そらんぢ堂

アーカイブ図書館として残します。

『上の世界〜天国と地獄〜』

2023年03月03日 16時00分00秒 | 小咄
昔々、天国と地獄の世界の住人達が熾烈な戦いをしていました。

やがて自分達の世界に傷が付くことを嫌った両者は、大地と人間という『自分達の分身人形』を作りました。

やがてその大地にも様々な『国』が出来ました。

例えば『日本』という国もその一つです。

そこでは『天界側の人形』を『エリート』や『意識高い系』と呼び、『地獄側の人形』を『底辺』や『反社』、『チー牛』や『老害・Z世代』と呼びました。

誰が呼んだのか?
それはどちらにも属さない『無意味な有象無象たち』で、これは自然に湧いた『魑魅魍魎』達の末裔です。

このもの達は『魑魅魍魎』が『地獄側の人形』だと勘違いしてますが、それこそ『天界側の策略』で、完全に洗脳されています。

しかし本来の『地獄側人形』は、『ただ本能の欲求に素直』なだけの存在でした。

『天界』が示した綺麗事を嫌った為に、二つの世界に別れてしまう経緯を辿ります。

しかし、天界も地獄も人間達も、忘れてしまっていました。

そう『さらなる上の世界の存在』を。

遥かなる上位の世界を。

今…その『上位の世界』では、そこの住人による決定的な言葉が発せられました。

「こいつらの進化ゲームを見てきたけどさ、はじめの頃こそ面白かったけど流石に飽きたわ」

「んじゃどうする?潰す?」

「だなぁ。一旦全部消して再構成だなぁ」

この意味を理解出来るものは、天界にも地獄にも人間界にも皆無でした。

やがて時を待たずして、それまでそこにあったいくつかの世界は、全て完全なる『無』になりました。

〜完〜



小咄『えっちゃんとカズさん~1話~』 ✨

2023年02月12日 17時30分00秒 | 小咄
『えっちゃんとカズさん~1話~』

今日は夜勤だ。

仕事は楽ではないし、見合った報酬ではないと感じてはいるが、なんと言うか嫌ではないのだ。

多分自分に合っているのだろうと思う。

「はよーっ」
事務室の中に向かって声をかける。

「あ、えっちゃん、夜勤ね?」
事務長の長田さんがにこやかに言った。

私は両手で頭の上に○を作った。
少しゴリラっぽいなと思った。

更衣室では、同じく夜勤でのバディになるまりっぺが既に着替えを済ませていた。

「お、えっちゃんおはぁ」
「うす」
私も着替えを済ませたら日勤だった安田ちゃん、雅代さんとの申し送り。

私達が担当しているA棟1階は、他のエリアからすると『幾分楽な方』かもしれない。

それでも日によってだいぶドタバタ具合は違う。

さてさて、今日はどんな夜になるだろうか。

カズさんはどうだろう。

私が仕事を割と楽しめているのは、間違いなくこの人のおかげでもあるだろうと思える。

「カズさん今日はどんな感じです?」
申し送り時の確認は、いつもカズさんが一番最後だ。

特に問題行動は起こさないし、もの静かだ。

皆からは『また宇宙と交信してた』と言われているが、カズさんは私にそっと教えてくれた。

「ぼくは走馬燈と会話してる」のだと。

私はなんだかカズさんがえらくお気に入りなのだ。

やがて本当の夜が降る時間が来る。

仕事モードに切り替えつつも、カズさん観察の楽しい時間も始まるのだ。

~つづく?~

小咄『そらんぢ堂~あなたの走馬燈お預かりします~①話』🎅

2022年12月17日 19時00分00秒 | 小咄
【そらんぢ堂~あなたの走馬燈お預かりします~①話】

部屋の中は全体的に冷えていた。
うとうとする彼の足許には電気ストーブがあり、二段式の電熱部の上方だけを点けていて、ふわりと身近な空間だけを無音で優しく暖めていた。

時折音を発している画面と一体型のパソコンの画面には、雪夜のケベック旧市街地を歩きながら撮した映像が流れていた。

ふと、何者かの気配を感じて、彼は穏やかに覚醒してみる。

小さな女の子が立ったまま、パソコンの載るデスクに手をついて画面を覗き込んでいた。

「おじちゃん」
彼は答える。
「ん?なんだい」
「これはサンタさんのおうちの近く?」
彼は画面を確認する。
「残念だけどここは違うみたいだね」
そう言うとマウスとキーボードを動かせる左手だけで操作して、
「ほら、これがサンタさんの村だよ」
と、小さな女の子にサンタクロースビレッジの映像を見せた。

