経営コンサルタントの知見

経営に役立つ知見をgoo blogで

「私の本棚2021.8.24」

2021-08-24 09:17:42 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

 『ビジネススクールで身に付ける「会計×戦略思考」』

                           (大津 広一著 日本経済新聞出版)

  • 『「会計」がわからなければ真の経営者になれない』とは(はじめに)

 著者は「会計がわからなければ真の経営者になれない」(稲盛和夫の実学―経営と会計)を引用し、紹介本著作の目的を「会計の数値と企業活動の往復をスムーズに行うための手法を解き明かすこと」と明確に示している。

 紹介本では、「会計の数値と企業活動の往復」のアプローチを、‟ビジネススクールで”と表題にあるように、インタラクティブに分かり易く解き明かしています。その一環としてIFARS決算書の分析の着眼点を事例と併せ示しており、興味深い内容です。IFARSの記述の背景には、企業数では上場企業全体の6%の226社にも拘らず、時価総額ベースでは4割を占める企業がIFARSを適用しており、更にはIFARSへの移行が積極的である事象があります。

 紹介本は、読者が普遍的な経営分析の基礎となる会計知識を身に付いていることを前提に、上記著作目的(「会計数値と企業活動の往復」)に至る道筋として次の3つの会計思考プロセスの大切さを強調します。1つ目は、数値を見て「なぜそうした数値なのか?」という「会計のWhy?」の追求。2つ目は、「So What?(そこから何が言えるのか?)」つまり、数値から見えた事象から経営の意味合いを導き出すこと。3つ目は、「How?」の問いかけで、最後は具体的なアクションプランの構築と問題解決に至ること。

 一方、他の会計本では見られない紹介本の特徴は、会計数値を読み解く「会計力」と「経営戦略・業界特性・事業環境等の企業活動を理解し考察する力」を「論理的思考」により結びつける「戦略思考」についての考察を示している点です。更には「論理的思考」にビジネス&マーケティング・フレームワークを使い「会計」と「経営」の関係性を示し「会計⇔経営・戦略思考」のあるべき形を提示している点です。

 それでは、「会計」と「経営」を結ぶ「戦略思考」について次項で見てみましょう。

  • 「会計」と「経営」を結ぶ“戦略思考”

【ポーターの「ファイブフォース」から「経営の外部環境」と「会計」を考える】

 紹介本は2012年10月に新日本製鉄と住友金属が新日鉄住金として合併した事例を材料として考察します。「ファイブフォース(五つの力)」それぞれに於ける競争環境・脅威が会計数値上にどの様に現れているかを検証し、両社が合併に至った筋道を辿り、背景にある経営戦略を読み解きます。

 私達はこの事例から何を学ぶべきでしょう。まず、自社の経営環境を「5つの力」の視点から検証し、経営の実態と会計数値の相互関係性を確認します(「会計のWhy?」+「So What?」)。その上で「5つの力」の中の脅威が高いと考える「力」をどう克服し、次なる成長に結びつけるかのアクションプランの構築と問題解決に向けた会計数値による計画を立てます(「How?」)。このアクションプランと会計数値計画(両者合わせた事業計画)をPDCAサイクルで回し課題達成に向けて行動します。

 この様に論理思考性の高い「5つの力」フレームワークに基づく経営・会計戦略に基づく企業活動を継続することで持続的成長を生み出すことが可能になります。。

【ポーターの「バリューチェーン」から「経営内部環境」と「会計」を考える】

 経営の価値を創造する活動プロセスの連鎖をバリューチェーンと呼びます。紹介本では、ポーターが提唱する支援活動プロセスと主活動プロセスを、会計上のPLに影響があり経営戦略上も重要な、研究開発、製造、プロモーション・販売、販売チャネルの4プロセスに集約します。

 その上で、4つのプロセスそれぞれに於ける、戦略に応じた会計上の原価や販売管理費への影響を考察します。

 更に、4プロセスのそれぞれに関するSW分析(強み・弱みの分析)やVRIO分析(経済的価値<Value>、希少性<Rarity>、模範可能性<Inimitability>、組織<Organization>の分析)による競争優位の源泉の探索を前提とし、その上で策定した戦略を会計数値による計画に反映し、結果を会計上のPLで検証し、戦略の見直しと再挑戦を行い、戦略のゴールを目指すサイクル思考を提唱します。

