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「私の本棚2020.9.22」

2020-09-22 13:35:13 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『コーポレート・トランスフォーメーション』(冨山 和彦著 文芸春秋刊)

  • コロナ・ショックは一周遅れの日本経済復興への好機(はじめに)

 コロナ後の日本・世界の破壊的危機について著者は次の2点を予測しています。

1.日本の経済・社会の「強み」と「弱み」はさらに際立って鮮明化している。DXの加速、グローバル化の変容(サイバー空間での加速とリアル空間でのローカル化が進む「グローカル・モデル」化)が進み、日本型経営・成長モデルは有効性を失う。

2.グローバル化とイノベーションの波に乗り覇権的地位を取り戻した米国の経済・社会モデル、EUシステムを採用した欧州成長モデル、日本型成長モデルとグローバル化・デジタル革命を巧みに取り込み回してきた中国を含む新興国の成長モデルのいずれもが曲がり角に遭遇し大きな転換期に入る。

さらに著者はこのコロナ危機を、会社を、個人個人の生き方を、日本を、世界をより良く変えることで、一周遅れの日本経済の復興へと踏み出すチャンスの時と、熱意を込めて語ります。

ここで一周遅れの日本経済について具体例を以下に見てみましょう。(「日経BP IT Japan 2020.8.27」 KPMG宮原氏講演等より)

  1. 〔国際競争力の低下〕IMD( International Institute for Management Development)の国際競争力ランキングで日本は34位(6;対象63ヵ国/米国10位、中国20位、韓国23位)。1990年頃の1位から毎年ランキングを下げています。特に“企業の俊敏性”指標63位、“企業家精神”指標63位、“労働生産性”指標55位と企業競争力の劣位が目立ちます。なお、WEF(World Economic Forum) 国際競争力ランキングでは日本は6位(2019.10;対象141ヵ国/米国2位、中国28位、韓国13位)です。労働生産性の低さは、デービッド・アトキンソン著「国運の分岐点」によれば、日本の中堅・中小企業比率の高さ、中堅・中小企業の低生産性、低賃金を改めない経営者、中堅・中小企業の低生産性を保護する中小企業政策が要因です。
  2. 〔「熱意溢れる社員」比率6%は、世界で最下位レベル〕エンゲージメント(熱意溢れる社員)調査(ギャラップ社、2017)で、日本は139ヵ国中132位と最下位レベルです。
  3. 〔日本は「輸出小国」だ〕主要国(16ヵ国)の輸出総額順位とGDPに占める輸出額比率順位(比率)を表示します。日本;4位/14位(1%)、米国;2位/16位(11.9%)、中国;1位/15位(19.6%)ドイツ;3位/6位(46.1%)韓国;5位/7位(42.2%)。日本の高い技術力からすればドイツ、韓国並みの輸出潜在能力はある。輸出したいという意思が足りない。輸出企業は輸出しない企業に比し生産性は向上するという統計も出ている。(デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」より)
  4. 〔日本の「DX先行派」企業は、わずか3%〕IMD世界デジタル競争力ランキングの順位(2019)では、日本は63ヵ国中23位でした。世界の主要国順位は、米国1位、韓国10位、中国22位です。

 1990年頃のジャパン・アズ・ナンバーワンの時代からするとなんと残念な日本経済の状況でしょうか。『このコロナ・ショックを機に、古い日本型経営・成長モデルを脱却し、日本の「強み」を生かし「弱み」を革命的に変革し、再び世界に輝く日本を取り戻そう』と著者は力説します。その道筋の一つとして「日本の会社を根こそぎ変える」コーポレート・トランスフォーメーション(CX)を提唱しています。

 著者が説くCXを次項でご紹介します。

  • CXのゴールは「両利き経営」と「CX経営」

【ゴールは「両利き経営」と「CX経営」】

 著者は、企業の持続的成長を維持するために、イノベーションによる新たな『成長機会の「探索」』は不可欠とし、「探索」して事業化するには投資が必要であり、その原資を得るためには既存事業の収益力、競争力をより強固にする『既存事業の「深化」』が必要とします。『既存事業の「深化」』と『成長機会の「探索」』の双方を可能にする経営つまり「両利き経営」の必要性を説きます。

 さらに、「両利き経営」を可能にするにはハイブリッド型・多元的経営力と組織能力の多様化・流動化と同時並行的な新陳と代謝、それによってできる組織構造の多元化が必要とします。それを可能にするファンダメンタルとして「日本の会社を根こそぎ変える」コーポレート・トランスフォーメーション・経営(「CX経営」)が必要と説くのです。

【中堅・中小企業における「両利き経営」と「CX経営」が日本経済復興の本丸】

 著者は、日本の産業をG(グローバル)型産業とL(ローカル)型産業とに区分し、海外を主戦場に稼ぐG型産業に対し、L型産業は地域密着型の小売り、卸売り、飲食、宿泊、エンターテイメント、地域金融、物流、運輸、建設、医療、介護などのサービス業と農林水産業と定義します。その上でL型産業は日本のGDPの約7割を占めると同時に、中堅・中小企業が主体的に担っているとします。

 日本のGDPの成長のノリシロは、L型産業に、そしてそれを主体的に担う中堅・中小企業にあるとします。ここにこそ日本経済復興の本丸があるとし、依って、コロナ・ショックを機とする「両利き経営」と「CX経営」は大企業に於いては勿論ですが、中堅・中小企業に於いてこそ必要と力説します。

