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日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 36

2021年08月30日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
「ちょっと、ケーイチロー! どう言う事よ! あなた、受験に失敗したんじゃなかったの?」典子が恵一郎に詰め寄る。「わたし、心配で心配で、毎日泣いていたのよ! どうしてくれるのよ! 泣いた時間を返してよ!」
「返してって言われても……」
「馬鹿!」典子はじわりと涙を流した。「でも良かった。無事に高校生になれて……」
 恵一郎は典子の素直な喜び方に感動していた。……そうだよな、これだよな。それなのに、両親は……
「ま、とにかく、喜ばしい事だよ、岡園君!」校長は言うと、恵一郎の背中をばんばんと叩く。「それとだね、『聖ジョルジュアンナ高等学園』へ通っても、我が校出身と言う誇りを忘れないようにしてくれたまえ」
「……はあ……」そんなもの有ったっけ? 恵一郎は思う。「……分かりました」
「とにかく、教室へ行け」
 担任の黒田が命令口調で言う。黒田は、ジョルジュアンナの特待生を自分が動かしていると言う、妙な優越感に浸っているようだった。
 校長と担任は恵一郎を迎えると言う役を終えて学校へと戻って行った。職員室へ行くのだろう。
 恵一郎はぽつんと立ち尽くしている。周りはひそひそ言いながら、好奇の目を向けて通り過ぎて行く。その中で、典子は恵一郎の前に立っていた。
「ケーイチロー。ぼうっとしてないで、教室へ行くんでしょ?」
「え? ああ、そうだね……」
 恵一郎は典子歩き出した。
「あのさ……」典子が不思議そうに言う。「どうして、あんな凄い所に合格できたの? わたしが会った時は、受験に失敗して落ち込んでいたじゃない? それから数日しか経っていないわよ?」
「ああ、それはね……」
 恵一郎はいきさつを話した。
「何それ? 看板叩いて特待生ってわけ?」
 話を聞き終えた典子が、呆れ顔で言った。
「いや、それは切っ掛けだよ。特待生になれたのは、理事長先生が、僕の良い所を見抜いてくれたかららしい」
「ケーイチローの、良い所……?」
 典子は足を止め、恵一郎の顔をじっと見る。恵一郎は戸惑ったように視線を泳がせる。
「良い所、ねぇ……」
 典子はふっと息をつく。
「何だよ、幼なじみの典子でも気が付かないのかよ?」
「そうねぇ……」典子は腕組みをする。「小さい頃から小心者で、特に何かが出来るわけでもなくて、いつもおろおろおたおたしていて、出来る事だけやって挑戦するって事が無くって、いえ、そもそも気力と言うものが全く無くって、キング・オブ・平凡で、現在ではそれプラスどうって事の無い容姿で、典型的な平凡が服着て歩いているだけのケーイチローに、わたしが良い所なんて見つけられるわけないじゃない!」
「何だか、ひどい言われ様な気がするんだけど……」
 典子は情けなさそうな表情の恵一郎を見て笑い出した。
「なんだよ、笑う事は無いだろう!」
 恵一郎はむっとする。しかし、典子の笑いは止まらない。
「あはは! ……でもさ、その理事長先生は、何かをケーイチローに見つけたのね」典子はふと真顔になると、恵一郎の顔をじろじろと見る。「……やっぱり、どこに良い所があるのか、わたしには分からないわ!」
 典子は言うとまた笑い出して、駈け出した。
 恵一郎はそんな典子の後ろ姿を見て、とぼとぼと校舎へと向かった。


つづく

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