心の栄養

とりあえず小説を...

タマとてっちゃん 23

2012-06-27 11:35:24 | 日記
 タマの眼は、興味津々。
 テツオさんは、タマが見た数少ない人間の一人で若いオス!
 ヨネさんの柔らかさの外にいるような感じだった。
 

タマとてっちゃん 来訪者22

2012-03-16 08:27:34 | 日記
 タマがテツオさんを覗いている窓は、東に向いている。
 タマは、テツオさんの様子を見るのに飽きて後ろを振り返った。
 物置の窓から東を見ると、舗装された道路の先には、稲を刈り取った田んぼが広がっている。刈り取られた稲の根に近い部分は、黒々とした土から飛び出していて、田んぼいっぱいに規則正しく並んでいる。そんな田んぼには人の気配が全くない。稲刈りの時には、毎日のように、目の前の谷間に響きわたり、農家の人達が総出で我先に米を採り入れようととする。
 米の採り入れが済むと、一斉に人がいなくなって、静かな風景が目の前に広がる。谷間を流れる風が冷たさを増してくると、山の斜面に生えている杉の木は木の先の方から少しずつ茶色に変わってゆく。杉の木の葉っぱが、一番下の枝まで茶色くなる頃になると、雑木の葉が一斉に風に吹かれて舞い飛んでゆく。
 雑木の葉っぱが落ちきると、農家の人がやってきて、山に落ちた葉っぱを材木で四角に囲った場所に集めて踏んづけている。集められた葉っぱは、次の年田んぼの肥料になる。ヨネさんの話しだと、以前はコンバインで粉々に刻まれた藁に火を点けて燃やしてしまっていたらしい。
 道の駅を始めた実さんは、減農薬にこだわって健康な田んぼで米作りをしようと目の前の田んぼに目を付けた。
 実さんは、ここの谷間の田んぼの持ち主達を集めて、道路で熱心に話しをしていた。集まった人達は、実さんの考え方を受け入れて、減農薬の米作りをしてみることになった。
 すると、向かいの山に生えている杉の木を伐って、雑木の割合を多くした。雑木の方が保水力があって、落ち葉が肥料に利用出来るからだそうだ。
 燃やしていた藁は四角く囲った枠の中に集めて踏んづけて置く。そして藁の上には、山の表面を削った土を乗せておく。そうすると、腐りがはやくなるのだそうだ。もちろん山から集めた葉っぱの上にも土をかぶせていた。田んぼの周りを刈った草も、枠の中へ積んでいた。そなん力仕事は、実さんと一緒に抜刀倶楽部で稽古している人達が、ワイワイ言いながら楽しそうに汗をかいていた。仕事の後の酒が楽しみらしかった。
 春先に植えた稲が少し大きくなると、虫が湧いたり病気になったりするらしくて、以前はヘリコプターで空から消毒剤を撒いていた。そんな時は、せいきちさんが減農薬畑の菜っ葉の上にビニールをかぶせたり、おカルさんを家の中に入れて雨戸をピッチリ閉めたり、航空防除前準備が大変だったみたいだ。航空防除は風のない早朝に行われたから、せいきちさんやヨネさんは、目が覚めても布団の中でジッとしていたということだった。実さんの提案で、減農薬米の生産が始まると、航空防除は止めてしまった。そのお陰かどうか、米の収穫量が減って、実さんは農家の人達から突き上げられたようだった。だけど、実さんの熱意と、道の駅で販売する減農薬米の評判が良かったので、収穫が減った分だけを計算して販売価格に上乗せした。
 米の値段が上がったことで、「高い米なんかわざわざ買いに来るような物好きはいねぇよ!」と、売れ行きが悪くなることを心配する人達もいた。けれど結果は全く反対で、店頭に並べるそばから飛ぶように売れた。
 農家の人達は、実さんから電話をもらうと、ストッカーから10キロ入りの米袋に米を詰めて、生産者名が書いてあるはんこを袋に押してスタントに届ける。売れ行きが悪くなるどころか品薄状態になったで、農家の人達は自分たちの食べる分に取って置いた米もスタントに届けてしまい、安い古米を融通し会って食べるありさまだった。
 道の駅スタントは、子ども達に安全な米を食べさせたいと願う親たちの口コミで評判になり、どうしても減農薬米が欲しい人達からは契約栽培の話しまで持ち上がってきて、実さんは頭を抱えてしまったらしかった。そんな時実さんは、せいきちさんに相談に来ていたのだった。

 タマは、人気の無い田んぼを見ながら「こんな風景の中に、物語が潜んでいるのねー」と思いつつ、暗闇に引きずり込まれているようなテツオさんにどんな物語があるのか?思いを巡らせるのだった。