【「両利き経営」とそれを支える「CX経営」を成功させる提言】

 コロナ・ショックにより、日本の多くの企業は生残りをかけた経営に追い込まれているといっても過言ではないでしょう。そんな時、紹介本に記されている『「両利き経営」とそれを支える「CX経営」を成功させる提言』を生残りの方法論として是非一読下さい。「両利き経営」と「CX経営」についてその閃きとヒントを与えてくれます。

 自社の経営にとって必要と思われる方策があれば、できる事から速やかに実施していくことで、果実が生まれてくるのではないでしょうか。すべてが正解ではないかもしれませんが、まず始めることに意味があります。CXの実践はアドホック(ad hoc:その場その場で適切な対応)に見直し、リ・スケジュールをしていくことでスピーディーな対応が可能となるのではないでしょうか。

 私事ですが、紹介本を読み、閃いたことがあります。紹介本に提言の一つとして、「M&Aは現代の経営において市場拡大と事業イノベーションにおいて必須の経営手段である」と記されています。M&Aなど全く考えなかった企業がM&Aの検討を始めることで、自社の事業の『「分ける化」と「見える化」』が明確になり、『「深化」すべき事業』『「撤退」すべき事業』が明確になり『どんぶり経営』から脱却できます。

 それと同時に、『「深化」すべき事業』を、定量的(管理会計)&組織能力的に把握する過程で、『「深化」すべき事業』とシナジー効果の強い、社会的イノベーションに対応する『成長機会を「探索」』すべき事業領域が見えてくるのではないでしょうか。

 M&Aにおいて大切なことはPMI(Post Merger Integration; M&Aの効果を最大化するための統合プロセス。7Sの変革・統合、最適・最大化プロセス。)です。M&Aの検討過程においてPMIを検討することで、組織能力についてのCXが見えてくるのではないでしょうか。

M&A&PMIの検討の過程で、CFO機能とCSO(Chief Strategic Officer)機能の統合を痛感し、実現に向けたCXが進むでしょう。

どうでしょう。M&A&PMIを検討により、売却・買収のステップに進むかはさておき、これだけのCXのネタが見えました。紹介本の提言を材料としつつ、CXに取組もうではありませんか。

  • コロナ・ショックは変革の最後のチャンス(むすび)

 著者はある対談で次のように語っています。『日本は、75年前の戦後や約150年前の明治維新では大変革をやってのけた。追い込まれると変革できる。コロナ・ショックで最後のチャンスが巡ってきたと考えるべきだ。』(2020.6.16 日経ビジネス 山口記者との対談)

 私達経営に関わる者は、コロナ・ショックを明治維新、第二次世界大戦後に次ぐ変革の大チャンスと捉え、覚悟とリーダーシップを以って『既存事業の「深化」と成長機会の「探索」』と『それを支える「CX」』に挑戦していこうではありませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

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「私の本棚2020.8.25」

2020-08-28 15:13:26 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『見えてきた7つのメガトレンド「アフター・コロナ」

                                                          30人の論客が予測する新常態(ニューノーマル)』

                                                                          (日経クロステック編 発行:日経BP)

  • パンデミックの歴史を振り返る(はじめに)

 世界の歴史の政治・経済・社会に大きな影響を与えた感染症のパンデミック(世界的流行)について振り返ってみましょう。歴史上パンデミックに至った感染症を病原菌別にみてみると、①新型コロナウィルス(COVID-19)②コロナウィルス(SARS、MARS)③ペスト菌(ペスト・黒死病)④天然痘ウィルス⑤麻疹(はしか)ウィルス⑥チフス菌⑦らい菌(ハンセン氏病)⑧インフルエンザウィルス(スペイン風邪、アジア風、新型インフルエンザ)⑨コレラ菌⑩その他(結核菌、ポリオウィルス、エボラウィルス、フラビウィルス=日本脳炎、マラリア原虫、等々)があります。

 これらの病原菌に基づく感染症はその時代の政治・経済・社会に大きな影響を与えてきましたが、COVID-19以外の感染症の中で最も大きな影響を及ぼした感染症はペストと言われています。

 ペストのパンデミックは、

第一次;AD541-750。その後の東ローマ帝国と神聖ローマ帝国の盛衰の分岐点になったと言われる。

第二次;AD1331-1855。AD1331最初の感染地中国では1億人が死亡し当時の中国の人口半減の要因と言われている。AD1347にイタリアに上陸したペストは、1348年にはヨーロッパ大陸北部まで流行し14世紀末までにはヨーロッパの人口の3分の1乃至は4分の1の約2500万人が死亡したと言われる。19世紀の半ばにかけてはイギリス、北アフリカ、東ヨーロッパ、ロシア、オスマン帝国などで感染が広がる。

第三次;AD1855-1994。AD1855中国で発生が始まったペストは、第二次世界大戦にかけて、香港、アメリカ、メキシコ、インド、東南アジア、南アジア、満州、ロシア、日本(1902-1905)などに広がり、1911年には中国(清)が中心となり国際ペスト会議(英・独・仏・蘭・墺・米・メキシコが参加)が開かれるなど世界的な感染拡大を見る。その後もベトナム戦争(1960)、インド(1994)で大流行する。

以上3つの大きな波がありました。

 この3つの波の中で、政治・経済・社会の大きな変化をもたらしたのは、第二次の波です。第二次の波は、当時の産業の中心であった農業の担い手である農民の死亡者を多く出し、農民の地位が上がると同時に封建領主の地位の低下を招き封建制度が崩壊します。もう一つの権力であった教皇をトップとする教会もペストには全くの無力でした。聖職者自身がペストに罹る等権威が失墜したのです。こうして2つの権力である教会・領主の権力失墜が新たな社会をもたらしたと言われています。新たな社会とはルネッサンスと資本主義、更には宗教改革でした。