【コトラーの「マーケッティング」戦略のゴールは「会計上の『利益』」】

 紹介本は、コトラーなどが提唱するマーケティング・プロセス「R-STP-MM-I-C」をフレームワークとして使い、事業をSTP戦略・MM(マーケティング・ミックス)戦略から考察し会計上への反映を確認します。その上で,新たな事業計画を立案したうえで、実施(Implementation)、チェック・管理(Control)、見直し・リサーチ(Research)、次なる戦略の策定(R-STP-MM)へと進み、並行して戦略の進展状況をPLで検証し、戦略のゴールである「会計上の『利益』」の増強に向けたサイクルを回す戦略思考を提案します。

  • 何のための会計か(むすび)

 「会計データ」「経営・戦略状況」それぞれを単独で読み解く力も大切ですが、「会計データ」と「経営・戦略状況」を双方向に往復しながら深読みすることも大切です。

 双方向に往復しながら深読みすることで、「会計データ」から読み取る情報がより実践的、戦略的になります。また「経営・戦略状況」をより緻密に把握することが出来、ベンチマーキング等が可能になります。

 紹介本が提案する「会計の数値と企業活動の往復をスムーズに行うための手法」を参考に「会計×戦略思考」を取り入れませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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「私の本棚2021.7.27」

2021-07-27 17:58:04 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

 『「顧客消滅」時代のマーケティング―ファンから始まる「売れる仕組み」の作り方―』

                             (小阪 裕司著 PHPビジネス新書)

  • コロナショックは来るべき未来に備えるチャンス(はじめに)

 著者は、自身が運営する「ワクワク系マーケティング実践会」「オラクルひと・しくみ研究所(オラクルは“神託”の意)」を通じ、“人間が人間であることを生かし、企業を活かす”を理念とする“ワクワク系マーケティング”の実践を促進する活動をしています。(以下では“ワクワク系マーケティング”を“WWM”と呼称。)

 紹介本は、「WWM実践会」所属の会員企業が“WWM”の実践によりコロナショックでも売り上げを伸ばす成果を実現出来ている事を示すと共に、“WWM”の実践知化・仕組み化を深化しています

 それでは、コロナショックでも売り上げを伸ばした成功事例、コロナショックで発見した「売れる仕組み・実践知」を次項で見てみましょう。

  • コロナショックの成功体験からコロナ後を考える

【‟WWM”の実践によりコロナショック下で成功した事例】

コロナショック下の2020年4月に「前年比+150%」を達成した高級レストラン

 名古屋にあるコース料理専門の完全予約制レストランB店。Face Book等を通じ日頃から顧客と交流していました。2020年4月コロナショックで先々まで埋まっていた予約が一気に白紙になり、店主は「お客様は外食出来ないことにフラストレーションを溜めている筈」との思いに至りました。

 店を閉めているいる期間にじっくりと時間をかけて開発したのが「3000円の海苔弁当」と「8000円の高級弁当」でした。直ちにFace Book等を通じ「究極の弁当を作ります」と宣言。すると顧客から大量の応援メッセージが寄せられました。更に顧客との交流の中で、常連の書家の直筆を弁当の包み紙に書いてもらいました。

 こうして発売を始めると、爆発的な注文が入ったのです。終わってみれば4月の売り上げは「前年比+150%」になっていました。

同じ商品、同じサービスを提供する10店舗の和菓子店でコロナショック下

            売上が大きく伸びた5店舗と大きく減少した5店舗に分かれた不思議

 伊豆・伊東を中心に和菓子店10店舗を展開するI社。2020年4月突然「フローの蛇口」が閉められ、顧客が消滅。4月下旬には店舗を順次閉め、再び営業開始したのは5月中旬からだった。各店の営業を再開する中、社長のT氏は次のことに気が付きました。

 売上の回復の早い5店舖と遅い5店舗にくっきりと分かれたのです。T社長は、回復の早い店の顧客は地元住民と当地に別荘をもつ住民、回復の遅い店の顧客は主に観光客であることに気づきました。意図したわけではなく『「図らずも」顧客をストックする』ことが出来ていた店は回復が早かったのです。

 数字的には、2020年6月単月のストック型の5店舗の売上は、「お宅のあんこがどうしても食べたかった」等の声に象徴されるように、前年比154%に伸びました。一方フロー型の5店舗は前年比46%でした。Go Toキャンペーンで伊豆に観光客が戻ってきた同年6月~12月の売上の前年比は、ストック型店舗103%フロー型店舗76%でした。ストック型のビジネスモデルがビジネスの持続的成長に不可欠の要素であることが実証されています。

