薩摩反骨1・良い音とは何か-音楽性の定義と音の基礎体力

2022年10月14日 | 薩摩反骨(スピーカー維新)

反骨精神! 長い物に巻かれるな(そのうち踏まれちゃうゾ!)

 

◆ 良い音とは何か - 音の基礎体力

 

 良い音、即ち「音楽性」とは、オーディオマニアの最も苦手な文言かも知れません。所詮は好み論だからと避ける向きも多いかもしれません。しかし、この本質論から逃げていては、如何にスペックを追求しても本末転倒になります。本日は少し長くなりますが、徹底解説を試みますので、お付き合いの程よろしくお願いいたします。

 

<音の三要素+1と音楽性>

 一般論としての音の三要素とは、① 「高さ」、② 「大きさ」、③ 「音色(おんしょく)」の三つとされています。更に、音楽演奏の生々しさの再現という立場から外せない要素として、④「 実在感」を追加したいと思います。この内で、音楽性に関わるものは「音色」と「実在感」という事になります。

 さてしかし、音色と言っても抽象的であり、このままでは定義として扱えません。そこで更に具体的にする必要があります。音響心理学の分野では、音色の構成内容は、金属性因子(硬さ)、美的因子(柔らかさ)、迫力因子(勢い)の三つに集約されるとしています。

 そして私は、音色に関してオーディオ装置に要求される事は、各因子の相反する要素のどちらも表現できる対応力の広さだと考えます。即ち柔らかい音から、シャープでパンチの効いた音まで、全ての音色に対応出来る事が求められます。実際のところ、柔らかい音が特長のスピーカーでは、シャープな音が出せない傾向になりますし、反対にシャープな音のスピーカーでは、柔らかい音が出せない傾向があります。ですから、音色に関する定義は柔らかい~硬いまでの全てを網羅すれば良いと思います。

 

<音楽性の定義>

 では、音楽性を表す音色表現を具体的にしてみます。音楽性の本質要件として、音楽の表情の豊かさや、音の心地よさを極力シンプルな言葉に濃縮してみました。 ~なヴォーカル、~な低音、~なオーケストラの響き・・・など、~の部分に入る言葉です。

 

 **** 柔らかいのにクリアーで実在感がある ****

 

  実は、この言葉は私もそうとは知らずに使っていたのですが、「柔らかいのにクリアー」の部分は、伝説のイヤースピーカーを生み出したSTAX社(注2)創業者の林尚武氏の名言だそうです。「実在感」という言葉が入っていなかったのは、ヘッドフォンメーカーだったからかもしれません。そしてその名器の音は、中~高音域において澄んだ瑞々しさがありながらも硬さを全く感じさせないものであり、「柔らかいのにクリアー」を体現した一つの頂点であると思います。

(注2) 現在もSTAXブランドは存続していますが、創業者一族は退陣しており、当初の音とは違うという意見があることも併記させていただきます。

 

<音の基礎体力>

 上記の音楽性の三要素(柔らかい、クリアー、実在感)を、一言で「音の基礎体力」と呼びたいと思います。様々な音作りが有り得るでしょうが、基礎体力がなければ、製品としての完成度は上がらず、長年の使用には耐えられない、という意味合いを込めています。そして音の基礎体力には、いくつかの但し書きを付けたいと思います。

・ くどい様であるが、基礎体力とは「スペック」ではなく「質感」である。

・ 音の基礎体力の三要素は三位一体であり、どれも欠く事は出来ない。三つ同時に成立する事が必須である。

・ 音の基礎体力は全音域に適用される。但し中音域に対して最優先である。人間の聴覚の中心は中音域であり、この音域に対して最も鋭敏だからである。楽音の中心も当然中音である。同様にして、しばしば見受ける重低音への過度の拘りは健全ではない。非日常的な音であるため、どうしても注目度が高くなるが、優先順位はあくまでも中音にある。

