⑤夕飯後の呼び出し

2021-10-22 12:00:00 | 
学生時代、自炊をして暮らしていた。
電子レンジで飯を炊き
フライパンでサンマを焼いて
インスタント味噌汁をお湯で溶けば
立派な夕飯だった。



その夜は、加えて他にも二品くらいおかずがあったと思う。飯もお代わりした。
そんな夕飯が八割方食べ終わった頃 電話が鳴った。



俺だけん、大変なことになった・・



相変わらず電話での彼の一人称は『俺』だったが
いつもとは少し声のトーンが違った。
話を要約すると

大変なことになった
今からすぐ出て来て。
東中野にいるから。

僕からの返答を要約すると

何が起きたか教えて。
あと22:00過ぎに東中野まで出て来て、は無理っすよ
何より食事中、そしてまもなく下膳。

しかし、彼の周りにはこの日も不思議な「磁場」が発生していたのか、
一時間後に僕は
早稲田通りの交差点にある、つけ麺屋さんに到着していたのだった。

よく来てくれた! 好きなもの食え。  と言ってくれた。
だが僕は一時間前にサンマの骨を本意気で避けながら
茶碗二杯の炭水化物をがっちり摂取したばかりなので
さすがに無理だった。


ここはつけ麺がうめぇぞぉー


・・・でしょうね・・そんな店であれば是非空腹の時に訪れてみたかったよ。



若いんだから、食えよー


いや若い、よ確かに。
彼は1月、僕は7月生まれ。僕のほうが半年も生まれが遅い。学年もひとつ違う。
そんな僕の胃袋は若いんだから・・
※ってそんなわけあるか(笑!!


店を出た二人は前述の(➀ 参照) 『宮入恭平』のアパートへ向かった。
行くことは最初から決まっていたようだが
大変なこと、とは何だったのか。
結局明かされぬまま、夜が明けた。
令和三年の今もそれは謎のままである。


満腹状態で電車に乗り込み
さらにつけ麺大盛を食べ、朝まで呑んだわけだが
それは威張りではなく 
今風に言うとパワハラでもなかった。
信頼している人間との上下関係は、心地よいものなのだ。
たとえそこに命令口調が含まれていても
本質が何なのかを感じとれれば、今思い出してはもちろんのこと、
当時もそれは楽しいひとときそのものだった。

元来どちらかというと人嫌いな傾向にあり
他人からは無駄にプライドが高い、だの
あいつは難しい奴だ、だのと言われる僕が
何故彼の話は素直にいつも聞けたのだろう。
我ながら不思議であります。



続く


最新の画像もっと見る

コメントを投稿