将棋王 ツメルモンスターズ

目指せ真の詰キスト!
主に短編詰将棋について書きます

【将棋】早指しが最も得意な棋士は誰か?

2019-12-30 15:42:27 | プロ棋士雑学
「早指しが最も得意な棋士は誰か?」

 これが今回の研究テーマです。

 早指し指数として、「早指し棋戦勝率/長考棋戦(竜王戦+順位戦)勝率」を定義します。
 (「早指し棋戦」は全棋士参加で持ち時間の短いNHK杯、銀河戦、朝日杯の3棋戦とします)
 この数字が高いほど早指派、低いほど長考派であると推定します。
 
 全棋士を調べるのは大変なので、永世称号保持者・タイトル保持者・A級・レーティングTOP10の棋士19名に限定して調査しました。
 (解像度の関係で下記の表は一部抜粋です。成績は2019/12/26現在)








そして注目のランキングはこちら!



 流石羽生名誉NHK杯、恐るべし…

 羽生九段は永世七冠の資格保持者。言うまでもなく竜王戦や順位戦、2日制タイトル戦のような持ち時間の長い棋戦も突出して強いのですが、それにも増して早指し棋戦との相性が良いみたいです。特にNHK杯の勝率は驚異の8割超! ずば抜けた大局観があるからこそ出せる数字なのでしょう。
 参考までに、「マッハ」の愛称を持つ早指しの雄、田村七段の早指し指数は1.125でした。羽生九段はマッハ以上にマッハ!?

 一方、永瀬二冠を初めとして若手のトップ棋士は、比較的長考棋戦の方が相性が良いという興味深い傾向も得られました。
 若手は研究と読みを、ベテランは経験と大局観を重視する。と考えると、すんなり理解できる気がします。
 

【将棋】若手有利な棋戦、ベテラン有利な棋戦

2019-12-23 20:00:12 | プロ棋士雑学
 現在棋王戦の挑戦者決定戦、本田四段(22)VS佐々木大五段(24)が進行中。新時代の幕開けとなるか!?ということで注目を集めています。

 そこで、ふと「若手にとって挑戦権を狙いやすい棋戦はどれだろうか?」と疑問が湧きましたので、早速検証してみることにしました。

 どの棋戦も挑戦者は毎年1名という意味においては、挑戦権を得ることの難しさの差は本来ないのですが、棋戦によって予戦・本戦の仕組みが異なるので、それによって相対的に若手にチャンスが多くなったり(=シード権が弱い)、既にトップ棋士としての地位を確立したベテランが挑戦しやすかったり(=シード権が強い)という違いが生じると思います。

 8大タイトル戦の内、歴史の浅い叡王戦を除く竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖戦について、平成元年度から平成30年度までの挑戦者の年齢のデータをまとめて比較したデータが以下です。
 *各棋士の年齢は、「該当年度内に達する年齢」としています。



 挑戦者の平均年齢が最も高いのは名人戦。
 ご存知の方も多いでしょうが、5クラスある順位戦の頂点=A級リーグの優勝者が名人戦の挑戦者になります。
 新人プロは一番下のC級2組に所属し、リーグ戦の成績に応じて1つ上のクラスに昇級します。飛び級の制度がないため、新人がA級に上がるには最低でも4年かかります。しかも昇級枠は少数。昨年の藤井聡七段のように、9勝1敗という素晴らしい成績でも上がれない、ということはざらにあります。どんな実力者でもA級に上がるまでに一定以上の年数がかかってしまうので、名人戦は全棋戦の中で最もベテラン有利・若手不利(というか制度上A級にいない限り勝率100%でも挑戦不可)と言えます。

 王将戦も次いでベテラン有利の棋戦です。
 王将戦はリーグ戦で挑戦者を決めますが、予選からリーグ入りできるのはわずか3名です。同じくリーグ制、王位戦の新規枠8名と比べると半分以下の定数です。
 既にリーグに定着している棋士にとっては最初からベスト7という強力なシード権があるので有利ですが、予選から勝ちあがらなければならない若手には厳しい仕組みです。
 そんな中、20歳で挑戦を果たした豊島竜王名人(当時六段)はやはり凄いです。

 反対に、相対的に若手有利の結果が出たのは棋聖戦。平均年齢は唯一の20代。挑戦者の過半数が30歳未満というのも棋聖戦だけです。屋敷九段が最年少タイトル挑戦&最年少タイトル獲得の記録を作ったのもこの棋戦です。
 ただ、制度的には特別シード権が強いわけでも弱いわけでもないので、この数値は偶然なのかもしれません。

