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『日本型BPR2.0「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか」
-「失われた25年」の克服・復活への答えは既にある-』
(村田聡一郎著 プレジデント社)
- 「失われた25年」を、企業変革で取り戻す(はじめに)
紹介本の著者村田聡一郎は、SAPジャパンの、顧客のデジタル変革を支援する組織である、IoT&インダストリー4.0事業開発の責任者(コーポレート・トランスフォーメーション・ディレクター)です。
また、著者が2011年から勤務している、SAP社は、ERP (Enterprise Resource Planning) ソフトウェアの世界シェア1位の企業です。特に、大企業向けERP市場では、高いシェアを誇り、世界中の多くの企業に導入されています。フォーブス誌が毎年発表する、世界のトップ企業ランキング「フォーブス・グローバル2000」にランクインする企業の90%以上がSAPの顧客です。
著者は、SAPにおける貴重な経験を通して、日本特有の企業体質から来る「ホワイトカラーの低生産性」を指摘すると共に、日本的な部分最適から、著者の提言を生かした、全体最適の仕組への「入れ替え」による、企業変革により、日本は、数年で先行する欧米に追い付き、生産性を2倍(欧米並み)にすることが出来るとします。これにより「人手不足の解消」も出来ると明言します。
著者が言う「失われた25年」には、著者特有の見解があります。一般的に、「失われた○○年」は、バブル崩壊直後の1990年を起点にして、GDPの停滞が続いている状況を言います。しかし著者の「失われた25年」の起点は2000年です。しかも金融・財政政策の誤りや、それに付随する公的資本形成投資の減少などの、マクロの原因ではなく、デジタル化による、ホワイトカラー業務の生産性革命から、日本は取り残されたことを要因とするのです。詳細は、『【図表1】「ホワイトカラーの生産性革命から取り残された、日本の「失われた25年」』(下記URL)を参照下さい。
URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/8be9bed675ae7976a886ebe644c03249
著者は、失われた25年もの間、生産性が「何故低いまま」なのかについて次のように言います。
『日本は、本来デジタルにやらせるべき仕事を、未だに、人間がやっている。ヒト重視・現場重視から、部分最適なデジタル化に留まり、ツギハギ、過剰品質な上に、雑務(グレーゾーン業務)で埋まっている。この結果、限られた1日分の能力を、欧米は、ホワイトカラーの定型業務をデジタルに全て代替させ、ゲタを履くことで、新規事業、新製品開発、顧客への高度な対応などの「非定型業務」に振り向け、成長した。一方、日本は、それが出来ず、生産性の低いままである』と。(『上記【図表1】の「P5」』を参照ください。)
この様な低生産性から脱却し、欧米に追い付く為にはどうしたらよいのでしょうか。次項で著者が提言する、変革の仕組み化「日本型BPR2.0」を見てみましょう。
- 変革の仕組み化「日本型BPR2.0」により、生産性を画期的に上げる
本論に入る前に、著者の“日本型BPR2.0”の背景にある、SAP ERPの現状を理解しておきましょう。
「IT media エンタープライズ/2024年12月19日」の記事を紹介します。この記事は、海外企業がERPの最新技術を活用しているのに比べ、老朽化し、複雑化した“日本型”のERPは柔軟性や効率で後れており、それへの対応策を、SAP(SAPジャパンの本名 進氏)が「AI時代に求められる次世代ERPとは」の中で、語る記事です。この記事の中で、日立ハイテク社のレガシーERPから、最新・次世代ERPへの移行プロジェクトの実例(以下『』)を紹介しています。
『同社は2001年から利用してきた「SAP ERP」をクラウドシフトするに当たり、「SAP S/4 HANA Cloud」を採用した。2018年から2023年までかかった移行プロジェクトでは、従来のERPに組み込まれていた9000を超えるアドオンを22まで削減した。外部システムとの連携のために開発したAPIなどを含めても、最終的には約600に減らすことに成功した。アドオンの存廃は役員主催の「アドオン審議会」で決定した。従来型SAP ERPのバージョンアップは5年に1回で、準備からバージョンアップ実施まで1年半を要していた。アドオンを最小限にした「S/4 HANA Cloud」を導入したことで、バージョンアップサイクルは5年から1年に縮まり、準備からバージョンアップ実施までの期間も1年半から1カ月に短縮した。』
