「ねえ、どう思う?」
下校時間、明の隣に並んで歩きながら、くるみが切り出す。
明は戸惑っている。
くるみはこの様に、いきなり質問して来る事が多い。そして、こちらの答えが的外れだったり、気に入らなかったりすると、思いっきり怒って悪態をついて来る。
「ねえ!」くるみは何も言わない明にしびれを切らす。「だから、へっぴり明はどう思うのよ!」
「何をだよ!」明は開き直って逆に質問した。「何について聞いてんのか分かんないと、答えられるわけないだろう!」
「朝の話よ。それとも忘れちゃった? あ、明は記憶が残るのは三時間くらいだものね。仕方ないか……」
「馬鹿にすんなよ! 覚えてるよ。猫の事件だろ?」
「……そう、公園の猫事件」
くるみは真剣な表情で言った。テストの時でもあまり見せない表情だ。ちょっと驚く明だった。
「そうだなあ…… あの事件…… 猫がかわいそうだなあ…… って思うよ」明はくるみの顔を見ながら答えた。表情は変わっていない。「なんて言うか、よっぽど猫が嫌いな奴が犯人なんだろうな……」
くるみは立ち止まった。つられて明も足を止める。明を見上げるくるみの表情が、見る見る怒りのそれに変わる。
「やっぱり、へっぴり明ね! な~んにも考えていないんだ! へっぴり改めへっぽこね! これからはへっぽこ明だわ!」
「やめろよ、そんな大きな声で!」明はぎゃあぎゃあ怒鳴るくるみの両肩をつかむ。「それに、へっぽこは無いだろう!」
「じゃあ何? ひょっとこ? そうじゃないわ! ひょっとこの方がまだマシだわ!」
「なに怒ってんだよう!」
「わたしはね、猫事件の手口について聞いたのよ! それなのに『猫がかわいそうだなあ』ですって? 『よっぽど猫が嫌いな奴が犯人なんだろうな』ですって? な~にをトンチンカンな事言ってんのよ! だ~れもそんなこと聞いちゃいないわよ!」
じゃあそう聞けよと、明は思ったが、くるみが怒った原因が分かれば対処はしやすい。付き合いが長い分、対処の仕方も手慣れたものだ。
「……そうか、くるみはそんな難しいことを考えていたのか。大したものだなあ」
明は感心したように大きくうなずいて見せ、やや棒読みな感じで言った。
「ふん! おだてたってダメよ!」
くるみは言うと、ぷいと背を向けた。しばらくして、ゆっくりと振り返った。満更でもない表情をしている。機嫌が直ったようだ。
「……でも、反省しているようだから、許してあげるわ」
「……ありがとな……」明はくるみにばれないようにため息をつく。「……で、くるみは手口について、何か考えがあるのか?」
「人に聞く前に、自分の意見を言ったらどう?」
「は?」明は戸惑う。考えてもいなかったからだ。「そうだなあ…… ええと……」
「もったいぶらずに言ってよ」
「例えば…… 別の場所で首切って血を抜いて、公園に戻したとか……」
「公園の猫を集めて、移動して、また戻って来るの? とっても面倒じゃない?」
「じゃあ、真空ポンプで血を抜くとか……」
「そんなもの公園に持ち込むの? 電源は? 騒音は? 人目に付く可能性高くない?」
撃沈だ。こうなることは分かっていたが、言わせるだけ言わせておいてコケにするくるみに、明は腹を立てた。
「じゃあ、くるみはどう思うんだよ!」
「わたし?」くるみは真剣な表情になった。「わたしは、本当に吸血鬼じゃないかと思う……」
「は? ……くるみ、マジで言ってんのか?」
「そうよ」くるみは平然と答える。「それ以外には考えられないわ。でしょ?」
でしょって言われてもなあ…… 明は何も言えなくなった。しかし、何か言わなくてはならない。
「そ、そうか。くるみがそう言うんなら、吸血鬼なんだろうなぁ……」
「そうよ、吸血鬼よ!」くるみは真剣な表情のまま言う。「ひょっとしたら、まだ続くかもしれないわ……」
つづく
下校時間、明の隣に並んで歩きながら、くるみが切り出す。