コロナショック下でコロナショック前と同じ好調を続けているハンバーグ店

 愛知県蒲郡市ハンバーグレストランTは、3年間で1万人の「T大使」というファンクラブ会員を集めました。人口8万人の市で、1店舗しかないハンバーグレストランが集めた会員の凄さが判ります。会員を集める4年前、980円で前菜ビュフェやピザ、ドリンクバーをつけて夜遅くまで営業をしていました。お客さんはあまり来なかったそうです。

 ファンクラブ会員制にしてからは、ほぼ同じ商品を2000円~3000円で提供しています。品数も営業時間も減らしました。にも拘らず、4年前と比べ売り上げも利益も大きく伸びました。加えてコロナショックでも、ショック前と比べ全く影響なく商売が出来ています。ハンバーグ店の店主Mさんは、『4年前は「疲れ果て愉しくなかった」、でも今は「仕事が愉しくて仕方がない」』と言っています。店主Mさんは何をしたのでしょう。

 レストランTでは、「T大使」だけが使うことの出来る‟器や塩”が有ったり、「T検定」の制度を作り「ハンバーグ系の資格認定制度」に合格した人の名前を店内掲示したリ、顧客の調理法の提案を採用し人気の新しい商品を生み出したり、「T大使」だけの営業日を設け「ハンバーグイベント」を実施し大人気を得る等、「一見客」を「顧客」に育てる地道な行動を繰り返し、メニュー「共創」し、「心が豊かになる」「行きたくなる」‟場作り・時作り”をし、ファンを‟ファンダム(熱心なファンの集まり)”に創り上げていったのです。

【コロナで判った「売れる仕組み・実践知」とコトラー「マーケッティング4.0」との親和性】

 それでは紹介本が挙げている「売れる仕組み・実践知」を見てみましょう。その前に、面白い発見をご紹介します。それは、WWMの仕組み・実践知とコトラーの「マーケティング4.0」理論の親和性です。

WWMの究極の目標の“ワクワク”に対し、コトラーの「マーケティング4.0」の究極の目標はファン化で、そのための重要なことは“Wow !”であるとしている事です。“Wow!(言葉に出来ないほどの喜び)”と“ワクワク”の親和性に驚きました。

 両者の親和性から出発して更に追求して気付いたのは、「売れる仕組み・実践知」がコトラーの主張する究極の目標に至るマーケティング・ミックスの仕組みにぴったりとはまることです。

 つまり、従来の「4P(Product・Price・Place・Promotion)」に替わる「マーケティング4.0」時代の『4C』の仕組にぴったり当てはまるのです。『4C』の仕組みとは次の『4つのC』です。

 それでは、「売れる仕組み・実践知☆印」を『4つのC』に当てはめてみましたので、次の表記をご覧ください。

「製品・サービスは、顧客が製品開発に参加する『co-creation(共創)』で

『顧客との「共創」』が持続性を高める。「自分たちの提供価値」はモノではなく『その先にある‟愉しい”‟美しい”‟アートな”「価値」』であることの確認と行動。売れ続けるには「ブーム型」ではなく「ワクワク型」で。

「価格は、市場の需要や顧客のニーズなどにより変動する『currency(通貨)』

価格は「コストプラス」ではなく、提供価値から逆算し提供価値をいかに上げるか

を考える「バリュープラスアプローチ」で。

「流通チャネルは、顧客と接続性の高い『communal activation(共同活性化)』

繋がりのある「顧客リスト」を生かす。フローではなく「ストックの顧客」に支えられている。ストックの顧客から深化した「ファンダム」は活性化のエネルギー。「リアル」「オンライン」「オフライン」全てのチャネルの連携した活用を。☆「価値創造型サプライチェーン」の構築を。

「プロモーションは、企業と顧客が能動的に商業的価値を獲得することが

                    期待される『conversation(カンバゼーション)』

「心が豊かになる」「来たくなる」“時間作り”“場作り”‟雰囲気作り”を。もてなしの工夫で「気持ちの共有」を。「ラストワンマイル」を大切に。「感性で繋がる」が市場を育てる。

  • コロナショックは人口減少時代の先駆け(むすび)

