FIND【261】
移動中―イーギンはギーガに寄った。
「俺と会いたかっただろ」
ギーガはイーギンを一瞥して表情を硬く固めた。
「 ...お前のことを考えるなんて一秒もなかった」
「はは。そうか。ラドミールには会いに行かないのか?」
「なっにを突然...アランが上手くやる」
「そんな話じゃねえ。クミエル行くなら柵も身分もなく会える」
「 ...そうだな。こういうことが落ち着いたら考えてみるよ」
「ああ。会いたくないわけじゃないからな。そうしろ」
何だか照れ臭くなってイーギンから離れたくなったギーガは前方を歩くエミリに声を掛けた。
「家に帰る?」
「はあ?!...何ですか?...家に帰りますよ?」
「サーシャは病院だから。じゃあ今夜は俺とホテルに泊まろう」
「! ...あのっ、気でも狂ったんですか?」
横にいたイーギンが、あははっ!と笑い出して
エミリはイーギンに、助けて下さい!と縋った。
「わけのわからない行動及び発言はやめろ。俺の秘書だぞ」
「しかしサーシャの奥さんだ。俺はサーシャを愛している
サーシャもエミリも俺を愛しているぞ。だからいいんだ」
真っ直ぐ正直な顔して言い放つギーガにイーギンは、わかった。
と言って宥めて、エミリに、横にいてやるよ。と小声で言った。
相手が誰だろうとギーガが口にすることは本当に遣りかねない。
ギーガは、それがどんな結果になるか想像力欠如している わけではなく、どんな結果になっても天恵と言い張るから防御要る。
漆の黒壁に囲まれた上品なラウンジは大爆破で吹き飛んで
しまったノーウェンリー街の、イーギンの部屋に似ていた。
多くの客の会話と透き通ったグラスの奏でる音で明るく、そして、静かに賑わっていた。
アンナはさっきの神妙さとは打って変わって上機嫌でギーガたちを持て成した。
ジャックは酒の場となると本領発揮のように人を喜ばせるトリック会話で自分に引き込み、ディビッドは父に縋るようにギーガに合わせて、ギーガは歌でも詠みそうな佇まいで笑っていた。
この世界のナールとの酒席に慣れているイーギンが主役アンナとジャックを持ち上げる。
最初のイーギンのナールらしい謝礼要求の脅しのためか、その後の話に広げられた今後の巨額利益に目が眩んだのか、いずれにしろ―ジャックの捧げた花束はアンナによく効いたと見える。
花束とミアのオーロラ姫2の完成を酒の肴にギーガたちは喜ぶ。
誰かが誰かのための利欲巡り、どこかで誰かが軌道修正
―天から降る恵みの雨のように、万物を潤す結果になる。
今、基点は完成し、更に前進の一途をここに見ていた。
「それにしてもやっぱ花束...渡した時点では効いてないはず。社長
室の芳香になって効く。しかも微量すぎるくらい微量だ。効くか
どうか定かじゃなかったのに花束は盲点だったか」
言ったデイヴィッドにギーガが、何でもいいから女に花、それで何でも解決。と言って笑った。
「それで完全解決ではないけどね」
横からイーギンが言って、デイジーを思い出した。と加えた。
「あはは。では、その記憶を塗替る花束事件が必要だな」
「必要ない」
「踊って下さる?」
ジャックとフロアで踊っていたアンナがイーギンに言って来た。
イーギンは笑ってアンナの手を取ってしなやかに流れる曲に揺れる客に混じり―スポットが疎らに照らす暗い中に消えた。
ジャックは席についてギーガに絡んで、アンナを完璧に虜にできた掴みを囁いた。
ジャックのにやけた表情からして『シルバーウェイ』を自分たちの公の会合場所に取り込む演技ではなく元々アンナを狙ってたのか?とか、イグリッドを殺したのはカルショードではなくジャックか?なんて思えてくるが、どうでもいいか。と考えるのを止めた。
疎らに光の射すダンスフロアの中にイーギンに抱かれて揺れながらアンナはイーギンを見上げて話し出した。
「ねえ、彼は...どういうことかしら?」
「優秀かどうか知りませんが、会社そのものを向上させてくれる人
の価値その采配を間違わないのがTOP。我々のような会社に必要
な力は鮮明な賢さを持ち物怖じない、そういう人を揃えられれば
向上しかしない。簡単に揃いそうで難しい。学歴あっても聡明さ
を持たないのが実情。目先の人に目晦ましあって後で取れる利の
ための賢く傅くという姿勢はなかなか及び難い。それを見抜いて
育てるのもトップの仕事かと」
|
|
|
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます