ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」
2005/02/16(水)
ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」①
レストランなどでアルバイトをしている留学生からよく質問されるのが、名詞をていねいに言うときの「お」と「ご」。
名詞の美化語(ていねい語)に「お」をつけるか「ご」をつけるか、つけないか、の使い分けについて。
「おふたり様、お二階へご案内!」はよくて、「お五人様、お三階へご案内」と言ってはダメ、の理由は何ですか、と留学生は疑問に思う。
「一番テーブル、おちょうし二本、おビール一本」のときは文句言わなかったのに、「食後の、おコーヒーお持ちしましょうか」とたずねると「オネーサン、コーヒーに『お』つけちゃダメだよ」とさんざん「正しい日本語」について客から説教され、留学生は「いっしょうけんめい日本語勉強しようと思っているけど、タイヘンです」と、しょげている。
原則:和語(本来のやまとことば)には「お」漢語・漢字熟語には「ご」をつける。
ただし、慣用化している熟語には「お」でもよい。「お電話」「お誕生日」「お礼状」「お食事」など。(原則総覧は、明日掲載)
外来語には原則として「お」をつけない。
「お」と「ご」が、両方使われている語(ゆれている語)「ご相伴/お相伴」「ご入り用/お入り用」「ご返事/お返事」は、主として話し言葉では「お」書き言葉では「ご」が多い。「ご葬儀/お葬儀」「ご立派/お立派」は、現在ではまだ「ご」が多いが、「お」を使う人が増えつつある。
ジュース、ビールなどに「お」をつけることについて、『問題な日本語』の北原保雄は
「まだ一般化していない。使いすぎると品位を失う」
と書いている。
そうは言っても、現実社会の飲食業界では「おビール」は一般的。「お醤油」に対する「おソース」もよく聞く。
私の見解。「お」の優勢は一般化していく。熟語であっても外来語であっても「お」をつけておけば「ソッコーていねい語へんし~ん」と感じる若者が増えていく限り、「お」が優勢になる傾向は止まらないだろう。
漢字熟語でも、「お記入ください」「お注文は?」「お連絡まっています」などへ移り変わっていくことが予想される。
漢語の丁寧語は「ゴ」とする、というのを確認したとして、「お電話」「お食事」と言っているものを、いまさら「ゴ電話」「ゴ食事」と「正しい言い方」に言い換える人がいないのなら、「お注文」「お心配」が増えても文句は言えない。
また、耳になじみ外来語意識がなくなった語を用いて、丁寧な言葉遣いをしたいという意識が生まれたとき、「おボタン、はずれていますよ」「おジュースいかが」「おメニューどうぞ」「おメールありがとう」、となっていく。
「おメール、だなんて、耳障りな」と、感じる方もいるに違いない。
でも「♪待っててね、まっててね、おリボンつけて来るからね」という童謡は耳になじんだ。「りぼん」は外来語だが、日本語的発音になって外来語意識も薄れ、ひらがな表記も多く見られる。
客から「おトイレお借りしたいのですが」と申し込まれて、「トイレは元々、外来語のトイレットじゃないか、外来語に『お』をつけるなんて、非常識な」と感じないのだったら、「おメニューあります?」とレストランで耳にしているうちになれるだろう。
今日、雨の中歩いていると、「壊れた家電製品ひきとります。テレビは映らなくてもけっこうです。ラジカセCDコンポ鳴らなくてもけっこうです。毎度お利用ありがとうございます」と、車のスピーカーから流れてきた。
「お利用」、私の耳にはまだ慣れていないので、えっと思ったが、リサイクル引き取り車は雨の中「毎度お利用ありがとう」を繰り返しながらゆっくりと走って去った。<続く>
14:39 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」②
2005/02/17(木)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」②
v*********さんのコメントから
『ご』は濁音ですから語感の響きが強すぎるのもあるでしょうね。(*^_^*)
『お』の方がやわらかく響きますから受け入れやすいでしょうね。投稿者:v********* (2005 2/17 0:35)
と、v*********さんのコメントにもあるように、「ご」は固い語感、「お」をつけたほうが、やわらかく響く。
日常語彙としてふだんの生活に使われるようになると、お食事、お洋服のように、漢語でも「お」をつけるようになり、固い語感がやわらぐ。
「ご」をつけた漢語は公的な場での発言で多く使われ、「お」は、室町時代の宮中の女房ことばに代表されるように、女性が丁寧な言葉遣いをしたい場合に多用された。
女性が「お」を多用するのは、この女房ことばあたりから。平安時代には「女性語」「女性特有の表現」は少ない。
a*****さんのコメントから
「お受験」なんて使うので、妙に内容まで捻じ曲がってる様な気がします。女性は、何でも「お」をつけたがる、のは昔から? 投稿者:a***** (2005 2/17 0:20)
接頭辞「お」や接尾辞「もじ」をつける「女房ことば」の流れで、女性に関わる語や女性による発話が多い語には「お」がつきやすい。
打楽器の太鼓、最近は女性の打ち手も増えたが、従来は男性が打ち手になることが多かった。太鼓に関して、「おたいこを打つ」などと言う人は少ない。
「お太鼓」というと、「太鼓の形の帯び結び」の「お太鼓帯」の略になる。食べ物や衣服に関して「お」がつきやすく、後半を省略するのが女性語の特徴のひとつ。太鼓帯→おたいこ、握り飯→おにぎり、など。
「お受験」は、「受験」とは異なる用い方のことば。
司法試験の受験とか、一般の大学受験などでは、受験に「お」はつけない。今のところ、「名門校と世間がいう私立幼稚園や小学校」の受験に際して使われている。
「寿司のにぎり」と「おにぎり」、もとは同じ握り飯であったのに、現代社会では、寿司屋で「おにぎり一人前」と言うと、「うちは握り飯だしてないよ。にぎりかちらしだけ」と言われてしまう。「にぎり」と「おにぎり」が意味内容を異にする語であるのと同じく、「受験」と「お受験」は、意味内容がちがっていると考えられる。
「リサイクルカー」から流れる「お利用ありがとう」を聞いて、「ご利用」よりやわらかく言いたい意識があったのかなあと思う。
私としては「お」と「ご」も時代の流れにまかせていてよいと思っている。
国語審議会や国語研究所が「国語の乱れを正すため、オをつける語とゴをつける語を審議して定める」と乗り出してくるかも知れない。
でも、私は「ゴとオ」でも「外来語の言い換え」でも「敬語の使い方」でも、お上に決めてもらわずにすませたいのだが。
(お上による漢字使用制限である常用漢字表の見直しがはじまるらしい。ネットでの活字の制限はもはや有名無実だから)
原則総覧:丁寧・美化の接頭辞「お」と「ご」
1
1-①もともとは丁寧の接頭辞「お」「ご」を付け加えた語として成立したが、今は全体でひとつの語になっていて、切り離すことはできない単語がある。
例)ごはん、おかず、おなか、おかげ(様)、おまけ、おやつ、おふくろ、おにぎり、ごちそう(御馳走)
1-②接頭辞と切り離すことができるが、日常使用語彙としては、「お」「ご」をつけずに言うことは少ない語。