 ルネッサンスは、勿論ペスト以外の要因もありますが、中世の教会の支配と決別し人間を解放・再生する運動として生まれ、封建領主に変わる富裕商人がバックボーンとなり発展したと言われています。

 資本主義については、封建社会では領主の所有する土地で農作物を作り皆で分けて生活をしていましたが、ペストによる労働力不足から体制を維持できなくなり、土地の所有者から土地を借りた意欲ある農業事業者が生産性を高め発展する社会へと移行し、そのことが資本主義に繋がる一つの要因となったと言われています。

 宗教改革については、中世を支配したローマ教会の権威がペストで失墜し、もう一度原点に返ってキリスト教の信仰を確認してみようとしたウィクリフ、フス、ルター,ツヴィングリ、カルヴァンの一連の流れの宗教改革に繋がったと言われています。

 パンデミックが政治・経済・社会に大きな影響を与えて来た歴史を見てきましたが、死者数は少ないものの、感染者の地域の広がりという点では類を見ないCOVID-19のアフターはどうなるのでしょう。まだまだ終息していない時点で、先の見通しは難しいですが次項で紹介本の「見えてきた7つのメガトレンド」をご紹介しましょう。

  • アフター・コロナの『見えてきた「7つのメガトレンド」』

【「7つのメガトレンド」とは】

 紹介本が示す「7つのメガトレンド」は次の通りです。①分散型都市(都市への人口集中の課題が浮き彫りに/分散型のコミュニティーの取り組みが世界中で起こる)②ヒューマントレサビリティ―(中国的な「監視社会」型ではなく、「公益性と個人情報法保護」の双方を充足出来る新たな価値を生むシステムが出現する)③ニュー・リアリティー(オンラインは最早バーチャルではない/ WEB会議、無人コールセンタ、在宅での監査業務、オンライン診療などリアルの価値の再定義が進む)④職住融合(オフィスは執務の場からコミュニケーションの場へ/住宅は「DK」⇒「L〈living〉DK」⇒「W〈working〉LDK」へ)⑤コンタクトレス・テック(様々な非接触を実現するテクノロジーの出現・発展)⑥デジタル・レンディング(一定のAIデータに基づくデジタル融資の進展/日本・世界でのデジタル通貨の進展)⑦フルーガル・イノベーション(速さと非対面が求められる安価で高機能の製品・システムの開発が進む/その例として、安価でスピーディーに生産できる簡易型人工呼吸器、物流や小売りなどにICTの取込み、ライブ配信による商品販売など)の7つです。

 この7つのトレンドで私が最も注目するトレンド「コンタクトレッス・テック」について次に記します。その他のトレンドについても注目すべき点があります。是非紹介本をお読み下さい。

【最も注目したいトレンド「コンタクトレッス・テック」】

 パンデミックの歴史で見ましたペストは、1984年の北里柴三郎によるウィルス菌の発見、抗血清による治療法が発見まで、14世紀初めの第二次パンデミックの始まりから1960年のベトナム戦争のパンデミックまでの6世紀の間に、2~3年置き或いは数十年置きに世界各地でパンデミックが発生しています。COVID-19も、たとえワクチンが発見・接種されても、COVID-19ウィルスの変異や新たな感染症ウィルスの発生等を考えると感染症対応は恒久的に必要と思われます。

 その意味においては、アフター・コロナのトレンドは一時的ではなく恒久的なものと考えるべきと思われます。「コンタクトレッス・テック」も現時点で出現しているものに止まらず、今後一層の進展・発展が計られると思われます。ここでは紹介本で示されている数十の事例の中から特徴的なものを見てみましょう。そこから将来の発展形を予想して頂ければと思います。

 ビフォー・コロナ、ウイズ・コロナにおいて既に出現している、「ドローンの活用/アバターロボットの活用/自動荷運び車の活用」や「公共空間におけるエレベーターやディスプレイのタッチレスパネル」などは今後もさらに活用の場が広がるでしょう。

 5Gの進展と並行して「ビデオ会議/建機などの遠隔操作/オンライン診療」等の機能の充実や利用機会の拡大が進むでしょう。

 殺菌効果があり身体に安全な深紫外(DUV)LED照明が数年後実用化の見通しとされます。深紫外(DUV)LED照明は航空機などの公共交通機関への応用も期待されます。

 この様に今までとは異なる社会価値(ノン・リアル、タッチレス、タッチレス殺菌)の再認識・発見とそれに伴う様々な技術のステップアップが期待されます。

 P・F・ドラッカーの『企業家精神の知的基盤というべきイノベーションのノウハウは、変化にかかわるノウハウである』(イノベーションと企業家精神)にある「変化にかかわるノウハウに基づくイノベーション」のチャンスではないでしょうか。

  • アフター・コロナを前向きにとらえよう(むすび)

 パンデミックの歴史で見ましたように、厳しいペストの第二次パンデミックの後に新しい時代が展開しました。アフター・コロナの先は未だ予測できませんが、間違いなく新たな時代が開けるのではないでしょうか。そんな希望をもって、目の前のリスクに迅速に対応しつつ、時代の変化に俊敏に対応する経営革新の道を歩もうではありませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

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「私の本棚2020.7.28」

2020-07-29 08:31:21 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『テレワークの切り札Office 365 Teams 即効活用ガイド』

                                                         (岩元 直久著 天野 貴之監修 発行:日経BP)