 コロナショックで発見した‟ワクワク” “Wow !”マーケティングの仕組みは、これからの未来型マーケット、人口減少時代のマーケットに於いても有効と確信できます。

 コロナショックに於ける経験を前向きに受け止め、更なる深化を図って行きましょう。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

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「私の本棚2021.6.22」

2021-06-22 11:25:46 | 経営コンサルタント
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「世界最高峰の経営教室」(広野 彩子編・著 日経BP)

  • 「世界最高峰」の名に恥じない現代の必読書(はじめに)

 世界の主流の経営学である「演繹的理論」「実証性経営理論」を日本に持ち込み、日本の経営学に一石を投じ、「世界標準の経営理論」を著作した早大の入山教授が序文で次のように述べています。『本書に出てくる17人の世界的な経営学者・経済学者は豪華。よくぞこれだけのメンバーを集めたものだ。「世界最高峰」の名に恥じない、現代の必読書』と。

 一方著者は“おわりに”で面白い感想を述べています。『好奇心のおもむくままアプローチし、一見まとまりがないように思えたものが、一つのテーマに貫かれていたことに気づいた。それは、「どうすれば日本人の意識や行動が、環境の変化に合せて進化していけるのか」だ。これは、どの教授に対しても“日本ではこうだが、この現状からどうしたら変われるか、どう変わったら生き残れるか”という質問を投げかけていたから』と。

 私は、入山教授のここまでの称賛を読み、また、紹介本を編集・著作した著者が17人の世界的な経営学者・経済学者と対談した背景を知り、紹介本が“激変する環境の中で、日本企業が如何に変化・進化し生残っていくか”についての有意義な示唆を与えていることに納得をしました。

 加えて、紹介本は経営学者・経済学者の理論を紹介するのではなく、著者の上記Q&Aに対する経営学者・経済学者の熱意溢れる日本企業へのアドバイスを対談調で記述しており、判り易く、示唆に富んだ知見を発信しています。

 その様な示唆の中から注目する“経営教室”を次項でご紹介します。

  • 「世界最高峰の経営教室」に見る“日本の企業経営に示唆となる知見”

【変化対応力世界最下位からの脱却には、構造、文化、インセンティブを変革せよ】

 DXの第一人者でありスイスIMD教授のマイケル・ウェイドは、『日本は「デジタル改革をはじめとした変化対応力で、世界最下位」である。その証左は、2020年のIMD世界競争ランキングで、日本は「企業の俊敏性」「起業家精神」項目において63ヵ国中2年連続の最下位であること、更に、その他の変化対応力要素である「市場変化への感度」「大企業の効率性」「労働生産性」「国の文化(異文化へのオープン度)」「グローバル化への姿勢」項目において最下位レベル且つ調査の都度悪化していること』と指摘します。

 ウェイド教授は、この日本の変化対応力の低さから脱却するには組織構造、企業文化、インセンティブの3つ変革が必要と指摘します。この指摘は、日本の多くのビジネスマンをIMDに於いて研修した経験や日本における講演の経験に基づくものであり傾聴に値します。

 まず、組織構造については、年功意識が強く変化を嫌う中間管理職の岩盤組織の改革、縦割り組織からの脱却(部署を超えた人材、データ、インフラの繋がりの追及)、組織構造の変革の必要を本気で信じるようになるシニアマネジャー自身の変革などを指摘します。

 2つ目の企業文化については、年功意識、事なかれ主義、恵まれた環境における甘えに由来する組織文化の弊害から来る様々なマイナス思考を排除する必要性を指摘します。マイナス思考の具体例として、変革内容を目的化し変革後の姿を目指していない、計画・検討に終始し俊敏な実践・活動・実現に結びつかない、仲良しクラブ思考による多様性の欠如などを指摘します。

 3つ目のインセンティブについては、人事政策の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への変革の必要性、上記企業文化から来るエンゲージメントの欠如、を指摘しルールの変更による変革の必要性を指摘します。

 ウェイド教授のこれらの指摘は、2019年9月の取材です。日本に対する深い理解と世界的視野からの指摘として真摯に受け止めたいと思います。

【変化対応力を高める方法論「ダイナミック・ケ-パビリティ」】

 「ダイナミック・ケ-パビリティ」論の提唱者、米カリフォルニア大学バークレー校デビッド・ティース教授の登場です。ティース教授は「知識創造理論」を提唱した野中侑次郎教授とバークレー校で一緒に教鞭をとった間柄で、個人的にも親しいことは勿論ですが、「ダイナミック・ケ-パビリティ」論と「知識創造理論」との親和性を見出すことができ興味を覚えます。

