お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 67

2024年08月14日 | マスケード博士

「大騒ぎになったら、どうなるのかしら?」
 マーベラが皆を見回して訊く。
「ぼくたちをこの時代に飛ばしたことがばれちゃうだろうから、考古学界自体が大打撃を受け、大問題になるだろうね」トランが意地悪そうな笑みを浮かべて答える。「まあ、それを狙ったわけだけど」
「じゃあ、さっさと蓋を溶接しちゃいましょう」トラブルが大好きなジェシルはご機嫌だ。「そうだわ! トラン君、メモ用紙一枚もらえる?」
「それは構いませんが、どうするんです?」
「『トールメン部長の碌で無し!』って書いて箱に収めておくの」ジェシルはにやにやが止まらない。「さすがに何時もの様な無表情で入られないと思うわ」
「部長って事は君の上司なんじゃないのかい?」ジャンセンは驚いて訊く。「解雇になっちゃうぞ? ……まあ、そうなったらぼくの手伝いをしてもらえるかな?」
「解雇になんてならないわよ」ジェシルは笑む。「わたし、優秀な捜査官だから」
 ジェシルはトランからメモ用紙と筆記具を受け取り、「トールメン部長の碌で無し!」と思いきり大きく書いて箱に入れた。それから出力を最小にして箱の蓋を溶接した。
「それじゃあ、箱はゲートの横に置いておいておきますね」トランは言うと箱を置いた。「……この箱が出土され、オーパーツとして内外から注目され、いざ開封となった時が楽しみですね。立ち会えないのは残念ですが……」
「ドクター・ジェレマイアって人がすでに喚き散らしているんじゃないかな?」ジャンセンがジェシルに訊く。「ジェシルの話だと、そうしそうだけど」
「ドクターは変わり者で通っているから、『はいはい、良かったわねぇ』っていなされていると思うわ」ジェシルは言うとぷっと笑う。「それで悪態をついて、ますますみんなから放っておかれるわ。日頃の行いが悪いからよ」
「でも、ジェシルの知り合いなんだろう?」
「闇武器製造者と客ってだけの関係だわ」 
「それはそうと……」マーベラが不安そうに言う。「箱を開けて、中からわたしたちの物が出てきたら、博士はどうするのかしら?」
「きっとぼくたちを亡き者にしようとやって来ると思うんだ」トランが不敵な笑みを浮かべて言う。「ぼくたちが箱を置く時を狙って現われて、ぼくたちを倒して、箱を奪還して歴史を変えるのさ」
「考古学者の権威のマスケード博士が歴史を変えるって言うの!」マーベラは驚いて言うと、ため息をついて頭を左右に振る。「それは考えられないわよ。……でも、もしそんな事になるとしたら、博士は何か別の組織に脅されて、仕方なくやるんだわ」
「仕方なくじゃないかも知れないわ」ジェシルはマーベラを静かに見据えて言う。「博士が黒幕の一人だったらね」
「じゃあさ」ジャンセンが慌て気味に周囲を見回す。「今が襲われる絶好の機会だろう? ……でも、そんなに正確にここに来れる程の装置なのかな?」
「大きな組織…… 大企業なら開発を極秘裏に行えるんじゃない?」ジェシルが平然と言う。「わたし、そんな危なくて怪しい企業を幾つか知っているわ……」
 と、ジェシルの足元に閃光が上がった。ジェシルは素早く後方に飛び退く。すでに右手には熱線銃が握られていた。
「みんな、樹の陰に隠れて!」
 ジェシルは熱線銃を撃ちながら叫ぶ。それぞれが大木の裏側へと移動した。閃光が幹から上がる。
「来たわね……」
 ジェシルはつぶやき、前方を見据える。
 岩肌が剥き出しになっている丘の陰から、黒いコンバットスーツに黒いフルフェイスの防護ヘルメットを着込み、大型のレーザーライフルを構えた者たちが十人ほど現われた。どの者も充分に訓練を受けたと思われる兵隊だった。ゆっくりとこちらと進んでくる。
「あれは、マージフラット社の傭兵部隊……」
 ジェシルはつぶやく。
 マージフラット社は、宇宙に馳せる大規模武器製造会社だ。武器だけではなく、傭兵も育てている。さらには反乱や暴動や戦争を焚き付け、武器や傭兵を売り込み利益を上げている。宇宙パトロールでは取り締まりや摘発を幾度も試みたが、軍事政権やシンジケートと癒着している政府高官たちに阻まれ、思うように出来なかった。ジェシルは評議院の代表であるタルメリック叔父に抗議したが、色々と政治的なものが絡んで進展を見なかった。ジェシル個人は「何時かはギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやりたい」と強く願っていた。
「あいつら、時空間移動の装置まで作ったのね……」ジェシルは険しい表情になる。「それを使ってわたしたちをこんな所に飛ばしたわけね……」
 ジェシルは熱線銃を握り直す。……熱線銃、効くかしらねぇ。でも、やるだけやらないとね。ジェシルは心に決めるとにやりと笑う。
 不意に傭兵たちの歩みが止まった。
 傭兵の後ろから一人の男が現われた。
 グレーの仕立ての良いスーツを着込んだ青い肌に黒い髪が特徴のカデサイ人で、垂れてくる前髪を気障ったらしい手つきで掻き上げた。
「お前はコルンディ!」ジェシルが声を荒げる。「お前が主犯だったのね!」
「マージフラット社の開発部長の、コルンディだ」コルンディは言うと、気障ったらしく笑む。「ジェシル、好い加減にオレの役職も覚えてくれよ。長い付き合いだろう?」
「やかましい! お前が一番の悪の権化だわ!」
 ジェシルは熱線銃をコルンディ目がけて撃った。熱線はコロンディの目の前で四散して消えた。
「相変わらず乱暴だな、ジェシル」コルンディは前髪を掻き上げる。「まあ、いくらでも撃つがいいさ。見ての通り、熱線が四散するような携帯装置を開発したからな(コルンディはスーツの胸ポケットを軽く叩く)。君のお蔭でこれが出来たとも言えるから、感謝しておくよ」
 コルンディの後ろからもう一人が現われた。
 高齢の痩せたナルスカ人(「ジェシル、ボディガードになる」のオーランド・ゼム参照)の男性だった。こちらは黒いスーツを着ており、右手にステッキを持っている。その表情は憤怒に満ちている。
「マスケード博士!」
 マーベラは言うと、樹の陰から出てきた。

 

つづく


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