例)お湯、お茶、お宅(相手の家や人を指す場合)、お盆(物を載せる道具)、おすそわけ、など
2
2-①「話題にしている人や聞き手に関わる物、行為、状態」に対して、話し手が敬意をしめして、丁寧にいう。
2-②話し手や話し手の関係者の物、行為、状態が、聞き手や話題になっている目上の人(敬意を表わすべき人)に向けられている場合、丁寧にいう。
原則として、和語には「お」漢語には「ご」をつける。
「お」の例)お便り、お話、お心、お力、お力添え、お住まい、お時間、お買物、お帰り、お楽しみ、おきれい、お若い、お一人様、お勘定、お礼、お祝い、お知らせ、おたずね、おさわがせ、おたわむれ、おふざけ、おん社(御社)
「ご」の例)ご家族、ご心配、ご意見、ご住所、ご職業、ご招待、ご理解、ご協力、ご質問、ご希望、ご到着、ご利用、ご着席、ご都合、ご伝言、ご来店、ご丁寧、ご無事、など
2-③ 2-②の接頭辞「ご」は、しだいに「お」に変わる可能性がある。「お住所、承ります」「どうぞ、お着席ください」「おつごう、よろしいでしょうか」など。
3
3-①話題にしている人や聞き手へ直接の敬意を向けない場合でも、話し手がていねいなことば遣いをしたいと意識するとき、ほとんどの語に「お」「ご」をつけて言うことができる。原則として和語には「お」漢語には「ご」
例)お水、お金、お酒、お皿、お鍋、お粉、お花、おネギ、お茄子、お部屋、お机、お車、お宝、お使い、おぐし(御髪)、ご本、など
3-②日常語として漢語意識がなくなっている語は、漢字熟語でも「お」になる。
例)お経、お食事、お洋服、お電話、お写真、お財布、お野菜、お蜜柑、お紅茶、お砂糖、お弁当、お赤飯、お約束、お勉強、お掃除、お洗濯、お役所、お教室、お玄関、など
<つづく>
11:44 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」③
2005/02/18(金)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」原則③
4 日常語として外来語意識が少なくなっている語に、「お」をつける。人により、許容範囲がことなる。
おトイレ、おビール、おジュース、おソース、おリボン、など
5 敬意の劣化
丁寧にするために「お」や「ご」をつけたのに、長い間に敬意が薄れてしまったと思われるとき、よりいっそうの「美化の接辞」を付け足していく語もある。
例) 付け→お付け→みお付け→おみお付け、足→み足→おみ足、 馳走→ごちそう→おごちそう(おごっつぉう)
6 丁寧意識を持って話すときでも、「お」や「ご」をつけることになじまない語もある。(*=そういう言い方をしない)
6-① 丁寧意識をもって発話する場合も「お」「ご」をつけない日常生活上の使用語彙。
例)*お紙、*お箱、*お帯、*おハサミ、*おホウキ、*おあかり、*お盥(たらい)、*お畳、*お床の間、など。、
6-② 自然現象、動植物など
例)*お雨、*お雪、*お雷、*お虹、*お蛇、*お猫、*お鳥、*お卵、*お紅葉、*お桜、*お苺、*お西瓜、*お牛蒡(ごぼう)*おほうれん草、*おトウモロコシ
例外)お日さま、お月さま、お星さま、お狐さま、お犬さま、お猿さん、お蚕さま、など、かって神仏などに関わると意識されていた語、大事なものに敬意や親しみをこめて呼ぶとき
6-③ 公共物、人工物など
例)*御駅、*御会議室、*御地図、*御絵本、*御腕時計、*御自動車、*御炊飯器、など。
6-④ 日常生活になじんだ外来語でも、4音節以上の長い語は、「お」「ご」をつけにくい。また、(6)の③にある人工物に「お」がつかないのと同じく、日常語としてなじんだ3音節の語でも、人工物には「お」がつかない。*おミシン、*おラジオ、*おテレビなど。
7 音節数と「お」
7-① 日本語は、4音節が安定して発音しやすい。日常会話で2音節3音節の語は、安定した発音にするために「お」がつきやすい。
「つまみ」は「おつまみ」になるが、元々4音節の複合語「突き出し」は「*おつきだし」にはなりにくい。「さしみ」は「おさしみ」になるが。「かまぼこ」は「*おかまぼこ」とならない。
7-② 複合語や多音節(4音節以上)の語に「お」をつけると、後半を省略することが多い。おにぎり、おかきなど、後半を省略した語、最初は女性語として広まったものが一般化した。
例)お太鼓帯→おたいこ、じゃがいも→おじゃが、さつまいも→おさつ、田楽(でんがく)→おでん、いたずら→おいた、かき餅→おかき、握り飯→おにぎり、冷や水→おひや、など
省略できない語や複合語には、「お」はつきにくい。
例)*お手袋、*お靴下、*おこうもり傘、など
7-③ 複合語の中でも、「お」「ご」をつけられる語と、つけられない語がある。
「お飲み物」は言えるが、「お食べ物」は一般には使われていない。
「飲み物」が指し示す種類の範囲が限定された中から選ぶ場合に「お飲み物はいかがですか」と言えるが、「食べ物」の種類を限定して示す用法がなく「*お食べ物、何がお好きですか」は、言えない。「お召し上がり物」になると、言う人もいる。
「お読み物」「「お探し物」OK。
<つづく>
07:11 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」④
2005/02/19(土)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」④
8 女性語と「お」
8-① 子どもの遊び
衣食に関する語のほか、子どもの遊びに関する語も、女性の話題の中に多かった。お手玉、おはじき、など女の子の遊びには「お」をつけることが多い。「おはじき」などは、「お」を分離できない単語になっていて、「お」を取った「はじき」は、俗語でピストルなどの意味になる。
幼稚園保育園の先生は、お歌、お絵かき、おすべり台、お砂場、お遊戯、お道具箱、と「お」をつけることが多い。子ども向けにやわらかい語感を伝えたい意識がはたらくせいだろう。
保育園幼稚園の先生の発話の中で、3音節の語なのに「お」がつかないのは、積み木→*おつみき、ぐらいだろうか。
子どもの遊び関連語でも、4音節以上の語は、「お」がつきにくい。
*オぶらんこ、*オすごろく、オかけっこ、*オけん玉、*オなわとび、*オかくれんぼ、*オおにごっこ、オかみしばい、など。
8-② 女学生ことば
かっての「女学生ことば」も「お」が好まれた。
「我が校の女子生徒にとって『おめだい』をいただくことが何よりの喜びだった」という発話で、はて「おめだい」とは何のことだろう、「おめでたい」の略か、としばらくわからなかった。
私のボギャブラリーにはなかった語だが、ミッション系の学校や幼稚園に通った人にとっては、なじみの語らしい。
「おめだい」は「めだいよん」に「お」をつけた省略語とわかった。金メダル銀メダルのメダルより大きい形の大メダルを「メダリヨンmedallion」といい、実際の発音ではメダイヨンに聞こえる。このメダイヨンに「お」がつき、後半を省略するという女性語の特徴で「おめだい」となった。
9-① 外来語・衣食関連の語
女性が関わる服飾関連語、料理や食事に関する語は、丁寧接辞がつく可能性が高い。また、販売、飲食などの接客業では、お客様に対しより丁寧な言葉遣いをしたいという意識から「お」を付ける頻度が高い。「オ+外来語」も現在以上に広がるだろう。
現在の時点で使用されている語。おソース、おビール、おジュース、おコーヒー、など
将来は「お」がついていくと予想される語。おミルク、おメニュー、おレシピ、など。