 「ダイナミック・ケ-パビリティ」とは、「組織とその経営者が急速な変化に対応するために、内外の知見を結合し、構築し、組み合わせ直す能力」と定義されます。

 仕組み的には、「Sensing(センシング〔察知:予測⇔挑戦〕)、Seizing(シージング〔獲得:解釈⇔意思決定〕)、Transforming(トランスフォーミング〔変容:学習⇔調整〕)を実行する能力」と表せます。(以下この枠組みを、その英単語の頭文字をとってSSTと呼称する。)

 実践的には、「長期的な戦略を探索するため、ダイナミック・ケ-パビリティの核である、「分権化(組織の上下関係が緩くフラットで協働する組織)」と「自己組織化(ビジネス機会を見つけると俊敏に社内起業の形でビジネスがはじまる組織)」をプラットフォームに置き、市場における機会や脅威を察知し、新しい価値・事業創造のための人材や資源を動かし競争優位事業モデルを獲得し、その新たな事業のガバナンス体制を整備し、学習と調整により日々変化に対応しながら、定期的に主要な戦略を変容させ、最終的に“まねできない”事業を確立する展開」と表せます。

 世界のダイナミック・ケ-パビリティ企業として、日本では唯一トヨタが「自己組織化」に成功している企業として挙げられています。トヨタは、SSTと親和性の高いトヨタ開発方式の「LAMDA」(Look;観察する、Ask;質問する、Model;モデル化する、Discuss;議論する、Act実行する)を活かし、次世代市場の自動運転においても、競争力を発揮しています。(「トヨタ、自動運転の特許競争力、IT系を逆転し世界2位」〈日経2021.5.17朝刊〉)

 ダイナミック・ケ-パビリティに関連して面白いことを発見しました。それはティ―ス教授が「ドラッカーの語録を私が理論化した」と言っていることです。

 ティ―ス教授は、ピーター・ドラッカーの『「マネジメント」は物事を正しく行うことであり、「リーダーシップ」は正しい事をすることである』を形式知化し、「リーダーシップ」の概念を「ダイナミック・ケ-パビリティ(変化に応じた自己変革による新しい価値・事業の創造)」、「マネジメント」の概念を「オーディナリー・ケイパビリティ(現状の利益の最大化)」と置き、この2概念を対比軸に置き、変化対応力を高める組織イノベーションを達成する「ダイナミック・ケ-パビリティ」論を構築したのです。まさに、ドラッカー思想のフレームワーク化を目指したのです。

  • 「世界最高峰の経営教室」から得た示唆を経営に活かそう(むすび)

 前項で採り上げた二つの注目記事は相互に関連性があり、私たちの経営に活かせる興味深い内容でした。他の記事にも、それぞれの立場に応じた有意な示唆を見つけることが出来るでしょう。得られた示唆を経営に活かしたいですね。

【酒井 闊プロフィール】

 

10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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「私の本棚2021.5.25」

2021-05-25 13:16:22 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

「事例からみるKAMのポイントと実務解説」(武村 純也著 同文館出版)

  • KAMを知ろう-KAM導入の背景と意義-(はじめに)

【KAM導入の背景】

 KAMはKey Audit Matters(監査上の主要な検討事項)の略です。

 欧米において、リーマンショックの際、引金となった倒産金融機関に対して適正意見を表明してきた監査人に対する批判が噴出し、監査体制に関する議論が高まりました。

 この様な状況に対処するため、IAASB(国際監査・保証基準審議会)は、2014年12月に「監査品質の枠組み」を公表し、これを踏まえてEUは監査報告書の透明化に向けたルールの適用を2016年6月から開始しました。さらに、IAASBは監査報告書関連の基準であるISA(国際監査基準)700 を改訂しISA701を公表し、2016年12月以降から監査報告書にKAMの記載をルール化しました。

 IAASBが動く前から監査報告書改革を実施してきた英国(2012年10月以降適用)、オランダ(2014年12月以降適用)、IAASBの枠組み・基準改定後適用した、EU、カナダ、インド、米国、オーストラリア、ニュージランド、香港、中国、北欧三国、ブラジル、シンガポール、南アフリカ等でKAM(米国ではCAMs:Critical Audit Matters)が導入されています。

