「あな」 谷川俊太郎 作 和田誠 画 福音館書店
にちようびのあさ なにもすることがなかったので ひろしはあなをほりはじめた
……「もっとほるんだ もっとふかく」……ひろしはあなのなかにすわりこんだ……あなのなかはしずかだった……「これはぼくのあなだ」……あなのなかからみるそらはもっとあおくもっとたかくおもえた……ひろしはあなからでて のぞきこんだ……あなはふかくてくらかった「これはぼくのあなだ」もういちどひろしはおもった……そしてゆっくりあなをうめはじめた……
〈「あな」本文より〉
中学生の息子にゴミを捨てるための穴を裏庭に掘ってもらったら、もういいというのに必要以上に深い穴を黙々と掘り続けて、あとで自分が出てくるのに困ったことがあった。その穴を、文庫に来た子どもたちが興味を持って、われもわれもとのぞきに行くのです。
子どもにとって穴はそんなに面白いものなのでしょうか。穴掘りも好きだけど、穴にこもるのも好きですね。押し入れの中とか、階段の下とか……。熊など、動物たちと同じ遠い記憶からそうするのでしょうか。
詩人である作者は、少年が「あな」を掘ることで自分だけのものを見つけようとしているひそやかな心の動きを聞き止めて絵本にしてくれたように思います。子どもたちがその時時にいろいろな形に掘る「あな」を、そっと大事にしてやりたいものです。
ひろしの掘った「あな」を見る家族の反応も面白いですね。お父さんには、身に憶えがりそうな……。