カゲ「メッセージが届きました」
私「ん?」
カゲ「......」
私「誰からだ?」
カゲ「......」
私「ハルか...」
ハルとは、私の知り合いのひとりだ。
知り合いではあるのだが、
私はまだ、一度も直接は会ったことはない。
しかしそれでもハルは、
日本のどこかに人として生きているらしい。
男なのか女なのかも不明だし、
年齢や、住んでいる地方や、人としての職業なども、
詳しいことはわからない。
インターネットでも、出会ったり話したことはない。
ただ、この世ではない別の世界でハルという者がいて、
そちらで私と仕事の上でいろいろ関係があって、
どうもそのハルは、
私と同様にこの世で肉を持ち、人として暮らしており、
しかも、はっきり意識しながら異世界で仕事をしている、
ということは掴んでいた。
ハルは、
日本の霊的な管理者たちから構成される管理組合に属し、
かつ、
その就任からそれほど長くは経っていなかった。
ちなみに私の師匠は、
日本の管理組合には属していないし、その傘下でもない。
どこかの国や地域の管理関係者というわけでもない。
ヤクザでもない。
私を育てた私の師匠は、その素性に関しては、
ちょっと気味の悪いところがある。
いや、師匠の素性のことなどどうでもいい。
私とハルは、
数年前に一度戦ったことがある。
そのあとしばらくしてから、私たちは戦友になった。
そしていつの間にか、ハルは役職に就いていた。
反対に私は、
仕事にイヤ気がさして一度完全に身を引いた。
今度の仕事は、そのハルが、
師匠を通さずに直接私にもってきた。
ハルからのメッセージで事情を知った私は、驚愕した。
「日本列島全体が、占拠されつつある」
はあ?
「このままでは蹂躙され、多数の死者が出る」
待て、それは何のことなのだ?
「東京が、最も悲惨な被害が出てしまう」
だから、一体何の話なんだ!!
「いますぐ気象衛星図を見てくれ」
気象衛星図??
私はすぐに携帯電話で気象情報のサイトを開き、
気象衛星画像を確認し、そして戦慄した。
関東以外のほぼ日本列島全域が、
分厚い雲に覆われ寒波に襲われている!
いまはまだかろうじて関東だけがスッポリと抜けているが、
このままでは、
関東地方も大雪と凍結からなる寒波に飲み込まれるのは、
もう時間の問題にすぎないと思われた。
「いま、緊急事態だ」
こんなになるまでなぜ誰も防げなかった!!
「手伝ってくれ」
当たり前だ!! なぜもっと早く連絡しない!!
この時は、すでに日が暮れて夜になっていた。
私は、すぐに車で出掛けることにした。
自然災害による被害がなるべく少なくなるように、
仕事をしている者たちが、この国にはたくさんいる。
人として生きながら働いている者も多い。
それぞれの地方に、それぞれ腕の利く連中がいる。
何らかの災害により、大勢の人間が死傷した場合は、
防ぐ側からすれば、それは失態というしかない。
しかし大災害を防ぐのは、時には不可能に近い。
今回の寒波襲来ほど、ものの見事に、
防ぐ側がなんら対策を講じることもできないまま、
ふと気付いたら日本列島全体が...という事態は珍しい。
おそらく、防御する陣営を丸ごと手玉に取るような、
そんな決定的な仕掛けがなされたに違いない。
「ここ数日の、気象の過去を操作した者がいるな?」
私は、車に飛び乗りながらカゲに話しかけた。
「そのようです」
カゲはおそらくそう答えただろうが、
急いでいた私にはもはや聞こえなかった。