 一方日本では、2015年に発覚した総合電機会社の不正会計事案及び関与した監査法人に対する課徴金などの行政処分をきっかけに、2015年9月に「会計監査の在り方に関する懇談会」が金融庁で設置され、2016年3月には提言が公表されました。

 この提言では、「会計監査の信頼性確保に向けて」の表題の下、有価証券報告書における開示内容の充実など様々な対策が提言される中、海外の動向も踏まえた早期の監査報告書の透明化(KAMの導入)が提言されました。この提言を受けて金融庁や企業会計審議会の監査部会で検討がなされ、2018年7月に「監査基準の改定に関 する意見書」が公表され監査基準が改訂され、「改訂監査基準」を受け2018年11月には、「財務諸表等の監査証明に関る内閣府令及び企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布・施行され、2019年2月には日本公認会計士協会のKAMに関する実務指針「監査基準委員会報告書(監基報701)」が作成されました。

 かかる過程を経て、KAMが、2021年3月31日以後に終了する事業年度の監査証明から強制適用されることになり、早期適用時期は2020 年3月31日以後に終了する事業年度からとなりました。

【改めて「KAMとは」そして「導入の意義は」】

 前述の“KAM導入の背景”で「監査品質」「監査の信頼性確保」「監査報告書の透明化」と言ったキーワードから、少しKAMのイメージを描けたでしょうか。ここで改めて「KAMとは何か」を定義してみたいと思います。

 KAMとは、「監査の過程で監査役等と協議した事項の中から、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として“特に重要であると判断した事項”」をいいます(「監基報」701第7項)。

 具体的には、監査人が「監査の過程で監査役等と協議した事項」から「特に注意を払った事項」に絞り、その中から「特に重要であると判断した事項」をKAMとして決定します。

 決定されたKAMを、監査報告書〈財務諸表監査〉に、従来の「監査意見」「監査意見の根拠」「財務諸表に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任」「財務諸表監査における監査人の責任」区分領域に、新たに加えた「監査上の主要な検討事項:KAM」区分領域に記載します。更には、決定されたKAMを、「KAMの内容」「当該事項をKAMと判断した理由」「当該事項に対する監査上の対応」の3点で詳述します。

 従来の区分領域の記述は、残念ながら紋切り型・テンプレート型になってしまっていますが、新たなKAMでは、経営者・監査役・監査人のコミュニュケーションを始めとしたリスクマネジメントプロセス、監査の実施プロセス・監査意見の形成プロセスなどが詳述され、監査の品質、監査の可視化・信頼性・透明性の向上が図られ、企業のガバナンスやリスクマネジメントの強化に繋がると同時に、企業ごとの記述の良否が評価でき、企業(経営者、監査役など)と監査人の責任(「二重責任の原則」)が評価される材料ともなります。

【紹介本のKAMの早期適用事例から学ぶ】

 それでは次項で紹介本の早期適用事例から学びながら、KAMの今後の課題と中小企業への応用を考えてみたいと思います。

  • KAMの早期適用事例から学ぶ今後の課題と中小企業での活用

【KAMの早期適用事例から学ぶ-事例と今後の課題-】

 KAMの早期適用会社は50社です。このうち上場会社は46社、非上場会社(大会社)は4社でした。

 早期適用事例の概要を、紹介本及び日本公認会計士協会『「監査上の主要な検討事項(KAM)」の早期適用事例分析レポート(2020年10月8日公表)』から見てみましょう。

 まず、KAMの決定に至る企業側と監査人との間のコミュニケーションによるリスクの洗い出しから「特に重要であると判断した事項(KAM)」に至る過程については、それぞれの企業で深化が計られたことが窺われます。その中で、主要な監査論点を一覧表の形で記載し“影響の度合い”“発生可能性”を「高・中・低」と「前期比推移↑・→」で分析し、「高&↑」を特に重要であると判断した事項として決定しているAOKIホールディングの事例が参考になります。この事例は、次に述べる中小企業に於ける活用でも有用と思います。

 次に「特に重要であると判断した事項(KAM)」に対する監査プロセスについて記載をする「監査上の対応」についての記載です。ここで注目されるのは「KAM」に係る「内部統制の評価」の記述が圧倒的に多いことです。時間とコストの関係で監査には制約があります。事業全体へのリスクアプローチを可視化するため、「KAM」に係る内部統制の“構造と実施状況”の監査の評価を重視しているのです。これも次に述べる中小企業に於ける活用でも有用と思います。

