「がんばれ さるの さらんくん」
中川正文 作 長新太 画 福音館書店
「えっ、これも長新太さんの絵?」って、最近文庫に来ている子どもたちは言います。
長新太さんの初期の絵の感じは後の作品とずいぶん違っています。わたしは初期のものが嫌いではありません。というか、そのころ育った我が家の子どもたちに何度も何度も読まされて、なじみが深くなったということかもしれません。
固い細い線に囲まれた、きちょうめんで微妙に違う色の世界。でも、なぜだか絵の中にそれぞれの空間というか空気が感じられるのです。息子たちは、園長さんのむすめさんが火事でケガをして丘の上にあるらしい病院の窓から大好きな動物園の方を見ているページが好きだったようで、入院するのも悪くないなというようなことを言うので親は弱りました。窓からすうーっとそよ風にのって気持ちが動いていくのです。後に、長新太さんが色のかたまりのような筆で子どもの心をつかんで動かした「キャベツくん」などと同じく、子どもの心に寄りそっている長さんの持っている力でしょうか。うちの息子たちは「がんばれさるのさらんくん」とか、以前の「おしゃべりなたまごやき」の長新太さんを楽しみました。今の文庫の子は以前のものとは少し違う長新太さんを喜んでいます。これも出会いでしょうね。
動物園ではオーケストラをつくって、さらんくんはトランペットを吹くことになりましたが、ちっとも音が出ないのでがっかりしていると、園長さんのむすめさんがいっしょに練習してくれました。その子の退院の日がきました。さらんくんのトランペットは……。
「がんばれ さるの さらんくん」という快いリズム感のある言葉は子どもたちが大きくなってからも決して忘れないようで、中川さんの文には余分なものがなくて、すっすっと話を運んでくれます。