服飾では、ブラジャー→おブラ、おサイズ、おボタン、おカフス、おレース、など。
グーグルから拾った「おサイズ」の用例:「あなたのおサイズに合わせてお作りします」「こちらはインポートですので日本サイズと違います。おサイズをよくお確かめ下さい」など。
9-② ポルトガル語から日本語へ入ってきて400年以上たち、外来語意識はとうに消えた「天麩羅てんぷら」は、4音節であるので、「おてんぷら」にならない。同じころポルトガル語から入った3音節の「煙草タバコ」は、接客業などでは「おタバコ」と言う。
パンは外来語意識が消えず、「おパン」にならない。(宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の中で、母鼠が「おパン」と言っている例があるが、ねずみが緊張して間違った丁寧語を発していることを表現した賢治らしいユーモア)
「ごはん」からの過剰適用で「ごぱん」と言う幼児がいるので、「ごぱん」が広まるかどうか。「あさごぱん食べたよ」などと、小さな子が言うのはほほえましいのだが。
10 数詞のことばと「お」
おひとつ、おふたつはよく使われるが、おみっつ以上はあまり使われない。
4音節の「ここのつ」が日常会話で「おここのつ」と使われる用例を見たことがない。時刻の「八つ」に「お」がついて間食の意味になった「おやつ」を食べる時間がずれたことを冗談で「おここのつ」を食べた、と表現した文章を見たくらい。
一人→おひとり、二人→おふたり。だが、みたり以上は使われることが少ないので、「おみたり」「およたり」も使われない。
「三人」以上は「お三方」「お四方」など、「方」には「お」がつき、「人」にはつかない。*お三名様、*お五人様など。
3音節の語、二階→お二階、しかし五階→*お五階。
従来の日本の一般家屋では二階までがほとんどで、「二階」はなじみの語として「おにかい」と言うが、三階以上はこれまで日常使用語彙ではなかったから、という説明で、留学生に納得してもらうしかなく、ほかに適切な説明があったら、教えてもらいたい。
11 個人差地方差
外来語に「お」つけることは、原則ではしないことになっているが、接客上丁寧な言い方を求められる場では「おソース」と聞くことが多い。しかし、家庭の食卓で「ソースとって」と言うか「おソースこっちにまわして」と言っているかなどについては、個人差があるだろう。
また、和語や漢語を丁寧に言う場合も、地方によって個人によって差がある。私の育った家でも、学校の友達との会話でも、髪のことを「おかみ」と言っていた。「おかみを櫛でとかす」「今日のお髪、三つ編みがかわいいね」などと会話して、それが普通だと思っていた。
東京に来て、この言い方を方言だと笑われた。「髪に『お』をつけるのはまちがっている。『お』をつけるなら『おぐし』という」と注意された。
標準的な言い方では家庭内の照明に対し「玄関のおあかり消して」という表現を、日常生活やテレビドラマの中などで聞くことはなかったし、『楽しいひな祭り』の歌でも「明かりをつけましょぼんぼりに」だが、神仏の前にともす場合は「仏壇のお明かり」と言う。(a******さんのコメントでもこの点への指摘をいただいた)
畳も、ある家では「お畳のへりをふまないで」と言うだろうし、江戸時代には「お畳奉行」という役職もあった。畳に「お」をつけないというのも、あくまで、標準的な会話にでるかどうかという程度で判断し、全国的な使用頻度をチェックをしたものではない。
鋏についても、華道の教室などでは「お鋏」という例があるし、大相撲の断髪式で「お鋏をちょうだいする」という言い方がある。このあたりから、一般化して日常会話でも「ちょっと、この封筒あけるから、おハサミ貸して」と、事務所で言うように広まっていくのかもしれない。
以上、「お」と「ご」をつける場合の原則を並べてみた。1~5に書いたことは、日本語学の本、語彙論の本に載っている原則に基づき、私が拾った用例をあてはめながらまとめたもの。
2-③の「お」が「ご」に変わっていくだろうという部分と、6~11に書いたことは、筆者の覚え書きであるので、これから検証していかなければならない。
昔は、全国的な言語使用調査は、大がかりで費用も時間もかかった。言語学者が地方のインフォーマント(調査対象者)に一語一語聞き取り調査などをして、まとめていった。
松本修著『全国アホ・バカ分布考』は、テレビというメディアを利用した言語分布調査で、ケンカしたとき「アホ」というか「バカ」というかの全国的な分布をまとめている。日本方言学会でも認められ、メディアを利用した画期的な調査だった。
「お」と「ご」の用い方、どの語につけてどの語にはつけない、という調査も、テレビやインターネットを利用して全国的な調査ができるのではないかと思う。どなたか、やってみてほしい。<「お」と「ご」終わり>
11:33 |
女の顔は請求書 丁寧語の「お」と「ご」
2005/12/15 木
「よろずメール相談顛末・日本語相談受け付け中」という足跡を付けて回っていたのですが、質問はめったに来ません。
それもそのはず、この「学生からのメール」シリーズ冒頭に「私は、日本語と日本語教授法を教えて、日々の糧を得ております。授業料を払っている人を対象として教えているので、現在ネット上のボランティア授業は行っておりません」と宣言してしまっていたのでした。
今さら「ちゃんと授業料払ってくれるなら、応相談」と、書くのも顰蹙ものですね。
プロフィール欄に書いてあるように、「無料、タダ、ご招待」という言葉が大好きで、「濡れ手で粟(濡れ手に粟)」「棚からぼた餅」「果報は寝て待て」「人の褌で相撲をとる」などなどを家訓にして生きておりますので、どうにも、「せこくてケチでしみったれ」が、身に付いております。
で、ちゃんと授業料払う気のありそうな方には、ちゃんと「応相談」しております。
「10年くらいたったら居酒屋ご招待、焼き鳥3本、もつ煮込みをごちそうします」という授業料契約にて「日本語のひらがな」について、t******さんにお答えしました。
「漢字表記のつかいわけ」について、k*****さんの質問にも返信。こちらは、授業料請求は、これからです。「春庭が、ご当地を訪問したさいは、釣りたての魚をサシミにしてご馳走してください」と、「御請求申し上げます」
「請求書」「御請求書」「見積書」「御見積書」の違いについて、a****さんからの質問にこれからお答えしますので、「春庭が、ご当地を訪問したさいは、九州うまいもんをごちそうしてください」と、「御請求申し上げます」
名詞を「丁寧、美化」する接頭辞、「お」「御」について、2005年初頭に、春庭ニッポニアニッポン語シリーズとして連載しました。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502c.htm
に、過去ログがありますので、ごらんください。
a*****さんからは、「あかり」に「お」がつく場合などについての、ご指摘をいただきました。
掲示板にいただいた今回のご相談。「請求書と御見積書」a*****
「 以前から時々思っていたのですが、今日、会社の請求書をPCで作っていて、どうも気になって仕方がありませんので、春さんのお考えを聞かせてください。
現在の所、見積りでは、表題は「見積書」と「御見積書」が並存していて、「御見積書」が多数だと思います。そして、文は、「下記の通り御見積り申し上げます」となっています。