『ファシリテーション入門〈第2版〉』          (堀 公俊著 日経文庫)

『ワークショップ入門』                (堀 公俊著 日経文庫)

  • ビジネス・ファシリテーションのニューノーマルを探求する(はじめに)

 Covid-19対応も、withコロナからAfterコロナの段階に移りました。

 そのような時期を迎え、今回は「ニューノーマルを考える(1)」と題し“お勧めの図書”を紹介します。自粛時期の在宅勤務がAfterコロナではニューノーマルとなると共に、ビジネス・会議はWEBが主流になるのではと思います。その様な時、経営管理・コンサルティング技術領域の大切な知見の一つであるビジネス・ファシリテーションが一層重要になると共に、手法も大きく変わるのではと思い、認識を新たにすべく採り上げました。同時に会議のアイスブレーク機能(会議における緊張をほぐす機能)等を持ち、会議とシナジーな関係にある、ワークショップを並行的に採り上げました。

 次回は「ニューノーマルを考える(2)」と題して、PESTの観点から、“アフター・コロナ”を見たいと思っております。

【会議はWEB会議がニューノーマルに(知って驚く優れ物“Microsoft Teams”)】

 Covid-19の影響で、セミナーはウェビナー(“Webセミナー”の略呼称)で、会議はWEBでという時代になりました。日本において、6月19日からは自粛が更に解除されましたが、そのトレンドは変わりません。

 私の個人的な思いですが、ウェビナーはZoomが、ビジネス・WEB会議はMicrosoft Teams(有料コース/以下Teamsと略称/office 365は2020.4.22よりMicrosoft 365に改名)が最適と思います。ビジネス・ファシリテーションの観点から、WEB会議で使用するベストのソフト、Teamsの優れている点を挙げさせて頂きます。

 Teamsでは、Teams内のチーム(全社)の下にチャネル(社内組織グループ、クロス・ファンクショナル・グループ、イッシュー・フォーカス・グループ等)を自由に設定出来、チーム、チャネル毎にポータルの作成が出来る等、ビジネス向きの会議システムです。加えて、Teamsの機能は、ホワイトボード機能、付箋機能、WEB上でのドキュメントアプリの共有(保存/画面)&協働機能、録画・議事録作成機能、チャットによる事前資料配布やコミュニュケーション・コラボレーション機能、デバイス・場所・時間に左右されないフレキシビリティー機能等々です。また、7~8月から利用できる「トゥギャザーモード(仮想のルームに会してる様に見せる)」「発言の英語字幕が流れる」等の機能が加わり(日経2020.7.9夕刊「ビデオ会議に新機能」)、他社ソフトとの距離を広げようとしています。この様にTeamsの機能は、リアル・会議における様々な道具・機能を充足するばかりではなく、それを上回る道具・機能を備えています。ここでは字数の関係で十分な説明はできませんが、紹介本/WEBセミナー/マイクロソフト社作成のYou Tube等で知見を深めてください。この知見なくしては、ニューノーマルに於けるファシリテーションの成功はあり得ません。

 ニューノーマルにおけるファシリテーションの成否は、従来のリアルにおける手法・スキルに加えて、上記知見に基づくTeams関連の機能の活用とスムースな運用に掛かっています。

【WEB会議運営、組織の活性化を産出する“ファシリテーション”のスキル】

 一般的に会議の成否はファシリテーションに掛かっていると言っても過言ではないでしょう。会議は、グループリーダー(課題の執行・達成責任者)、ファシリテーター、記録係(録画・議事録係兼コ・ファシリテーター)・監視係(タイム・キーパー)、クルー(参加メンバー)、で構成されます。

 会議を成功させる、つまりメンバーの合意・賛同ではなく目的・目標・課題に対する正解を導きだすには、もちろん会議の全ての構成メンバーと関わりますが、特にファシリテーション(集団による知的相互作用を促進する働き)を行うファシリテーターの“人間力×スキル(Being=あり方×Doing=やり方)”に掛かってきます。人間力(Being)は、メンバーの信頼感やメンバーの心を動かす等の点において極めて重要な要素ですが、ここではその人間力を背景として表出されるものも含めたスキル(Doing)について次項で観てみたいと思います。加えて、WEB会議というニューノーマルな場面でのファシリテーション・スキルについても観てみたいと思います。

【活気あふれる、成果の出るWEB会議にする“ワークショップ”を知っておこう】

 会議とシナジーの関係にあるのが「ワークショップ」です。その両者のプラットフォームがファシリテーションです。紹介本では、『「ワークショップ」は参加者の資源を十分に引き出し、対話を通じて活発に共振させていけば、予期せぬ成果が生まれる機能を有する』とあります。

 この「ワークショップ」の機能を会議のファシリテーションの中で、状況に応じ、適時・適切に取り入れることで会議の成果に好影響を及ぼします。氷のような固い雰囲気を壊し緊張や警戒をほぐす“アイス・ブレーク・ワークショップ”やチーム(会議メンバー)のベクトルが揃わない時に、チーム一人一人の夢や強みを引き出し、ビジョンへと纏め上げベクトルを揃える“ビジョン・ワークショップ”等がその例として挙げられます。

  WEB会議でのニューノーマル・ファシリテーションにおいては、ニューノーマルな(WEBを使う)「ワークショップ」の活用も俎上に載せてください。一般的な「ワークショップ」につては、詳しくは紹介本をお読みください。ニューノーマル・ワークショップについては、次項を参考にしてください。

  • WEB会議を成功に導く、“ニューノーマル・ファシリテーション・スキル”

