下記の記事はAERAdotからの借用(コピー)です
介護にはお金がかかる。2025年には要介護認定者が780万人に上り、自己負担額も増える見通しだ。後悔したくないと、子は無理をしてしまいがち。ただし、介護離職は絶対に避けるべきだと専門家は指摘する。
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一方、埼玉県に住む高野昭博さん(65)は、介護で自身の生活が破綻した。
20年前、45歳のとき。「老老介護」の状態だった両親を助けるため、父ががんになったのをきっかけに、勤めていた大手デパートを退職した。
「あのときは、親の介護で後悔したくない、という思いが強かった。仕事を辞めることに迷いはなかった」
しかし、その2週間後、父が77歳で他界すると、母の認知症が進んだ。兄がいたが頼れる状況にはなく、もともと親の面倒は自分で見たいと思っていた独身の高野さんが、一人で介護することになった。
ただ、当時は介護についての知識は何もなく、公的サービスの存在すら知らなかった。母の貯金はほぼゼロ。年金もわずかだったため、介護にかかる費用のほとんどを高野さんが払い続けた。
一方で母は、高野さんが留守の間にやってくる訪問販売の業者から、180万円の羽毛布団や30万円の真珠のネックレスなどを買っているときもあった。
高野さんは、何度か再就職もしたが、年収は200万円台という厳しい時期も続いた。介護生活が8年を超えたころ、周囲の助言もあり、ようやく母を施設に入れることにした。しかし、その申請をしているさなかに母は85歳で亡くなった。
葬儀費用の100万円を支払うと、貯金は底をついた。実家は借家。生命保険もかけていなかったため遺産もない。
「墓はあるのに数十万円の納骨代すら捻出できなかった。母の死後は家賃を滞納するようになって、そのうち家を追い出されました」
デパート勤務時の年収はピーク時で1千万円超。当初、貯蓄は3千万円あったが、母の介護を経て54歳でホームレスに。母の骨を持って真夏の8月から4カ月間、公園で暮らした。
現在は仕事をしながら300万円台後半の年収で生活している。
「今思えば、仕事は辞めないほうが良かったと思います。最初に介護について調べて要介護申請していれば、離職は避けられたかもしれない」
介護で破綻しないためにはどうしたらいいのか。
「介護離職は絶対にしてはダメです。それは貧乏への入り口です」
そう話すのは経済ジャーナリストの酒井富士子さん。介護離職を避けるために、介護休業や介護休暇など、まずは職場で利用できる制度を積極的に使うべきだ、と話す。
その上でかかる費用について、こう助言する。
「在宅の間は親の年金の範囲内で何とかできるかもしれませんが、施設に入ればそうもいかない。そうなったときに大事なのは、親の貯金から使うこと。決して子どもが立て替えないことです。親の貯金がなくなったら親の家を売却すればいいんです。『家に戻ってくるかも』なんて考える必要はないです」
前出の高野さんは、親を送った後にホームレスになってしまった。
「介護離職後に、賃貸暮らしで家賃が払えないほどに困窮した場合、『住居確保給付金』の申請をするという手もあります」(酒井さん)
国による住宅扶助のようなもので、市区町村ごとに定められた額を上限に実際の家賃を原則3カ月支給する。
再就職に向けては、
「ハローワークの『ハロートレーニング』(離職者らを対象とした職業訓練など)を受けるのも良いと思います。一緒に学ぶ仲間もできますし、生活にリズムと張りも出て、社会復帰への気持ちが高まると思います。受講料は無料です」(同)
NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長の大西連さんは、
「家族の問題は、感情がすごく入ってしまい、合理的に判断できない難しさがある」
と分析し、指摘する。
「たとえば仕事を辞めて親の年金だけで介護すると考えたら、もしも10年とか介護生活が続いたら貯金も底をついて『共倒れになる』と第三者はわかる。でも、当事者は、家族を捨てたと思われたくない、といった感情が入ったり、これまでの人間関係を考えたりで、客観的に見たら明らかに非合理的な選択をする人が多くなるんです。仕事を辞める前にいったん冷静になって考えてほしい」
介護離職して経済的に困窮し、社会との接点も失われ、追いつめられる──。親の介護で自分の人生が後ろ向きになるようなことは避けたいところだ。(本誌・大崎百紀)
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