「いつの頃からだったろう、君の存在に気づいたのは」
―またその話か。
「いや、今日こそははっきりしておきたいんだ」
―別にそんなことどうでもいいじゃないか。
「じゃあ、君はいつからここにいるのか覚えていると言うのかい?」
―そういうことも忘れたなあ。ごく最近と言えばそんな気もするし、ずっと以前からと言えばそういう気もする。
「わからないな」
―そう、それでいいんだよ。ぼくは君が気づく前から、君のそばにいるんだから。
2.
「生まれた時のぼくはどうだった?」
―どうだったって、今と何ら変わらないよ。見えるものを見て、聞こえるものを聞いていただけなんだから。
「生まれた時と変わらないってことはないと思うんだけど」
―変わってないよ。変わったと思うのは君の錯覚だよ。
「でも、現にぼくは成長しているじゃないか」
―成長ねえ。ただ服を着替えただけと思うんだけど。
「ああ、毎日服は着替えているよ」
―そういう意味じゃない。人は誰も、存在という服を着ているのだ。その時その時、その場その場で、その服は変わっていく。しかし、服はいつも変わるけど、それを着る人はいつも同じなんだ。
「よくわからない」
―わからなくていいんだ。
3.
「ぼくには多くの敵がいる。いったいどう対処したらいいんだろう」
―気にするな。
「気にするなと言われても、気になるものはしょうがない」
―君が敵だと思うから敵なんだ。敵と思わなければ気にならないだろ。
「敵と思うななんて、そんなことできるわけないじゃないか」
―相手の存在が嫌なんだろ?
「そうだよ」
―『嫌』を心の中から追い出せばいいじゃないか。
「そんなこと出来るはずないだろ」
―じゃあ、『嫌』を楽しんだらどうだい。
4.
「ぼくは小さい頃から、ほら吹きって言われてるんだけど」
―それはしかたないだろう。
「何で?」
―ぼくがガイドラインだからさ。
「誰がそんなこと決めたんだ?」
―誰がって、君が生まれる前から決まっていたことさ。
「誰が決めたんだ?」
―君だよ。
「ぼくが生まれる前に、君をガイドラインと決めたというのか?」
―ああ、そうだよ。
「それはおかしい」
―どうして?
「無の状態のぼくが、君を認識するわけがないじゃないか」
―もちろんだ。だけど、君はちゃんとぼくを選んだんだよ。というより、生まれる前から、君はぼくで、ぼくは君だったんだ。
「君は君、ぼくはぼくじゃないか」
―それは違う。
「どう違うんだい」
―ぼくは君だから、ぼくでありうるんだ。
「またわからないことを言う」
―わからなくていいよ。
「君はいったい何者なんだ?」
―ぼくか。ぼくはほら吹きさ。
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