一方、請求書では、御請求書などは見たことがありませんが、多くは「御請求申し上げます」になっていることに気がつきました。他所からの請求書だけでなく、当方の複写式請求書もそのように印刷されています。
慣用的に、こうなっているのでしょうか。丁寧語というよりは、自分の行為に対する事だと思うので、「見積書」「請求申し上げます」でよいと思うのですが、いかがでしょうか。2005-12-14 01:54:45 」
本文では「御見積り(おみつもり/おんみつもり)申し上げます」「御請求(ごせいきゅう)申し上げます」と、どちらにも「御」がつくが、表題では「見積書」は「御見積書」と並存。しかし、請求書には「御請求書」がない。これはなぜか、というご質問。
まず、「御」「お」の原則。自分の行為であっても、相手に関わっている場合には、関わる相手への敬意を表わすために、美化、丁寧化されることが多い。
たとえば、自分が書いた手紙であっても、相手に差し出すものだから、「お手紙にて、失礼いたします」などと、「お」をつける。
公式文書などで、「お」をつけたくない場合、「書面にて回答させていただく旨、ご了承下さい」など、「てがみ」という和語ではなく、丁寧化しにくい「書面」などと固い言葉をつかいたがる。和語に「お」をつけないと、丁寧さがうすれる気がするからである。
「請求」や「見積もり」の場合も、自分が見積もりを出したり、請求したりするのだが、相手のために見積もったり、相手に請求するのだから、相手との関わり上、丁寧に言おうとする。
本文では、「御見積り申しあげます」「御請求申し上げます」になる。
表題の差は、漢語か和語かの違いによるのだろうと思う。「みつもり」は「見る」と「つもる」が合わさった「見積もる」という複合動詞が名詞化したもの。和語意識が残っている。一方、請求は漢字熟語である。
「みつもり」は、和語由来なので、「おみつもり」にして抵抗がなく、「おみつもり書」と、複合名詞にして書くことに違和感がない。
漢字熟語のなかで、「する」をつけて動詞として用いられる場合を「する動詞」という。「掃除→おそうじする」「洗濯→おせんたくする」「食事→おしょくじする」などのように、日常生活でよくつかわれ、特に女性語として用いられる場合は、「お」をつけて丁寧化される。「お電話する」「お裁縫する」など。
漢語意識が残っている場合は、丁寧化は「御(ご)」をつける。「ご家族」「ご無事」「ご住所」「ご職業」など「する」をつけられない名詞のみの語と、「する」をつけて、「動詞」としても使われる語がある。
相手が動作をする場合「ご心配なさる」「ご質問なさる」「ご希望なさる」「ご来店なさる」など。
その行為が自分へむけられているときは、「ご来店くださる」「ごらいてんいただく」
自分がした動作が相手に向けられている場合「ご招待する」「ご伝言する」
さらに丁寧にいおうとすると、近頃増殖著しい「させていただく」を使う。「ご協力させていただく」など。
「請求」も、「つぎの通り請求します」より、「つぎの通りご請求申し上げます」のほうが、「より丁寧に表現しよう」とするビジネス社会では好まれる。
動作を含む漢字熟語を名詞として使い、複合名詞を作る場合、「質問欄にご記入ください」「ご質問欄にご記入下さい」「利用者名は、下の欄にお書き下さい」「ご利用者名は、下の欄にお書きください」どちらが、しっくりくるか、人によって受け止め方がことなり、丁寧の「ご」をつけるかつけないか、厳密に決まっているわけではない。
私自身の感覚では、自分が利用する場合「ご利用者名」などと、言ってもらわなくても、名前くらい書き込むつもりなのだが、客商売などでは、より過剰に丁寧な方向へむかう。
表題を「請求書」とするか、「御請求書」とするか。グーグル検索では、請求書が2220000 件、御請求書358000件。
現在のところ、「御請求書」が少数派といっても、こののち、「御請求書」のほうが多数派になっていくであろうことは、推察できる。
丁寧さの意識は、どの語であっても使うにつれ磨り減ってしまうから、より過剰に丁寧な方向へ向かう。
和語系の「御見積書」に比べ、「御請求書」が、今のところ少数派であるとしても、これから増えていくのではないかと思います。
以上の解説に対し、「春庭への九州うまいもん、大盤振る舞い」を、ご請求申し上げます。
「女の顔は請求書」だそうですが、どうも春庭のご面相では、「うまいもん」請求も「だんご汁」一杯か「とんこつラーメン」くらいなところでしょう。せめて、とんこつラーメンは大盛りに願います。<つづく>
00:03 |
2005/12/18
日本語相談(3)>丁寧な言い方つづき
単語を丁寧化、美化する接頭辞「御」と「お」について、の続編。
f*******さんからのおたずねです。
「 横からお邪魔します。今日仕事で、「ご迷惑をおかけします」。。。と言ってから、「ご迷惑」の「ご」に固まりました。
相手への敬意を表すといっても、自分がかけた迷惑を美化していいものでしょうか。。。
あ、この1行目、「お邪魔」の「お」もですよね。。。
なんかむしかえしちゃったようで、「お手数」おかけします。。。
2005-12-15 23:44:4
丁寧さをどう表現するか、言葉の美化について。
個人の好みという面もありますが、ビジネス社会などでは、よりいっそうの丁寧さを表現したい、という傾向があります。
「迷惑」は、自分の行為ですが、相手に関わったことなので、「ご迷惑」と丁寧表現で言っておく、というところで、いいんじゃないでしょうかね。
友だちの家から帰るとき「どうも、じゃましたね」というのも、「あらぁ、こんな時間まで、おじゃまさまでした」というのも、個人の自由。
でも、商取引などで、取引先を辞すときは、「本日は、私どものためにお時間いただき、まことにありがとうございました。どうも長い時間、おじゃまさせていただきまして、申しわけございません。どうぞ、今後とも、よしなにおつきあい願います」など、「じゃましたね」ひとつ言うにも、表現が長々しくなる傾向。
この先の日本語表現、どのように変わっていくのでしょうね。
若い人たち全員が「敬語も丁寧表現も、メンドイ」と考えれば、丁寧表現も簡略化されていくでしょう。
日本は今「階層化社会」に向かっているといわれています。若年世代が、正社員高年収層と非正社員低年収層にはっきり別れていくだろう、という予測です。
社内教育などで、敬語やビジネス用語いいまわしを教育される層と、そうでない層は、言葉遣いでも差が広がることが予想されます。
仕事の遅延を指摘されたとき、クレーマーに向かって「だからあ、この仕事、何分でやれって言われたわけじゃないしぃ、っつーか、べつに、やる必要ないじゃんか。なんで、こっちがおこられなきゃなんないわけ?」と言う層と、「まことに申し訳ございません。遅れた原因につきましては当方にて鋭意調査いたしまして、のちほど、ご連絡申し上げますので」と、とりあえず言っておくように、社内教育を受ける層と、別れていくのかもしれません。
階層差固定が3世代以上続くと、イギリスの「クイーンズイングリッシュ」と「コックニー」のように、同じロンドンに住んでいながら、発音や表現が違ってくるということにもなっていきます。社会言語の中で、地方差による方言ではなく、階層差による方言が固定してくる。
「マイ・フェア・レディ」は、下町なまりのコックニーと上流社会口語表現の違いの一面を見せています。
下層も中流も今のところ言葉に差がない現在、「相手に関わる表現には、とりあえず、御とおをつけておけ」というのが、仕事上では無難なやり方なのでしょう。
