The Diary of Ka2104-2

君は誰よりも美しい ー オペラ歌手石川勝敏

結局、夏も近づいてきている頃の閉館時間が早過ぎるのだ。7時に入館できればよいものを、7時には閉館してしまう。中年男の仕事帰りでの夜の癒しには向いていない、そこは大阪市港区の海遊館(かいゆうかん)という水族館だ。

急かされるようになるのが嫌なので、最終入館時間の午後6時よりずっと早い正午を1時間回るぐらいの時刻に私はそこへ入ることになった。

大阪梅田の懇意にしてくれるクリニックで精力減退への漢方薬をもらったあと(これが1ト月試したところ助けになった)、梅田食堂街のあれは何て店だったかしらん、昼食をとりに入って、いつものように板前さんに向かって「ごめん!海鮮丼!」と私は注文した。20円値上がりしたようだが、それでも520円で食せる。そこから大阪メトロの梅田駅へ行き、御堂筋線(みどうすじせん)をなかもず方面へと列車が走れば私は本町(ほんまち)で降りて中央線をコスモスクエア行きへと乗り換えればいい。数駅で海遊館最寄り駅の大阪港駅だ。潮風を気にして、半袖ワイシャツにスラックスの私は、リュックにごく薄い黒色のひっかけを用意していたのだが、それも用済みだった。

私は、まず商業施設群の裏手にある海へ出た。

何年振りだろう・・・10年は経っているように思う。いつぞやは他の目的だったのでこの海遊館はこの歳になって初めてだ。盛り土に緑の箇所が逸せられていて、代わってなにか簡易な官舎のようなものが建っているのがそこへ辿り着く手前で目に入った。天保山(てんぽうざん)と云われる商業施設群のエリアへの第一歩はそびえ立つ観覧車のお出迎えだ。これには変わりはない。海への抜け方は心得ていて、フードコートの中へ入り、通り抜けそこから裏へ出ることだ。フードコートはきれいになっていて、回転寿司も入っていた。客が一人も居なかった。尻目にして私は裏のドアを開ける。港へ流れる運河とそこに架かったアーチブリッジが見える。私は左へ折れて直進する。それだけだ。全く変わっていない。港の内海が臨める先の先まで行って、私は大分な息をつき少々息をのんだ。

その変わらぬ景色を見ていると、私はいつも何かを感じるのだが、いつも何を感じているのだか私にはさっぱり分からない。右岸にコンビナートが、左岸に沿岸の施設、いわゆる箱物が見える、その間、奥へと突き抜けているのが、運搬船やポンポン船の大小の航跡でもわかる。その大阪湾の狭い内海を見ていると、私は「外に出たい」と思った。束の間、頭をよぎり、すぐさま、雲散霧消した。

やがて私はそろそろと切符売り場に向かった。障害者手帳持参なので1200円だ。「障害者、一名」と私は係に向けて言った。私が海遊館に入って行ったのは、午後1時ぐらいだろうか・・・。

画像1

私にはある意味現実味が欠けていた。分厚なガラスの仕切りを通してそこに現存する様子にリアリティが抜けていたのだ。まるで大画面でスクリーンを見ているような錯覚に時々陥る。今時は高精度に写された海の生態はテレビでも散見される。これには錯視が関与しているらしく、画像1をご覧頂くと、その一端が垣間見えるのだが、2つにも見える魚は全く同じ魚の個体だ。水槽の中で2つの画面を1つの焦点に結び付けることはできない。中年のしらけた頭がここでも逆効果を催した。一人ぼっちの中年男が夜闇の路頭で水族館に出くわして、気が付いたら中で回遊している自分を見出し・・・なかなか上手く行かないんだなぁ。

私は思わず知れずはっとなった。なんと美しい姿態をしているのだろう。それは各々呼び物とされているジンベイザメでも目の突き出たサメでもない。マンタでもマンボウでもクリオネでさえない。それは、3つぐらいの種か性に識別できた内の、とりわけある一つのサメだった。身体中央を割くように少しく隆起する筋肉、泳ぐときのその流麗なフォルム、君のそこは何と言うのかい?鼻もとても素敵だ、まったくおじさんはこのサメに釘付けとなった。一部黄土色に着色されているのもよろしい。

素敵な彼もしくは彼女は、記録に残らずじまいに終わった。惜しむらくは海底階のサメがよく見えるとして紹介されている処で、サメは海底か海上近くかの縁に沿ってよく見受けられる、とりわけこの階のこのコーナーは間近で佇んでいるのがよく見られこれぞその姿態の撮影切りに格好だ、そこで、君を永遠に閉じ込めておきたかった。

少し遠目の辺りで回遊する魚群や時折光にたまさか集いしものか銀光りする4,5尾の中型魚・・・面白いものもあるが、私は沈んでいた。スマホのカメラを起動するとつまらないメッセージが出ていて写せなくなっていたのだ。私は館外へストラップ売り場も覗いてから出て、そこで改めてカメラを起動したのだが、やはり同じだった。そこで私は思い付いたのだ。戸外でも同じということは、再起動すりゃあいい。当たっていた。そして今や遅しだった。

そのサメが彼女だったとしたら、この時代によく合った、貴婦人を見るようではないか。その気高い淑女を私はその構造をよく知ってしまったので、今度ばかしは仕留めて申し上げる!ワシのものになった暁には、君はきっとかわいい女にもなろうぞ!                 オペラ歌手 石川勝敏


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