花子の悲鳴で、にたにたしていたリー・チェンとブサシは真顔になった。
「あの花子さんが悲鳴を上げたんだ! これは一大事だ!」
コーイチは叫ぶが、どうして良いの変わらず、ただその場でじたばたしているだけだった。
「ブサシよ、こりゃあ緊急事態だな!」
「そうだな、リー・チェン!」
巨漢二人は両腕を振り上げて、その拳を風呂の板張りの外壁に叩きつけた。壁板はめりめりと音を立てて割れた。湯船も破壊されたのか、湯が大量に流れ出し、火がじゅうと鳴って消えた。
「あ…… お風呂……」
コーイチは流れる湯を見ながらつぶやいた。
「おい! コーイチ!」ブサシが怒鳴る。「お前も来い!」
ブサシとリー・チェンは割れた壁板の穴から湯殿に入った。コーイチも勇ましく後に続くが、何度か濡れた床板に足を滑らせそうになった。
「おい! 開けるぞ!」
リー・チェンが脱衣所との境の戸に手を掛けて花子に言う。
「きゃああああ!」花子の悲鳴が上がった。「わわわ、洋子ちゃん!」
コーイチが巨漢の間を縫って出て、戸をさっと開けた。
すぐ目の前に、青い下着姿の花子が、腰を抜かしたように座り込み、眼は見開かれたままで、向かいの壁を指さしていた。戸は全開になっているが、出入りだけのものなので、脱衣所の半分しか見えない。
コーイチは脱衣所に入って、花子の指差す方へ顔を向けた。
「わあっ!」
コーイチの声を聞いて、ブサシとリー・チェンも中に入る。そして、顔を向けた。
「むっ!」
「おう!」
巨漢二人も絶句した。
花子が指差す側の壁のすぐ前に、着替えを終えた洋子を小脇に抱え、にたにたと不気味な笑みを口元にたたえ、白濁の両眼をぎょろぎょろさせた、若い、スタイルの良い女が立っていたのだ。抱えられた洋子は気を失っている。
抱えた洋子を見下ろしながら、女はえひえひと笑った。
女は赤いTシャツにデニムのミニスカートを着ていて、バスケットシューズを履いていた。
「逸子さん!」コーイチが思わず叫んだ。「どうしたんだい!」
「芳川洋子はもらった!」逸子が言った。しかし、その声は老人のものだった。「もう、お前たちに用はない!」
逸子は言うと後ずさった。その姿がゆっくりと壁の中へと入って行く。
「ま、待って! 逸子さん! ぼくだよ! コーイチだよ!」
コーイチは逸子の肩に手を掛けようとする。逸子は洋子を抱えていない方の手で邪険に払う。
「しっかりするんだ! 逸子さん! 逸子さん! ……あああああ……」
洋子を抱えた逸子は壁の中へと消えてしまった。
重苦しい沈黙が全員を覆う。
「……逸子さん……どうして……」
「ヴァイオレットちゃん……」
「ヴァイオレット殿……」
コーイチは壁を見つめて呆然とし、巨漢二人は頭を抱えて泣き出した。
コーイチは、はっと我に返り、花子の前にしゃがんだ。
「花子さん、何があったんだい?」
花子の視線はまだ定まっていない。よほどショックを受けたのだろう。
「壁から…… 壁からいきなり出て来て……」花子はうわ言のように言う。「洋子ちゃんの首筋にチョップして…… 軽々と抱え上げて……」
「花子さん、しっかりするんだ」
コーイチは花子の肩に手を掛けて何度も揺すった。次第に花子の視線が落ち着いてくる。
「……コーイチ、さん?」花子はコーイチの顔を見つめた。とたんに泣き出した。「くやしい! くやしい! 大王の手に乗せられて!」
……そうか、この世界の主である花子さんのプライドがずたずたにされたんだものな…… コーイチは、滑らかな背中を激しく震わせながらわあわあ泣く花子の頭を、優しく撫でた。花子はそのまましばらく動かなかった。
「よっしゃあ!」
いきなり花子は叫ぶと立ち上がった。もう泣いてはいなかった。
下着姿のまま仁王立ちをした花子をピンク色のオーラが包んだ。
「さ、コーイチさん! 行くわよ!」
「行くって……」
「大王の所よ!」じろりとコーイチをにらむ。「あいつをとっちめなきゃ治まらないわ!」
「そ、そう……」圧倒されたコーイチは、おずおずと立ち上がった。「わかった、わかったけど……」
「じゃあ、さっさと行くわよ!」
「あのさ、せめて服くらいは着てもらわないと……」
「え? そうなの?」
「そうだよ」
「でも、コーイチさんのしていたゲームに出てくる女の子って、こんな格好してるじゃない」
「いや、それはそれだよ!」
真っ赤になって文句を言うコーイチを花子が不思議そうな顔で見る。
「そうなんだ……」
「そうなんだよ!」
「ふ~ん……」
花子は不満そうな顔で服を着た。