2005/02/16(水)
ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」①
レストランなどでアルバイトをしている留学生からよく質問されるのが、名詞をていねいに言うときの「お」と「ご」。
名詞の美化語(ていねい語)に「お」をつけるか「ご」をつけるか、つけないか、の使い分けについて。
「おふたり様、お二階へご案内!」はよくて、「お五人様、お三階へご案内」と言ってはダメ、の理由は何ですか、と留学生は疑問に思う。
「一番テーブル、おちょうし二本、おビール一本」のときは文句言わなかったのに、「食後の、おコーヒーお持ちしましょうか」とたずねると「オネーサン、コーヒーに『お』つけちゃダメだよ」とさんざん「正しい日本語」について客から説教され、留学生は「いっしょうけんめい日本語勉強しようと思っているけど、タイヘンです」と、しょげている。
原則:和語(本来のやまとことば)には「お」漢語・漢字熟語には「ご」をつける。
ただし、慣用化している熟語には「お」でもよい。「お電話」「お誕生日」「お礼状」「お食事」など。(原則総覧は、明日掲載)
外来語には原則として「お」をつけない。
「お」と「ご」が、両方使われている語(ゆれている語)「ご相伴/お相伴」「ご入り用/お入り用」「ご返事/お返事」は、主として話し言葉では「お」書き言葉では「ご」が多い。「ご葬儀/お葬儀」「ご立派/お立派」は、現在ではまだ「ご」が多いが、「お」を使う人が増えつつある。
ジュース、ビールなどに「お」をつけることについて、『問題な日本語』の北原保雄は
「まだ一般化していない。使いすぎると品位を失う」
と書いている。
そうは言っても、現実社会の飲食業界では「おビール」は一般的。「お醤油」に対する「おソース」もよく聞く。
私の見解。「お」の優勢は一般化していく。熟語であっても外来語であっても「お」をつけておけば「ソッコーていねい語へんし~ん」と感じる若者が増えていく限り、「お」が優勢になる傾向は止まらないだろう。
漢字熟語でも、「お記入ください」「お注文は?」「お連絡まっています」などへ移り変わっていくことが予想される。
漢語の丁寧語は「ゴ」とする、というのを確認したとして、「お電話」「お食事」と言っているものを、いまさら「ゴ電話」「ゴ食事」と「正しい言い方」に言い換える人がいないのなら、「お注文」「お心配」が増えても文句は言えない。
また、耳になじみ外来語意識がなくなった語を用いて、丁寧な言葉遣いをしたいという意識が生まれたとき、「おボタン、はずれていますよ」「おジュースいかが」「おメニューどうぞ」「おメールありがとう」、となっていく。
「おメール、だなんて、耳障りな」と、感じる方もいるに違いない。
でも「♪待っててね、まっててね、おリボンつけて来るからね」という童謡は耳になじんだ。「りぼん」は外来語だが、日本語的発音になって外来語意識も薄れ、ひらがな表記も多く見られる。
客から「おトイレお借りしたいのですが」と申し込まれて、「トイレは元々、外来語のトイレットじゃないか、外来語に『お』をつけるなんて、非常識な」と感じないのだったら、「おメニューあります?」とレストランで耳にしているうちになれるだろう。
今日、雨の中歩いていると、「壊れた家電製品ひきとります。テレビは映らなくてもけっこうです。ラジカセCDコンポ鳴らなくてもけっこうです。毎度お利用ありがとうございます」と、車のスピーカーから流れてきた。
「お利用」、私の耳にはまだ慣れていないので、えっと思ったが、リサイクル引き取り車は雨の中「毎度お利用ありがとう」を繰り返しながらゆっくりと走って去った。<続く>
14:39 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」②
2005/02/17(木)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」②
v*********さんのコメントから
『ご』は濁音ですから語感の響きが強すぎるのもあるでしょうね。(*^_^*)
『お』の方がやわらかく響きますから受け入れやすいでしょうね。投稿者:v********* (2005 2/17 0:35)
と、v*********さんのコメントにもあるように、「ご」は固い語感、「お」をつけたほうが、やわらかく響く。
日常語彙としてふだんの生活に使われるようになると、お食事、お洋服のように、漢語でも「お」をつけるようになり、固い語感がやわらぐ。
「ご」をつけた漢語は公的な場での発言で多く使われ、「お」は、室町時代の宮中の女房ことばに代表されるように、女性が丁寧な言葉遣いをしたい場合に多用された。
女性が「お」を多用するのは、この女房ことばあたりから。平安時代には「女性語」「女性特有の表現」は少ない。
a*****さんのコメントから
「お受験」なんて使うので、妙に内容まで捻じ曲がってる様な気がします。女性は、何でも「お」をつけたがる、のは昔から? 投稿者:a***** (2005 2/17 0:20)
接頭辞「お」や接尾辞「もじ」をつける「女房ことば」の流れで、女性に関わる語や女性による発話が多い語には「お」がつきやすい。
打楽器の太鼓、最近は女性の打ち手も増えたが、従来は男性が打ち手になることが多かった。太鼓に関して、「おたいこを打つ」などと言う人は少ない。
「お太鼓」というと、「太鼓の形の帯び結び」の「お太鼓帯」の略になる。食べ物や衣服に関して「お」がつきやすく、後半を省略するのが女性語の特徴のひとつ。太鼓帯→おたいこ、握り飯→おにぎり、など。
「お受験」は、「受験」とは異なる用い方のことば。
司法試験の受験とか、一般の大学受験などでは、受験に「お」はつけない。今のところ、「名門校と世間がいう私立幼稚園や小学校」の受験に際して使われている。
「寿司のにぎり」と「おにぎり」、もとは同じ握り飯であったのに、現代社会では、寿司屋で「おにぎり一人前」と言うと、「うちは握り飯だしてないよ。にぎりかちらしだけ」と言われてしまう。「にぎり」と「おにぎり」が意味内容を異にする語であるのと同じく、「受験」と「お受験」は、意味内容がちがっていると考えられる。
「リサイクルカー」から流れる「お利用ありがとう」を聞いて、「ご利用」よりやわらかく言いたい意識があったのかなあと思う。
私としては「お」と「ご」も時代の流れにまかせていてよいと思っている。
国語審議会や国語研究所が「国語の乱れを正すため、オをつける語とゴをつける語を審議して定める」と乗り出してくるかも知れない。
でも、私は「ゴとオ」でも「外来語の言い換え」でも「敬語の使い方」でも、お上に決めてもらわずにすませたいのだが。
(お上による漢字使用制限である常用漢字表の見直しがはじまるらしい。ネットでの活字の制限はもはや有名無実だから)
原則総覧:丁寧・美化の接頭辞「お」と「ご」
1
1-①もともとは丁寧の接頭辞「お」「ご」を付け加えた語として成立したが、今は全体でひとつの語になっていて、切り離すことはできない単語がある。
例)ごはん、おかず、おなか、おかげ(様)、おまけ、おやつ、おふくろ、おにぎり、ごちそう(御馳走)
1-②接頭辞と切り離すことができるが、日常使用語彙としては、「お」「ご」をつけずに言うことは少ない語。
例)お湯、お茶、お宅(相手の家や人を指す場合)、お盆(物を載せる道具)、おすそわけ、など
