「そう言えば、オフィス街で歩いていると、女の人に声をかけられたって言っていたじゃない」
京子が笑いながら言った。
「言ってた、言ってた」
逸子が言って、岡島を見た。
「あなた、何て言われたのよ!」
逸子と京子が岡島を睨んでいた。酔った女の人、特に魔女と免許皆伝だから、眼力は凄いものがあるんだろうな。岡島、怖がっていないか…… コーイチは少しだけ心配した。
「『岡島さんですか?』って言われたと思う」
岡島はむすっとした顔で言う。
「えええ! 名前だけしか聞かれなかったの?」
逸子が驚いて言った。
「他には何を聞かれたの?」
京子がすかさず聞く。
「かなり前の事だから、よく覚えていない」
岡島はぼそっと言った。
「かなり前って…… そのわりのは、つい最近の事みたいに言ってたじゃない! それに、いかにもモテモテって感じの言い方だったわね?」
逸子が不思議そうな顔で言った。
「覚えていないって…… 普通は覚えてるもんじゃないの?」
京子が逸子を見た。
「ひょっとして……」
逸子も京子を見た。
「ひょっとして……」
「創作話?」「自作自慢話?」二人が同時に言って、また爆笑した。
「どっちにしても、アヤシイわね……」
「うん、アヤシイ……」
京子と逸子はまた顔を見合わせて「ねぇ~!」と声をそろえた。
「その後、何だかわけの分かんないダラダラ話をしていたわよねぇ」京子が内容を思い出そうとして、腕を組み天井を見上げた。「う~ん、やっぱり思い出せない。って言うよりも、やっぱりわけが分かんない!」
「なんか、自慢話してなかった? イニシャルが“K.O.”で、ノックアウトがどうしたとか、岡とリットウでどうしたとか」
「そうそう、少し思い出した! お寺のお坊さんに神の子と言われたとか、龍神に守られているとか」
「よく考えても考えなくても、変な話よね」
「変よね。お坊さんなら仏の子って言うんじゃないかしら?」
二人はまた爆笑した。もう歯止めが利きそうもないぞ、コーイチははらはらしながら岡島を見た。岡島は真っ赤な顔をして、二人の方へ一歩進んだ。岡島のヤツ、相当怒っているようだ。だったら、きちんと反論すればいいのに…… やっぱり捏造話なのかなぁ。
「いや! 来ないで!」
逸子が叫んで、右腕を肩から大きく二、三度回し、手の平を岡島に向けて突き出した。とたんに岡島は後ろへ飛ばされ、じゅうたんの上に尻もちをついた。
「なに今の? 魔力でも使った?」
京子は驚いた顔で聞いた。
「これ? テレビドラマ『スパ王子!』の真似よ。主人公がパスタ修行をしながら“天然流那歩利拳”の極意を会得して行く物語なの。この前はピザ修行の回で、ピザの生地は回しながら放り上げて大きくして行くんだけど、その動きを相手に向けてやるわけ。そうすると手の平から強い“気”が放てるの。名付けて『気旋回』。試してみたら出来ちゃったのよ」
逸子が嬉しそうに言った。
「へえ~。さすが、免許皆伝ね! すご~い!」
京子が真似をして腕を回し始めた。
「ダメ!」
コーイチがあわてて叫んだ。放つのは“気”じゃなくて、絶対“魔法”だ! 危なっかしい! 京子はコーイチの方を見てぺろりと舌を出し、腕を下ろした。
「ちょっと! なにすんのよ!」
野太い声がかけられた。
尻もちをついた岡島の前に、まるで盾ように、いや、壁のように川村静世とその友人たちの一団が立ちはだかっていた。
盲目的オカヲタの登場か…… コーイチはまたため息をついた。また揉めるぞぉ……
つづく
京子が笑いながら言った。
「言ってた、言ってた」
逸子が言って、岡島を見た。
「あなた、何て言われたのよ!」
逸子と京子が岡島を睨んでいた。酔った女の人、特に魔女と免許皆伝だから、眼力は凄いものがあるんだろうな。岡島、怖がっていないか…… コーイチは少しだけ心配した。
「『岡島さんですか?』って言われたと思う」
岡島はむすっとした顔で言う。
「えええ! 名前だけしか聞かれなかったの?」
逸子が驚いて言った。
「他には何を聞かれたの?」
京子がすかさず聞く。
「かなり前の事だから、よく覚えていない」
岡島はぼそっと言った。
「かなり前って…… そのわりのは、つい最近の事みたいに言ってたじゃない! それに、いかにもモテモテって感じの言い方だったわね?」
逸子が不思議そうな顔で言った。
「覚えていないって…… 普通は覚えてるもんじゃないの?」
京子が逸子を見た。
「ひょっとして……」
逸子も京子を見た。
「ひょっとして……」
「創作話?」「自作自慢話?」二人が同時に言って、また爆笑した。
「どっちにしても、アヤシイわね……」
「うん、アヤシイ……」
京子と逸子はまた顔を見合わせて「ねぇ~!」と声をそろえた。
「その後、何だかわけの分かんないダラダラ話をしていたわよねぇ」京子が内容を思い出そうとして、腕を組み天井を見上げた。「う~ん、やっぱり思い出せない。って言うよりも、やっぱりわけが分かんない!」
「なんか、自慢話してなかった? イニシャルが“K.O.”で、ノックアウトがどうしたとか、岡とリットウでどうしたとか」
「そうそう、少し思い出した! お寺のお坊さんに神の子と言われたとか、龍神に守られているとか」
「よく考えても考えなくても、変な話よね」
「変よね。お坊さんなら仏の子って言うんじゃないかしら?」
二人はまた爆笑した。もう歯止めが利きそうもないぞ、コーイチははらはらしながら岡島を見た。岡島は真っ赤な顔をして、二人の方へ一歩進んだ。岡島のヤツ、相当怒っているようだ。だったら、きちんと反論すればいいのに…… やっぱり捏造話なのかなぁ。
「いや! 来ないで!」
逸子が叫んで、右腕を肩から大きく二、三度回し、手の平を岡島に向けて突き出した。とたんに岡島は後ろへ飛ばされ、じゅうたんの上に尻もちをついた。
「なに今の? 魔力でも使った?」
京子は驚いた顔で聞いた。
「これ? テレビドラマ『スパ王子!』の真似よ。主人公がパスタ修行をしながら“天然流那歩利拳”の極意を会得して行く物語なの。この前はピザ修行の回で、ピザの生地は回しながら放り上げて大きくして行くんだけど、その動きを相手に向けてやるわけ。そうすると手の平から強い“気”が放てるの。名付けて『気旋回』。試してみたら出来ちゃったのよ」
逸子が嬉しそうに言った。
「へえ~。さすが、免許皆伝ね! すご~い!」
京子が真似をして腕を回し始めた。
「ダメ!」
コーイチがあわてて叫んだ。放つのは“気”じゃなくて、絶対“魔法”だ! 危なっかしい! 京子はコーイチの方を見てぺろりと舌を出し、腕を下ろした。
「ちょっと! なにすんのよ!」
野太い声がかけられた。
尻もちをついた岡島の前に、まるで盾ように、いや、壁のように川村静世とその友人たちの一団が立ちはだかっていた。
盲目的オカヲタの登場か…… コーイチはまたため息をついた。また揉めるぞぉ……
つづく
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