タマとてっちゃん 来訪者21

2012-03-13 09:15:15 | 日記
 ぐったりと横になっているテツオさんには、タマが覗いていることがわからない。
 タマは、眠っているテツオさんの気配を感じようとした。
 タマは以前から、この家の誰よりも早く目が覚める。
といっても、元々が夜行性だから、夜に動き回ることの方が自然なのだ。
 タマは、せいきちさんやヨネさんが、すやすやと眠っている姿を屋根裏からいつも見ていた。
もちろん、おカルさんが気持ちよさそうに、グー、ヒー、ヒュイヒュイ、ヒー、と
イビキをかきながら、幸せな夢を見ているように笑顔になったりしていることも・・・・・
 テツオさんの寝姿からは、幸せそうな気配が感じられない。何か深い闇に吸い込まれて
しまっているように、眠っているはずの顔には、眉間に深いしわが寄っている。
 時折、ビクッっと身体が跳ね上がる。するとテツオさんは、目を開けてあたりを
キョロキョロ見回す。次の瞬間にはまた眠っている。
 ーテツオさんはきっと、何か怖い夢でも見ているのネッ
 タマはそう思いながら、じーっとテツオさんの寝姿を見続けたのだった。 

タマとてっちゃん 来訪者20

2012-02-06 09:27:51 | 日記
 タマは、重苦しい自分自身をはねのけるように、前足を突きだしてグーっと
背中を伸ばした。
 背伸びしてお腹に溜まった重苦しさを一気に吐き出すと、なんだか頭の中が
スッキリしたように感じた。

 ー これって、気分転換に良いかもしれないわネッ

 タマは、新しい自分自身を発見したように思えて、おカルさんの言うように、
話しを置いてしまおうと思った。

 ー さてット!テツオさんの様子でも見に行っちゃおうかなぁ?

 そう思いたったタマは、自然に物置の二階に向かって駆けだしていた。
タマは、テツオさんが住んでも良いことになった物置のベランダへ飛び乗った。
タマが窓から中を覗いてみると、テツオさんは、ソファーにぐったりと横になっていた。  

タマと てっちゃん 来訪者19

2012-01-15 08:16:23 | 日記
 生き物たちは心で生きているのかなぁ?????

 心に思うから、言葉になってゆく。
 心に思うから、行いになってゆく。
 言葉や行いが続いてゆくと、習慣になってゆく。

 ヨネさんは、他人のことを自分から噂しようとは思わないから、
普段の暮らしで他人のことが気にならない。
 他人の噂を撒いてしまう人達は、他人のことが気になって仕方がない
のかもしれないなぁ・・・・
 おカルさんは、変わり身が早いというのかどうか、今そんな話しを
していたと思ったら、次の瞬間には全く別の話になったりする。
考えることがたくさんありすぎて、収拾がつかないのかも知れない。
 思いの中があっちへ行ったり、こっちへ飛んでいってしまう。
 今、私はおカルさんの八方飛び思い感覚に付いていけない「私」を
感じてしまっている。
 私が、おカルさんの感覚に付いて行けないことで、
このまま、おカルさんとの関係が薄くなってしまうようになるのは
私にとって、耐えられない。だって、お話しが出来るのは、何と言っても
おカルさんだけなんだから・・・・
 私は、これから先、どう考えながらおカルさんとの関係を続けていったら
いいのかしら・・・・・

 タマが自問していると、生暖かい空気がタマのヒゲに触れた。タマが上を
観ると、おカルさんの間延びした顔がそこにあった。
「アーラッ!タマちゃん!何を深刻な眼で考えているのかしらッ?」
 おカルさんは、沈んだ雰囲気を出しているタマが気になったようだった。
「私、なんだかわからなくなっちゃったの」
「何が?????」
「噂の話し・・・」
「アーラッ!タマちゃん!話しはもう終わったのよ!いつまで同じところにいるのッ。
あのねタマちゃん」
「・・・・・・」
「お話しって、次から次へ移ってゆくものなのよッ。田圃の上を流れる風のように、
こう・・・・何ていうのかしら・・・・・そよそよと・・・スーーーっと・・・
爽やかに流れてゆくものなのよッ。止まっちゃいけないの・・・・。だから、終わった
お話しは、その場に置いてゆくのよッ」
 おカルさんは、楽しそうにタマに話しかけている。
「タマちゃんねぇ。お話しを背負ったまま次ぎに行こうとするとっ、重荷になるのッ。
それが、たくさん貯まってしまうと心を押しつぶしてしまうから、聞いちゃ置き・
聞いちゃ置きをしてゆくのが、楽に暮らしてゆく智慧なのよ。わかるかしらッ」
 タマは、おカルさんの言葉を重く受け止めていた。気楽に出来そうもない様子の
タマにいやけがさしたのか、おカルさんはスキップを踏みながら美味しそうな草の
生えている場所へと楽しそうに向かったのだった。