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コーイチ物語 「秘密のノート」 96

2022年09月19日 | コーイチ物語 1 11) パーティ会場にて 岡島受難  
「父から聞いたんだけど、あの人はやたら『企画書』を提出するのが好きらしいわ」
 逸子が言った。
「凄いじゃないの! 岡島君の頭の中にはアイデアがいっぱいなのよ。それこそ、クリエーターの証明よ!」
 静世が自分の事のように胸を張った。
「そんな事言っちゃって良いのかしら? 『企画書』の内容を知ってる?」
「聞かなくても、きっと素晴らしいものに決まってるわよ!」
「何億円もしたあるイベント用の巨大なテントを燃やしてイベントの最後を飾ろうとか、改築したある県庁舎の壁に改築記念として自分の手形をべたべた付けようとか、そんなどうしようもなくて、絶対採用にならないものばっかりなんだって。本当に役に立ってないのは、そっちじゃない?」
「何を言ってるのよ! 誰も考えつかない事を考えつくのが才能よ」
「考えついたって、出来る事と出来ない事くらいは分かるもんじゃないの、普通は? それも分からないなんて、単なる思いつきを言ってるだけよ。それと、企画が通らないと『周りの大人が理解してくれない』って愚痴るんだって。その度に『お前も大人だろう』って父が言うそうよ」
「心はいつまでも純真な少年だから、ついそう言ってしまうのよ。無邪気なのよ」
「無邪気じゃなくて、幼稚なのよ!」
 再び睨み合い、互いに一歩ずつ詰め寄った。
「でもね」京子が言った。「あの人、陰じゃあなたたちを『ボクの本質も分からない女ども』って言ってるのよ。ひどいじゃない。こんなに応援しているあなたたちに対してよ。『ボクは女より男に人気のある男になりたい』なんて言ったりしているの…… ゲイよ、ゲイだわ。何を考えているのかしらね」
「どうでもいいのよ、岡島君なら。わたしたちはどう扱われてもいいのよ」
「それじゃ、あなたたち、馬鹿を見ているだけじゃない!」
「いいえ、わたしたちは岡島君を見ているのよ!」
 逸子と京子は呆れた顔で互いを見合った。逸子がため息をついて言った。
「これじゃ処置なしって感じね……」
 京子もため息をついた。
「互いに平行線ね……」
「でも、この人たち、あの人に何か全く別の人物像を無理矢理見ようとしているって気もするわ」
「そうね。もう止めるに止められない所まで来てる感じよね」
「気の毒ねぇ……」
「でも、本人たちはそう思っていないようだから、放っておきましょうよ」そう言って、京子はこわい顔で静世たちを睨みつけた。「放っておいてあげるから、コーイチ君を巻き込むような事は言わないでね。……馬鹿がうつるから!」
 静世が言い返そうとした時、どこからかのん気な声が流れてきた。
「これこれ、お嬢さんたち。楽しいパーティで争いは禁物だよ。OK?」
 ボーイスカウト姿の綿垣社長だった。後ろに数人の重役が仕立ての立派なスーツ姿で随っている。
 社長はニコニコしながら、いきなり立ち上がって気をつけの姿勢をした岡島に、近付いて言った。
「えーと、岡島……君だっけ?」
「そうです。岡島です。名で呼んで下さるほど親しくして頂いて光栄です、社長!」
 岡島は、大物に声をかけられたら、いつもするように、勝ち誇った視線をコーイチに向けた。やれやれ、こう毎回だと、ほとんど病気みたいなもんだな、コーイチは苦笑するしかなかった。
「今、重役のみんなとも話していたんだけどね」
「はい、何でしょうか! なんでも言ってらして下さい!」
「君、それ敬語のつもりかね?」
 重役の一人が呆れた顔で言った。「聞いた?」と逸子と京子は互いを肘で突き合って笑っている。「新感覚の敬語よ。凄いわぁ」と静世たちが感心している。
 社長は構わずに話を続けた。
「You、パスポートある?」

       つづく

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