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ジェシル、ボディガードになる 123

2021年05月25日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 スクリーンにムレイバ星の地表が見えてきた。水気の全く無い灰色の地面は、山も谷も無く平坦だった。
「あんな所に一人で住んでいるの?」ジェシルはイヤな顔をする。「ひょっとして、変り者なんじゃない?」
「まあ、凡人には天才の心情など計れるものではないさ」オーランド・ゼムは笑む。「わたしは、君とムハンマイドとは気が合うと思うのだがね」
「そうかしら……」
「君たちには何か似たようなものを感じるよ。……偉そうな年寄りが嫌いな事、権威に対して全く怯まない事、そして何より……」オーランド・ゼムはジェシルを見る。「見た目が良いって事だ。ムハンマイドは稀に見る良い男だよ。そう言う意味でも君と吊り合う」
「ふん! 外見なんて年を取れば変わるわ。そんなのを基準にされても迷惑よ」
「ははは、もっと素直に喜べば良いだろうに。変わり者度合いも吊り合いそうだ」
 ジェシルがオーランド・ゼムに言い返そうとした時、出入り口のドアが開き、ミュウミュウが現れた。その傍らにはリタが立っていた。
「おお、リタ!」オーランド・ゼムが驚く。「大丈夫なのかね?」
 リタはミュウミュウが繋いでいた手を離し、ゆっくりとした足取りでコックピットを歩く。
「おう、リタのばばあじゃねぇか!」口汚い言葉を吐いたのはアーセルだった。「何でぇ、足元がふらふらじゃねぇかよう! お前ぇはベッドの上がお似合いだぜぇ!」
「……」リタはアーセルの言葉も存在も無視して歩み、ジェシルの前に立った。小柄なリタがじっとジェシルを見上げる。「ジェシル……さん」
「ジェシルで良いわよ」ジェシルは笑む。「何かしら?」
「お礼をまだ言っていませんでした」リタはじっとジェシルを見つめている。「感謝しています」
「良いのよ、ミュウミュウにも言ったけど、仕事だから」
「あなたに言われた事は、わたくしには厳しいものでした」リタは言う。ジェシルはずけずけと言いたい放題に言った事を思い出していた。「ですが、それは間違ってはいませんでした。わたくしは変わらなければと思っております」
「ばばあ! 今さら変われると思ってんのかよう!」アーセルが毒づく。「温室で手入れをされながら育ったようなお前ぇによう!」
「……」リタはアーセルを見た。それから目をつぶる。しばらくそのままでいたリタは、かっと目を見開いた。「うるさいじじいだねぇ! あんたこそ酒に逃げまくっているんじゃないか! 乱暴にしてりゃ、男だって思っているのかい? そんな時代遅れの骨董品は穴でも掘って埋まっちまいな!」
 リタの突然の啖呵に、アーセルは呆然としている。ミュウミュウも口元に手をやって、驚きを隠せない。
「ははは、リタ、やっと本性を見せられたねぇ」オーランド・ゼムは楽しそうに笑っている。「わたしには分かっていたよ。でも、自分をかなり制していたから、わたしは黙っていたんだけどね」
「そうでしたの……」リタは頬を赤くする。「恥ずかしい……」
「恥かしがる事は無いわ! 凄いじゃない!」ジェシルは手を叩く。「そうよ、気取っていたって仕方がないわ! 言いたい事を言った方が良いのよ! 特に、このアーセルおじいちゃんにはね!」
「なんだか、すっとしましたよ……」リタはジェシルを見る。その表情は晴れ晴れとしている。「実は、アーセルにはイヤな事を言われ続けましたからね」
「どうしようもない、スケベじじいだからね!」
「うるせぇやい!」
 アーセルは頬を膨らませてそっぽを向いた。その仕草が子供っぽかったので、皆が笑った。
「皆様……」ハービィが頭を後ろに回して皆を見ながら言う。「もうすぐ着陸しますです」
 宇宙船は着陸した。スクリーンには殺風景な大地と厚ぼったい雲しか映っていない。見える範囲には建物らしいものが無かった。
「本当に、ここが着陸地点なの?」ジェシルがハービィに言う。「な~んにも無いみたいだけど?」
「送られてきたデータではここだよ、ハニー」ハービィが答える。「わがはいに間違いはない」
「じゃあ、ムハンマイドから連絡があるまで待つしかないわね」ジェシルはうんざりした顔をする。「全く、天才だか何だか知らないけど、何をしているのかしら?」
「おい!」スピーカーからムハンマイドの声が流れてきた。怒っているようだ。「着陸したのなら、連絡をするべきだろう!」
「ああ、それは済まなかったね」オーランド・ゼムが答える。「わたしたちもたった今着陸したところだったのでね」
「そっちに運ぶ物があるんだ」ムハンマイドはオーランド・ゼムには応じず話をする。「誰か手伝いを寄越してくれないか?」
「ムハンマイド君、こちらは君の嫌いな年寄りばかりだ」オーランド・ゼムは言う。「一人、若い女性がいるがね」
「じゃあ、それを寄越してくれ」
「ふざけないでよ!」ジェシルが怒鳴る。「何が天才よ! 何を持ち込むつもりか知らないけど、天才だって言うくせに、運び方を考えていなかったわけ? あなたねぇ、天才だからって、何を横柄な態度を取っているのよ! 天才だから何でも許されるなんて思うんじゃないわよ! 自分の事は自分でやってよね! ……ああ、そうか、自分の事は何にも出来ない頭でっかちのボクちゃんなのね。ははは、最低な男ねぇ!」
「うるさい! 馬鹿にするな!」
「馬鹿にされたくなきゃ、自分で運びなさい!」
「おいおい、ジェシル……」
 オーランド・ゼムが止めに入る。しかし、ジェシルはスピーカーを睨みつけたままだ。


つづく

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