【リアルでもWEBでも必要な“四つのファシリテーション・スキル”】

 ファシリテーターに求められるスキルは多岐にわたりますが、全ての基本として身に付けるべき四つのスキルを紹介します。

 四つのスキルは、①場のデザインスキル(ゴール、ミーティング・ルールの明確化。ミーティング・プロセスの作成と周知。メンバーの関係性の構築。)②対人関係スキル(傾聴、応答、観察等の適時・適切なコミュニケーションによる知的相互作用の促進。)③構造化のスキル(メンバーの主張の書出し等による明確化。思考・フレームワーク等による図解・整理。)④合意形成(意思決定・フレームワーク等による課題の正解を発出。正解を達成する計画表の策定。振り返りによる次回会議・計画達成活動に向けたフィードバック。)の四つです。字数の関係もあり詳細は記しませんが、身に付けて得する知見です。是非紹介本を読んでください。

【WEB会議で必要な“ニューノーマル・ファシリテーション・スキル”】

 ニューノーマル・ファシリテーション・スキルは、Teamsの機能をフルに理解すると同時に、メンバーの端末操作も含め、円滑な運用スキルを習得・周知することがスタートです。その上で、上記四つのスキルをTeams上で実現することに尽きます。それによりリアルな会議以上の効率・効果を得る事が出来ます。細かいことですが、安定した音声の確保のために、ヘッドセットの着用(顔が良く見えるようワイアレス・イヤホンがベター)を原則とする、セキュリティーの観点からWEB会議で使用するデータのクラウド化をする等の配慮も大切でしょうね。また、メンバー全員の画面の背景をカスタマイズすることで会議の雰囲気がガラッと変わりますよ。

  • After コロナを前向きにとらえよう(むすび)

 After コロナでは、社会/ビジネス/働き方の、新しい在り方を考える時を迎えています。

 最近面白い記事を見つけました。『コロナの影響による7割経済を10割経済に戻すには1,5(正確には1.43)倍の人・時間・コストの投入が必要である。しかし1,5倍の投入は非現実的。そこで生産性の向上で1,5倍を達成しよう(2020.6.29日経・朝刊「経営の視点」より)』です。Afterコロナのキーワードは、“DX”“生産性向上”“SDGs”でしょうか。

 なんと、生産性を1,5倍アップすると、生産性でOECD順位21位の日本が5位のアメリカのレベルに上がります。さらには、G7で最下位の日本がトップのアメリカに追いつきます。(日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2019」より)

 After コロナの今こそ様々な領域で、DXを活用し生産性を上げるニューノーマルを見出し、先進国最下位レベルからトップレベルに伸し上がって行くチャンスではないでしょうか。それはSDGsを達成することにも繋がります。

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「私の本棚2020.6.23」

2020-06-23 10:54:15 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『進化するデジタルトランスフォーメーション「Beyond2025」』

                                                                  (SAPジャパン 松井昌代監修 プレジデント社)

  • DX「Beyond2025」とは(はじめに)

【経済産業省のDXとは】

 最近あちこちに出現する「DX」の定義をしておこう。DX(デジタルトランスフォーメーション)について、「情報通信技術(ICT)で人々の生活をあらゆる面でより良い方向に進化させる変化」と定義をし、『DXは様々な分野で進行しており、いくつもの新しいビジネス・モデルやネオエコノミー(「シェアリングエコノミー」「サブスクリプション」「情報銀行」「ギグエコノミー〔インターネットを介して単発で仕事を請け負う〕」など)と呼ばれる新たな経済が誕生しているとしている』と説明します(2020.5.29日本経済新聞朝刊別冊特集)。

 経済産業省の「DXを推進するためのガイドライン(2018.12.12)」では、DXについて次のように定義をしています。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネス・モデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と。

【経済産業省の「2025年の崖」とは】

 経済産業省の「DXレポート(2018.9.7)」では、『複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025 年までに 予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍。2025以降経済損失算定根拠は「DXレポート」参照。)にのぼる可能性があるとし、この場合、ユーザ企業は、爆発的に増加するデータを活用しきれずに DX を実現できず、デジタル競争の敗者となる恐れがある』とし、DXを実現し「2025の崖」を克服する必要性を訴えます。

【紹介本の『進化するDX「Beyond2025」』から学ぶ】

 紹介本の著者のSAPジャパン・Industry Thought Leaderメンバー19名(以下“SAP・ITLM19”と略称)が著書『進化するDX「Beyond2025」』を通して著書のコンセプトを次のように示しています。『「2025」という数字が、経産省「DXレポート」より7年前の2011年に、リンダ・グラットン教授(人材論・組織論の世界的権威)の著書「“ワーク・シフト”孤独と貧困から自由になる働き方(2025)」に表されており、著書の中でグラットン教授が予言している“5つの要因(①テクノロジーの進化・②グローバル化・③人口構成の変化と長寿化・④社会の変化・⑤エネルギー/環境問題の深刻化)・32の現象(①世界の50億人がインターネットで結ばれる・②地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる・③「人工知能アシスタント」が普及する・④持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる・⑤~㉞その他)の全てが現在実現していることに注目し、経産省の「DXレポート」や「DX推進ガイドライン」で示すテクノロジーの進化中心ではなく、テクノロジーの進化・DXを手段として、あるべき未来を見据えた取組みをし、「“ワーク・シフト”(2025)」の理念を超えたい』が“SAP・ITLM19”のコンセプトでした。