2
2-①「話題にしている人や聞き手に関わる物、行為、状態」に対して、話し手が敬意をしめして、丁寧にいう。
2-②話し手や話し手の関係者の物、行為、状態が、聞き手や話題になっている目上の人(敬意を表わすべき人)に向けられている場合、丁寧にいう。
原則として、和語には「お」漢語には「ご」をつける。
「お」の例)お便り、お話、お心、お力、お力添え、お住まい、お時間、お買物、お帰り、お楽しみ、おきれい、お若い、お一人様、お勘定、お礼、お祝い、お知らせ、おたずね、おさわがせ、おたわむれ、おふざけ、おん社(御社)
「ご」の例)ご家族、ご心配、ご意見、ご住所、ご職業、ご招待、ご理解、ご協力、ご質問、ご希望、ご到着、ご利用、ご着席、ご都合、ご伝言、ご来店、ご丁寧、ご無事、など
2-③ 2-②の接頭辞「ご」は、しだいに「お」に変わる可能性がある。「お住所、承ります」「どうぞ、お着席ください」「おつごう、よろしいでしょうか」など。
3
3-①話題にしている人や聞き手へ直接の敬意を向けない場合でも、話し手がていねいなことば遣いをしたいと意識するとき、ほとんどの語に「お」「ご」をつけて言うことができる。原則として和語には「お」漢語には「ご」
例)お水、お金、お酒、お皿、お鍋、お粉、お花、おネギ、お茄子、お部屋、お机、お車、お宝、お使い、おぐし(御髪)、ご本、など
3-②日常語として漢語意識がなくなっている語は、漢字熟語でも「お」になる。
例)お経、お食事、お洋服、お電話、お写真、お財布、お野菜、お蜜柑、お紅茶、お砂糖、お弁当、お赤飯、お約束、お勉強、お掃除、お洗濯、お役所、お教室、お玄関、など
<つづく>
11:44 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」③
2005/02/18(金)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」原則③
4 日常語として外来語意識が少なくなっている語に、「お」をつける。人により、許容範囲がことなる。
おトイレ、おビール、おジュース、おソース、おリボン、など
5 敬意の劣化
丁寧にするために「お」や「ご」をつけたのに、長い間に敬意が薄れてしまったと思われるとき、よりいっそうの「美化の接辞」を付け足していく語もある。
例) 付け→お付け→みお付け→おみお付け、足→み足→おみ足、 馳走→ごちそう→おごちそう(おごっつぉう)
6 丁寧意識を持って話すときでも、「お」や「ご」をつけることになじまない語もある。(*=そういう言い方をしない)
6-① 丁寧意識をもって発話する場合も「お」「ご」をつけない日常生活上の使用語彙。
例)*お紙、*お箱、*お帯、*おハサミ、*おホウキ、*おあかり、*お盥(たらい)、*お畳、*お床の間、など。、
6-② 自然現象、動植物など
例)*お雨、*お雪、*お雷、*お虹、*お蛇、*お猫、*お鳥、*お卵、*お紅葉、*お桜、*お苺、*お西瓜、*お牛蒡(ごぼう)*おほうれん草、*おトウモロコシ
例外)お日さま、お月さま、お星さま、お狐さま、お犬さま、お猿さん、お蚕さま、など、かって神仏などに関わると意識されていた語、大事なものに敬意や親しみをこめて呼ぶとき
6-③ 公共物、人工物など
例)*御駅、*御会議室、*御地図、*御絵本、*御腕時計、*御自動車、*御炊飯器、など。
6-④ 日常生活になじんだ外来語でも、4音節以上の長い語は、「お」「ご」をつけにくい。また、(6)の③にある人工物に「お」がつかないのと同じく、日常語としてなじんだ3音節の語でも、人工物には「お」がつかない。*おミシン、*おラジオ、*おテレビなど。
7 音節数と「お」
7-① 日本語は、4音節が安定して発音しやすい。日常会話で2音節3音節の語は、安定した発音にするために「お」がつきやすい。
「つまみ」は「おつまみ」になるが、元々4音節の複合語「突き出し」は「*おつきだし」にはなりにくい。「さしみ」は「おさしみ」になるが。「かまぼこ」は「*おかまぼこ」とならない。
7-② 複合語や多音節(4音節以上)の語に「お」をつけると、後半を省略することが多い。おにぎり、おかきなど、後半を省略した語、最初は女性語として広まったものが一般化した。
例)お太鼓帯→おたいこ、じゃがいも→おじゃが、さつまいも→おさつ、田楽(でんがく)→おでん、いたずら→おいた、かき餅→おかき、握り飯→おにぎり、冷や水→おひや、など
省略できない語や複合語には、「お」はつきにくい。
例)*お手袋、*お靴下、*おこうもり傘、など
7-③ 複合語の中でも、「お」「ご」をつけられる語と、つけられない語がある。
「お飲み物」は言えるが、「お食べ物」は一般には使われていない。
「飲み物」が指し示す種類の範囲が限定された中から選ぶ場合に「お飲み物はいかがですか」と言えるが、「食べ物」の種類を限定して示す用法がなく「*お食べ物、何がお好きですか」は、言えない。「お召し上がり物」になると、言う人もいる。
「お読み物」「「お探し物」OK。
<つづく>
07:11 |
ぽかぽか春庭のニッポニアニッポン語「お」と「ご」④
2005/02/19(土)
「ニッポニアニッポン語>「お」と「ご」④
8 女性語と「お」
8-① 子どもの遊び
衣食に関する語のほか、子どもの遊びに関する語も、女性の話題の中に多かった。お手玉、おはじき、など女の子の遊びには「お」をつけることが多い。「おはじき」などは、「お」を分離できない単語になっていて、「お」を取った「はじき」は、俗語でピストルなどの意味になる。
幼稚園保育園の先生は、お歌、お絵かき、おすべり台、お砂場、お遊戯、お道具箱、と「お」をつけることが多い。子ども向けにやわらかい語感を伝えたい意識がはたらくせいだろう。
保育園幼稚園の先生の発話の中で、3音節の語なのに「お」がつかないのは、積み木→*おつみき、ぐらいだろうか。
子どもの遊び関連語でも、4音節以上の語は、「お」がつきにくい。
*オぶらんこ、*オすごろく、オかけっこ、*オけん玉、*オなわとび、*オかくれんぼ、*オおにごっこ、オかみしばい、など。
8-② 女学生ことば
かっての「女学生ことば」も「お」が好まれた。
「我が校の女子生徒にとって『おめだい』をいただくことが何よりの喜びだった」という発話で、はて「おめだい」とは何のことだろう、「おめでたい」の略か、としばらくわからなかった。
私のボギャブラリーにはなかった語だが、ミッション系の学校や幼稚園に通った人にとっては、なじみの語らしい。
「おめだい」は「めだいよん」に「お」をつけた省略語とわかった。金メダル銀メダルのメダルより大きい形の大メダルを「メダリヨンmedallion」といい、実際の発音ではメダイヨンに聞こえる。このメダイヨンに「お」がつき、後半を省略するという女性語の特徴で「おめだい」となった。
9-① 外来語・衣食関連の語
女性が関わる服飾関連語、料理や食事に関する語は、丁寧接辞がつく可能性が高い。また、販売、飲食などの接客業では、お客様に対しより丁寧な言葉遣いをしたいという意識から「お」を付ける頻度が高い。「オ+外来語」も現在以上に広がるだろう。
現在の時点で使用されている語。おソース、おビール、おジュース、おコーヒー、など
将来は「お」がついていくと予想される語。おミルク、おメニュー、おレシピ、など。
服飾では、ブラジャー→おブラ、おサイズ、おボタン、おカフス、おレース、など。
