†気味の悪い旅館
†友人のI田さんはもう6年程のお付き合いになる方だ
†旅行雑誌、というか旅行パンフと兼用のフライヤー作成をしている
†書店入り口等にある「無料です、ご自由に御取り下さい」という類の奴だ
†取材といっても予算は少ない、カメラマンもライターも自分だ
†依頼があると指定された宿に行き、1泊2日で写真を撮り、インタビューもし、と忙しい
†5千円で行ける近場の隠れ宿特集
†よくある企画の号で仕事の依頼があったI田さんは、早速用意して出かけた
†場所は差し障りがある為伏せる
†着いたのは昼過ぎ、まずは宿に行き、軽くご挨拶
†やたら売り込みして着いて回る女主人に疲れながらも、宿の外観写真は済ませた
†料理は夜の食事と明日の朝をそれぞれ撮影、インタビューは夕食撮影前に済ませる
†近辺の取材は明日帰りの電車までに、といったスケジュール
†宿自体は大きな木をたっぷり使った古い物で、貫禄十分
†山の麓にある宿で、近くには大きめの川がある
†他の宿は釣り宿を個性としているが、ココは特にそういった傾向が無い
†女主人は自然と料理が売り物です、と言っていた
†正直周りに見るべき所が少なく、何時もに比べて取材が楽だ
†明日は2・3箇所景色のいい所と、みやげ物屋を取材すれば終わり
†I田さんは幾らか気が楽になっていた
†東京からそれ程遠くない、つまり移動も楽、週末にちょいと気が向いたら行ける
†これなら旅行好きな人意外でも行きやすいではないか
†取材も楽で移動も楽なら悪くない、宿は人気が少ないが落ち着いている
†なるほど隠れ家といった雰囲気で、山家のたぬきにでもなった気分だ
†主人はちょっと押しが強くて厄介だが、ま、本に取り上げられるんだから無理も無い
†嬉しくて、ここがチャンスとばかりに躍起になってるんだろう
†それでも売りというだけあって、料理は中々だった
†川魚に山菜やきのこを使った味噌鍋、自家製という豆腐は悪くない味だった
†風呂も広く、木の香り溢れる浴室内は豪勢な気分にさせられる
†無料のドリンクが置いてあり、牛乳・コーヒー・水といった物が冷えているのも嬉しい
†これで5千円なら十分ではないか
†長くこういう仕事をしているが、中々良いといった宿が一番嬉しい
†とても良い宿はやっぱり高い、駄目な所は無数にある(安くても高くても、だ)
†相応の値段に+2・3点上げたくなるような宿が一番利用しやすい、という
†値段が手頃だから、何回も利用するのに適している、というのだ
†成る程、プロの見る目はそんな物か、と話を聞いていた
†しかし、いつまで待っても怖い話になりそうにない
†「面白い話しがあるから、久々に飲もう」というのだから何かあると思ったのだが
†聞けばやや狭い部屋が唯一マイナス点だったようだ
†それでも、フクロウののんびりした声を合いの手に川の音を聞きながら眠ったという
†しばらく移動が厳しい日程の仕事が連続していたのもあって、余計に良く休めた
†静かな夜に解けるようにして眠ったという
†明けて朝食を撮影、挨拶をし、辺りを取材、帰宅
†翌日遅く、編集部に寄り、写真や記事を提出、経費を精算してもらい、完了となった
†しばらくして、同じような仲間の記者とのんびり飲み旅でも行こうとなった
†打ち合わせがてら飲んでいると、話が膨らみ、他に2人が「俺も行く」となった
†I田さんはこの間取材した宿を薦めた
†何より安く、移動が楽な割りに自然を満喫出来る静かな環境と、十分な料理
†岩魚鍋でも頼んで、骨酒と洒落込もうじゃないかと盛り上がった
†皆I田さんと年が近く(27~30)、金も無い、そりゃいいなと飛びついた
†大体気の合う、同年代の仲間と、酒と料理の短い1泊旅行、楽しみだ
†I田さんは編集部に電話し、予約を頼めないかと頼んだ
†女主人の性格から言って、編集部が頼めばサービスがよくなる可能性が高い
†それを期待している所もあったのだ(料理が2・3品多くならんか、等)
†しかし、電話に出た馴染みの編集者の歯切れが悪い
†予約が出来ないというニュアンスの事を遠まわしに言っている
†問い詰めると、こんな話だった
†編集者が、クレジットカードの利用可・不可を聞こうと連絡したが出ない
†一向に連絡が取れず、ある若い新人が再度行ってみた
†誰もおらず、運営している気配がない
†不思議に思ってその町の観光科に尋ねると、奇妙な結果が分った
†ずいぶん前から商売は止めている
†年のいった主人が死んでから一度も再開していない筈だ
†ではI田氏が泊まった時にいたのは幽霊でも出たんか?