 以上が7大棋戦のデータでした。
 今回はサンプル不足のため叡王戦には触れませんでしたが、この棋戦は予選が段位別なので四段、五段、六段の若い棋士が確実に1~3名ずつ本戦に上がってきます。
 実際叡王のタイトルは高見七段、永瀬七段と20代が続いてますし、制度的にはかなり若手に有利な可能性があります。新たなスターが生まれる可能性の高そうな棋戦として、今後も注目していきましょう。

豊島将之竜王・名人 至高の名局

2019-12-07 22:42:20 | プロ棋士雑学
 2019年12月7日
 豊島名人が竜王位を奪取し、史上4人目、そして令和初の竜王名人が誕生しました。

 迎え撃つ広瀬前竜王も好調で、特に中盤の大局観の素晴らしさには恐れ入りました。

 結果的には豊島名人の4勝1敗でしたが、第2局以外は苦しい時間帯の方が長かったので、ファンとしては祈る気持ちで見ていました。
 それでも、全て逆転で先手番の第1,3,5局を勝てたのは、王者の貫禄・威圧感が出てきたからでしょうか。
 劣勢になっても、相手は常に「豊島さんだから…」とプレッシャーを感じてしまい、それがわずかなミスにつながってしまう…。
 「羽生マジック」ならぬ「とよしマジック」が炸裂したシリーズだったと思います。
 

 そんな偉業達成の豊島先生の、最高の一局はどれかな~とビールを片手に考えていたのですが、個人的にはやはりこれだと思います。
 簡潔にご紹介しますので、是非並べてみてください。

 
 

 それは 平成29年8月24日 第43期棋王戦 対藤井聡太四段戦 です。
 (著作権の関係で詳しい棋譜は掲載しません)

 
 同郷の後輩、藤井聡太四段(現七段)との初手合い。
 藤井四段の先手で十八番角換わりになったのですが、豊島当時八段は驚異の歩玉銀で千日手に誘導します。
 (消費時間 ▲藤井四段66分 △豊島八段14分 というところからも豊島先生の用意周到っぷりがよくわかる)
 そして、指し直し局は豊島先生が先手角換わりで圧勝しました。

 この対局は藤井聡太先生にとって初の対A級棋士戦でした。デビュー29連勝を果たした天才にとっても、この一局は衝撃だったでしょう。
 いずれは実現するであろう豊島-藤井のタイトル戦を、今から楽しみに待ちたいと思います。
 

【将棋】「堅さよりバランス」を直感的に理解しよう!

2019-12-01 11:44:59 | 将棋雑学
 上図はそれぞれ矢倉、角換わりの新旧対抗型。
 先手陣は昔からある形ですが、後手陣は近年指されるようになったAI考案の新型です。

 さて、先手と後手、どちらがお好みでしょうか?

 玉の近くに金銀が密集しているのは先手陣。よって玉の型さでは先手が勝ります。
 人間の感覚では、やはり守備駒が集まっている方が安心できるので、従来はこの形が主流でした。

 では、後手陣の長所はというと、金銀が分散している分駒の打ち込みの隙は小さくなっています。
 加えて、終盤に右辺を崩されたとしても、玉が左辺(後手側から見ると右辺)に脱出して粘りが効きやすくなっています。
 広い空間の中、のらりくらりと攻めをかわして粘る感じですね。



 AIは特に詰む詰まないの読みが得意なので、詰まされにくい逃げ方を正確に把握し、「のらりくらり」と嫌らしく粘ることができるのです。
 その様を目の当たりにした人類は、次第に後手陣のようなバランス型を評価するようになり、プロ棋戦でもすっかり定着しました。

 とはいえアマチュア的には、特に初心の方にとっては「のらりくらり」とかわすよりも玉を固める方が勝ちやすいでしょうから、「堅さよりバランス」というのは理解しにくいかもしれません。
 そこで今回は「堅さよりバランス」を例え話で解き明かそうと思います。



例え話① 学校内で鬼ごっこ(鬼から逃げている状況)
 外でやれ!というツッコミはごもっともですが、今回だけ勘弁してくださいw
 さて、鬼に捕まらないためには大きく次の2つの方針があります。

 A:部屋に入り、隠れる。または内側からバリケードを作り防御する。
 B:ひたすら走って逃げる。

 Aが堅さ重視、Bがバランス型⇒のらりくらり の例えです。
 どちらが勝るかは一概には言えませんが、足の速さ(技術)に自信があるならば、下手をすれば逃げ場のなくなるA(実際守備駒が邪魔で玉が脱出できないということはよくある)よりもBの方が勝りそうです。鬼よりも足が速ければまず捕まらないので。