「あの花子さんが悲鳴を上げたんだ! これは一大事だ!」
コーイチは叫ぶが、どうして良いの変わらず、ただその場でじたばたしているだけだった。
「ブサシよ、こりゃあ緊急事態だな!」
「そうだな、リー・チェン!」
巨漢二人は両腕を振り上げて、その拳を風呂の板張りの外壁に叩きつけた。壁板はめりめりと音を立てて割れた。湯船も破壊されたのか、湯が大量に流れ出し、火がじゅうと鳴って消えた。
「あ…… お風呂……」
コーイチは流れる湯を見ながらつぶやいた。
「おい! コーイチ!」ブサシが怒鳴る。「お前も来い!」
ブサシとリー・チェンは割れた壁板の穴から湯殿に入った。コーイチも勇ましく後に続くが、何度か濡れた床板に足を滑らせそうになった。
「おい! 開けるぞ!」
リー・チェンが脱衣所との境の戸に手を掛けて花子に言う。
「きゃああああ!」花子の悲鳴が上がった。「わわわ、洋子ちゃん!」
コーイチが巨漢の間を縫って出て、戸をさっと開けた。
すぐ目の前に、青い下着姿の花子が、腰を抜かしたように座り込み、眼は見開かれたままで、向かいの壁を指さしていた。戸は全開になっているが、出入りだけのものなので、脱衣所の半分しか見えない。
コーイチは脱衣所に入って、花子の指差す方へ顔を向けた。
「わあっ!」
コーイチの声を聞いて、ブサシとリー・チェンも中に入る。そして、顔を向けた。
「むっ!」
「おう!」
巨漢二人も絶句した。
花子が指差す側の壁のすぐ前に、着替えを終えた洋子を小脇に抱え、にたにたと不気味な笑みを口元にたたえ、白濁の両眼をぎょろぎょろさせた、若い、スタイルの良い女が立っていたのだ。抱えられた洋子は気を失っている。
抱えた洋子を見下ろしながら、女はえひえひと笑った。
女は赤いTシャツにデニムのミニスカートを着ていて、バスケットシューズを履いていた。
「逸子さん!」コーイチが思わず叫んだ。「どうしたんだい!」
「芳川洋子はもらった!」逸子が言った。しかし、その声は老人のものだった。「もう、お前たちに用はない!」
逸子は言うと後ずさった。その姿がゆっくりと壁の中へと入って行く。
「ま、待って! 逸子さん! ぼくだよ! コーイチだよ!」
コーイチは逸子の肩に手を掛けようとする。逸子は洋子を抱えていない方の手で邪険に払う。
「しっかりするんだ! 逸子さん! 逸子さん! ……あああああ……」
洋子を抱えた逸子は壁の中へと消えてしまった。
重苦しい沈黙が全員を覆う。
「……逸子さん……どうして……」
「ヴァイオレットちゃん……」
「ヴァイオレット殿……」
コーイチは壁を見つめて呆然とし、巨漢二人は頭を抱えて泣き出した。
コーイチは、はっと我に返り、花子の前にしゃがんだ。
「花子さん、何があったんだい?」
花子の視線はまだ定まっていない。よほどショックを受けたのだろう。
「壁から…… 壁からいきなり出て来て……」花子はうわ言のように言う。「洋子ちゃんの首筋にチョップして…… 軽々と抱え上げて……」
「花子さん、しっかりするんだ」
コーイチは花子の肩に手を掛けて何度も揺すった。次第に花子の視線が落ち着いてくる。
「……コーイチ、さん?」花子はコーイチの顔を見つめた。とたんに泣き出した。「くやしい! くやしい! 大王の手に乗せられて!」
……そうか、この世界の主である花子さんのプライドがずたずたにされたんだものな…… コーイチは、滑らかな背中を激しく震わせながらわあわあ泣く花子の頭を、優しく撫でた。花子はそのまましばらく動かなかった。
「よっしゃあ!」
いきなり花子は叫ぶと立ち上がった。もう泣いてはいなかった。
下着姿のまま仁王立ちをした花子をピンク色のオーラが包んだ。
「さ、コーイチさん! 行くわよ!」
「行くって……」
「大王の所よ!」じろりとコーイチをにらむ。「あいつをとっちめなきゃ治まらないわ!」
「そ、そう……」圧倒されたコーイチは、おずおずと立ち上がった。「わかった、わかったけど……」
「じゃあ、さっさと行くわよ!」
「あのさ、せめて服くらいは着てもらわないと……」
「え? そうなの?」
「そうだよ」
「でも、コーイチさんのしていたゲームに出てくる女の子って、こんな格好してるじゃない」
「いや、それはそれだよ!」
真っ赤になって文句を言うコーイチを花子が不思議そうな顔で見る。
「そうなんだ……」
「そうなんだよ!」
「ふ~ん……」
花子は不満そうな顔で服を着た。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます