サイレント

静かな夜の時間に

氷河期(2)

2006-11-15 14:19:47 | Weblog


カゲ「メッセージが届きました」
私「ん?」
カゲ「......」
私「誰からだ?」
カゲ「......」
私「ハルか...」

ハルとは、私の知り合いのひとりだ。

知り合いではあるのだが、
私はまだ、一度も直接は会ったことはない。
しかしそれでもハルは、
日本のどこかに人として生きているらしい。


男なのか女なのかも不明だし、
年齢や、住んでいる地方や、人としての職業なども、
詳しいことはわからない。
インターネットでも、出会ったり話したことはない。

ただ、この世ではない別の世界でハルという者がいて、
そちらで私と仕事の上でいろいろ関係があって、
どうもそのハルは、
私と同様にこの世で肉を持ち、人として暮らしており、
しかも、はっきり意識しながら異世界で仕事をしている、
ということは掴んでいた。

ハルは、
日本の霊的な管理者たちから構成される管理組合に属し、
かつ、
その就任からそれほど長くは経っていなかった。


ちなみに私の師匠は、
日本の管理組合には属していないし、その傘下でもない。
どこかの国や地域の管理関係者というわけでもない。
ヤクザでもない。
私を育てた私の師匠は、その素性に関しては、
ちょっと気味の悪いところがある。

いや、師匠の素性のことなどどうでもいい。


私とハルは、
数年前に一度戦ったことがある。
そのあとしばらくしてから、私たちは戦友になった。

そしていつの間にか、ハルは役職に就いていた。
反対に私は、
仕事にイヤ気がさして一度完全に身を引いた。

今度の仕事は、そのハルが、
師匠を通さずに直接私にもってきた。
ハルからのメッセージで事情を知った私は、驚愕した。


「日本列島全体が、占拠されつつある」
はあ?

「このままでは蹂躙され、多数の死者が出る」
待て、それは何のことなのだ?

「東京が、最も悲惨な被害が出てしまう」
だから、一体何の話なんだ!!

「いますぐ気象衛星図を見てくれ」
気象衛星図??

私はすぐに携帯電話で気象情報のサイトを開き、
気象衛星画像を確認し、そして戦慄した。

関東以外のほぼ日本列島全域が、
分厚い雲に覆われ寒波に襲われている!
いまはまだかろうじて関東だけがスッポリと抜けているが、
このままでは、
関東地方も大雪と凍結からなる寒波に飲み込まれるのは、
もう時間の問題にすぎないと思われた。


「いま、緊急事態だ」
こんなになるまでなぜ誰も防げなかった!!

「手伝ってくれ」
当たり前だ!! なぜもっと早く連絡しない!!

この時は、すでに日が暮れて夜になっていた。
私は、すぐに車で出掛けることにした。

自然災害による被害がなるべく少なくなるように、
仕事をしている者たちが、この国にはたくさんいる。
人として生きながら働いている者も多い。
それぞれの地方に、それぞれ腕の利く連中がいる。

何らかの災害により、大勢の人間が死傷した場合は、
防ぐ側からすれば、それは失態というしかない。
しかし大災害を防ぐのは、時には不可能に近い。

今回の寒波襲来ほど、ものの見事に、
防ぐ側がなんら対策を講じることもできないまま、
ふと気付いたら日本列島全体が...という事態は珍しい。

おそらく、防御する陣営を丸ごと手玉に取るような、
そんな決定的な仕掛けがなされたに違いない。


「ここ数日の、気象の過去を操作した者がいるな?」
私は、車に飛び乗りながらカゲに話しかけた。

「そのようです」
カゲはおそらくそう答えただろうが、
急いでいた私にはもはや聞こえなかった。