きらきらと輝く瞳で、食い入るように画面を眺める女の子。

「私ねぇ、病気が治ったらサンタさんに会うんだ」
「そうなんだね」
「うん、ママとパパと約束したの」
「じゃあ早く治さないとね」
「うん!」

にこやかに笑った女の子。
その頭を優しく撫でてやる事しか、彼には出来なかった。

どれくらいの時間が過ぎたろう。
短いような長いような。

彼の左手には、既に女の子を感じるものが何もなかった。

麻痺する右半身の足も手も、少し寂しそうな痛みを発した。

小さな女の子がサンタさんに会う事は叶わない。

ここは『そらんぢ堂』で私は主の『そらんぢ』、黄泉の国から戻されたもの。

なんの因果が、なんの意味があるのか分からない。

ただ…今こうして、さっきまで『生』を感じていた小さな女の子が最期に見た夢『走馬燈』を、この手に預かり、そして深淵の入り口にそっと流す役目を淡々とこなすだけ。

窓の外で風が鳴いた。
夜と一緒に誰かも泣いた。

パソコンの画面ではフィンランドの雪景色に、クリスマスライトが淡く反射していた。

ー①話完ー





小咄お米ちゃんシリーズⅢ後半✨

2022年11月11日 13時00分00秒 | 小咄
『おこめちゃん物語#3-後編-』
 
~#3-前編-より続き~
 
お爺さんは良く見えるように、切り株の上に『三粒』を乗せてあげてから、自分は薪割りに精を出していました。
 
突然頭上を影がよぎると、切り株の方から
「マメ~!」
と叫び声が聞こえました。
 
良く見ると立派な孔雀が、いんげんさんを咥えて飛んで行きました。
 
あっけにとられたお爺さんとふた粒。そこへさらに孔雀を追うように、何故か猿が
「ウキー!ウキキー!」
と走って行きました。
 
しばらく無言で固まっていた一人とふた粒。そこでお爺さんがぼそっと
「孔雀と豆とウキキ」
と言いました。
多分ふた粒も同じことを言っていたのかもしれません。
「ちゃんちゃい(ニ…シャンシャイ)」
が、実際のことは分かりません。
 
ところでお爺さんが呟いたその時、たまたま家の前を通りかかった阿蘭陀(オランダ)だか葡萄牙(ポルトガル)だか伊太利亜(イタリア)だかの異人さんが、
「オオ、ヒノトリ~」
だとか
「ジャック?マメ?キー?」
果てには
「スゲー、ハポンマジスゲー」
と呟いていた事は知る由もありませんでした。
 
少しの後、遠い海の果ての異国の地にて、
「俺さ、すんごい旅してきたからさ」
「聞いてよ聞いてよ、話」
「名付けて東の方で見て聞いちゃったもんね話」
と、道端で通行人達にドヤ顔で語り掛ける男がいたとかいなかったとか。
 
時は現代。
 
①マルコポーロが口述したとされる『東方見聞録』はあまりにも有名で、黄金の国ジパングが魅力的に伝えられました。マルコポーロは今のイタリア、ヴェニスの商人でした。
 
②イギリスで『ジャックと豆の木』という民話が語り継がれ始まります。元は『ユダヤ民話』だった等の諸説あり、イギリスではポピュラーなベイクドビーンズが語られた豆ではないかと推測されています。
 
③火の鳥伝説は世界各地に存在します。海外ではフェニックスとして有名ですね。神話や伝説は、世界各地で不思議と似ている話や、ほぼ合致する話、または「読み音」が変に似ている言葉があったり、もしかすると、突き詰めて辿ると神話や伝説の出処は一つなのではないかと、ちょっとロマンを感じますね。
 
※だんだんおこめちゃんの存在の意味が…(突っ込んだら負け)
 
~おこめちゃん物語#3完~
 

小咄お米ちゃんシリーズⅢ前編✨

2022年11月10日 20時00分00秒 | 小咄
『おこめちゃん物語#3-前編』
 
お爺さんとお婆さん、それにおこめちゃんやあずきちゃんは長閑で穏やかな暮らしを今日も続けておりました。
 
「そろそろ昼の支度でもするかいね」
お婆さんが言いました。
そう今日は柴刈も洗濯も無い、言わば休息日のようなもの。
「まだ薪はあるかいの」
と、お爺さんが聞きました。
「そろそろ割っといてもらった方がええかもしれんな」
とお婆さん。
「どれ、じゃちいとばかり薪割りするかの」
そう言って腰を上げたお爺さん。
「おめえたちも来て見るか?」
お爺さんはおこめちゃんとあずきちゃんに声を掛けました。
「ちゃんちゃい!(ニ…ニチャ…シャンシャイ)」
と、ふた粒も嬉しそうに答えました。
 
外で薪割りを始めたお爺さんと、それを眺める小粒たち。穏やかな時が流れるのだろうと思ったその時です
「マメマメマ~メ!」
と、どこからともなく現れた豆粒が話掛けて来るではないですか。
 
つまんで持ち上げたお爺さん。無言のまま、家の中のお婆さんに見せに行きました。
「この豆はいんげん豆じゃろか」
お婆さんが答えます。
「そうじゃな、いんげん豆じゃ」
ところで、と前置きして
「そいつも喋るんじゃろか」
とお婆さん。
もう慣れたものです。
「うん、喋る。んでな、名前じゃが…」
お婆さんはゴクリと唾を呑み込んだ。
「こいつは、いんげんさん!」
え?一瞬フェイントを喰らったお婆さんでありました。
 
なぜいんげん豆だけ『さん』なのかは分かりませんが、とりあえずお爺さんがそう決めたなら、いろいろと面倒くさいし、それで良いことにしようと思ったお婆さんなのでした。
 
~後半につづく~