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二次創作・小説。全年齢向けBL。関係各所とは無関係。閲覧は自己責任で。【厳禁】転載・引用・保存・翻訳。AI学習禁止。

永遠のエメラルド 後編(正リチャ+大春)

2020-08-06 09:02:45 | 正リチャ、他
神戸様のパートナーである春様は、
俺とリチャードの予想とは、真逆の人物だった。


「きれいなお店ですね。俺、いや、私、このようなところに来るのははじめてで、
緊張してしまいます」
ふわふわのミルクティー色の髪、まつ毛の長い三白眼、背がひょろりと高くて、見たところ、
神戸様よりもひとつふたつ年上に見える男性だった。
何より俺とリチャードを驚かせたのは、春様が宝石店に来るのがはじめてだと言ったことだ。
どうやら、神戸様は春様との交際時、一度も宝石をプレゼントしていないらしい。
確かに、見た目からして、宝石を普段使いするようなタイプには見えなかった。
ベージュの薄手のスーツと真っ白なワイシャツを着、グリーンのネクタイをしているが、
どうもスーツに着られている気がする。

神戸様の注文した品物がリチャードの手元に届き、
俺とリチャードは再び、神戸様とここ「エトランジェ」で会うことになった。
神戸様はパートナーをともなってやってきた。それがこの神戸春様だ。
「ロイヤルミルクティーです。
本日のお菓子はロールケーキ。中身はカスタードクリームとホイップクリーム、
それに桃とメロンです」
俺がお茶とお菓子を出すと、春様はわぁ、ありがとうございます、とニコッと笑う。人好きのする笑顔だった。
(こう言うタイプのお客様はあまりここでは見ないな)
リチャードは俺と同じことを考えているようだが、澄ました顔をしている。
お茶をどうぞ、と彼が言ったら、春様がとなりに座っている神戸様を見る。
「いただきなさい、春」
神戸様が優しく微笑んでそう言ったので、春様はいただきます、と両手を合わせ、
それからカップを口に運び、
「わぁ、美味しい! こんなに美味しいミルクティー、飲んだのはじめて!」
とうれしそうに小さく声を上げたので、俺は内心でガッツポーズをする。


「春、そんなにはしゃぐものではない」
神戸様が口に指を当て、クスッと笑う。春様のとなりに座った神戸様は、ずっと優しい笑顔を浮かべて愛妻を見つめている。
「あ、す、済みません」
「構いません。うちの専属秘書が淹れるお茶は絶品ですから」
リチャードが小さな子どもに言い聞かせるようにそう優しく言って、
俺をチラッと見てニコッと笑う。俺の内心ガッツポーズはさらに大きくなった。
先ほど、リチャードといっしょに俺も、春様に名刺をお渡しした。春様から返ってきた名刺は、
「警視庁捜査一課 警部」と書かれていた。エリートだ。しかし、そんな雰囲気はまったくない。幼稚園の先生だと言われたら信じてしまうだろう。


しばし、俺たちは春様が「美味しい、美味しい」とお茶とケーキを食べるのを、ほのぼのとした気持ちで眺めていた。
まわりを幸せな気持ちにするひとだな。春様を見ていると、こちらも自然と笑顔になる。


「こちら、ご注文のお品物でございます」
リチャードが群青色の宝石箱を目の前で開けてみせたら、春様は一瞬ぽかんとし、
それから、
「大助、またこんな無駄遣いして」
何と、神戸様に向かって怒りだした -
これには俺もリチャードもビックリして、しばらくぽかんと口を開けることになった。
あの神戸様に、お説教? お金を湯水のように使う神戸様に、お金のことでお説教をするひとが、
この世に存在したなんて!
「お金なんていつまでもあるものじゃないんだから、なるべく節制しろっていつも言ってるだろう」
ちなみに神戸様は聞く耳持たずと言った感じだ。お説教され慣れているのだろう。
「リチャード、その指輪の説明を」
「はい」
神戸様の指示でリチャードは我に返ったらしく、その指輪が神戸様のおばあさまのものであること、
春様が休日などにつけられるよう、リフォームしたこと、
蔦(つた)をモチーフにしたゴールドの指輪であること、エメラルドは5つついていること、
そしてエメラルドは5月の、春様の誕生石であることを水が上から下に流れるように説明した。


「おまえのおばあさまのリング?」
「そうだ」
「どうしてそんな大切なものをリフォームなんて」
「おまえに贈るためだ」
「……」
今、たっぷり5秒ほど沈黙があった。神戸様と春様が見つめ合っていたからだ。
「そんな……俺には宝石の価値もよくわからないし、
休日に使えって言われても、合わせる服も……」
「服なら俺が選んでやる」
「そ、それに、俺、なくしちまうよ、きっと」
「おまえはなくさない。大切なものなら、なおさら」


神戸様が優しく、しかし強い口調でそう言う。春様はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、
最後には、
「うん」
と小さくうなずいた。


「どうぞお手に取ってごらんください」
リチャードがそう言ったので、神戸様が、
春様の左手の薬指からプラチナのリングを抜き、
代わりに新しい指輪をはめた。
「ピッタリだな。な、春」
「……」
春様はしばらく左手を掲げ、その指輪にじいっと見入っていたが、
しばらくして、
「お、俺のこんな汚い手に……これはもったいなさすぎるよ……」
そう言って泣き笑いの表情になった -


「おまえの手は働き者の手だ。とても美しい」
「大助、」
「おまえの指は、その指輪をはめるにふさわしい」
「ありがとう!」


神戸様が春様の左手に自分の手を重ねる。ふたりともとても幸せそうだ。
「俺、休みの日に頑張ってこれ、つけてみるよ」
「頑張らなくても良い。つけてくれれば良い」
「うん!
俺、これ、一生大事にする!」
春様の明るいその言葉を聞いた神戸様が、心の底からうれしそうな表情になる。
リチャードと俺は、そんな初々しいカップルを、あたたかくも甘酸っぱい気持ちで見守っていたんだ -


「神戸様はとても素敵なパートナーを見つけたんだな」
その夜、
「エトランジェ」を閉めて、俺はリチャードとティータイムを楽しむ。
「ほがらかな方でしたね」
「そうだな」
リチャードがニコッと笑ったので、俺もニコッと笑う。彼が笑うと長くて厚いまつ毛が壮大な交響曲を奏ではじめそうだ。
おまえ、今日も世界一きれいだぞ!
「結婚ってとても良いもののようだな、リチャード」


俺が含みを持たせてそう言うと、リチャードがピシッと固まる。
「リチャード、俺と結婚し、」
「Wait!」
俺の言葉はリチャードの鋭い一言にさえぎられた。彼は、水際で喘ぐような顔をして、すっくと立ち上がる。
「おい、リチャード! 今日は逃がさないぞ」
俺もあわてて立ち上がり、彼の手首を引くと、彼はとても頼りない顔をして俺を振り返った。
まるで迷子になった子どものような目だった。
「ち、ちがいます。今日は逃げません。あの、」
「本当だな?」
「え、えぇ。
あ、あの、ちょっと私、髪を整えて香水をつけなおして、」
「俺と結婚してくれ、リチャード!」


俺が大声で叫んだら、リチャードがビクンとする。
その青い目が限界まで見開かれている。
「あ、あの、正義。
あの、私は、」
「リチャード」
俺はリチャードを胸に抱き寄せる。
「俺と結婚して? リチャード」


「……はい」
俺の背中に腕をまわし、リチャードは確かにそう答えてくれた。
俺は世界一の幸せ者だよ、リチャード。ふたりで世界一幸せになろうな!


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