 この様なコンセプトの下、紹介本を通じて、SAPの取組んだソリューション提供事業を5章の章立て(①地球へのまなざし・②トップランナーは業界を超えて・③(デジタルデータ活用による)「透明性」(など)という企業価値(の創造)・④DXによる進化したビジネス・モデルの創造・⑤人が人らしくあるために)、34の事例により紹介しています。

 これらの取り組みが、結果としてSAPのコーポレートビジョンである“Help the word run better and improve peaple’s lives”と重なったとSAP・ITLM19は誇りを持って語っています。

 次項で34の取組み事例から注目したいソリューション提供事業3つをご紹介します。

  • SAPのベンダーとしてのDXへの取組み事例から学ぶこと

【SBBの“再生可能”をテーマにした電力デマンドマネジメント】

 SBB(スイス連邦鉄道)はスイス全土の60%を保有する鉄道会社です。現在消費電力の92%は水資源を主とした再生可能エネルギーで賄っています。2030年までに消費電力は20~30%増加すると見込みます。増加分を含め2025年までにこれを100%にする目標を掲げ、SAP HANA Streaming Analyticsを利用してリアルタイムの電力需要データを収集(ストリーミングデータをオンザフライ方式により収集)し、電力ピークを予測し暖房温度(SBBは冬の需要が大きい)を自動的に下げることで電力消費を抑制(ピークシェービング)し目標を達成する実証試験を行っています。

 このシステムの稼働を有効にするため4000両の車両の改修を進めています。これによりSBBの消費電力に対応するための再生可能電力インフラを新たに造るコスト(100億円)に比し半分のコストで済むという計算をしています。

 日本でも東急電鉄が2050年までに再生可能エネルギーによる消費電力調達比率100%を目指し、2019年10月から取り組んでいます。

【非デジタルネイティブ(デジタル化の遅い電力事業など)のクラウド化への挑戦】

 イタリアのEnel社(大手エネルギー事業会社)は日本全国の顧客の70%に当たる6000万(イタリア国内3200万)の顧客を持つ非デジタルネイティブ電力会社です。Enelは、電源の再生可能エネルギーへの移行、分散型電源の増加に対応するためのデマンドレスポンスの最適化対応、データに基づく分析型の設備メンテナンスへの移行、顧客に向けたスマート商品によるサービス提供などを進めるため、Everything“as a Service”(全てのシステムをクラウド化しビジネスを加速化・最適化・効率化・「モノ」から「コト」へのサービス化などを実現)をゴールに定めDXを進めています。

 EnelはDXの最初のステージで、SAP HANA Enterprise Cloud上で、SAP公共企業向け料金計算ソリューションを使い、イタリア国内3200万の顧客の料金計算をクラウド上で実現(検針の自動化)しました。

 日本の非デジタルネイティブ事業(電力、ガス事業)で、Enelと同様以上のDXを実現し、労働人口減少・SDGsへの対応などの社会貢献の実現を期待したいです。

【新たな差別化が生まれる“X-Dataからの顧客体験”】

 SAPは、従来は、企業が業務データ(Operational data以下O-Data)を基にPDCAサイクルを回すソリューションを強みとしていました。しかし、O-Dataの前段階の体験データ(Experience Data以下X-Data)が業務改善の成功率を高める最善策となるケースを発見し、X-Dataをビジネスプロセスに取込み、O-Dataと組み合わせPDCAサイクルを回すことで改善の最善策を打てる包括的ビジネス基盤を提供しようとX-Dataの取り込みに強いQualtrics社を買収し、提供体制を確立しました。

 そのソリューション提供事例が、アメリカ東海岸に拠点を置く格安航空会社のjet- Blue Airwayのケースです。このソリューションの特徴は、①顧客の声を収集し、②そこからインサイト(潜在的な購買要求)を抽出・提示、③改善アクションを促す、エクスペリエンスマネジメントプラットフォームを提供することです。

 jet-Blueは、このソリューションを活用して得た、カスタマー及び従業員のX-Dataを改善策に用いた結果、年間コスト削減300億円、改善したネットプロモータースコア(NPS;顧客ロイヤリティーを測る指標)が13ポイント改善、年間増収額400億円を実現しました。

 jet-Blueは「人間性を養い高めることを」をミッションとして掲げています。ソリューションから得られたX-Dataに基づくお客様の声を現場(フロント)に届けると同時にカスタマーファーストのきめ細かい即時対応を最優先として考え行動した結果がこれらの経営効果に繋がったとしています。

 今から25年ほど前、アメリカのサウスウエスト航空が、バランス・スコア・カードの手法で経営改善に成功した事例と比べ、jet-Blueの成功はまさにDXの時代の成功事例との感を強くします。

【その他の事例も参考にしてください】

 字数の関係もあり、以上の3例のみのご紹介となりましたが、この他にもDXがもたらす企業の未来像が見えて来る貴重な例が多くあります。是非本紹介本を開き、これからのDX経営のご参考として下さい。

  • 「2025年の崖」を克服し、「Beyond2025」であるべき未来を切開こう(むすび)

 コロナ禍の中、新しい社会・ビジネス・働き方の在り方を考える時を迎えています。DXにおいても、「2025年の崖」を乗り越え、「Beyond2025」の未来に向けたあるべき姿を求めていく大切な時と思います。

 紹介本の事例を参考にしながら、これからのデジタルテクノロジーの時代のあるべきビジネス・モデルの戦略の策定・実行をしていきたいですね。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

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「私の本棚2020.5.26」

2020-05-28 12:11:29 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『なぜ論語は「善」なのに儒教は「悪」なのか日本と中韓「道徳格差」の核心—』

                                                                                                  (石 平著 PHP新書)

