
お宝音源の発端は90年代初頭にロバート・フリップがEGやヴァージンからクリムゾン音源の版権を奪取したことに始まるが、そのお蔵出しライブの第一弾として1992年にリリースされたのが、この4枚組のボックスセット。なにしろ「太陽と戦慄」「暗黒の世界」「レッド」を作り出した最強のラインアップの1973~74年のライブ音源。現在もリリースされ続けているコレクターズアイテムは聴いたことないが、このラインアップのクリムゾンのライブ入門編としては最初にお蔵出しされたこれがおそらくいちばん最適だろうと思うので、どのライブを買えばよいか悩んでいるクリムゾン初心者の方に向けて紹介してみます。目新しい情報は何もないから、コレクターの方はここから先は読んでもつまんないよ。
ラインアップは、ロバート・フリップ(g,kbd)、ジョン・ウェットン(vo,b)、ビル・ブラッフォード(ds,perc)、デビッド・クロス(vln,kbd)。以下の5回のコンサートのライブが順不同に収録されている。
1973年10月23日 英国・グラスゴー
1973年11月15日 スイス・チューリッヒ
1974年 4月29日 米国・ピッツバーグ
1974年 6月24日 カナダ・トロント
1974年 6月29日 米国・ペンシルヴェニア
1974年 6月30日 米国・プロヴィデンス
Disc 1:
1. Walk On ... No Pussyfooting
2. Larks' Tongues in Aspic, Part Two
3. Lament
4. Exiles
5. Improv - A Voyage to the Centre of the Cosmos
6. Easy Money
7. Providence
8. Fracture
9. Starless
* Recorded at the Palace Theatre, Providence, Rhode Island, United States, 30 June 1974.
ディスク1はこのボックスセットの中ではいちばん後のプロヴィデンスでのライブ。「レッド」に収録された「Providence」はこの日に演奏されたインプロヴィゼイションの一部で「レッド」版よりも長めに収録されている。また「Larks' Tongues in Aspic, Part Two」「Lament」「Exiles」「Easy Money」は1975年に発表された「USA」のオリジナル音源。
Disc 2:
1. 21st Century Schizoid Man
2. Walk off from Providence ... No Pussyfooting
3. Sharks' Lungs in Lemsip
4. Larks' Tongues in Aspic, Part One
5. Book of Saturday
6. Easy Money
7. We'll Let You Know
8. The Night Watch
9. Improv - Tight Scrummy
10. Peace - A Theme
11. Cat Food
12. Easy Money...
13. ...It is for You, but Not for Us
*Tracks 1-2 recorded at the Palace Theatre, Providence, Rhode Island, United States, 30 June 1974.
*Tracks 3-11 recorded at the Glasgow Apollo, Glasgow, Scotland, UK, 23 October 1973.
*Tracks 12-13 recorded at Pennsylvania State University, State College, Pennsylvania, United States, 29 June 1974.
ディスク2の最初の2曲はディスク1のプロヴィデンスでのライブの続き。「21st Century Schizoid Man」も「USA」のオリジナル音源。グラスゴーでの「The Night Watch」の前半部分は、ディスク4のチューリッヒでの後半部分とくっつけられて「暗黒の世界」に収録された。それにしてもアルバム「暗黒の世界」の収録曲の殆どがライブ音源で歓声やノイズを除いて作られたものだったという驚きの事実は、このボックスセットが出るまで知らなかった。本ディスク中の「We'll Let You Know」もそのオリジナルライブ音源になる。
Disc 3:
1. Walk On ... No Pussyfooting
2. The Great Deceiver
3. Improv - Bartley Butsford
4. Exiles
5. Improv - Daniel Dust
6. The Night Watch
7. Doctor Diamond
8. Starless
9. Improv - Wilton Carpet
10. The Talking Drum
11. Larks' Tongues in Aspic, Part Two
12. Applause and announcement
13. Improv - Is There Life Out There?
*Tracks 1-11 recorded at the Stanley Warner Theatre, Pittsburgh, Pennsylvania United States, 29 April 1974.
*Tracks 12-13 recorded at Pennsylvania State University, State College, Pennsylvania, United States, 29 June 1974.
ディスク3の最大の聴きどころは、オリジナルアルバム未収録の歌入り曲である「Doctor Diamond」。「The Great Deceiver」に似たタイプの曲で希少価値はあるが、ボツになったのもちょっとだけわかる気がする。「Starless」はピッツバーグ公演のものだが、曲の構成や演奏スタイルはほぼ完成しているのに歌詞が「レッド」版とかなり違っていて、この時期はまだ途上だったことがわかって面白い。
Disc 4:
1. Improv - The Golden Walnut
2. The Night Watch
3. Fracture
4. Improv - Clueless and Slightly Slack
5. Walk On ... No Pussyfooting
6. Improv - Some Pussyfooting
7. Larks' Tongues in Aspic, Part One
8. Improv - The Law of Maximum Distress, Part One
9. Improv - The Law of Maximum Distress, Part Two
10. Easy Money
11. Improv - Some More Pussyfooting
12. The Talking Drum
*Tracks 1-4 recorded at Massey Hall, Toronto, Ontario, Canada, 24 June 1974.
*Tracks 5-12 recorded at the Volkshaus, Zürich, Switzerland, 15 November 1973.
4枚を通して聴くとなかなかヘヴィだが、実際にライブ会場でこんなインプロヴィゼイションを生で聴いたらきっと鳥肌立ったろうな。
このボックスセットの充実しているところは、68ページにおよぶカラー写真とツアー記録情報満載の英文ブックレットに加え、それらを対訳した88ページにおよぶ日本語ブックレットも付属していること。ブックレットには歌詞と対訳だけでなく、ロバート・フリップ自身による解説文というか独白文、当時のフリップの日記、先行してリリースされたボックスセット「紅伝説」(Frame by Frame: The Essential King Crimson)についての各音楽誌のレビュー等々が満載。中でもフリップの日記中にあるデビッド・クロス解雇のくだりと、クロス自身による当時の回顧と脱退の経緯告白は対比して読むと、ちょっと物悲しくも興味深かった。
だが、この4枚組ボックスセットは廃盤になってしまい、その後に再発されて現在に至るものの、前半後半それぞれ2枚組の2巻に分かれているそうだ。果たしてあの読み応え十分のブックレットはもう付属していないのだろうか。
このボックスセットが好評だったためロバート・フリップは手応えを掴んで、それが現在のコレクターズビジネスに繋がっているのだろう。そういう意味では、僕もまた大枚1万円はたいて因業ビジネスに手を貸すという罪深いことをしてしまったものだ。南無阿弥陀仏。
(かみ)
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