 KAMの今後の課題は、KAMには時間とコストの増大が伴うことも考慮すると、折角大きく前進した監査の品質の向上を一層進めることが大切です。KAMの画一的な記載(ボイラープレート化・テンプレート化)とならないように、継続的に記載の向上に努めることが肝要と思われます。加えて事業全体へのリスクアプローチについての透明性の高いプロセス及び記述の更なる深化を期待したいです。

【KAMの中小企業での活用】

 KAMのAを“Audit”から“advisers”に置き換えたKaMの仕組みを構築しましょう。“advisers”は中小企業に於ける、各種コンサルタント、税理士、社労士、弁護士などです。

 事業全体のリスクアプローチを、計算書類、マネジメント、ITシステム等に区分の上、上述のKAMの「リスクの洗い出しと特に重要であると判断した事項の決定プロセス」(AOKIの事例)を応用し、実施します。計算書類区分ではその範囲を、金額は小さくとも不適正リスクの可能性の高い、現預金、在庫、経過・仮勘定、本支店・親子会社勘定等の領域にまで拡大します。この洗い出しに於いて重要なことはadvisersと経営者とのコミュニュケーションです。拡大して洗い出した各区分のリスクを、内部統制・内部監査など企業サイドでチェックする領域とadvisersが各々の専門分野に応じてチェックする重要なKaM領域とに分け、advisers はKaMを報告書でレポートします。

 これにより中小企業に於いて、経営者の意識改革と各advisersの業務品質改革が進み、リスクマネジメントとコーポレートガバナンスの一層の向上を計ることができます。勿論、時間とコストは増えます。

  • 中小企業でKAMを応用したKaMを始めませんか(むすび)

 中小企業の経営者の皆さん、この機会にKAMを応用したKey advisers Matters(KaM)をリスクマネジメントとガバナンスの強化に活用しませか。

 advisersの皆様に於かれても、KaMを新たなビジネス領域として推進してみませんか。

 企業に於けるリスクマネジメントとガバナンスの強化と各advisersのビジネスチャンスの拡大に繋がり、相互のウィン-ウィンの関係を一層強化できるKaMを始めてみませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

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「私の本棚2021.5.11」

2021-05-12 16:57:50 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

①『企業経営の教科書』(遠藤功著 日経文庫)

②『「ISO9004:2018解説と活用ガイド」ISO9001からISO9004へそしてTQMへ』                                                        (中條 武志 編集 日本規格協会発行)

③『2021年度版「日本経営品質賞アセスメント基準書」』                                                             (日本経営品質賞委員会編集・発行 生産性出版/日本生産性本部発売)

  • 「企業経営の教科書」を経営の革新に生かそう(はじめに)

 紹介本①「企業経営の教科書」については本欄『私の本棚2021.4.27』でご紹介いたしました。

 今日は「企業経営の教科書」で確認した“常”と“変”の経営の基本的知識を経営に活かすことを考えてみたいと思います。“学んだ「経営の基本知識」を「経営の革新」に活かすには”について次項で考えてみます。

  • 経営革新は“To be”と“As is”から“Problem”を得て“Solution”で実現

【経営革新という問題を「T・A・P・Sフレーム」で解決】

 経営革新の問題を簡単明瞭なフレームワーク「T・A・P・Sフレーム」で解決してみましょう。まず“あるべき姿(To be)”描きます。To beは紹介本①「企業経営の教科書」の経営の基本的知識を参考に策定します。次に“自社の現状(As is)”をアウトプットします。As isはTo beの項目を参考にしながら作成します。To beとAs isとのギャップ(課題:Problem)が見つかりましたね。

 この課題(Problem)を解決する仕組み(Solution)は紹介本②の“ISO9001からISO9004:2009へそしてTQM;ISO9004:2018へ”がお勧めです。

 まずは、ISO9001(品質マネジメントシステム)によりマネジメントシステムの文書化やプロセスアプローチ等QMSの基本に慣れ、次に、ISO9001の「製品・品質のマネジメントシステム」の領域を「経営・組織の品質マネジメント」の領域へ拡大しISO9004(2018:「品質マネジメント-組織の品質-持続的成功を達成するための指針」)に取組み、持続的成長を実現する組織のパーフォーマンスを高めISO9001のQMSを高度化しつつ同時に、ISO的TQMによる新たな価値を創造し、経営目標を達成し経営革新を実現します。