†幽霊が食事を用意し、風呂を沸かす?馬鹿げている!
†当然そうではなかった
†そうであった方が気分は良かったかもしれない
†近くの施設からある女が抜け出した
†精神の不安定さが彼女の人生をペット並みに変えた
†耐え切れず、時折非常に暴力的で、暴れる事もあった
†彼女はこの宿に以前家族で来ており、印象深かったのかもしれない
†逃げ出し、この廃宿に入り込む
†地道に掃除し、徐々に使えるようにする
†電気・水道を申し込み、ガスのプロパンを頼む
†支払いは全て施設宛てになっていたらしい
†彼女は施設が支払い請求に気付き、尋ねてくるまで主人を演じた
†I田さんは運良く(悪く?)その期間に泊まった訳である
†つまり、何時爆発するか分らない主人の家にいたのだ
†その後彼女の行方は消えている、生死の判断もつかないという
†今考えるとぞっとするよ、I田さんはそう言ってタバコに火をつけた
†友人のI田さんはもう6年程のお付き合いになる方だ
†旅行雑誌、というか旅行パンフと兼用のフライヤー作成をしている
†書店入り口等にある「無料です、ご自由に御取り下さい」という類の奴だ
†取材といっても予算は少ない、カメラマンもライターも自分だ
†依頼があると指定された宿に行き、1泊2日で写真を撮り、インタビューもし、と忙しい
†5千円で行ける近場の隠れ宿特集
†よくある企画の号で仕事の依頼があったI田さんは、早速用意して出かけた
†場所は差し障りがある為伏せる
†着いたのは昼過ぎ、まずは宿に行き、軽くご挨拶
†やたら売り込みして着いて回る女主人に疲れながらも、宿の外観写真は済ませた
†料理は夜の食事と明日の朝をそれぞれ撮影、インタビューは夕食撮影前に済ませる
†近辺の取材は明日帰りの電車までに、といったスケジュール
†宿自体は大きな木をたっぷり使った古い物で、貫禄十分
†山の麓にある宿で、近くには大きめの川がある
†他の宿は釣り宿を個性としているが、ココは特にそういった傾向が無い
†女主人は自然と料理が売り物です、と言っていた
†正直周りに見るべき所が少なく、何時もに比べて取材が楽だ
†明日は2・3箇所景色のいい所と、みやげ物屋を取材すれば終わり
†I田さんは幾らか気が楽になっていた
†東京からそれ程遠くない、つまり移動も楽、週末にちょいと気が向いたら行ける
†これなら旅行好きな人意外でも行きやすいではないか
†取材も楽で移動も楽なら悪くない、宿は人気が少ないが落ち着いている
†なるほど隠れ家といった雰囲気で、山家のたぬきにでもなった気分だ
†主人はちょっと押しが強くて厄介だが、ま、本に取り上げられるんだから無理も無い
†嬉しくて、ここがチャンスとばかりに躍起になってるんだろう
†それでも売りというだけあって、料理は中々だった
†川魚に山菜やきのこを使った味噌鍋、自家製という豆腐は悪くない味だった
†風呂も広く、木の香り溢れる浴室内は豪勢な気分にさせられる
†無料のドリンクが置いてあり、牛乳・コーヒー・水といった物が冷えているのも嬉しい
†これで5千円なら十分ではないか
†長くこういう仕事をしているが、中々良いといった宿が一番嬉しい
