「……それで、これから何処へ行くのよ?」
ジェシルはジャンセンに訊く。
「え? 何処って……」
ジャンセンはマーベラに顔を向ける。
「それは……」
マーベラはトランを見る。
「それは……」
トランは立ち止まり、皆を見回す。
茂みの中は陽が遮られ、時折吹く風が茂みを音を立てて揺らし、木漏れ陽を落とさせる。
「あのさ、ジャン……」ジェシルはジャンセンを睨み付ける。「ベランデューヌとダームフェリアのみんなから格好をつけて去って来たけど、行き先がはっきりしないって言うの?」
「いや、そんな事はないよ」ジャンセンは平然と答える。「次はぼくたちがぼくたちの時代に戻るのさ」
「どうやって?」
「ほら、ここへ来る時に赤いゲートを通って来たじゃないか」
「そうだったわね……」ジェシルは思い出す。「ここにあるゲートは機能しなかったわ」
「そうそう、出口専用のゲートなのか、はたまたゲートの機能を止められたのかって話をしていたじゃないか」ジャンセンは言うと、マーベラを見た。「君もそんな感じだったのかい?」
「そうね」マーベラはジャンセンを見る。「わたしもトランも赤いゲートを抜けてここへ来たのよ」
「そうなんです」トランはうなずく。「ある文献が発見されて、その調査をしていたら赤いゲートを見つけたんです」
「アズマイック杉の蒸し焼きを使ってて、しかも魔除けの赤でしょ? 今から数千年前の代物だと思ったわ」マーベラが言う。「これは大発見だとトランと喜んだわ」
「ぼくたちのと同じだねぇ……」ジャンセンはつぶやく。「ぼくたちはジェシルの屋敷の地下三階で遭遇したんだけど、君たちは?」
「わたしたちは、アロンサンデンの遺跡群で遭遇したわ」
「何だって、マーベラ!」ジャンセンがマーベラの両肩をつかむ。興奮しているようだ。「あそこは確か禁足地だったんじゃないか? どうして行けたんだよ?」
「何、その禁足地って?」
ジェシルが不思議そうに訊く。マーベラは軽蔑するように鼻で笑う。ジェシルはマーベラを睨み付ける。
「……はるか辺境に存在した古代文明の跡なんですが」トランがあわてた様に答える。「その場所がいわゆる聖地扱いをされていて、踏み入れる事が禁止されているんです」
「でも、行ったんでしょ?」
「はい、行きました。特別に許可をもらったんです」
「許可……?」ジェシルはイヤな顔をする。連邦評議員のタルメリック叔父の突き出た腹と薄い頭と老獪な顔を思い浮かべたからだ。「その許可って、評議院が絡んでいるの?」
「いえ、そうではありません」トランがイヤそうな表情のジェシルを不思議そうに見ながら答える。「考古学会の幹部の方々から直々の連絡だったんです。大変貴重な文献が発見された。是非調査をお願いしたいって……」
「ふ~ん、そうなんだ……」ジェシルはつぶやくように返事をすると、ジャンセンに顔を向けた。「ジャン、あなたも文献が見つかったって言っていたけど?」
「ぼくのも考古学会の幹部たちからもらったんだ」
「そうなんだ……」
ジェシルの捜査官としての本能が何かを感じている。
「どっちの話もその考古学界ってのが絡んでいるわねぇ……」ジェシルはつぶやくと、ジャンセンとマーベラを交互に見る。「幹部って言っていたけど、具体的に誰だったの?」
「ぼくの時は」ジャンセンが言う。「会長のマスケード博士から直々だった……」
「あら!」マーベラは驚いた顔をする。「わたしもよ!」
「……マスケード博士、ねぇ……」
ジェシルはつぶやくと、悪意に満ちた笑みを浮かべる。
つづく
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