・ 量で解決する部分は用途の違いと考えて、質の問題と区別する。例えば小型スピーカーで音量が不足する場合は、より大型のスピーカーに変更すれば解決する。或いはSF映画やEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の重低音は、サブウーファーの追加で解決可能と考え、同様とする。

・ 「演奏ノイズがことさら良く聴きとれる」とか「(音像が)前に出る音」、「楽器の中に頭を差し入れた様な聴こえ方」、「巨大なヴォーカルの音像」、「乾いた音」等、現実の音楽鑑賞での自然な音響現象から逸脱した表現については、あくまでも個人の好みの問題として、音の基礎体力の範疇には含めない。特殊な音響効果が上手く鳴るかどうかよりも、自然な音響現象を再現できるかどうかの方が本質的な問題だからである。

 

<基礎体力と音質用語の紐づけ>

 理解の助けとして、音の基礎体力の三要素と、しばしば使われる音質用語とを紐づけておきます。

・ 柔らかい
 耳を刺す不快さがなく、聴き疲れがしない。穏やか。空間の奥行きがある。音に癖が無い。
 * デメリットとして覇気がなくなる傾向がある。

・ クリアー
 明瞭である。生き生きとしている。緻密である。音力(おとぢから)がある。瞬発力がある。音圧感(音量ではない)が出る。艶(中~高音)がある。よく飛ぶ音。馬力のある音。音像の実在感がある。音程が明瞭(低音域)。
 * デメリットとして聴き疲れのする傾向がある。

・ 実在感
 そこに居る感じがする。音像定位がリアルである。音場感がリアルである。ステージ感がリアルである。空間に広がりがある。空間の奥行きがある。ホログラム映像の様な立体感がある。
 * 「柔らかい」と「クリアー」の両立が必要。

 

<基礎体力を実現すると・・・>

  最後に、音の基礎体力の三位一体が整うことではじめて得られる音とはどの様なものかを、幾つかの例を挙げてまとめとします。

・ 厚み感
 柔らかく且つ音力のある音。(低~中音)

・ 澄んだ音
 ゴーゴー(低音)、ザワザワ(中音)、ジャリジャリ(高音)する濁り音や歪み音が皆無で、且つ明瞭な音。

・音色の深み
 厚み感のある澄んだ音で、演奏表現の強弱による音色の変化が明瞭に再現される。

・ 心地よさ
 音と音の間に静寂感が感じられ、豊かな空間が広がる。且つ聴き疲れせず、しかし明瞭な音。

・ 迫力(低音)
 濁りの無い、音力のある音。

・ ヴォーカル
 正面の空間に地に足のついた体温を感じる様な実体感を持って浮かび上がり、ハスキーな声に音力があって、しかし耳障りにはならない。甘く柔らかい声でも生々しく明瞭に聴こえる。

・ バイオリン
 太く、音色に深みがあり、艶やかで、弱音の柔らかさと強音の輝きの対比が明瞭で、しかし耳障りにならず、実際にそこに居るかのように、実在するかのような空間の中に明瞭に浮かび上がる。

・ ピアノ
 濁りの無い澄んだ楽音で、音色に深みがあり、和音に厚みがあり、弱音は柔らかく、強音に音力があって、地に足のついた実体感を持って、実在するかのような空間の中に明瞭に浮かび上がる。

・ オーケストラや合唱団
 重奏音のフォルテでもゴーゴー、ザワザワ、ジャリジャリせずに、澄んでいて、厚みがあり、高い天井と、地に足のついた、横にも奥にも広がる実在感のあるステージが浮かび上がる様に聴こえる。

・ サキソフォン(ジャズ)

 厚みがあって、破裂するような瞬発力もあり、しかし耳を刺さず、音色に深みがあって、歌を歌う表情が克明に聴こえ、そこに居るかのような実在感を持って聴こえる。

 

 ところで、「柔らかい」と「クリアー」は二律背反に思えませんか? 次回は、スピーカー特有の技術的問題点と、音の基礎体力を結び付けて、更に議論を深めたいと思います。

 

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