 一方、“ISO9001のレベルは卒業している、要求事項には縛られたくない、自由で独自の経営革新をしたい、社内の認定セルフアセッサーを活用したい”と思う場合は紹介本③の日本経営品質賞を仕組みとして使うのもお勧めです。

【QMSとTQM-ISO9004はQMSの長所を生かしながらTQMを目指しますー】

 QMS(Quality Management System)は「品質マネジメントシステム」の略です。

 TQM(Total Quality Management)は「総合的品質マネジメント」の略です。「変化に対応し、変化を生み出し、持続的な成長を実現する組織能力を構築する方法論(JSQC規格:日本品質管理学会規格)」と定義されます。

 QMSはMS(マネジメントシステム)、TQMはQM(品質マネジメント)と読むとより判り易いです。

 ISO9001は「製品・サービス品質」を領域とする“要求事項”に基づく認証規恪のQMSです。

 ISO9004は「経営・組織の品質」を領域とする“推奨事項(ガイダンス)”に基づく参考指針を示しISO的TQMを指向しています。認証規格ではありません。ISO9001のプロセスマネジメントの外周で同時並行的にISO9004のTQM的プロセスマネジメントを運用することでQMSの長所を生かしたISO的TQMを実行することができます。経営・組織の品質マネジメントを確立し、持続的な成長を実現する組織能力の構築を期待できます。

 一方、日本経営品質賞は生粋のTQMです。ISO9004:2018のISO的TQM指向により、二つのTQMは互いに良い所を参考にし合える仕組みになりました。(デミング賞、マルコム・ボルトリッジ賞などもTQMの範疇に入ります。)

【ISO的TQM「ISO9004」と生粋のTQM「日本経営品質賞」の違い】

 ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)は国際標準化機構が制定した国際規格です。ISO9001は規格なので、その適用範囲や内容、基準(要求事項)が明確になっており、審査機関の審査によって認証が行われます。そのISO9001を軸に並行的に運用するISO的TQM指向のISO9004は、認証規格ではないので、すべてに一律のルールを適用するのではなく、企業に合った経営・組織の品質マネジメントを構築するという自由度も併せ持っています。

 TQMの代表である日本経営品質賞は、もともとQC(Quality Control:品質管理)から発展してきたものです。現在では直接的な品質管理以外のさまざまな範囲に拡張・発展しており、各社の目的・状況に応じた活動内容を取り入れていく自由度の高いものになっています。そのため、日本経営品質賞はより高い自由度を持っていますが、同時に自由度があるがゆえに、特に導入時など、活動のフレームワークを明確にするのに手探りになりがちなのも事実です。

 ISO的TQMISO9004と生粋のTQM日本経営品質賞の「似ている部分=顧客満足や品質を高める目的」を軸に、「明確さや自由度などのそれぞれの特徴」を活かすことで、お互いを補完し、企業にとって有益な活動を進めることが肝要です。(日本科学技術連盟H/Pより引用。ISO9004のISO的TQM指向、認証規格ではないことを考慮し筆者が加筆。)

【自由度の高い日本経営品質賞とは-詳細は紹介本③をお読みください-】

 日本経営品質賞は、組織プロフィール、8つのカテゴリー、1000点の配点から成る評点ガイドラインから成るTQMです。

 経営理論の思考法が強く反映されており、納得性の高いTQMです。ISO9001の領域を拡大しISO9004:2018を運用・推進する際に参考になるTQMです。

  • 経営革新のためのTQMは守破離のISO型?独自型の日本経営品質賞?(むすび)

 世界的な基準・標準を身に付け(守)次に大いに独自色を入れ(破)更に大きく飛躍しよう(離)と考える守破離型のリーダーは、ISO9001の製品・サービス領域を経営・組織の品質に拡大し運用するISO型TQMのISO9004:2018がお勧めです。自由度が高く独自色を出せる、要求事項に縛られない、社内人材の経営品質協議会が認定するセルフアセッサーを活用する経営革新を指向するリーダーは日本経営品質賞でしょうか。

 いずれにしても一番大切なことは、何らかの仕組みに取組むこと、熱意を持って経営革新に取組むこと、そして日々革新を続けることではないでしょうか。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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