例え話② ボクシングのディフェンス

 相手のパンチを防ぐ方法として、やはり大まかに次の2つの方法があり

 A:ガードを固め、攻撃をかわさずにブロックで受ける。
 B:フットワークを使う、またはスウェーバックなどでヒラリとかわす。

 やはりAが堅さ重視、Bがバランス型⇒のらりくらり の例えです。
これまたどちらが勝るかは一概には言えませんが、ディフェンスの達人で史上最強ボクサーの1人、フロイド・メイウェザー選手の戦い方は間違いなくB寄りです。
また、技術的に難度が高いのもBでしょう。小学校時代の喧嘩を思い返して、相手の攻撃をガードする子はいてもスウェーでかわすような子はいませんでしたから。
俗に言う「殴られ屋」さんも、素人さんのパンチを「かわす」ことで防ぎます。


以上2つの例え話でイメージが湧いたでしょうか?
どちらにしてもBの方が技術的には難しいのですが、マスターしてしまえば、Aより捕まりにくいというケースも多々あると思います。

他に、もっと分かりやすい例え話があれば、コメント欄で教えてくださると幸いです。

【将棋】段位とレーティングの関係についての考察

2019-11-23 23:11:07 | プロ棋士雑学
プロ棋士の実力の指標
 と言えば、何を思い浮かべられるでしょうか?

 段位、勝率、順位戦のクラス、などが一般的でしょうか。
 ただ、それぞれ

 段位・・・化物並みに強い新人がいても最初は四段。すぐ昇段できるわけではない。反対に、著しく力が落ちた高段の棋士がいても降段することはない。
 勝率・・・対戦する相手の水準によって、同じ勝率でも評価は変わる。
 順位戦・・・各クラス年2,3名程度しか昇降級しないので流動性に乏しい。B級2組以下は総当りではないので、くじ運にも左右される。

 という理由から、単体では棋士の実力を正確に推し量ることはできません。


 私は「レーティング」(以下Rと略)なる数値が、最もタイムリーな実力を表すと考えています。詳しい説明は割愛しますが簡単に言うと、対戦相手のRの高低に応じて一局一局の勝敗ごとに変化する数値です。(勝ったときのRの増え幅は相手のRが高いほど大きく、負けたときのRの落ち幅は相手のRが低いほど大きい)

 今回は段位とRの関係について調べることにしました。高段ほどRが高いのか、それともあまり相関がないのか!?

 まず段位の仕組みについて確認しましょう。
 プロの段位は四段からスタートし、昇段規定(順位戦○組昇級、□段昇段後△勝、タイトル通算×期など)に基づいて上がっていきます。そして先ほども触れましたが、一度取得した段位から降段することはありません。一度九段になれば、たとえルールがわからなくなるほど衰えたとしても一生九段なのです。

 それでは段位別の平均Rを見てみましょう。



 豊島名人や渡辺三冠、羽生九段らA級棋士多くが属する、最高段位九段グループが、唯一の平均R1600台をマークし首位でした。
 一方八段以下に関しては四段から八段まで、平均Rに明確な差はありませんでした。即ち段位とRの間には有意な相関関係が認められないということです。
 永瀬叡王・王座や、広瀬竜王、稲葉八段、糸谷八段らA級棋士の属する八段グループはもっと高いと予想していましたが、蓋を開けてみればワースト2。最下位は七段グループ。説明無用の藤井(聡)七段に加え、菅井七段、高見七段、斎藤(慎)七段、中村(太)七段ら近年のタイトル経験者、さらにはR上位常連の千田七段。実力者勢揃いのイメージを持っていただけに意外な結果とでした。
 実力者が多くいる一方で、平均が高くないということはデータにばらつきがあるということ。色々調べた結果、ばらつきの原因は年代であるとわかりました。



 このように、同じ年代の中では段位が高いほどRも高い傾向がはっきりわかります。
 他方同じ段位の中では、年代が低いほどRが高く、全体でもその傾向がみられます。(10代だけ平均Rが突出して高いのは藤井聡太七段しか該当者がいないため)
 悲しいかな、少なくとも記憶力や体力は若い世代の方が高いのです。(羽生先生も25歳で七冠独占を達成したとき、既に記憶力のピークは過ぎているとおっしゃっていました)
 記憶力・体力の差は事前研究の差にもつながりますし、長い対局を乗り切る上でもやはり体力がある方が有利です。そういった理由で、世代間で平均Rの差が生じてしまっているのかもしれません。

 とまあ長々と述べてきましたが、今回のデータから言えることを要約すると

「プロの段位とは、実力の指標というよりは実績の指標だ」ということです。

 よって、段位から実力を評価する場合は、年齢や勤続年数とセットで考えるべきです。同じ段位でも、例えば5年でその段に到達した人と20年かかった人がいれば、短期間に同水準の実績を積み重ねた方が実力は上でしょうからね。

*この記事における肩書・段位・Rは2019年10月上旬時点で集計したものです。