グーグルから拾った「おサイズ」の用例:「あなたのおサイズに合わせてお作りします」「こちらはインポートですので日本サイズと違います。おサイズをよくお確かめ下さい」など。
9-② ポルトガル語から日本語へ入ってきて400年以上たち、外来語意識はとうに消えた「天麩羅てんぷら」は、4音節であるので、「おてんぷら」にならない。同じころポルトガル語から入った3音節の「煙草タバコ」は、接客業などでは「おタバコ」と言う。
パンは外来語意識が消えず、「おパン」にならない。(宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の中で、母鼠が「おパン」と言っている例があるが、ねずみが緊張して間違った丁寧語を発していることを表現した賢治らしいユーモア)
「ごはん」からの過剰適用で「ごぱん」と言う幼児がいるので、「ごぱん」が広まるかどうか。「あさごぱん食べたよ」などと、小さな子が言うのはほほえましいのだが。
10 数詞のことばと「お」
おひとつ、おふたつはよく使われるが、おみっつ以上はあまり使われない。
4音節の「ここのつ」が日常会話で「おここのつ」と使われる用例を見たことがない。時刻の「八つ」に「お」がついて間食の意味になった「おやつ」を食べる時間がずれたことを冗談で「おここのつ」を食べた、と表現した文章を見たくらい。
一人→おひとり、二人→おふたり。だが、みたり以上は使われることが少ないので、「おみたり」「およたり」も使われない。
「三人」以上は「お三方」「お四方」など、「方」には「お」がつき、「人」にはつかない。*お三名様、*お五人様など。
3音節の語、二階→お二階、しかし五階→*お五階。
従来の日本の一般家屋では二階までがほとんどで、「二階」はなじみの語として「おにかい」と言うが、三階以上はこれまで日常使用語彙ではなかったから、という説明で、留学生に納得してもらうしかなく、ほかに適切な説明があったら、教えてもらいたい。
11 個人差地方差
外来語に「お」つけることは、原則ではしないことになっているが、接客上丁寧な言い方を求められる場では「おソース」と聞くことが多い。しかし、家庭の食卓で「ソースとって」と言うか「おソースこっちにまわして」と言っているかなどについては、個人差があるだろう。
また、和語や漢語を丁寧に言う場合も、地方によって個人によって差がある。私の育った家でも、学校の友達との会話でも、髪のことを「おかみ」と言っていた。「おかみを櫛でとかす」「今日のお髪、三つ編みがかわいいね」などと会話して、それが普通だと思っていた。
東京に来て、この言い方を方言だと笑われた。「髪に『お』をつけるのはまちがっている。『お』をつけるなら『おぐし』という」と注意された。
標準的な言い方では家庭内の照明に対し「玄関のおあかり消して」という表現を、日常生活やテレビドラマの中などで聞くことはなかったし、『楽しいひな祭り』の歌でも「明かりをつけましょぼんぼりに」だが、神仏の前にともす場合は「仏壇のお明かり」と言う。(a******さんのコメントでもこの点への指摘をいただいた)
畳も、ある家では「お畳のへりをふまないで」と言うだろうし、江戸時代には「お畳奉行」という役職もあった。畳に「お」をつけないというのも、あくまで、標準的な会話にでるかどうかという程度で判断し、全国的な使用頻度をチェックをしたものではない。
鋏についても、華道の教室などでは「お鋏」という例があるし、大相撲の断髪式で「お鋏をちょうだいする」という言い方がある。このあたりから、一般化して日常会話でも「ちょっと、この封筒あけるから、おハサミ貸して」と、事務所で言うように広まっていくのかもしれない。
以上、「お」と「ご」をつける場合の原則を並べてみた。1~5に書いたことは、日本語学の本、語彙論の本に載っている原則に基づき、私が拾った用例をあてはめながらまとめたもの。
2-③の「お」が「ご」に変わっていくだろうという部分と、6~11に書いたことは、筆者の覚え書きであるので、これから検証していかなければならない。
昔は、全国的な言語使用調査は、大がかりで費用も時間もかかった。言語学者が地方のインフォーマント(調査対象者)に一語一語聞き取り調査などをして、まとめていった。
松本修著『全国アホ・バカ分布考』は、テレビというメディアを利用した言語分布調査で、ケンカしたとき「アホ」というか「バカ」というかの全国的な分布をまとめている。日本方言学会でも認められ、メディアを利用した画期的な調査だった。
「お」と「ご」の用い方、どの語につけてどの語にはつけない、という調査も、テレビやインターネットを利用して全国的な調査ができるのではないかと思う。どなたか、やってみてほしい。<「お」と「ご」終わり>
11:33 |
女の顔は請求書 丁寧語の「お」と「ご」
2005/12/15 木
「よろずメール相談顛末・日本語相談受け付け中」という足跡を付けて回っていたのですが、質問はめったに来ません。
それもそのはず、この「学生からのメール」シリーズ冒頭に「私は、日本語と日本語教授法を教えて、日々の糧を得ております。授業料を払っている人を対象として教えているので、現在ネット上のボランティア授業は行っておりません」と宣言してしまっていたのでした。
今さら「ちゃんと授業料払ってくれるなら、応相談」と、書くのも顰蹙ものですね。
プロフィール欄に書いてあるように、「無料、タダ、ご招待」という言葉が大好きで、「濡れ手で粟(濡れ手に粟)」「棚からぼた餅」「果報は寝て待て」「人の褌で相撲をとる」などなどを家訓にして生きておりますので、どうにも、「せこくてケチでしみったれ」が、身に付いております。
で、ちゃんと授業料払う気のありそうな方には、ちゃんと「応相談」しております。
「10年くらいたったら居酒屋ご招待、焼き鳥3本、もつ煮込みをごちそうします」という授業料契約にて「日本語のひらがな」について、t******さんにお答えしました。
「漢字表記のつかいわけ」について、k*****さんの質問にも返信。こちらは、授業料請求は、これからです。「春庭が、ご当地を訪問したさいは、釣りたての魚をサシミにしてご馳走してください」と、「御請求申し上げます」
「請求書」「御請求書」「見積書」「御見積書」の違いについて、a****さんからの質問にこれからお答えしますので、「春庭が、ご当地を訪問したさいは、九州うまいもんをごちそうしてください」と、「御請求申し上げます」
名詞を「丁寧、美化」する接頭辞、「お」「御」について、2005年初頭に、春庭ニッポニアニッポン語シリーズとして連載しました。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502c.htm
に、過去ログがありますので、ごらんください。
a*****さんからは、「あかり」に「お」がつく場合などについての、ご指摘をいただきました。
掲示板にいただいた今回のご相談。「請求書と御見積書」a*****
「 以前から時々思っていたのですが、今日、会社の請求書をPCで作っていて、どうも気になって仕方がありませんので、春さんのお考えを聞かせてください。
現在の所、見積りでは、表題は「見積書」と「御見積書」が並存していて、「御見積書」が多数だと思います。そして、文は、「下記の通り御見積り申し上げます」となっています。
一方、請求書では、御請求書などは見たことがありませんが、多くは「御請求申し上げます」になっていることに気がつきました。他所からの請求書だけでなく、当方の複写式請求書もそのように印刷されています。
