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吸血鬼大作戦 ㉘

2019年09月07日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
 警察の事情聴取が終わり、明はパトカーで家に帰って来た。事前に連絡が行っていたのだろう、両親は起きていて、パトカーが家の前で停まると、家の中から見てでもいたのか、タイミング良く父親が出て来た。
「勇気ある立派な青少年ですね。お父さんも鼻が高いでしょう」
 送ってくれた警官が父親に言った。
「いえいえ、そんな。こんな夜中に皆さんにご迷惑をお掛けして……」
 父親はにこにこしながら答えた。
「ゆっくりと休ませてあげて下さい。何しろ大活躍でしたからね」
 警官は言うとパトカーで戻って行った。
 家に入ると、父親の態度が一変した。
「全くお前は、何をやってんだ!」父親は不機嫌な顔になって、文句を言い始めた。「家の前にパトカーだぞ! しかも、こんな夜遅くに、だ。周りから何を言われるか…… 良いか、父さんはお前を不良になるように育てた覚えはない。お前は良い事やったつもりだろうけどな、世間ってのはそうは見ないんだ。警察イコール犯罪って見るんだよ! 明日から当分はご近所に説明しなきゃならん。『ええ、息子が吸血事件の犯人を捕まえたんです』ってな。ああ、面倒臭い話だ」
 明には何を怒っているのか全く分からなかった。良い事をしたって言うのに、何で怒られなきゃならないのか? ひょっとして、息子が父親より目立ったせいなのか、明は思った。
「いいかい、明」母親はいつものように心配そうな顔を明に向ける。「お父さんはお前を心配して言っているんだよ」
 だったら、怪我は無いかとか、大丈夫だったのかとか聞くんじゃないか? 明は無表情のまま考えていた。
 明は、ふと居間の壁掛時計を見上げた。午前一時を回っていた。明は両親を無視して、テレビのリモコンを手に取った。スイッチをオンにする。
「おい、明! 聞いているのか!」父親は無視されたことに腹を立てた。「人が話している最中にテレビなんか点けやがって、どうする……」
 父親の声が途切れた。目は映し出された画面に釘付けになっていた。
 テレビの画面には国会議事堂が映し出されていた。それだけならばさほど驚かなかっただろうが、その上空に白色に輝いている楕円形の大きな物体が浮かんでいたのだ。
「……国籍不明の飛翔物体です! 一時間ほど前に現われました! しかも我が国の国会議事堂の真上に! 目的は何なのでしょう? 現在、閣僚が召集され、首相官邸で会議が行なわれております!」
 アナウンサーの興奮した声が流れている。父親は明からリモコンを取り上げると、次々と別のチャンネルに切り替えるが、どこも同じ映像だった。画面右上に白字で「国籍不明の飛翔物体」とあった。父親と母親はソファに座り込んで、テレビを見ている。
「国籍不明って…… これはUFOじゃないか?」父親がつぶやく。「宇宙人じゃないのかよ……」
「どうなるんでしょう……」母親は不安そうだ。「まさか、侵略だなんて……」
 明はそっとその場を離れ、二階の自室へ行った。照明も点けずにベッドに寝転がった。そして、にやりと笑った。
「ジェシル、やってくれるなぁ……」
 明はつぶやいた。
 明がジェシルに協力すると言った後、また一つ光があり、それが消えると、全身黒ずくめの中年男が現われた。死んだように動かない。ジェシルは怒った顔を明に向けた。
「この男、何したと思う?」
「……さあ…… 分かりません……」
「この男、わたしのお尻を触った、いいえ、むにっと思いっきりつかんだのよ! 中腰になって明君とガルウォッツォとのやり取りを見ていた時だったわ。いつの間にか背後にいてね。油断してたわたしも悪いんだろうけど。思わず殴り倒してやったわ!」
「そうなんですか……」明は中年男を見ながら言った。「これって、痴漢だと思います……」
「痴漢?」
「はい、闇にまぎれたり、周りに気付かれないようにして、女性に触る男たちの事です」
「ほう!」カルースが笑いながら割って入って来た。「ジェシルが気が付かなかったなんて、この男、相当なベテランなんじゃないか? しかし、ジェシルのお尻はいけないな。以前、ボル星人のメャンヒャーってヤツが同じ様な事をして、ジェシルの熱線銃で消されたっけな。その時のジェシルの言い分が『公務執行妨害』だ」
「だって、あの時は容疑者を監視中だったのよ。あれで悲鳴を上げちゃって取り逃がしたんだから、当然の報いよ!」
「あの……」険悪な雰囲気になりそうなのを察して、明が割って入る。「この公園って、よく痴漢が出没するんです」
「そうなんだ」ジェシルがカルースから顔を明に向けて言う。「そんな変なのがいるなんて、やっぱり未開の惑星ね……」 
「でも、痴漢なんてそんなにいません!」明は必死になって言った。ジェシルが機嫌を損ねたら、地球消滅を実行しかねない。「未開の惑星でも、最低の部類の者たちです!」
「そうなんだ」ジェシルはくすっと笑う。明の必死さが面白かったのだろう。かわいい…… 明はジェシルの笑顔を見て思った。「ま、いいわ。それでね、この男を一連の吸血騒ぎの犯人にしようと思うの」
「そんな事できるんですか?」
「簡単よ。記憶を埋め込んじゃえば良いんだから」ジェシルは倒れている男を睨み付けながら言う。「この男、自分が吸血鬼なんだって思い込んでいる、変なヤツにしてやるわ」
「でも、見つかった猫や犬は皆、全身の血が無くなっていましたけど……」
「良いのよ、そんな細かい事なんか」ジェシルは笑う。「こんな未開の惑星じゃ、犯人が捕まっただけでも大喜びなんじゃない?」
「そんなものでしょうか…… この事件、日本中で報じられていて、犯人逮捕だけじゃ、誰も納得しないかもしれません」
「その点も大丈夫よ」ジェシルは言う。「もっと大きな事件が起きれば、皆そっちに向いちゃうんでしょ? 未開で単純な惑星の住人なんだから」
「はあ……」
 明は曖昧に返事をする。未開未開と馬鹿にされているようだ。でも、否定はできない。ガルウォッツォも言っていたことだし、やっぱり宇宙の共通認識なんだろうな。明はため息をついた。
「でもね、明君みたいな子もいるんだから、未開の惑星から少し格上げしたいわね」ジェシルは明にウインクしてみせた。どきんと心臓が高鳴った。「まずは、地球も宇宙家族の一員だって言う自覚を持ってもらうわ。そのための洗礼を授けなきゃね」
 それが、国会議事堂上空の国籍不明の飛翔物体だった。あれは、ジェシルたちが乗ってきた宇宙船なのだ。


 つづく

 

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