こやしのおっさんの唄（blog ver.）

（注）例によってシモネタ爆発です。
食事前、食事中の方は読むのをお止め下さい！

 

オレの実家は伊豆のド田舎だから、家の周りには畑やら田んぼやらがたくさんあった。
うちのオカンなんかは未だに、他人の畑に勝手にブロッコリーを植えて 「大きくなった！」って喜んでやがるくらいだよ。
がはははは。
まあ、今でこそ化学肥料の世の中だが、オレのガキの頃はこやしと呼ばれる人糞を、畑の側の肥溜めと呼ばれる場所に溜めておき、わらや落ち葉で蓋をして毒素を取って肥料にしてたんだ。
だから、肥溜めは一種の落とし穴みたいなものでね、そこに落ちる奴は後を絶たなかったよ。

そもそも子供はどこでも遊ぶけど、他人の畑の肥溜めなんて正確に把握したりはしてなくてね、だから誤ってドブンと落ちたらさあ大変、今まで仲良く遊んでいた友達は一斉に逃げ出すわ、風呂に入っても匂いは消えないわ、挙句の果てには
コエダメ君
なんて不名誉なあだ名で翌日から呼ばれるはめになり、まさに糞んだり蹴ったりだったよ。

しかも、肥溜めの大きさもまちまちでね、畑が広いと肥溜めもそれに比例して大きくて、下手すりゃ全身肥溜めに落ちちゃった奴もいて、本当にカワイソウだったよ。
まあ、オレだけどさ（笑）

しかし、良くそんな危険な落とし穴を放置してたと今さらながら思うよ。昔の人は寛大だよな。
尚、肥溜めは畑に設置されているので、自宅の人糞をそこまで運搬するのが肥え桶と呼ばれる道具。
これは、物干し竿くらいの長さの棒の両端に、バケツを二つぶら下げたような形状を想像してもられえばいい。
こんなヤツ
↓

で、そこのバケツ部分に人糞を入れ、棒を担いでえっちらおっちら肥溜めに運ぶわけだ。

さて、近所に通称こやしのおっさんと呼ばれるおっさんがいた。
本名は知らないけど、件の肥え桶をいつも担いで歩いていたので、いつしかガキどもからはそう呼ばれるようになった。
と言うか、肥え桶を担いでいない姿など見たことなかったな。

オレの友達は、オレも含め、肥溜めに落ちるという悲劇にあったことがないヤツはいないので、みんな少なからず肥溜めや肥え桶を恨んでいた。
そして、その憎悪は、このこやしのおっさんに一身に向けられていた。

だから、こやしのおっさんを見つけると、
「やーい、やーい、こやしのおっさん」
「臭ぇ臭ぇ。こやしの匂いだぁ」
「クソまみれのこやしジジイ」
という低次元なヤジをぶつけていたものだ。

いつもなら
「何だと、この餓鬼（←絶対おっさんの中ではこう変換されていた筈）ども」
と少し追いかける素振りをするだけだったのだが、その日は違った。
友達のカツジが投げた石が肥え桶の中にホールインワン♪、中の人糞がおっさんの服にかかってしまったから大変だ。
「貴様ら、今日という今日は絶対に許さにゃーぞ！！！」 と叫んだかと思うと、肥え桶を担ぎながら猛然と追いかけて来やがった。

いや、これはマジで怖かった。
何故って、おっさんの形相もさることながら、完全に肥え桶から糞尿が撒き散らされてたから。
だから、一目散に逃げた。
もうね、泣きながら逃げた。

さすがに、『もう大丈夫だろう』と後ろを振り向くと、
「待てぇぇぇ～！！！」
って、おっさん、まだ追いかけてくるよ。
しかも、重い肥え桶を担いでるにも関わらず、オレたちとの距離は狭まりつつあり、そのスピードに舌を巻いた。
まさに、便・ジョンソン。

そして、そんなおっさんのスピードと比例して、肥え桶が前後にぐわんぐわんと揺れており、前後に糞尿が撒き散らされているからタマラナイ。

「ぎゃー！！！」 ビチャビチャ
「待てぇぇぇ！！！」 ビチャビチャ
「た～すけて～！！！」 ビチャビチャ
「待てぇぇぇ！！！」 ビチャビチャ．．．

逃げるガキ４人と糞尿を撒き散らして追いかけるおっさん。
阿鼻叫喚の夏の一幕。

う～ん、こんな思い出はどうですか？

（お終い）