  • 何故『「儒教」と「論語」の違いを知る必要性』があるのか(はじめに)

 2017.6.27の本欄でご紹介した『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(ケント・ギルバード著)で、『「儒教」に対し抱いている日本人の「倫理・道徳規範」的イメージと、「特亜三国(中・韓・北鮮)」の非常識の源泉となっている「儒教」との乖離』と記しています。ここでは、「儒教」が二つの意味を含んでいます。善の「儒教」と悪の「儒教」です。

 石 平は今回の紹介本を通して、『善の「儒教」』は「論語」、『悪の「儒教」』は前・後漢時代の「儒教」と南宋時代以降の「朱子学」であるとし、『悪の「儒教」』の理論的準備の役割を果たしたのが孟子・荀子の「儒学」と位置づけ、「論語」⇒「儒学」⇒「儒教」⇒「朱子学〈「新儒学」「新儒教」〉」の道筋を明らかにしています。

 石 平は紹介本の中で、『前漢に成立した「儒教」は、南宋時代に「朱子学」という新しい教学を生み出し、それを理論的中核にして「新儒教」としての「礼教」が成立した。中国伝統の「礼教」と「礼教」のつくり出した社会は、「論語」の心の暖かい「礼(“仁”=“愛”にもとづく礼儀)」と「和(思いやり)」とは無縁な世界であり、過酷さと残忍さを基調とする世界であった。』と述べ「論語」との大きな隔たりを指摘しています。

 私達にとり、隣国「特亜三国」の支配的文明・文化「儒教」・「新儒教(朱子学)」と日本文化に深い影響を与えている「論語」との違いを深く理解しておくことは、関連する様々な経営的判断をする上で必要な事と思います。このことを次項『初めて知る「論語」・「儒学」・「儒教」・「朱子学(新儒学・新儒教)」』で深堀してみたいと思います。

  • 初めて知る「論語」・「儒学」・「儒教」・「朱子学(新儒学・新儒教)」

【「論語」・「儒学」・「儒教」・「朱子学」を明確に区分・把握してみよう】

 石 平は、「論語」と「儒学」・「儒教」・「朱子学」は全く別物と強調します。「論語」は、聖人でも理想の教師でもない、しかし人生の達人・知恵者である孔子が、賢明な生き方・学び方・物の見方を弟子たちに諄々と語り教えた、それが「論語」(孔子の死後弟子たちにより編集された言行録・人生の指南書)という書物のすべてであるとします。

 更に石 平は、一般的には儒家という括りで一緒になっている孔子(BC552~479)・孟子(BC372~289)・荀子(BC315~235)について、『中国思想史上、儒学がその始祖とすべきは儒学の学問的体系化をした戦国時代の孟子(「性善説」「徳治主義の王道政治」)・荀子(「性悪説」「礼治(政治)主義」)であり、春秋時代の孔子ではない。「王道主義」にしても「礼治主義」にしても「為政者が万民を導く」必要性を説くものであり、前漢・後漢以降の中央集権国家における支配的イデオロギーの理論的準備と言えるもので、過ぎ去った古き良き春秋時代・封建社会の政治文化に傾倒した孔子の考えとは全く別物である』『孔子「論語」の考え方は、孟子・荀子の「儒学思想」や、後世(前漢・後漢以降)の「儒教思想」とは正反対のもの』と主張します。

 勿論、孔子も「論語;為政編」で「為政以徳〈政治を行うのに道徳・人徳をもってすれば、上手く民衆を治められるだろう〉」など政治に触れる部分がありますが、それは孔子の言行であって、孟子・荀子の様に治政を体系化・思想化したものではないというのが石 平の主張で、論語⇒儒学⇒儒教への流れを説明する点では納得できるものであると思います。

 それでは、前漢時代に成立する「儒教」と南宋時代に成立した「朱子学」についての石平説を見てみましょう。

 「儒教」「朱子学」の共通点は、皇帝(前・後漢、魏晋南北朝、隋、唐、五代十国、北宋、南宋、明、清)の地位と絶対的な権力を正当化するための思想・理論、御用教学・国教であることです。さらに、これらの思想・理論を試験科目とする「挙考簾(前・後漢⇒魏晋南北朝)」・「科挙(隋⇒清末期)」制度を通じて、国家権力を支える官僚組織に「儒教」「朱子学」が浸透して行ったのです。

 「儒教」「朱子学」の相違点について次で見てみましょう。

 まず、「儒教」は前漢の武帝(BC141~87)の時代の董仲舒によって創成されました。董仲舒は、『天人相関説(【注1】を参照)』により、皇帝の地位の絶対化を図る装置を打ち立てました。さらに、この儒学者たちにより「儒教」の経典として「五経(『詩経』『書経』時代『易経』『礼教』『春秋』)」が作られました。経典に「論語」が入っていないことに注目してください。

 その後、前・後漢後の魏晋南北朝、隋、唐、五代十国、北宋の時代は仏教・道教が重用されましたが、儒教の御用・支配教学の地位は維持されていました。北宋王朝が女真族(ツングース系民族/後の満州民族/清)の金王朝により滅ぼされ、南に逃れ南宋王朝(BC1127~)を創建します。その三年後、儒教史上最も影響の大きい朱子が生まれ、成人して「朱子学」を打ち立てました。

