電図波形から心臓の電位変化を捉え、心臓に異常がないかを判断するのである。したがって、電極を正しく装着する必要がある。


(Web site より引用)

 ある時、僕が心電図室に入るのと入れ違いに心電図を撮り終えた患者とすれちがった。その患者の心電図のコピーがあったので、何気なく見ると、どうも波形がオカシイ・・、

三名(僕): 
 この心電図のコピーは、今の患者さんのものですか・・?

スタッフ: そうですが・・?
 よく見せて下さい。

スタッフ:
 何かオカシイところが有りますか・・?

三名(僕):
 これは、四肢電極を付け間違っていませんか・・、電極が左側と右側を逆に付けていませんか・・?

スタッフ:
 そんな事はないと思いますが・・。

スタッフは少々 “むくれる(ふてくされる)” ような顔をしたが・・、

三名(僕):
 すぐに、診察室に行って、担当の医師に撮り直しの許可を得て下さい、患者には、念のためにと丁寧にお願いして下さい。

スタッフはしぶしぶ “はい・・分かりました” と言ったが、“むくれ" ていた。

僕が見守る中、正しい位置に電極を着けて心電図を取り直すと、やはり左右の電極を付け間違えていた。スッフは、バツが悪そうに僕に謝ったが・・" 担当した医師は、患者に正常な心電図だと言っていましたよ・・、 三名技師長さんはチラッと見ただけで間違いだとよく分かりましたね“ と言ったが、その昔、僕にも電極のつけ間違いがあって、その時の失敗の経験から学んだものである。

 当時、心電図を詳しく判読出来る医師は専門医くらいであり、詳しい心電図の判読は専門医に回されていたくらいである。そこで、僕は近隣病院の検査技師や看護婦(師)を対象に心電図判読の講習会を開いたが、うわさとなって医師も参加もするようになった。後に、“若年者心臓病対策協議会” が出来て、学童・生徒の心電図検診が行われるようになった。僕を班長としたグループが各学校に出向いて学童・生徒の心電図検診を始めた。しかし、校医や医師会からは、当然のように強い反発があったものの、応援してくれる有力な医師もおり、心電図の判読には専門医の確認と校医の許可を得ることなどで決着した。

 

 

(Web site より引用)

次回に続く(第6話:喘息)

 

 


新・ファミリーストーリー(5)

2025-07-13 13:37:22 | 小説

私小説 新・ファミリーストーリー(5)
(病気をつきとめよ!)

(登場人物・場所などはすべて架空です)

病気をつきとめよ(第4話:SLE 細胞)

 全身性エリテマトーデス(SLE)の特徴的な皮疹として、蝶形紅斑が顔面に現れることがあり、この当時、確定診断のためにLE 細胞の検出が一つの決め手となっていた(現在はLE細胞陽性が診断基準から削除されている)。このLE細胞は患者血液の白血球である好中球に貪食された均一無構造な紫紅色物質を見いだすことであるが、しかし血液の直接塗抹標本では認められない。

 そこで、採血した血液を試験管中に放置しておくと、血清と血餅に分離されるので、その血餅を乳鉢などですり潰したものをスライドガラスに塗って染色すると見つけることが出来る。

 この病気は、原因不明の全身性自己免疫疾患であり比較的に若い女性に多く、塗抹染色標本中に、このLE細胞を見つけたときは、なんとも悲しい気持ちになるが、検査技師としては冷静に真実を医師に告げねばならない。

未経験の検査スタッフは、僕(三名金作)が血餅をすり潰している様子を見て、

検査スタッフ:
 血餅をすり潰して、何をしているのですか・・?

三名(僕):
 こうやって、すり潰したものを染色してLE細胞を探すのです・・、やり方をみていて下さい。この塗抹標本をメイ・ギムザ染色してくれますか・・。

検査スタッフ:
  染色が終わりましたので、標本を顕微鏡で観ましたが好中球しか見当たりません。

三名(僕):
 ちょっと僕にみせて下さい。ここに、好中球に貪食された細胞があります。これがLE細胞の可能性が強い       と思います。確認して下さい。

この様に、
LE細胞テストの方法は簡便であり、また、診断の特異性が高いのでSLEの診断の有用である。このLE細胞の確認した医師は診断基準に基づき確定診断にいたるので、このLE細胞を発見することはSLE診断にとって大切な検査となる。
 検査技師は、顕微鏡下のチョットした変化にも気を付けて観察し、わずかな白血球像の変化にも注意して観察すべきである。

 事実、多くの白血病などは血液像(白血球数、赤血球数、血小板数、血色素、ヘマットクロトなど)の異常から検査技師によって発見されることが多い。この血液像に異常があれば、医師の指示を待つことなく、追加検査として染色して白血球などの形態に異常がないか調べてみることが大切である。しかし、医師の指導・指示あるいは監督のもとに行なわれる臨床検査では、検査技師の判断だけで検査を行えば、色々と悶着がおこるかも知れない、保険診療の範囲の逸脱や患者に余計な会計負担をかけるかも知れない。日頃からの医師や事務(会計)などとの意思疎通が必要で、検査技師の独断はさけるべきであろう。現実、検査技師が医師の真似事をするとして、検査技師を毛嫌いする医師もいるのだ。

 しかし、若い未経験な医師を育てるのもベテランの看護婦(師)や検査技師や放射線技師などである。

次回に続く(第5話:心電図)