あゆみの絵ハガキ
よう子が、勝間屋の店先で立ち止まった。
「あっ、本物のわらび餅だわ!」
高野山の本わらび餅と書いてあった。
アキラも見ていた。
「本物のわらび餅って?」
「値段も高いし、色が黒色でしょう」
「うん。六百円は高いよねえ」
「わらび粉は貴重品なので、高いのです」
「へ~~え、そうなんだ」
「本わらび餅は、そのままでも、とっても美味しいんです」
「黄な粉とかつけなくても?」
「はい。そのままのほうが美味しいです」
「へ~~~え」
「よく売られている白色のやつは、ほとんどがサツマイモのデンプンで作られているものなんです」
「サツマイモのデンプンか。じゃあ、わらび粉じゃないじゃん」
「だから、わらび餅粉って書いてあります」
「なあんだ、インチキだなあ」
「そうです。貴重なわらび粉は、ほとんど入っていません」
「だから安いんだ」
「味も全然違います。本物は、口の中でとろけるのです。とっても上品な味です。醍醐天皇(だいごてんのう)の大好物だったんですよ」
よう子が一パック買ったので、二人も、それぞれ買った。
ショーケンが呟いた。
「でも、ワラビって、牛と馬には中毒になるから食べさせないんだよなあ」
「それは、茎や葉の部分です。アクがあるので生では食べられません。わらび粉は、根から作られているので大丈夫です。昔は、お米の非常食だったんですよ」
三人は勝間屋に入った。
「そうだ、あゆみちゃんに、無花果を買ってきてあげようっと」
麻田洋子も買い物をしていた。
「あら、みなさん。」
三人は、同じように挨拶して、軽くおじぎをした。
「ショーケンさん、サツマイモを近くの農家から、仕入れておきましたよ」
「ありがとうございます」
・・
ドームハウスに着くと、あゆみが公園で、ロボット犬のドームと遊んでいた。
「あゆみちゃん、おみやげ買って来たわよ~~」
よう子は差し出した。
「わ~~あ、無花果だ~~~!」
「好きだったわよね?」
「はい、大好きです。ママに見せて来ま~~す!」
いなくなった。
「ドームくん、こんにちわ」
「こんにちわ」
よう子は意地悪な質問をした。
「ご機嫌いかがですか?」
「ご機嫌・・?ロボットは、いつも同じです」
あゆみが、画用紙を持って戻って来た。
「ママは料理を作っていたわ」
「じゃあ、後で一緒に食べてね」
「はい。さっき、絵を描いたんです。見てください」
ポストにハガキを入れている絵だった。
「鎌倉の友達に、ハガキを書いたんです」
「上手だねえ~~、ハガキに何を書いたの?」
「わたしとママとドーム君とドームハウス。ドームくんにも見せてあげたわ」
「偉いわねえ~~」
「でも、住所と名前は、ママが書いてくれたの」
ドームも、絵を見て「上手いですね~~」と言った。
よう子が質問した。
「ドーム君、絵、分かるの?」
「失礼な、分かりますよ~~」
「かたちが分かっているだけでしょう?」
「はい、そうです。駄目ですか?」
「それじゃあ、分かったとは言えないわ」
「そうなんですか?」
「絵にはねえ、人間の気持ちが描かれているの」
「気持ちですか?」
「永遠に分からないと思うわ」
「わたしの頭脳では分かりません」
あゆみが言った。
「ドームくん、分からないときには、いつもこう言うのよ」
小鳥が近くで鳴いていた。
ドームも、小鳥の声で鳴きだした。
「ドームくん、小鳥の真似が上手いの」
「ドームくん、上手!上手!」
小鳥たちも、ドームくんに負けないように、さえずっていた。
近くの道路を、蒸気機関車のような乗り物が走っていた。
あゆみは、びっくりした。
「うわあ、何あれ?」
「幼稚園のバスよ」
「バス?おもしろいわあ~~」
「乗りたい?」
「ちょっとね。幼稚園に行ったら乗れるの?」
「そうよ」
「じゃあ、いいわ。お金がかかるから」
だけど、あゆみは少し寂しそうな顔をしていた。
「幼稚園には行かなかったけど、ときどき、将棋のお爺ちゃんと教会に行っていたわ」
「大きな教会?」
「小さな教会」
「何しに行っていたの?」
「お弁当をもらいに」
「そうなんだ」
「お爺ちゃん、お金が足りないって言っていたわ」
「そうだったんだ」
「ときどき、旗振りの仕事に行っていたわ」
「ふ~~~ん」
「道路で、旗を振る仕事って言っていたわ」
あゆみは、大切なことを思い出すように、ていねいに語っていた。
「幼稚園に行くより、ここで、ドーム君と遊んでいたほうがいいわ。
ドームは言った。
「ど~む、ど~む」
あけみ「なあに、それ?」
「だじゃれです」
「変なの。でも、ちょっとだけ面白かったわ」
「ど~む、ど~む」
ドームハウスの道路を、ドームハウスの甲斐よしひろが、ギターを弾きながら、歌って歩いていた。
kai Five 吟遊詩人の詩
空戦・袖飛車 & 空戦・石田流