掌の上で・・・

　　

　　ジ、ジ、ジ・・・・・　ネジがリズムカルに緩む様な音がする
　　庭先を見回してもそれらしき物は見えない
　　窓際の小道具入れのラジオか？
　　それもまた何の異常もなく、静かに置かれたままだ
　　ジ、ジ、ジ・・・・・　　やはり音がする
　　縁台の洗濯ハサミ入れの中でそれは、聞こえる
　　洗濯ハサミをかき分けるとお腹を上にした、小さな蝉がいた
　　生まれたばかりか、動きが無い
　　でも、ジ、ジ、ジ・・・・・と微かに鳴いた
　　掌に乗せて見つめると今度は激しく一定の間隔で泣き叫んだ
　　何故か悲しい声に聞こえた
　　暫く泣いていたが、ジ、ジ、ジ・・・・・の声を最後に静かになった
　　手のひらで静かに息を引き取った
　　セミの臨終に立ち会ったのは初めての経験、何を私に言い残したのだろう
　　そっと亡骸を木の茂みに・・・・・置いた
　　どこかで又、蝉が鳴き始めた

混成合唱団

TVの音声が聞こえない・・・別段、耳が悪くなったのではない。
　木々の間から迫ってくる、鳴き声が、部屋の中を占領して、TVが聞こえないのだ。
　　今年のセミの多さには驚く。庭のあちこちで、この世に姿を現した痕跡の穴が
無数に有る。それだけに、我の声を聞いて欲しいとばかりに、泣きさけぶ声が響き渡るのだろう
　　短い生涯、思い切り鳴くがよい。　　今日も・・・