女子プロゴルフツアー取材38年のベテラン記者がつづる、極上エピソード女王列伝 月橋文美のゴルフ『女王たちの流儀』岡本綾子編13
岡本綾子さんのコースマネジメントは、時折大胆かつ斬新。度肝を抜かれた。
1990年代前半に千葉県で行われたある大会では、開催コースの序盤ホールに忘れられない思い出がある。
距離はそう長くないが、セカンドショットからグリーンにかけてが、かなりの打ち下ろし、グリーンは奥行きがなくオーバーすれば崖下のものすごいラフかOBゾーンというパー4だった。上位で回る選手たちの組がそのホールに差しかかる時間には、風はいつもフォロー。多くの選手たちが攻めあぐねていた。
そこまでほぼパーフェクトにフェアウエーをキープし続けていた岡本さんが、ティーショットを右のフェアウエーバンカーに打ち込んだ。あれっ? どうしたのかな? と意外に思ったが、岡本さんの集中力はそれまでと変わらず保たれている様子だった。
そのフェアウエーバンカーでライを確かめると、納得したようにクラブを選んでセカンドショット! 見事にスピンがかかったボールでピンそば1メートルほどにつけ、楽々バーディーに仕留めた。
そのことをずっと考えながら残りホールのプレーを取材していたが、ラウンド後にこわごわ聞いてみた。「あのホール、もしかしてわざとバンカーを狙ってティーショットしたんですか?」
「そうだよ」と平然と岡本さん。「フェアウエーからいいショットを打ってもボールが止まる状況じゃないでしょう? だからバンカーに入れて、スピンをかけたかったの。よく見てたね」
なんとまあ、素晴らしい。その発想。その勇気。そして小さなフェアウエーバンカーを狙って打てる自信と、成功させる技術。こりゃあレベルが違う、と何とも言えない優越感のような気持ちが、こちらの方に湧き起こったものだ。
その大会は2位に3打差をつけて、優勝。ちなみに、米ツアーからの帰国参戦だった岡本さん見たさに大ギャラリーが詰めかけ道路が大渋滞、最終日最終組が最終ホールを迎えるまでコースに到着できなかった人がいた、と聞きました。伝説の“綾子フィーバー”の一幕でした。