”私は貝になりたい”
例によって某国である
某国の機密官房室である
床面は 分厚い濃い模様の 大理石が敷き詰められている よく見ると 壁面も薄い模様の大理石だ
天井はと 見ると 圧迫を感じさせない 極上模様の大理石だ
そういえば ゴッドファーザーの出身県には 名高い鍾乳洞があるという
幼い頃 奥深い洞で 大理石の石柱に 驚愕した想いが 強く残っているのだろう
機密官房室には 窓もない なんの装飾もない 天井から 発光ダイオードの 間接照明が
一点の影をも生じさせず 光り輝いている
珍しく ゴッドファーザー 一人だ
物思いに耽っている 物事すべて うまく いってないのだろう
だから 大ばくちを打ったところだった
密やかな ノックの音とともに 機密官房室ヘッドが姿を現した
右手には 小さいバスケットを ぶら下げている
「なんだね? それは」 目ざとくゴッドが とがめた
「極上の有機自然土です」
「味わうと なんともいえない 滋味を感じます 大地の滋味です」
「ミミズだけに 食べさせておくのは 勿体ないと存じます」
と言いつつ 一つまみ口に入れ モグモグと咀嚼した
「なっ 何をしている! 君は狂ったか?」
ゴッドのお尻は 革張りの豪華な椅子から 滑り落ちていた
たっぽ たっぽ した 祖父ゆずりの頬っぺたが 分厚いほっぺ肉が 一瞬 燻製肉のように強張った
「正気です 極秘の提案なのです」 「地方創生の秘策は これに有ります」
「全国で遊んでいる休耕田を 有機土に作り変えるのです」
「出来上がった 有機土を売るのです 商品は《 土 》そのものです」
「商品名は モグラ土」
「この事業を興せば 地方創生は 楽勝です」 「ゴッドの名声は 一気に高まることでしょう」
「勿論 作物は《有機自然農法》に限る という 法律を作らせるつもりです」
「間違いなく 世界のブランド品になることでしょう」
無言で ドアから出て行ったのは ゴッドファーザーの方だった
何か つぶやく声が 聞こえてきた
「私は貝になりたい ミミズには なりたくない」