【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

FIND【244】和氏の璧

2009-10-12 | 3-3 FIND




 FIND【244】 


自宅に戻るなり、イーギンはエマを呼び寄せて抱き締めた。

「今日はご苦労様でした。カメリアから伺いました」

「人の少ない資料室でよかったけど珍事、噂広まるね、夕食は?」

横からカメリアが割り込んだ。

イーギンは、部屋で。と言ってエマの肩を抱き寄せたまま
―自分たちの部屋に向かって、そんなに?とエマに訊いた。

「ふふ。存じません。ルーラやカールは暫くその話を
 続けていましたが、私はそれよりイーギンに驚いて」

「ちゃんと約束守ってる」

イーギンに真正面から見詰められて―エマは笑った。

そしてエマは夕食の支度をするカメリアを手伝いに行き、イーギンはクローゼットに入った。

そのとき、イーギンのSPが鳴った―見るとラドミール。

「珍しいなあ!」

『日が決まった。今度の日曜日の午前9時、それで場にアランと王
 のふたり...キースとサファイア残って、俺だけナコに挨拶したら
 その場から出るそのとき、イーギンに迎えに来て貰うとアランが
 言って、アランが連絡すると言ったけど挨拶したくて...今その話
 をしてたところで、』

「日曜日?わかった。アランから詳細メール着てるんだろう
 ところで訊き忘れていたがどれくらいこっちにいるんだ?」

『色々とアランに指南貰ったからそろそろ帰国しようと。だが
 アランと院長からキブソンの件が終るまで待ってと言われた』

「それは?...もうクミエルに害は及ばないのに?』

『アランはクミエルに来て志願者を募ってレスキュー作ると言って
 くれて...王直下ジルフォ隊隊長で元近衛直々なんて素晴らしいよ
 本当に君たち皆に感謝してる。ユリウスにも』

「あはは、化け物拾ったお前のお蔭だ」

『いや...ユリウスには会えないが...宜しく言ってくれ』

「言わねえよ。自分で言え。そのうちひょっこり現れる」

『そうなのか?だったら嬉しい』

「ああ、それは伝えておく」

『ありがとう』

電話を切ってエマにイーギンは、ラドミールだ。と言った。

くすっと笑うエマは愛しく可愛らしい。

エマは和氏の璧(かしのへき)。

中国戦国時代、諸国覇王が欲しがり、楚から和氏の璧を手に入れた趙の恵文王がそれを手に入れようとする秦の昭王に15の城市と交換と称し半ば脅しを掛けられた交渉の場で趙家臣の食客、藺相如(りんしょうじょ)の妙案で無傷のまま持ち帰り、璧を完う。

一見はただの翡翠。

秦の昭王もどうしてそれが諸王が欲しがる天下の宝玉か実際に手にしてみてもただの翡翠、何がいいのかわからず珍しくもないそれは我こそ目利きと称する家臣の妄らな手に預けた。

途端その場は垢の手でべたべた触らせる下種騒ぎ、約束も守りそうに無い秦の昭王の非礼に藺相如は激怒した。

享楽豪遊が成功者と気取る社員ばかりの『リーベ・フロッス』の中で華やかに振舞わないエマは目立って珍しい。

英雄宗教に嵌った連中に妄りに手を伸ばされただけで腹が立つ。

今日、資料室で皆の中に居たエマを観て―改めて深く感じた。

エマこそ誰にでも自分を開放しているから気安く寄って来られる―そこに在るだけ 自我を持たない の翡翠のように。

欲しがる諸王の心が取得執着エゴに塗れ乱れても和氏の璧は清廉乱れない和氏の璧。

ただそこに在る。エマはエマのまま。

家に戻って安心を目にして―また思う。

だからずっと傍にいたいと思う。






土曜日―イーギンはスーツを着て同じくスーツのカメリアを連れて『光明』に現れた。

『リーベ・フロッス』社長ではなく―リオンで動く気など今はなくなって『光明』バイトくんする気更々なく。

序に、未だギーガと無連絡。

前回の寺院用事もそうだが、今日もギーガに呼ばれたようなもの―マフィアシゴトだが、ギーガはこの場に来ない。

いつでもいいが、早々伝えたいラドミールの伝言が言えない。

干された身ではギーガから声掛からない限り、ラギも無理。

イーギンはギーガ要請の場に足を向けた。

ミアから『光明』に来いと連絡受けたから行ったが、入った途端『森と田園』2階に変更―何で?と訊くと、行けばわかる。と言われて久しぶりに『森と田園』の鈴を鳴らして入った。






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