慣用的に、こうなっているのでしょうか。丁寧語というよりは、自分の行為に対する事だと思うので、「見積書」「請求申し上げます」でよいと思うのですが、いかがでしょうか。2005-12-14 01:54:45 」
本文では「御見積り(おみつもり/おんみつもり)申し上げます」「御請求(ごせいきゅう)申し上げます」と、どちらにも「御」がつくが、表題では「見積書」は「御見積書」と並存。しかし、請求書には「御請求書」がない。これはなぜか、というご質問。
まず、「御」「お」の原則。自分の行為であっても、相手に関わっている場合には、関わる相手への敬意を表わすために、美化、丁寧化されることが多い。
たとえば、自分が書いた手紙であっても、相手に差し出すものだから、「お手紙にて、失礼いたします」などと、「お」をつける。
公式文書などで、「お」をつけたくない場合、「書面にて回答させていただく旨、ご了承下さい」など、「てがみ」という和語ではなく、丁寧化しにくい「書面」などと固い言葉をつかいたがる。和語に「お」をつけないと、丁寧さがうすれる気がするからである。
「請求」や「見積もり」の場合も、自分が見積もりを出したり、請求したりするのだが、相手のために見積もったり、相手に請求するのだから、相手との関わり上、丁寧に言おうとする。
本文では、「御見積り申しあげます」「御請求申し上げます」になる。
表題の差は、漢語か和語かの違いによるのだろうと思う。「みつもり」は「見る」と「つもる」が合わさった「見積もる」という複合動詞が名詞化したもの。和語意識が残っている。一方、請求は漢字熟語である。
「みつもり」は、和語由来なので、「おみつもり」にして抵抗がなく、「おみつもり書」と、複合名詞にして書くことに違和感がない。
漢字熟語のなかで、「する」をつけて動詞として用いられる場合を「する動詞」という。「掃除→おそうじする」「洗濯→おせんたくする」「食事→おしょくじする」などのように、日常生活でよくつかわれ、特に女性語として用いられる場合は、「お」をつけて丁寧化される。「お電話する」「お裁縫する」など。
漢語意識が残っている場合は、丁寧化は「御(ご)」をつける。「ご家族」「ご無事」「ご住所」「ご職業」など「する」をつけられない名詞のみの語と、「する」をつけて、「動詞」としても使われる語がある。
相手が動作をする場合「ご心配なさる」「ご質問なさる」「ご希望なさる」「ご来店なさる」など。
その行為が自分へむけられているときは、「ご来店くださる」「ごらいてんいただく」
自分がした動作が相手に向けられている場合「ご招待する」「ご伝言する」
さらに丁寧にいおうとすると、近頃増殖著しい「させていただく」を使う。「ご協力させていただく」など。
「請求」も、「つぎの通り請求します」より、「つぎの通りご請求申し上げます」のほうが、「より丁寧に表現しよう」とするビジネス社会では好まれる。
動作を含む漢字熟語を名詞として使い、複合名詞を作る場合、「質問欄にご記入ください」「ご質問欄にご記入下さい」「利用者名は、下の欄にお書き下さい」「ご利用者名は、下の欄にお書きください」どちらが、しっくりくるか、人によって受け止め方がことなり、丁寧の「ご」をつけるかつけないか、厳密に決まっているわけではない。
私自身の感覚では、自分が利用する場合「ご利用者名」などと、言ってもらわなくても、名前くらい書き込むつもりなのだが、客商売などでは、より過剰に丁寧な方向へむかう。
表題を「請求書」とするか、「御請求書」とするか。グーグル検索では、請求書が2220000 件、御請求書358000件。
現在のところ、「御請求書」が少数派といっても、こののち、「御請求書」のほうが多数派になっていくであろうことは、推察できる。
丁寧さの意識は、どの語であっても使うにつれ磨り減ってしまうから、より過剰に丁寧な方向へ向かう。
和語系の「御見積書」に比べ、「御請求書」が、今のところ少数派であるとしても、これから増えていくのではないかと思います。
以上の解説に対し、「春庭への九州うまいもん、大盤振る舞い」を、ご請求申し上げます。
「女の顔は請求書」だそうですが、どうも春庭のご面相では、「うまいもん」請求も「だんご汁」一杯か「とんこつラーメン」くらいなところでしょう。せめて、とんこつラーメンは大盛りに願います。<つづく>
00:03 |
2005/12/18
日本語相談(3)>丁寧な言い方つづき
単語を丁寧化、美化する接頭辞「御」と「お」について、の続編。
f*******さんからのおたずねです。
「 横からお邪魔します。今日仕事で、「ご迷惑をおかけします」。。。と言ってから、「ご迷惑」の「ご」に固まりました。
相手への敬意を表すといっても、自分がかけた迷惑を美化していいものでしょうか。。。
あ、この1行目、「お邪魔」の「お」もですよね。。。
なんかむしかえしちゃったようで、「お手数」おかけします。。。
2005-12-15 23:44:4
丁寧さをどう表現するか、言葉の美化について。
個人の好みという面もありますが、ビジネス社会などでは、よりいっそうの丁寧さを表現したい、という傾向があります。
「迷惑」は、自分の行為ですが、相手に関わったことなので、「ご迷惑」と丁寧表現で言っておく、というところで、いいんじゃないでしょうかね。
友だちの家から帰るとき「どうも、じゃましたね」というのも、「あらぁ、こんな時間まで、おじゃまさまでした」というのも、個人の自由。
でも、商取引などで、取引先を辞すときは、「本日は、私どものためにお時間いただき、まことにありがとうございました。どうも長い時間、おじゃまさせていただきまして、申しわけございません。どうぞ、今後とも、よしなにおつきあい願います」など、「じゃましたね」ひとつ言うにも、表現が長々しくなる傾向。
この先の日本語表現、どのように変わっていくのでしょうね。
若い人たち全員が「敬語も丁寧表現も、メンドイ」と考えれば、丁寧表現も簡略化されていくでしょう。
日本は今「階層化社会」に向かっているといわれています。若年世代が、正社員高年収層と非正社員低年収層にはっきり別れていくだろう、という予測です。
社内教育などで、敬語やビジネス用語いいまわしを教育される層と、そうでない層は、言葉遣いでも差が広がることが予想されます。
仕事の遅延を指摘されたとき、クレーマーに向かって「だからあ、この仕事、何分でやれって言われたわけじゃないしぃ、っつーか、べつに、やる必要ないじゃんか。なんで、こっちがおこられなきゃなんないわけ?」と言う層と、「まことに申し訳ございません。遅れた原因につきましては当方にて鋭意調査いたしまして、のちほど、ご連絡申し上げますので」と、とりあえず言っておくように、社内教育を受ける層と、別れていくのかもしれません。
階層差固定が3世代以上続くと、イギリスの「クイーンズイングリッシュ」と「コックニー」のように、同じロンドンに住んでいながら、発音や表現が違ってくるということにもなっていきます。社会言語の中で、地方差による方言ではなく、階層差による方言が固定してくる。
「マイ・フェア・レディ」は、下町なまりのコックニーと上流社会口語表現の違いの一面を見せています。
下層も中流も今のところ言葉に差がない現在、「相手に関わる表現には、とりあえず、御とおをつけておけ」というのが、仕事上では無難なやり方なのでしょう。
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