この記事から読み取れることは、一つ目は、このプロジェクトは、「2025年の崖」(SAP 従来型ERPの保守が2025年で打切られることを言う;実際には2027年まで延長されている)をクリアーする為であったことです。二つ目は、日本では海外に比し、ERPの導入が遅れているばかりか、導入しても職人芸的な部分最適に拘り、アドオンの多い、極めて生産性の低い状態であったということです。つまり、日立ハイテク社の移行に於いて、従来型のアドオン9000が、22に減り、それを600のAPIでカバー出来たのです。三つ目は、SAPの最新版クラウドERP(ポストモダンERP、或いはコンポ―ザブルERP)は、従来版に比し、バージョンアップサイクルは、5年に一回から、1年に一回へ、バージョンアップの実施に要する期間は1年半から1か月へと大幅な短縮がされていることです。
この最新版クラウドERPは、従来版、或いは、日本的非効率なアドオン型に比し、導入に係る手間・コストの大幅な削減が実現しています。加えて、ERPのコンポーザブル化(SaaS等とのAPIによる組合せ化)により、core(基幹)と連携し、機能拡張を図る、周辺システムのクラウド型ソリューション・ソフトウェアの進化と、同期できる未来型を目指しているのです。(次の【図表2】P3、P4、P5を参照。)
ところで、上記記事や、“日本型BPR2.0”の仕組み構築の背景は、SAPの最新版クラウド ERPですので、クラウドERPについて理解を深めておきましょう。下記URLの『【図表2】「ERPの理解を深める」』を参照ください。
URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/05f51423e4e863c2a350929bb27c6bf7
それでは、本論に入りましょう。
著者は、日本の低生産性から脱却するための、全体最適の仕組である“日本型BPR2.0”を、どの様にして構築すべきかを、著者自らが関与した、A社の事例を採り上げ、A社の“日本型BPR2.0”推進の責任者である「業務変革本部」の本部長S氏を“語り部”として登場させ、スタートから“日本型BPR2.0”の仕組みの構築へ、そしてコーポレート・トランスフォーメーション(以下ではCXと表記)を実現する過程について、語らせています。
スタートは、A社の海外子会社社長であったT氏が、A社の新任社長に就任し、既にERPを導入していた前任の海外子会社と比較し、A社の余りの時代遅れに驚き、変革を志す所から始まります。
T氏は、社長就任後、直ちに、「COO養成塾(SAP社が運営する“日本型BPR2.0”の仕組みによる企業変革を目指す、企業経営者育成塾)」に参加し、“日本型BPR2.0”の手法を学び、その有効性を確信し、直ちに「業務変革本部」を発足し、事業部長だったS氏を、執行役員本部長に昇格・任命し、“日本型BPR2.0”の仕組み構築に着手します。
S氏は“日本型BPR2.0”の仕組み構築のポイントを7要素で語っています。著者は、その7要素を、「“日本型BPR2.0”フレームワーク」と位置付けます。
つまり、(1)経営の仕組みが時代遅れになっていると自覚し、(2)北極星(包括的パーパス;中長期の目標)を明示し、(“日本型BPR2.0”の施策)と紐づけ、(3)組織(業務変革本部)、(4)システム、(5)プロセス/ルール、(6)人、(7)データの5要素を、組織(業務変革本部)を核とする、「五位一体」で変革することで、“日本型BPR2.0”の仕組みの構築が出来るとします。。
“日本型BPR2.0”フレームワークを、“OODA意思決定フレームワーク”で見ると解りすいですね。(1)はObserve(観察)、(2)はOrient(状況判断)+Decide(意思決定)、(3)(4)(5)(6)(7)はAct(行動)です。
また、“日本型BPR2.0”フレームワークを“OODA意思決定フレームワーク”及び“TAPSフレームワーク”と組合せ、ロジカル・シンキングをすることで、仕組み構築に向けた行動計画策定の枠組みが明確になります。次の【図表3】のP2「フレームワークの組み合わせで“日本型BPR2.0”の行動計画を策定しよう」を参照下さい。
