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ジェシル、ボディガードになる 162

2021年07月10日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「……では、行ってみようか」オーランド・ゼムは真正面に立っているミュウミュウに言う。「さぼったり、良からぬ事やおかしな事をされたら困るからね」
「もう少し、こうして居たいわ……」ミュウミュウはオーランド・ゼムに抱きついた。「ね? もう少しだけ……」
「ははは、嬉しい話だがね、宇宙船の修理が終われば、幾らでも出来るのだよ。今は少し辛抱だ」
「分かったわ……」ミュウミュウは不満気な顔でうなずく。「それじゃ、ボクちゃんの尻でも蹴飛ばして急がしてやるわ」
 二人は腕を組んで部屋を出ると、格納庫を抜けて外に出た。陽の光がまだ高い。
「あら……?」ミュウミュウはつぶやくと、小馬鹿にしたように笑い出した。「あはは! 何よ、あれぇ!」
 ミュウミュウが笑いながら指差した所には、ジェシルが縛られたままで、脚が取れ、背凭れの一部が壊れている、古ぼけた木製の椅子に座らされていたのだ。ミュウミュウは笑みを浮かべながら、ジェシルに駈け寄る。
「ジェシル、あなた、ずいぶんと楽をしているじゃない?」ミュウミュウは言いながら、ジェシルの正面に立ち、縛られたまま伸ばされているジェシルの脚を軽く蹴った。「まるでピグレットソファみたいで、良いじゃない? 羨ましいわ……」
「じゃあ、交代する?」
「イヤよ。そんな木の椅子、華奢なわたしのお尻じゃ痛くなっちゃうわ。あなたくらいお尻が大きくなくっちゃ無理よ」
「そんな事を言いにわざわざ走って来たの? 暇人ね!」
「良いじゃない? 無視されるよりはさ」ミュウミュウは笑む。「それで、その椅子、どうしたの?」
「この椅子はね、ハービィが格納庫から見つけ出してくれたのよ」ジェシルも負けじと笑む。「少しでもわたしに辛い思いをさせたくないって言ってね」
「あら、そうなの?」ミュウミュウはおどけてみせる。「ハービィはあなたと二人になると優しいのね」
「そうね」ジェシルはうなずく。「あなただったら、その辺に転がされているんじゃない? そして、『この性悪女め!』って踏み付けられていたはずよ!」
「うるさい!」ミュウミュウはむっとしてジェシルの横面を平手で張った。大きな音がした。「本当、あなたって口だけは減らないわね! 腹が立つわ!」
「ふん!」ジェシルは叩かれた左頬を赤くしながらも、ミュウミュウを睨みつけた。「わたしが手出し出来ないと強気なのね。卑怯者!」
「まだ言うの……」
 ミュウミュウはジェシルを睨み付けて再び手を振り上げた。今度は握り拳を作っている。
「おいおい。ミュウミュウ!」オーランド・ゼムが止めに入って来た。「手を上げてはいけないよ。ほら、上を見てごらん」
 オーランド・ゼムが上空を指差す。ミュウミュウが見上げると、腰にジェット推進装置を付けて宙に留まっているムハンマイドが、作業の手を止めてミュウミュウを睨み付けていた。その傍には、ハービィが道具の袋を持って、同じく宙に留まっている。
「ジェシルは手を出すなと言ったはずだ!」ムハンマイドが声を荒げる。「約束を破ると言うのなら、ボクは修理なんかしないぞ!」
「やかましいわねぇ!」ミュウミュウはオーランド・ゼムの手から熱線銃を奪うと、銃口をムハンマイドに向けた。「ごちゃごちゃ言っていると、撃ち殺すわよ!」
「撃ってみろよ! そうすれば、お前たちは死ぬまでこの星に居る事になるんだ! この星のシステムを動かせるのはボクだけなんだからな! ボクが死んだら、それっきりだぞ!」
「落ち着きたまえ。ミュウミュウ……」オーランド・ゼムはミュウミュウの肩を叩く。ミュウミュウは不承不承と言った態で銃を下ろした。それから、オーランド・ゼムはムハンマイドを見上げる。「すまなかった、ムハンマイド君。どうも、ミュウミュウはジェシルと相性が悪いようだ。もうさせないから、機嫌を直して続けてくれないかね?」
「……仕方が無いな。ボクも、とっととあんたたちには出て行ってもらいたいからな」ムハンマイドは言うと、ミュウミュウを睨む。「良いか、二度とするなよ! 分かったな!」
「ふん! ボクちゃんのくせに生意気だわ!」作業に戻ったムハンマイドを見ながらミュウミュウはつぶやいた。そして、ジェシルの座っている椅子の背もたれを、爪先で軽く蹴り出した。「偉そうにしやがってさ!」
「偉そうにしているのは、あなただってそうじゃない?」ジェシルがミュウミュウに言う。「それとさ、蹴るの止めてくれない? 変な振動がお尻と背中に伝わって不愉快だわ」
「ふん!」
 ミュウミュウは鼻を鳴らすと、ジェシルから離れた。そして、悔しそうな顔をしながら地面に向かって熱線銃を撃った。大量の土埃が舞った。それを見てミュウミュウは残忍な笑みを浮かべた。
「ミュウミュウって、やっぱり、どうかしているわ……」ジェシルがつぶやく。「悲惨な生い立ちを考慮しても、やっぱり、おかしいわ……」
「まあ、そう言わずに、ミュウミュウを許してやってくれたまえ」オーランド・ゼムがジェシルに正面にしゃがみ込んだ。「今少し辛抱してくれれば、全て終わるよ」
「そう……」ジェシルは言うと、オーランドゼムを見てにやりと笑う。「一つ言っておくわ。わたしは受けた屈辱は必ず返す性質なのよ」
「そりゃ、どう言う事だね?」
「ミュウミュウよ。わたしの頬を打つなんて、絶対に許せないわ」
「だがね、ミュウミュウはわたしの後継者にしたいのだよ。だから、手出しはしないでもらいたいな」
「じゃあ、あなたもミュウミュウと同罪ね。ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるわ!」
 オーランド・ゼムは苦笑する。


つづく

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