 「朱子学」の特徴は、前・後漢時代の「儒教」を否定し、『理気二元論(【注2】を参照)』と『性即理説(【注3】を参照)』の二つを基本的理論・思想とし、更に、朱子学の正統性を創るため、五経の内の「礼経」の注釈書である「礼記」から「大学」「中庸」を抜き出し、それに「論語」と「孟子」を加え「四書」とし朱子学の基本経典としての『「四書」「五経」(朱熹独自の解釈書も創り上げる)』を制定した。こうして朱子は、新儒学(朱熹による「孟子」の独自解釈+荀子の「性悪説」は継承しない)・新儒教(漢代の「儒教」を否定)としての朱子学を打ち立てたのです。

 この二つの理論・思想から帰結する朱子学のスローガンは『在天理、滅人欲(天理を存し、人欲を滅ぼす)』です。その為の「格物致知」「持敬」が出来るのは一部エリート層のみで、それが出来ない一般民衆には導きが必要であり、導きの手段として社会全体と一般民衆を「朱子学」によって統制していくべきと考えます。

 そこで朱子学が統制のために提唱するのが「礼経社会」の実現です。「礼」即ち礼節と道徳規範を以って庶民を「教化」し、社会・一般民衆の心を「本然の性」に目覚めさせ立ち返らせることが朱子学の唱える「礼教」の役割だとします。こうして朱子学は、元、明、清王朝の体制教学として「礼教」にもとづく国家体制作りに利用される思想になっていくのです。朱子学と礼教と政治権力が絡み無言・有言の圧力の下で、強制力のある社会規範をもって、人間性と人間的欲望を抑圧してきたと指摘します。

【注1】『天人相関説』;

               すべてを支配する『天』の意思により『「天子」=「皇帝」』を通じて、

             『天』は『天下万民』を支配するという思想・理論。

【注2】『理気二元論』;

               宇宙生成から自然現象までの全てが、形而上の「理(天地万物を主宰する法則性)」

              と形而下の「気(万物を構成する要素)」から成り立っている。

              両者は、「不離不即」の関係で、「気」が運動性をもち「理」は道理にかなった

              法則で、「理」は根本的実在として「気」の運動に対して秩序を与えるとする存在論。

  【注3】『性即理説』;

              朱子学の実践倫理・実践理論。人間にあって「気」は肉 体、「理」は精神を意味し、

       その精神を構成する人間の心は「性」と「情」から成り立つ。

             「性」とは心が静かな状態であり、この「性」が気によって動くと「情」になり、

              さらに激しく動きバランスを崩すと「欲」となる。「欲」にまで行くと心は悪となる。

              よって、たえず「情」を統御し「性」に 戻す努力である

                『格物致知(万物を観察・研究しその中に宿す「理」を極 め・発見)』と

                『持敬(心の静止状態を保つ修養法、仏教=禅宗の二番煎じ)』

             が必要と説く。

             この「性」にのみ「理」を認める(=性即理)。

【「朱子学」に支配された中・韓にたいし、「朱子学」を捨て「論語」に「愛」を求めた日本】

 石 平は最後に次の様に主張します。『中国と朝鮮が儒教と朱子学によって支配されたのに対し、日本人は昔から自分たちの好みで「論語」を愛読し、「論語」の精神を心得ている。そして、まさにその重要な違いから、日本人と中国人・韓国人との「道徳格差」生じて来たのであろう。「論語」に親しんできた日本人が道徳観の根底に置くのは、「愛」であり、思いやりとしての「恕(じょ)」であった。だが、人間性抑圧と欺瞞を基本とする儒教イデオロギー(「儒教」と「朱子学」に共通する絶対的権力を正当化する思想、朱子学の礼教による人間性抑圧を正当化する思想)に支配されてきた中国社会や韓国社会はそうではなかった。』と。

 「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」でケント・ギルバードは、次の様に指摘します。『この「儒教」文化(石 平のいう「儒教」と「朱子学」)が「中華思想」となり、漢民族、朝鮮民族に受け入れられた。「中華思想」を維持する漢民族は、自分たちを周辺国より絶対的上位にあると位置付ける、選民思想を患わっている民族である。朝鮮民族は、中国にすり寄ることで、他の周辺国に対し、ナンバー2の優位性を保ち、自らを「小中華」と称し、上位にある世界の中心に座す中国には媚び、距離的に下位にある日本などに対しては、一方的な優越感を持ち、高圧的な姿勢を取るようになっている。』と。

 また、2015.11.24の本欄でご紹介した『文明の衝突』(サミュエル・ハチントン著)で、ハチントンは、現在世界には、西欧文明(含むアメリカ)、ラテンアメリカ文明、アフリカ文明、イスラム文明、中国文明(中華・儒教文化)、ヒンドゥー文明(インド)、東方正教会文明(ロシア、カザフスタン、ウクライナなど)、仏教文明(ミヤンマー、タイ、ラオス、カンボジア、モンゴルなど)、日本文明の9つの文明があるとします。中国文明(中華・儒教文化)を既述のように理解することで、『文明の衝突』を深読みすることが出来るのではないでしょうか。

  • 文明・文化を知ることの意義(むすび)

 紹介本を通じ、中国で青年時代を経験した著者の正確・客観的な「儒教」観を知る事ができました。

 いずれにしても「儒学」「儒教」「朱子学」と「論語」を混同することからは逃れる事が出来たのではないでしょうか。

 ここで大切なことは、『彼を知り己を知れば、百戦して殆からず』と同時に、『小異を残して大同につく(一般的には「小異を捨てて大同につく」)』の格言に従い、「儒学」「儒教」「朱子学」と「論語」がどの様な思想かを理解し、経営の場で判断材料として活用すると同時に、お互いが「共通のアイデンティティー(ビジョン)」を共有し、それに向かって進んでいく前向きな姿勢も大切にしたいものです。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

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