下記の記事はダイアモンドオンラインからの借用(コピー)です
コロナ禍に起因する解雇や雇い止め(見込みを含む)の人数は、累計10万人を超えた。2008年に起きたリーマンショック時にも派遣切りや雇い止めが社会問題となり、その憂き目に遭った結果、「大人のひきこもり」となる人々が多数生まれた。「コロナ解雇・雇い止め」の構図もそのときと同じであり、今後はリーマンショックをはるかに超える規模で新たな「ひきこもり層」が出現するだろうと筆者は予感する。(ジャーナリスト 池上正樹)
コロナ解雇・雇い止め
累計10万人突破の衝撃
新型コロナウイルスの感染拡大による解雇・雇い止め(見込みを含む)の人数は、厚生労働省によると4月7日時点の集計分で10万425人と、累計10万人を超えた。また、非正規労働者の解雇・雇い止めは、昨年5月25日以降に把握しているだけでも5万人近くに上っている。水面下では「コロナ解雇」という形でハローワークなどが把握できていない事例も数多くあり、弱者である非正規労働者が見えないところで雇用調整のしわ寄せに遭っているのが実態だ。
「あなたの契約は、来年3月末をもって更新しないことになりました。つまり、お辞めいただくことになります」
ある求人広告会社で10年以上、非正規労働者として働いてきた40代のユウコさん(仮名)は、昨年10月末、直属の上司である所長からフロア内の面談ブースに呼び出され、口頭でこう通告された。
所長の口調は事務的で、冷たい感じがした。ユウコさんはショックで手足が震えた。退職通告だと思い、ひどく怖かった。
「解雇ですか?」
ユウコさんが震える声で確認すると、「いえ、雇い止めです」と説明された。
会社側は雇い止めの理由について、「コロナによる経営不振」と「あなたの業務ミスの多さ」だと告げた。
そう言われたとき、その場ではユウコさんも「そうなんだ」と思った。ただ、後になって、10年以上も勤続してきたのに突然「業務ミスの多さ」と言われたことに、「いまさらなぜ?」と疑問も感じた。
「本当に仕事がない。生活できないから、短くてもいいので契約を更新してほしい」
ユウコさんはそう訴えたものの、「(作業)効率優先なので」と突き放された。
「返事は10日くらい時間ください」
そう答えるのが精一杯だった。
所長は、来年以降の彼女の生活を心配するどころか、「パートさん同士で、この話はしないでください」などと口止めする念の入れようだったという。
労働契約法改正に伴う
無期転換ルールが無視されている
これまでユウコさんは、パート契約で広告のデータ入力のオペレーターをしてきた。体の都合や能力的な問題などから、非正規の働き方を選ばざるを得なかったという。
「自分の特性上、単純労働の方が働きやすく、派遣では数カ月単位の不安定な就労になりやすいのでパート契約を選びました。これまでは、何度となく急な病休が入ったり介護で長期休職を余儀なくされたりしても、配慮してもらえた実績がありました。逆に、他の人が休みになったときに仕事が入るのはありがたく受けてきたから、今まで働いてくることができたのだと思います」
こうして毎年、ユウコさんは契約を更新してきた。そこにコロナ禍がやってきて、手のひらを返したように会社から「辞めてくれ」と言われた。ユウコさんには、お互いの関係が一方的に破られたように思えた。
ユウコさんは厚労省の夜間電話相談で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、意思表示することによって無期労働契約に転換できる権利があることを知った。
でも1人では行動を起こす自信がない。後押しをもらうために、インターネットで検索して見つけた一般合同労働組合(ユニオン)に加入した。
「厚労省の夜間電話相談もうれしかったですし、絶対に支援者が不可欠だったので、1人で動くのは危険と判断してユニオンに入りました」
「雇い止め通告」から半月後、ユウコさんは退職勧告の返事として、ユニオンにも同行してもらって労働契約の無期転換の申込書を提出した。
会社側からは、営業所の所長と人事課長が来て、申込書を受け取った。そして昨年12月中旬、会社の人事課長から「無期転換します」と電話があったという。
しかしその後、何も連絡がなかったため、団体交渉を申し入れた。今年1月から2月にかけて団体交渉は2回行われたが、3カ月分の賃金相当額を支払った上で「3月31日をもって合意退職」を提案する会社側と平行線をたどった。つまり、労働契約法の改正に伴う無期転換ルールが無視されていたのだ。
「団体交渉後、『無期転換します』など一度言ったことがなかったことにされ、悲しい思いをしています。また、他の拠点でも同じ非正規雇用の人たちに雇い止めを行い、その人たちが泣き寝入りさせられていることが分かりました。正社員には手を付けられないから、やりやすい非正規労働者で雇用調整している感じです」(ユウコさん)
リーマンショックを超える規模で
新たな「ひきこもり層」出現の予感
そして今年2月、会社から「3月31日の期間満了日をもって、すべての雇用契約は終了とする」などと記された「雇止め及び契約満了通知書」が郵送されてきた。
この間、ユウコさんは厚労省の出先機関である労働局にも行って、「無期転換を申し込んだ人に雇い止めを通告するのは、労働契約法上、違法行為に当たるのではないか」と訴えた。労働局は会社を指導したというものの、十分には機能していないように感じた。
「結局、私たちのような弱い立場の人々は、非常に都合のいい扱いをされています。会社からは、忙しいときに手伝ってくれる便利な存在だけど、強く押せば簡単に辞めてくれると思われている。もう次に働けるチャンスはないかもしれない」
筆者は2009年から当連載で「大人のひきこもり」をテーマに、社会から望まない離脱をさせられてきた人たちに数多くインタビューしてきた。こうした見えない「コロナ解雇」が、弱い立場の人たちの自己都合という形で行われている実態は、リーマンショック時の派遣切りや雇い止めなどと同じ構図だ。
当時そうだったように、解雇や雇い止めに遭った人たちの中に絶望や諦めが積み重なれば、孤立への入り口につながる。今は何とかセーフティネットで防いでいるように見受けられるものの、今後はリーマンショックをはるかに超える規模で新たな「ひきこもり層」が出現するだろうと予感する。
そんな中で踏ん張ってきたユウコさんは3月末、会社に対して仮処分を申し立てた。
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