明は戸惑っている。
くるみはこの様に、いきなり質問して来る事が多い。そして、こちらの答えが的外れだったり、気に入らなかったりすると、思いっきり怒って悪態をついて来る。
「ねえ!」くるみは何も言わない明にしびれを切らす。「だから、へっぴり明はどう思うのよ!」
「何をだよ!」明は開き直って逆に質問した。「何について聞いてんのか分かんないと、答えられるわけないだろう!」
「朝の話よ。それとも忘れちゃった? あ、明は記憶が残るのは三時間くらいだものね。仕方ないか……」
「馬鹿にすんなよ! 覚えてるよ。猫の事件だろ?」
「……そう、公園の猫事件」
くるみは真剣な表情で言った。テストの時でもあまり見せない表情だ。ちょっと驚く明だった。
「そうだなあ…… あの事件…… 猫がかわいそうだなあ…… って思うよ」明はくるみの顔を見ながら答えた。表情は変わっていない。「なんて言うか、よっぽど猫が嫌いな奴が犯人なんだろうな……」
くるみは立ち止まった。つられて明も足を止める。明を見上げるくるみの表情が、見る見る怒りのそれに変わる。
「やっぱり、へっぴり明ね! な~んにも考えていないんだ! へっぴり改めへっぽこね! これからはへっぽこ明だわ!」
「やめろよ、そんな大きな声で!」明はぎゃあぎゃあ怒鳴るくるみの両肩をつかむ。「それに、へっぽこは無いだろう!」
「じゃあ何? ひょっとこ? そうじゃないわ! ひょっとこの方がまだマシだわ!」
「なに怒ってんだよう!」
「わたしはね、猫事件の手口について聞いたのよ! それなのに『猫がかわいそうだなあ』ですって? 『よっぽど猫が嫌いな奴が犯人なんだろうな』ですって? な~にをトンチンカンな事言ってんのよ! だ~れもそんなこと聞いちゃいないわよ!」
じゃあそう聞けよと、明は思ったが、くるみが怒った原因が分かれば対処はしやすい。付き合いが長い分、対処の仕方も手慣れたものだ。
「……そうか、くるみはそんな難しいことを考えていたのか。大したものだなあ」
明は感心したように大きくうなずいて見せ、やや棒読みな感じで言った。
「ふん! おだてたってダメよ!」
くるみは言うと、ぷいと背を向けた。しばらくして、ゆっくりと振り返った。満更でもない表情をしている。機嫌が直ったようだ。
「……でも、反省しているようだから、許してあげるわ」
「……ありがとな……」明はくるみにばれないようにため息をつく。「……で、くるみは手口について、何か考えがあるのか?」
「人に聞く前に、自分の意見を言ったらどう?」
「は?」明は戸惑う。考えてもいなかったからだ。「そうだなあ…… ええと……」
「もったいぶらずに言ってよ」
「例えば…… 別の場所で首切って血を抜いて、公園に戻したとか……」
「公園の猫を集めて、移動して、また戻って来るの? とっても面倒じゃない?」
「じゃあ、真空ポンプで血を抜くとか……」
「そんなもの公園に持ち込むの? 電源は? 騒音は? 人目に付く可能性高くない?」
撃沈だ。こうなることは分かっていたが、言わせるだけ言わせておいてコケにするくるみに、明は腹を立てた。
「じゃあ、くるみはどう思うんだよ!」
「わたし?」くるみは真剣な表情になった。「わたしは、本当に吸血鬼じゃないかと思う……」
「は? ……くるみ、マジで言ってんのか?」
「そうよ」くるみは平然と答える。「それ以外には考えられないわ。でしょ?」
でしょって言われてもなあ…… 明は何も言えなくなった。しかし、何か言わなくてはならない。
「そ、そうか。くるみがそう言うんなら、吸血鬼なんだろうなぁ……」
「そうよ、吸血鬼よ!」くるみは真剣な表情のまま言う。「ひょっとしたら、まだ続くかもしれないわ……」
つづく
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