ぼんやりテレビをながめていたら.それはそれは
おいしそうな料理が.ヒレ肉のおいしいところを
分厚く高く,表面に焼き色を付けたうえに黄金色の
フォアグラを載せ,肉汁にワインを加えたソースを
絡めながら火を通していく.だけど,こんな時間に
料理番組なんかあったっけ.よーく見てみると,
NHK の名曲アルバムでありました.ああ,それなら
話は早い.この料理は,数多くの歌劇を書きながら
同時に美食を探求する料理人でもあった音楽家の
名前を冠して,ロッシーニ風ステーキと呼ばれる
調理方法なのです.後ろではストリングスが流麗に
流れていますああ流れています.番組では簡単に
この音楽家の生涯を伝えていました.幼少期には
肉屋になりたかった少年.ごちそうを夢見ながら
音楽家になり,儲けた金で好きなように料理を作り
おいしい料理や調理方法への研究を続けました.
要するに,オペラを作曲して儲けた金でしこたま
食いまくり,自分でも包丁を握り,食べたいものを
食べたいと言ういやしんぼさんだったのですね.
ロッシーニのおっさん,ある日突然「音楽なんて
やーめた」と五線紙を放り投げ,その後の生涯を
料理人として歩んだといいます.音楽という名の
女神よりも,食欲魔神の微笑みに手をさしのべた
えらいイキったおっさんです.まあ,食事とは
一日の中でも美しい行為のひとつではあります.
しかし音楽という才能と料理という才能を両手に
抱えて,そこで音楽を捨て料理を選んだのは
本人の意思なのでしょうがないことですが….
その才能,どっちか片方ください.おこぼれ.