なお、この7要素の詳細な内容は、字数の関係もあり、省略します。詳細は、『【図表3】「生産性が成長する、変革の仕組み化“日本型BPR2.0”構築の7つの要素」』(下記URL)を参照下さい。更なる詳細は、紹介本をお読みください。
URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/fd5a8cf29341a3a93412c1ad122f8334
【“日本型BPR2.0”フレームワーク活用の成功例―A社のCXの成果を見る―】
A社がBPR2.0に着手して5年経過し、道半ばですが、その成果が着実に表れています。
一つ目は「定型化をするというトップの決断とその成果」の例です。A社の製品は顧客の要望に合わせた「一品物」を作るのが売りでした。故に、毎回毎回、技術者が、イチから図面を起こしていました。それをモジュール化(システムや製品を独立した“単位;モジュール”に分割し、それぞれが特定の機能を担うように設計する手法)し、それに合わせた新たな設計をし、モジュールの組み合わせによる、フルカスタムではない「セミオーダー品」とするカイゼンです。営業の猛反対がありましたが、図面を起こす技術者の人手不足もあり、『「フルカスタム」ではない「セミオーダー品」化』に踏み切りました。その結果、一時的には売上が落ちましたが、注文から出荷までのリードタイムが、従来の3か月から2週間に激減(6分の1に短縮、85%の削減)し、お客様はセミオーダー品を選ぶようになりました。結果、セミオーダー品は80%になり、フルカスタム品は20%になりました。加えてWEB上で、モジュールの組合せを顧客が選べる仕組みを作り、更なる顧客の好評を生み、売上が伸び、コストの大幅削減に成功しました。設計・生産・営業の非定型業務を定型業務にし、生産現場も含め大幅な生産性向上を実現したのです。
二つ目は、T社長が目標に掲げたエンゲージメントです。全社員サーベイを年2回行い、その経年変化もダッシュボードで見える化しています。するとエンゲージメントが低下している部門は何処か、その原因は何処にあるのかが、当該部門の管理職だけでなく、役員や社長にも見えてしまうので、当該部門長はすぐ手を打つようになりました。結果、改善が目標に向けて着実に進んでいます。
三つ目は、製品系マスターデータの統合が完了したことで、IBP(SAP Integrated Business Planning―【図表2】P4を参照―)がフルに使えるようになりました。IBPとは、「計画」と「実績」を一つのシステムで管理する仕組みです。「計画」のほうは「中期(24ヶ月)」「今年度」「今月」などすべての期間、また、「全社(連結)」「事業部」「国ごとの子会社」「製品ライン」などあらゆる単位の事業計画が管理されており、全てのデータが相互に連携しています。一方「実績」のデータは、ERPから自動的に明細レベルで供給され、ほぼ、リアルタイムで把握できます。事業計画は実績と対比され、月次で洗い替え(見直し)されます。事業計画には、原材料費や為替の変動、需要や競合の動きなどの変動要素の全てが織り込まれ、これらの要素も随時更新されます。本社も子会社も工場も、全ての部門が、一つの計画とそれに対する進捗の「一つの事実」(ワンファクト)を見ながら、仕事を進めることが出来る様になりました。つまり、一つの会社を一つの仕組みで管理するようになったということです。データの「ワンファクト・ワンプレイス・リアルタイム」を実現しています。
- “日本型0”フレームワークを活用しよう(むすび)
“日本型BPR2.0”フレームワークは、SAPクラウドERPを導入し、CXを実現するために有益ですが、それ以外の領域、例えば「京セラ会計」「BSC」等の、業務プロセスを重視する管理会計の運用の際にも、大いに、活用の効果があります。
また、ERPを導入せずに、CXを推進しようとする企業においても、このフレームワーク活用することで、成果を出せます。“日本型BPR2.0”フレームワークを活用しましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
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