†とても良い宿はやっぱり高い、駄目な所は無数にある(安くても高くても、だ)
†相応の値段に+2・3点上げたくなるような宿が一番利用しやすい、という
†値段が手頃だから、何回も利用するのに適している、というのだ
†成る程、プロの見る目はそんな物か、と話を聞いていた
†しかし、いつまで待っても怖い話になりそうにない
†「面白い話しがあるから、久々に飲もう」というのだから何かあると思ったのだが
†聞けばやや狭い部屋が唯一マイナス点だったようだ
†それでも、フクロウののんびりした声を合いの手に川の音を聞きながら眠ったという
†しばらく移動が厳しい日程の仕事が連続していたのもあって、余計に良く休めた
†静かな夜に解けるようにして眠ったという
†明けて朝食を撮影、挨拶をし、辺りを取材、帰宅
†翌日遅く、編集部に寄り、写真や記事を提出、経費を精算してもらい、完了となった
†しばらくして、同じような仲間の記者とのんびり飲み旅でも行こうとなった
†打ち合わせがてら飲んでいると、話が膨らみ、他に2人が「俺も行く」となった
†I田さんはこの間取材した宿を薦めた
†何より安く、移動が楽な割りに自然を満喫出来る静かな環境と、十分な料理
†岩魚鍋でも頼んで、骨酒と洒落込もうじゃないかと盛り上がった
†皆I田さんと年が近く(27~30)、金も無い、そりゃいいなと飛びついた
†大体気の合う、同年代の仲間と、酒と料理の短い1泊旅行、楽しみだ
†I田さんは編集部に電話し、予約を頼めないかと頼んだ
†女主人の性格から言って、編集部が頼めばサービスがよくなる可能性が高い
†それを期待している所もあったのだ(料理が2・3品多くならんか、等)
†しかし、電話に出た馴染みの編集者の歯切れが悪い
†予約が出来ないというニュアンスの事を遠まわしに言っている
†問い詰めると、こんな話だった
†編集者が、クレジットカードの利用可・不可を聞こうと連絡したが出ない
†一向に連絡が取れず、ある若い新人が再度行ってみた
†誰もおらず、運営している気配がない
†不思議に思ってその町の観光科に尋ねると、奇妙な結果が分った
†ずいぶん前から商売は止めている
†年のいった主人が死んでから一度も再開していない筈だ
†ではI田氏が泊まった時にいたのは幽霊でも出たんか?
†幽霊が食事を用意し、風呂を沸かす?馬鹿げている!
†当然そうではなかった
†そうであった方が気分は良かったかもしれない
†近くの施設からある女が抜け出した
†精神の不安定さが彼女の人生をペット並みに変えた
†耐え切れず、時折非常に暴力的で、暴れる事もあった
†彼女はこの宿に以前家族で来ており、印象深かったのかもしれない
†逃げ出し、この廃宿に入り込む
†地道に掃除し、徐々に使えるようにする
†電気・水道を申し込み、ガスのプロパンを頼む
†支払いは全て施設宛てになっていたらしい
†彼女は施設が支払い請求に気付き、尋ねてくるまで主人を演じた
†I田さんは運良く(悪く?)その期間に泊まった訳である
†つまり、何時爆発するか分らない主人の家にいたのだ
†その後彼女の行方は消えている、生死の判断もつかないという
†今考えるとぞっとするよ、I田さんはそう言ってタバコに火をつけた