前項の亜空間を読んで、
鋭い人ならある疑問が生じたと思う。
その疑問とは、こうだ。
もし、異世界のヤクザ組織が陰で糸を引いて、
現世における耐震偽装問題を発生させたのなら、
耐震偽装で発覚した違法建築の全てにおいて、
それらの設計前の段階ですでに、
異世界ヤクザが現世の人間に干渉しているはずである...
そうすると、
異世界ヤクザがこの世に干渉したのは、
かなりの年月をさかのぼった過去においてのはずだ...
それなのに、
私がボンヤリと推測した中で、
ほんのこの近年にヤクザに転落した連中が、
その後に起こした未遂事件かもしれないと思ったのは、
時系列からいうと、矛盾してるのではないか...
少なくとも、
耐震偽装の違法建築が建てられたあとからでは、
異世界ヤクザが現世に干渉できるはずがない...
このような疑問を持った人が、
いたとしてもおかしくない。
現世的な時間感覚というか常識で考えれば、
まったくその通りである。
しかし、その現世的な時間感覚が通用しないのが、
異世界の異世界たるゆえんなのだ。
乱暴なまでに簡単にいってしまえば、
この物質世界とは違う世界、
異世界、別世界、あの世、どう表現してもいいが、
そこにおいては驚くべき事に、
過去、現在、そして未来、
これらの区別が、あまり存在しない。
これはちょっと、わかりにくいことかもしれない。
つまり、こういうことだ。
異世界の住人たちは、
この世の「過去」に干渉して、操作できるのである。
現世の当事者たちに気付かれないうちに、
自在に「過去」を塗り変えてしまうのだ。
例をあげてみたい。
ある人が、かの有名な平将門の首塚の前で、
すごく将門を怒らせるような行為をしたとする。
その人間は、将門に祟られるかもしれない。
で、その人が、
首塚で無礼をはたらいた翌日に、
職場で転勤の辞令を上司から突きつけられたとする。
全然希望していなかったような遠い地方へ。
この、本人にとって苦痛に満ちた突然の転勤の話は、
ひょっとしたら、将門の祟りかもしれない。
しかし、
よく考えるとおかしな面がある、かもしれない。
転勤辞令を人事責任者が発行したのが、
なんと、本人が上司に告げられた二日前だったりする。
平将門の首塚で無礼を働いた前日だ。
もしこれが将門の祟りだとしたら、時系列的に矛盾する。
将門の祟りとして転勤になるのにしては、
その転勤は、祟られる前の段階で決定しているからだ。
このようなことは、
異世界の住人にとっては、普通のことである。
無礼を働いたまさにその翌日に、
転勤辞令でその相手に仕返しをするのに、
過去にさかのぼって小細工をするというのは、
特に珍しいことではない。
三次元の世界を「空間の広がり」とすると、
四次元の世界は「空間」に「時間の流れ」を加えた、
いわば「時空」といえるものだとよくいわれる。
霊的な異世界は、まさに「時空」の世界であり、
日本からアメリカに旅行にいくような感覚で、
現在から、過去や未来に往来が可能...らしい。
前置きが長くなった。
異世界のヤクザ組織を狩った三日後に、
私に別の仕事が舞い込んできた。
クリスマス・イヴを三日後に控えた日だった。
私はこの仕事に、
みっちりと約三週間も関わることになった。
クリスマス・イヴも年末年始も吹っ飛んでしまい、
ひっそりと孤独に働いた。
静かな夜の時間に...